第11節「サルーラ村」
村の入口で、止められた。
「何だ、お前たちは」
尖った耳。細身の体。精霊族とは少し違う、質素な身なりのエルフだった。手には槍。そして——明らかに迷惑そうな顔。
敵意。初対面で、この敵意はなんだ。
ゼファーさんが一歩前に出た。
「王都から来た。村長に会いたい」
見張りの目が細まった。
「王都だと? ふん、また厄介事の押し付けか」
吐き捨てるような言い方だった。
「そうではない。頼みがあって——」
「頼み?」
見張りが鼻で笑った。
「王都の連中はいつもそうだ。辺境の村に押し付けるだけ押し付けて、何も返さない」
俺は口を開きかけた。言い返したい。俺たちは押し付けに来たんじゃない。
ゼファーさんの手が、俺の腕を押さえた。静かに首を振る。
『\...\...分かった。黙ってる』
「話を聞いてほしい。急ぎの用なのだ」
ゼファーさんの声は低く、穏やかだった。怒らない。媚びない。ただ真っ直ぐに、頼む。放牧民の長として、幾度も交渉をしてきた男の声だ。
見張りはしばらく二人を睨みつけていた。槍の柄を握る手に、力が入っている。
長い沈黙の後——舌打ち一つ。
「\...\...ついてこい」
渋々と、村の中に案内された。
村は小さかった。木造の家が十数軒。道は狭く、土がむき出しだ。塀はないが、周囲の大木が天然の壁のように村を囲んでいる。外から見た印象の通り——閉じた場所だった。
通り過ぎるエルフたちが、俺たちに視線を向ける。好奇心じゃない。警戒だ。冷たい。子供が駆け寄ろうとして、母親に引き寄せられた。家の中に押し込まれる。
「\...\...なんか、歓迎されてねえな」
小声で言った。
「辺境の村は外部との接触を嫌う」
ゼファーさんも小声で返す。
「特に王都からの使者は、良い思い出がないのだろう」
良い思い出がない。王都が辺境の村に何をしたのかは知らない。でも、この空気は——長い時間をかけて積もった不信感だ。一日や二日では消えない。
「村長の家だ」
見張りが一軒の家を指差した。他の家より少し大きい。でも質素なのは同じだ。飾り気のない木の壁。窓は小さく、中の様子はうかがえない。
見張りが扉を叩いた。
「誰だ。こんな時間に」
中から不機嫌な声がした。低い。重い。
「見張りのレンだ。王都から客が来た」
「王都?」
声の温度が、さらに下がった。
扉が乱暴に開いた。
現れたのは——壮年のエルフの男。
でかい。肩幅が広く、がっしりとした体格。エルフにしては珍しい武人のような風貌だ。腕が太い。鍛えている体。
顔には深い皺が刻まれていた。苦労の跡だ。目は鋭く、俺たちを値踏みするように見ている。
「王都から、何の用だ」
歓迎の言葉はなかった。挨拶もない。
ゼファーさんが頭を下げた。
「突然の訪問をお許しください。実は——」
「許すも何も、もう来てしまっているだろう」
遮られた。
ムスクは腕を組んだ。扉の枠に寄りかかり、二人を見下ろしている。大きな体が入口を塞いでいた。
沈黙。風が通りを吹き抜ける。夕日がムスクの背中を照らし、顔は影になっている。表情が読めない。
「帰れ」
扉が閉まった。重い音。木の板一枚が、完全な拒絶だった。
立ち尽くす。風が通りを吹き抜けた。夕日が沈んでいく。
「\...\...門前払い、ってこういうことか」
「まさにこういうことだ」
ゼファーさんの声は静かだった。怒りはない。「やはりな」という顔。
結局、約束の手紙の話は一言もできなかった。
宿を貸してもらえるはずもなく、俺たちは村の外れで野宿することになった。




