第4節「旅立ち」
王都の門をくぐった。
振り返ると、光の結晶をまとった城壁が朝日を反射している。見送りの兵士が二人、静かに頭を下げていた。
「この地図によると、始まりの泉は北西の方角です」
フローシャンテリアが古い地図を広げる。羊皮紙に似た手触り。インクが少しかすれている。かなり古い地図だ。
「行ったことは?」
「ありません。王家に伝わる地図ですが、実際に泉を訪れた者は何世代もいないはず\...\...」
要するに、道案内のいない冒険だ。まあ、いつものことか。
森に入った。
空気が変わる。澄んでいて、どこか甘い香りがする。花なのか樹液なのか。巨大な世界樹の枝が空を覆い、木漏れ日が地面に光の模様を描いていた。
放牧民の国とはまるで違う。
あっちは見渡す限りの草原。太陽が二つ。風が強くて、馬の匂いがした。ここは——森と光の世界だ。一歩踏み出すたびに、柔らかい苔が足裏を受け止めて、木の葉がさらさらと鳴る。どこか夢の中にいるような感覚。
『異世界って、本当にいろいろあるんだな』
ふわり、と光の玉が目の前を横切った。
「また人間だ」「今度は四人もいる」「王女様も一緒だ」
下位精霊たち。小さな声がさざめく。好奇心の塊だ。
一匹が俺の鼻先に止まった。くすぐったい。温かい光。触ろうとしたら、ぴょんと逃げた。
「こら、失礼ですよ」
フローシャンテリアがたしなめるが、精霊たちは気にしない。「温かい」「変な匂い」「こっちの女の子は眼鏡してる」。好き勝手言っている。
エリカが「変な匂いは余計よ」と小声でツッコんだ。
ゼファーが呟く。
「放牧民の国とは空気が違う」
「ゼファーさんもそう思います?」
「ああ。風の質が違う。ここの風は——優しいな」
エリカは道端の植物に目を奪われていた。しゃがみ込んで葉をめくっている。
「これ、図書館で見た薬草だ。実物は初めて\...\...葉脈の形が全然違う。本の挿絵、適当すぎない?」
学者モード全開。目が輝いている。放っておくと三時間は動かない。
「エリカ、置いてくぞ」
「ちょっと待って! 標本にしたい——」
「しません」
フローシャンテリアが三人の反応を見て、ふふ、と笑った。
「私の国を気に入ってもらえて、嬉しいです」
その笑顔に、下位精霊たちが「王女様が笑った」「珍しい」とはしゃいでいる。
旅は順調に始まった。
木漏れ日が四人の影を揺らしている。風が背中を押すように吹いていた。下位精霊たちが、少し離れたところからそっとついてくる。




