第4節「押し入れの発掘」
俺の部屋は二階の奥。六畳の和室。
エリカは入るなり部屋を見回した。
「......意外と片付いてるわね」
「意外とって何だよ」
「カイトの部屋って聞くと散らかってるイメージしかないの。統計的に」
「統計とるな」
押し入れの前にしゃがむ。襖を開けた。
埃の匂い。五年間、ほとんど触っていない空間だ。奥に段ボール箱が三つ。手前には布団と座布団が積んである。
「えーと、確かこの辺に......」
一つ目の段ボール箱を引っ張り出す。ガムテープが黄ばんでいた。ぺりぺりと剥がす。
中身。小学校の卒業アルバム。懐かしい。表紙に寄せ書き。「カイトくんはいつも元気でした」——先生のコメントが他人事すぎる。
「勾玉ではないわね」
「見りゃわかる」
二つ目の箱。こっちはもっと重い。
開けると、壊れたゲーム機が出てきた。DSの初代。画面がバキバキに割れている。
「これどうしたの?」
「階段から落とした」
「......災難体質ここにも」
その下に古い漫画が何冊か。『NARUTO』の途中の巻。なんでこれだけ押し入れに入ってるんだ。謎だ。
さらに掘る。漫画の下に——
手が止まった。
見覚えのある表紙。いや、見覚えなんてもんじゃない。隠した記憶がある。確実に。中学一年の夏。クラスの田中がくれた。「読み終わったらやるわ」って。
——エロ本だ。
『やばい』
背中に冷や汗が流れた。エリカが後ろにいる。エリカが。後ろに。いる。
そっと漫画の下に押し戻そうとした。
「何それ」
遅かった。
エリカの視線が、俺の手元を貫いていた。物理的に。
「っ! 違う! これは! その!」
「......何が違うの?」
「だから、これは田中が勝手に! 俺は読んでない! ほぼ!」
「ほぼ」
「......」
「......最低」
エリカの目が氷点下だった。南極。いや、もっと寒い。宇宙空間。絶対零度。
「違うんだって......」
「別にいいわよ。十五歳の男子の押し入れに何が入っていようと、統計的には正常範囲内だから」
フォローなのか追い打ちなのかわからない台詞だった。たぶん両方だ。
「......もういい。次の箱開ける」
逃げるように三つ目の段ボール箱に手を伸ばした。顔が熱い。耳まで赤い自覚がある。
三つ目は一番小さかった。軽い。
開ける。中には雑多な小物。貯金箱。割り箸で作った工作。夏休みの自由研究の残骸。
その奥に——布袋があった。
手触りで思い出す。巾着みたいなやつ。ばあちゃんがくれた時の袋だ。
「あった。これだ」
紐をほどく。
手のひらに転がり出たのは、五年前と変わらない深い緑色の勾玉。灯りの下で、表面の紋様がくっきり浮かんでいた。渦を巻くような、複雑な模様。五年間段ボールの中にいたとは思えない。埃ひとつついていない。
触れた瞬間、あの感触が蘇る。ひんやりと冷たい。夏の宮崎で感じたのと同じだ。
「見せて」
エリカが手を伸ばした。さっきまでの氷点下が嘘みたいに、目が真剣だ。
勾玉を渡す。エリカは両手で受け取り、目を近づけた。紋様を指でなぞる。
しばらく黙っていた。
「......この紋様」
「ん?」
「見たことある」
エリカが顔を上げた。
「『アマルの世界』に。たぶん——いや、たぶんじゃない。見た。確実に」
俺はまだ耳が赤い。でもエリカの表情が真剣すぎて、恥ずかしさが吹き飛んだ。
「どこで?」
「挿絵よ。末裔が持つ覚醒具の章に、この紋様と同じものが描かれてた」
エリカの目が光っている。好奇心じゃない。確信だ。
「ちょっとこれ借りていい? 確認したい。明日図書館に行って照合する」
「いいけど......」
ばあちゃんにもらった勾玉が、ファンタジー小説の紋様と一致する。
『......んなわけないだろ。偶然だろ、偶然』
そう思った。思おうとした。
でもエリカが勾玉を握りしめる手は、わずかに震えていた。




