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第4節「射的と金魚すくい」


射的の屋台があった。


 棚に景品が並んでいる。ぬいぐるみ、お菓子の箱、光るブレスレット。一回三百円で五発。


 「やる」


 迷わなかった。焼きそばもりんご飴もかき氷も全滅した。せめて何か一つ持って帰りたい。


 三百円を払う。コルク銃を受け取った。軽い。構える。狙いは二段目のクマのぬいぐるみ。照準を合わせる。息を止めた。


 引き金に指をかけた——瞬間。


 隣の客の肘が、腕にぶつかった。


 弾は天井に飛んだ。景品どころか棚にすら当たっていない。


 「五回目」


 エリカの声。背後で手帳に書き込んでいる。もう数えなくていい。


 二発目。構え直す。今度は右に寄って隣と距離を取った。狙う。集中。引き金——。


 反対側から別の客がぶつかってきた。弾は左の壁に当たった。


 三発目。今度は壁際に立った。右側は壁。これで右からはぶつかれない。構える。狙う——。


 後ろから押された。体が前につんのめる。弾が暴発。店主が「あぶねえな兄ちゃん」と顔をしかめた。


 俺のせいじゃない。


 四発目。五発目。同じだ。撃つ瞬間に必ず誰かが接触してくる。タイミングが正確すぎる。五発全て、景品に当たらなかった。


 「もう一回」


 三百円追加。意地だ。


 六発目から十発目。全て同じ結果。撃つ直前に妨害。十発中十発。命中ゼロ。


 店主が同情の目で見ている。「兄ちゃん、才能ねえなあ」。才能の問題じゃない。


 「十発中十発、発射〇・三秒前に妨害が入ってる」


 エリカが銃の横に立った。手帳を閉じて、俺の手からコルク銃を取った。


 「タイミングが完璧すぎる。貸して」


 「おい——」


 エリカが構えた。姿勢がいい。右目で照準。左目を閉じる。引き金——。


 パン。


 二段目のクマのぬいぐるみが棚から落ちた。一発。


 誰もぶつかってこない。


 エリカが振り返った。眼鏡の奥の目が鋭い。


 「私の時は妨害ゼロ。カイトとの差は統計的に有意よ。意味あるってこと」


 「だから俺は運が悪いんだって」


 「運じゃないわ。これは意図的な妨害よ」


 クマのぬいぐるみを受け取った。エリカが一発で落としたやつ。俺は十発撃って一つも取れなかった。この差はなんだ。


 ——金魚すくいでも同じだった。


 ポイを受け取る。水面に浮かぶ金魚。赤と白。ゆらゆら揺れている。ポイを水に入れようとした瞬間——背中を押された。子供だ。全体重で突っ込んできた。ポイが水に突き刺さる。紙が一瞬で破れた。


 二回目。構え直す。ポイを静かに近づけ——また押された。同じ子供。同じ角度。同じタイミング。紙が破れた。


 三回目。もはや確信犯だろう。振り返ったが子供はもう走り去っていた。三回とも、ポイが水面に触れる直前。


 「確率的にありえないわ」


 エリカが呟いた。そしてポイを受け取る。


 エリカがしゃがんだ。浴衣の裾が少し乱れる。気にしていない。水面をじっと見つめている。ポイを滑り込ませた。金魚が一匹、すくい上がった。誰も押してこない。


 二匹。三匹。四匹。五匹。


 涼しい顔で五匹。一度もポイが破れない。


 「はい。カイトの分」


 袋に入った金魚を差し出された。五匹。全部エリカがすくったやつだ。毎年こうだ。射的もくじ引きも金魚すくいも、結局エリカが代わりにやって俺に渡す。


 金魚の袋を受け取った。水の中で赤い魚がくるくる回っている。


 「で、お前の分析で何が分かんの?」


 聞いてみた。エリカはこういう時、データを元に結論を出す。いつもそうだ。


 「......何者かが妨害してることは分かるわ」


 「うん」


 「カイトだけが標的。私には妨害がない。つまり無差別じゃない」


 「うん」


 「でも——誰が、なぜかは......」


 エリカが黙った。手帳を握りしめている。悔しそうな顔だ。データはある。分析もした。でも「誰が」「なぜ」が分からない。答えが出ない。


 「分かんねえなら考えても仕方ねえだろ」


 「......」


 エリカは何も言わなかった。唇を噛んでいる。


 分析はできる。でも答えは出せない。エリカの——弱点だ。たぶん本人も分かっている。分かっているから悔しい。


 「ほら、帰ろうぜ。金魚飼わなきゃだし」


 袋を持ち上げた。金魚がぴちゃりと跳ねる。


 エリカが小さくうなずいた。手帳をしまう。二人で屋台通りを戻り始めた。


 ——その時だった。


 人混みの向こうに、フードをかぶった男が立っていた。


 屋台の明かりが届かない暗がり。フードが深い。顔はほとんど見えない。でも——目だけが見えた。暗い中で、妙にはっきりと。


 人間の目じゃないような気がした。


 光の加減だろうか。瞳の色がおかしい。金色っぽい。それとも赤か。提灯の光が反射しているだけかもしれない。でも——。


 背筋がざわついた。


 「カイト? どうしたの」


 エリカが俺の顔を覗き込んだ。


 もう一度、暗がりを見た。


 フードの男は消えていた。


 「......いや、何でもない。気のせい」


 『気味悪かったな、あの目』


 でもまあ——祭りだし。変な格好のやつもいるだろう。


 考えるのをやめた。いつも通りだ。


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