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使徒がドジすぎて、巻き込まれた高校生が、破壊神と交渉してきます  作者: 松本正樹
第5章「希望のアンクレット」
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第8節「世界の異変」


 翌日。旅を続けていた時、エリカがふと空を見上げた。


「\...\...あれ、空の色がおかしくない?」


俺も見上げる。


精霊界の空は淡い紫色。昨夜もそうだった。でも——今日は違う。一部だけ灰色に濁っている。まるで絵具が滲んだように、不自然な染みが広がっていた。


綺麗な空に、穴が開いたみたいだ。灰色の部分はゆっくりと脈打つように広がったり縮んだりしている。生きているかのように。不気味だ。


「フロー、あれ——」


「\...\...最近、時々こうなるのです」


フローシャンテリアの声は落ち着いていた。けれど、その落ち着きが逆に重い。知っていたのだ。ずっと。一人で見ていたのだ。


「すぐに戻るのですが、頻度が増えています。最初は月に一度くらいでしたが、今は——三日に一度ほど」


「いつから?」


「ひと月ほど前から。それと——世界樹の葉が少し落ちやすくなりました」


世界樹。精霊界の象徴。あの巨大な樹が弱っている。


ゼファーが眉をひそめた。


「放牧民の国でも、季節外れの嵐があった。何か関係があるのか」


俺も思い出す。サルーラ村。アカドメア虫が異常発生していた。本来は精霊界の奥地にしか生息しない虫が、辺境の村まで出てきていた。パーメルクさんが赤あざ病にかかったのも、あの虫のせいだった。


各世界で、少しずつ異変が起きている。


放牧民の国——季節外れの嵐。


精霊界——空の灰色化、世界樹の落葉。


サルーラ村——アカドメア虫の異常発生。


点と点が、線になりかけている。


『各世界で、何かが起きてる\...\...』


エリカが黙り込んでいた。何かを考えている顔だ。めがねには触っていない。つまり——自分の記憶から引っ張り出している。


「\...\...エリカ?」


「『アマルの世界』に書いてあった」


小さく呟く。声が低い。


「大盟約の終焉が近づくと、世界に綻びが生じる——って」


大盟約。アマルとモルスが結んだ約束。世界の秩序を保つ根幹。それが終わりに近づいているなら——世界そのものが壊れ始めているということだ。


「放牧民の国の嵐も、アカドメア虫の異常発生も、この空の灰色も——全部繋がってる。世界の綻びが、各所に現れてるのよ」


エリカの声に、珍しく焦りが滲んでいた。分析者が焦っている。それが一番怖い。


「\...\...急いだ方がいいかもしれない」


エリカの一言が、空気を変えた。


まだ深刻な状況ではない。空の灰色も、すぐに戻る程度だ。世界樹の葉も、少し落ちやすくなった程度。日常に支障はない。


でも——何かが始まっている。ゆっくりと、でも確実に。


フローシャンテリアが唇を噛んでいた。自分の国が蝕まれていく。その事実を目の当たりにして、平気でいられるはずがない。


時間は、思っているほど残されていないのかもしれない。


四人は足を速めた。


頭上で、世界樹の葉が一枚、はらりと落ちた。


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