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使徒がドジすぎて、巻き込まれた高校生が、破壊神と交渉してきます  作者: 松本正樹
第5章「希望のアンクレット」
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第7節「四人の夜」


 日が暮れた。


 森の開けた場所に野営を張る。木々の間から、複数の月が見えた。三つ。大きさも色も違う。一番大きい月は淡い金色で、小さな二つは銀色だ。


 精霊界の夜空は紫色をしていた。星が宝石みたいに散らばっている。放牧民の国の夜空とは全然違う。あっちは深い紺色で、星がもっと近かった。ここは——遠くて、でも綺麗だ。


 焚き火を囲む。パチパチと木が爆ぜる音。顔が温かい。


「私が料理をしましょう」


フローシャンテリアが言い出した。


王女が。料理を。


「\...\...え、いいの?」


「母から教わったのです。王宮では作る機会がありませんでしたが\...\...」


言うが早いか、フローシャンテリアはてきぱきと動き始めた。道中で摘んだ野草を洗い、木の実の殻を割り、手慣れた動きで刻んでいく。


意外すぎる。王女なのに包丁さばきが様になっている。


「セレナ女王陛下が教えたのか」


ゼファーも驚いている。


「はい。母は『王女であっても、自分の手で食べるものを作れなければならない』と」


「\...\...いい母君だ」


鍋いっぱいのスープが完成した。野草と木の実と肉。湯気がふわりと立ち上る。いい匂いだ。腹が鳴った。


一口食べる。


「——うまい」


素直に出た。


「この世界の料理、意外とうまいな」


フローシャンテリアが微笑む。


「私が作りました」


「あ、いや、意外っていうのは、その\...\...野草とか木の実だけだし、味つけとかどうなのかなって\...\...」


墓穴を掘っている。自覚はある。


「素直に美味しいって言えばいいのに」


エリカが呆れたように言った。


「\...\...美味しいです」


「はい。ありがとうございます」


フローシャンテリアが嬉しそうに頷いた。その顔を見て、さっきの恥ずかしさが吹き飛んだ。


食事を終え、焚き火を囲んだまま話が弾んだ。


放牧民の国での冒険。アルガンに振り落とされた話をすると、フローシャンテリアが目を丸くした。「馬に乗れなかったのですか?」「乗れなかったっていうか、馬に拒否された」「アルガンは気性が荒くてな。だが潜在能力は最強だ」とゼファーが補足する。


「ゼルとの心理戦も大変だったわ。指をかみちぎったの、あれは痛かった。二度とやりたくない」


「やらなくていいよ」


今考えるとエリカの小さな体からは想像できない蛮行だ。


「あれは計算通りよ」


「嘘つけ。あの時お前、完全にキレてただろ」


「\...\...半分計算、半分キレてた。七対三くらいで」


「割合おかしいだろ」


笑い声が夜の森に響く。


話題はそれぞれの故郷のことに移った。エリカが日本の学校の話をする。テストの話。部活の話。フローシャンテリアには「テスト」の概念がなく、説明に苦労した。


「紙に答えを書いて、点数がつくのです。百点が満点」


「エリカはいつも学年トップだ」


「\...\...そこは言わなくていいの」


「すごいですね!」


「百点でも母さんに『当然でしょ』って言われるだけよ」


ゼファーが笑った。「お前の母は強いな」。エリカが「カイトの母も相当よ」と返す。


それぞれの日常が、焚き火の灯りの中で混ざり合っていく。異なる世界の記憶が、ここで一つの夜を共有している。


下位精霊たちが遠くからそっと見ている。小さな光が木の間でちらちら揺れていた。


ゼファーがふと呟いた。


「家族が増えたようだ」


静かな声。でも、ずっしりと響いた。


異世界から来た高校生。放牧民のクランの長。精霊界の王女。そしてただの幼馴染。属性も立場もバラバラ。共通点なんてほとんどない。


でも——焚き火を囲んで笑い合えるこの四人は、確かに仲間だ。


穏やかな夜だった。


三つの月が、森を柔らかく照らしていた。


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