第8話 お団子屋さん
【第一部】心の扉―始―
しばらく歩いていると、ふんわりと香ばしい匂いが漂ってきた。
お団子屋さんだ。
「近々、城に客人を迎える。本日は、昼のもてなしに供する甘味と、手土産を選びに来たのだ。そのため、トワに手伝ってもらいたい。私一人では、いささか心許なくてな」
そう言って困ったように笑う栄善が意外で、思わず「かわいい」なんて思ってしまった。
いつもは冷静で、クールな印象だったから。
「私で良ければもちろん!」
そんな栄善に頼られたことが嬉しくて、私は自然と笑みを返した。
「トワ、恩に着る。さぁ中へ参ろう」
*
席につき、色とりどりのお団子をひとつずつ味わう。
みたらし、あんこ、よもぎ、きなこ、ごま──
どれもそれぞれに美味しくて、一つに絞るのが難しい。
栄善によると、ここは町でも屈指の人気を誇るお団子屋さんで、味もまた格別なのだという。
「ん〜美味しい!こんなに美味しいお団子食べたの初めて!どれも美味しいから悩んじゃうな〜」
私はあまりの美味しさに、ハムスターのように、口にお団子を頬張っている。
「ふっ、それは良かった。トワの美味しそうに食べる姿を見て私も嬉しく思う。それにしてもトワはよく食べるのだな。まるで小動物のようだ」
そう言って栄善は目を細め、くすくすと笑った。
その笑い方が、なぜだかとても美しく見えて、思わず見惚れてしまった。
その直後、自分がお団子を頬張っていることに気づき、途端に恥ずかしさが込み上げてきた。
「〜〜美味しくてついっ」
「こんなにも喜んでくれるとはこの上ない幸せだ。ほら、口元にきなこがついているぞ」
そう言って、栄善の手がそっと私の口元に触れる。
きなこを払っていたはずのその手が、やがて私の頬へと触れた。
一瞬、息が止まる。
気づけば、お互いの視線が絡んでいた。
栄善の手の温もり。
私をまっすぐ見つめる、どこか熱を帯びた眼差し……
まるで、二人だけの世界に取り残されたようで。
このまま、時が止まってしまえばいい──
そう思った、まさにその時。
「あいよ〜!追加の栗団子と黒糖団子お待ち〜!」
元気な店主の声が、賑やかな店内に響いた。




