第2節「神との再会」
世界が、止まった。
風が消えた。木の葉が空中で静止している。さっきまで走り回っていた子供たちが、写真のように固まっていた。噴水の水が弧を描いたまま凍りついている。
音が、ない。
動いているのは清美と——あのポメラニアンだけだった。
清美の心臓がどくどくと鳴っている。その音だけが、静寂の公園に響いていた。
ポメラニアンがベンチの前まで歩いてきた。ちょこんと座る。尻尾がぱたぱたと揺れた。
——そして、声が頭に直接響いた。
『久しぶりだな、清美』
テレパシー。二十二年前と同じだ。低くて穏やかな、けれど底知れない力を湛えた声。
清美は唇を震わせた。
「......アマルちゃん」
『ちゃんはいらない。』
「......アマル」
『うむ。まあ、よかろう』
沈黙が落ちた。二十二年分の。
清美はポメラニアンの姿をまじまじと見た。丸い顔。ふわふわの白い毛。ちっちゃい手足。——これが、創造神。
「前は猫だったわよね。白猫」
『気分で変えている。今はこの姿が気に入っている』
アマルは前足で自分の顔をちょいちょいと撫でた。
『可愛いだろう』
『......知ってる。自分でも可愛いと思っている』
自画自賛。しかも二連発。清美は思わず吹き出しそうになった。二十二年ぶりの再会だというのに、このゆるさは何だ。
——でも。
アマルの目が、ふっと翳った。
丸い黒目の奥に、深い慈しみがあった。そして——どこか、悲しみが滲んでいた。
『単刀直入に言おう』
声のトーンが変わった。清美の背筋が伸びる。
『お前の腹の子のことだ』
清美は無意識にお腹に手を当てた。子供が動いた。小さく、一回。まるで「聞いてるよ」と言うように。
『その子は特別だ』
アマルの声が静かに響く。
『とても——特別な宿命を、背負っている』
五月の陽射しは変わらない。時間の止まった公園は穏やかなままだ。なのに清美の胸に、冷たいものが落ちた。
宿命。
その言葉の重さを、清美は知っている。二十二年前に一度、聞いたことがあるから。




