表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/32

第4節「押し入れの発掘」


俺の部屋は二階の奥。六畳の和室。


 エリカは入るなり部屋を見回した。


「......意外と片付いてるわね」


「意外とって何だよ」


「カイトの部屋って聞くと散らかってるイメージしかないの。統計的に」


「統計とるな」


 押し入れの前にしゃがむ。襖を開けた。


 埃の匂い。五年間、ほとんど触っていない空間だ。奥に段ボール箱が三つ。手前には布団と座布団が積んである。


「えーと、確かこの辺に......」


 一つ目の段ボール箱を引っ張り出す。ガムテープが黄ばんでいた。ぺりぺりと剥がす。


 中身。小学校の卒業アルバム。懐かしい。表紙に寄せ書き。「カイトくんはいつも元気でした」——先生のコメントが他人事すぎる。


「勾玉ではないわね」


「見りゃわかる」


 二つ目の箱。こっちはもっと重い。


 開けると、壊れたゲーム機が出てきた。DSの初代。画面がバキバキに割れている。


「これどうしたの?」


「階段から落とした」


「......災難体質ここにも」


 その下に古い漫画が何冊か。『NARUTO』の途中の巻。なんでこれだけ押し入れに入ってるんだ。謎だ。


 さらに掘る。漫画の下に——


 手が止まった。


 見覚えのある表紙。いや、見覚えなんてもんじゃない。隠した記憶がある。確実に。中学一年の夏。クラスの田中がくれた。「読み終わったらやるわ」って。


 ——エロ本だ。


『やばい』


 背中に冷や汗が流れた。エリカが後ろにいる。エリカが。後ろに。いる。


 そっと漫画の下に押し戻そうとした。


「何それ」


 遅かった。


 エリカの視線が、俺の手元を貫いていた。物理的に。


「っ! 違う! これは! その!」


「......何が違うの?」


「だから、これは田中が勝手に! 俺は読んでない! ほぼ!」


「ほぼ」


「......」


「......最低」


 エリカの目が氷点下だった。南極。いや、もっと寒い。宇宙空間。絶対零度。


「違うんだって......」


「別にいいわよ。十五歳の男子の押し入れに何が入っていようと、統計的には正常範囲内だから」


 フォローなのか追い打ちなのかわからない台詞だった。たぶん両方だ。


「......もういい。次の箱開ける」


 逃げるように三つ目の段ボール箱に手を伸ばした。顔が熱い。耳まで赤い自覚がある。


 三つ目は一番小さかった。軽い。


 開ける。中には雑多な小物。貯金箱。割り箸で作った工作。夏休みの自由研究の残骸。


 その奥に——布袋があった。


 手触りで思い出す。巾着みたいなやつ。ばあちゃんがくれた時の袋だ。


「あった。これだ」


 紐をほどく。


 手のひらに転がり出たのは、五年前と変わらない深い緑色の勾玉。灯りの下で、表面の紋様がくっきり浮かんでいた。渦を巻くような、複雑な模様。五年間段ボールの中にいたとは思えない。埃ひとつついていない。


 触れた瞬間、あの感触が蘇る。ひんやりと冷たい。夏の宮崎で感じたのと同じだ。


「見せて」


 エリカが手を伸ばした。さっきまでの氷点下が嘘みたいに、目が真剣だ。


 勾玉を渡す。エリカは両手で受け取り、目を近づけた。紋様を指でなぞる。


 しばらく黙っていた。


「......この紋様」


「ん?」


「見たことある」


 エリカが顔を上げた。


「『アマルの世界』に。たぶん——いや、たぶんじゃない。見た。確実に」


 俺はまだ耳が赤い。でもエリカの表情が真剣すぎて、恥ずかしさが吹き飛んだ。


「どこで?」


「挿絵よ。末裔が持つ覚醒具の章に、この紋様と同じものが描かれてた」


 エリカの目が光っている。好奇心じゃない。確信だ。


「ちょっとこれ借りていい? 確認したい。明日図書館に行って照合する」


「いいけど......」


 ばあちゃんにもらった勾玉が、ファンタジー小説の紋様と一致する。


『......んなわけないだろ。偶然だろ、偶然』


 そう思った。思おうとした。


 でもエリカが勾玉を握りしめる手は、わずかに震えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ