第3節「女王への報告」
翌朝、フローシャンテリアがセレナヴァンテリア女王への面会を申し出た。
俺たち三人も同行する。玉座の間に向かう廊下を歩きながら、背筋が自然と伸びた。壁に埋め込まれた光の結晶が淡く脈打っている。まるで心臓みたいだ。
扉が開く。
冷たい空気が頬を撫でた。
高い天井。光の結晶が輝く柱。磨き上げられた床に、自分の足音が反響する。そして——奥の玉座に座る女王の姿。
圧がすごい。
別に怒っているわけじゃない。ただそこにいるだけで、空気が張り詰める。呼吸すら音を立てちゃいけない気がした。
フローシャンテリアが一歩前に出た。背筋を伸ばし、母の目を真っ直ぐ見る。
「母上。ご報告があります」
声は落ち着いていた。王女の声だ。
フローシャンテリアは順を追って説明した。宝物庫への侵入者のこと。杖が盗まれたこと。狡猾の長ゼルとの対決——エリカが指をかみちぎってまで戦ったこと。そして四人で杖を奪還したこと。
「そして——私は光の柱、フローシャンテリアの末裔でした」
女王は一言も挟まなかった。
杖の盗難を聞いた時、指先がわずかに動いた。ゼルの名が出た時、目が細くなった。奪還を聞いた時——表情は厳しいまま。けれど、唇の端がほんの少しだけ上がったように見えた。
『この二人、顔は似てないけど雰囲気が似てる』
静かな強さ。何を聞いても動じない。芯がぶれない。なるほど、親子だ。
報告が終わると、フローシャンテリアの声が変わった。少しだけ——震えている。
「母上、私は始まりの泉へ向かいたいのです。転移具を探すために」
沈黙。
長い沈黙だった。玉座の間に、光の結晶がかすかに鳴る音だけが響いていた。
王女が王宮を離れる。それがどれほど重い意味を持つか、この場にいる全員がわかっていた。
女王が口を開いた。
一拍の間。
「お前が選んだ道なら、私は止めません」
『転移具を見つけたら、あなたは旅立つのですね。』
「ただし——必ず戻ってきなさい」
命令ではなかった。祈りだ。
フローシャンテリアの肩が小さく震えた。目元が赤くなっている。それでも声は折れなかった。
「はい、母上」
女王は護衛をつけると提案した。しかしフローシャンテリアは首を横に振る。
「この三人がいれば大丈夫です」
女王の視線が俺たちに向いた。
鋭い。射抜くような眼光。娘を任せていい相手かどうか。視線が俺の目を貫いた。逸らしたら負ける気がして、真っ直ぐ見返した。
「娘を頼みます」
低く、しかし確かな声。
三人で深く頭を下げた。ゼファーは堂々としていた。エリカも背筋を伸ばしている。俺だけ緊張で膝が笑いそうだったけど——なんとか耐えた。
『責任重大だな\...\...』
顔を上げた時、女王の目が一瞬だけ和らいだのが見えた。
ほんの一瞬。けれど、確かに。




