表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/132

第4節「逃げろ、全力で」


 エリカの背中が森に消えてから、たぶん十分くらいぼうっとしていた。


 フローシャンテリアが隣で心配そうにこちらを見ている。いかんいかん。守ると決めたのは俺だ。いつまでもモヤモヤしている場合じゃない。


 頭を切り替えろ。


 俺は考えた。狡猾が攻めてくるとしたら、どう来る? あの使者の態度を思い出す。ふんぞり返って、偉そうに、正面から堂々と乗り込んできた。プライドの塊みたいな男だった。


 『あいつなら、正面突破してくるな。変に小細工するタイプじゃない』


 正面から来るなら、迎え撃てる。しかも——あいつのプライドをズタズタにしてやれば、冷静さを失うはずだ。


 名付けて、「プライド踏んづけ大作戦」。


 我ながらひどいネーミングだ。でもわかりやすい。


 「フロー様、衛兵を全員、中庭に集めてもらえますか」


 「はい、すぐに」


 「あと、様付けはやめてくださいね」


 ——十分後。中庭に三十人ほどの衛兵が整列していた。


 甲冑が朝日を弾いて光る。しかし、その顔には緊張と不安が浮かんでいた。無理もない。狡猾の恐ろしさは、この国の人間なら身に染みて知っている。


 俺は全員の前に立った。深呼吸。腹に力を入れる。


 「衛兵の皆さん、聞いてくれ」


 声を張り上げた。中庭に響く。


 「もう知っていると思うが、今回の敵——狡猾は強敵だ。襲ってくるかどうかはまだわからない。でも、もし来たら——」


 一拍、間を置いた。


 「全員で戦っても、たぶん勝てない。相手は化け物だ」


 衛兵たちの顔が曇る。わかってる。不安を煽りたいんじゃない。


 「でもよく考えてほしい。——俺たちは、勝つ必要があるか?」


 空気が変わった。衛兵たちが俺を見る。


 「別に勝たなくても、王女の命を守れればいいんだ」


 何人かの目が見開かれた。


 「だから俺に誓ってほしい。狡猾と——決して正面から対決するな」


 ざわめきが起きる。俺は拳を握りしめて続けた。


 「そして絶対に、自分の命を粗末にするな! 俺たちは——徹底的に逃げて、逃げて、逃げまくって——」


 声を最大にした。


 「狡猾のプライドを、ずたずたにしてやるんだ!」


 沈黙。


 ——そして、衛兵たちの目が変わった。恐怖が消えていく。代わりに灯ったのは——闘志。逃げていいと言われた途端、戦える気がしてくる。人間って不思議だ。


 「いいか、ここから俺たちは一心同体だ! みな、ついてきてくれるか!」


 「おおーっ!」


 「王女を守れるか!」


 「おおーっ! 王女を守ろう!」


 よし。いける。ノリがいい。調子に乗って——


 「全部終わったら、王女のおごりで宴会だー!」


 「うぉぉぉぉーーーーーっ!」


 中庭が割れんばかりの歓声に包まれる。衛兵たちが拳を突き上げている。うん、いい雰囲気だ。完璧——


 「カイトさん、調子に乗ってません?」


 フローシャンテリアが笑顔で耳打ちしてきた。笑顔だけど目が笑ってない。


 「\...\...すみません。つい」


 「宴会の費用、あとで請求しますからね」


 怖い。この人、優しい顔して怖い。


 俺は衛兵たちを四つの班に分けた。


 「A班は東廊下を担当。床に油を塗れ。敵が踏み入った瞬間、つるっと滑るやつだ」


 「B班は西廊下。天井に水袋を吊るせ。紐を引けば落ちる仕掛けにしろ」


 「C班は中庭周辺。落とし穴を三つ掘れ。上に薄い板を乗せて葉っぱをかぶせとけ」


 「D班は全体の遊撃。小石と反射板を持って、影から影へ移動しろ。敵を挑発して逃げるのが仕事だ。一番重要な役だぞ」


 衛兵たちが目を輝かせている。


 準備が始まった。宮殿中がバタバタと騒がしくなる。油を運ぶ者、水袋を縫う者、穴を掘る者。俺もあちこち走り回って指示を出す。


 どの罠も「当たっても死なない」ものだけだ。殺すための罠じゃない。プライドを砕くための罠。


 フローシャンテリアが「私も戦いたいのですが」と申し出てくれた。


 「いや、姫さんには別の仕事がある」


 俺は「観察の水晶」を指さした。


 「あいつらの動きを記録してくれ。弱点が見つかるかもしれない」


 フローシャンテリアは少し考えてから、頷いた。


 「\...\...わかりました。観察は得意です」


 日が高くなっていく。準備は着々と進む。


 あとは——敵を待つだけだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ