第52話 忘れた涙 覚えた愛
【第一部】心の扉―始―
──なんだろう……
何か音が聞こえる……
コツコツとした規則正しい音……
「……ちゃん……ね」
そして、声も。
ふわふわとした感覚。
何……
私は、そっと目を開けた。
これは……
棺に入った私。
それを、上から私が見ている。
あ……そうだ……
さっき、私は海へと身を投げたんだった。
じゃあ、これは私のお葬式。
さっきのコツコツとした音は、木魚の音……
私は……幽体離脱でもしているのかな……
ぼんやりとした頭で、ゆっくりとあたりを見渡す。
「……トワちゃん、ごめんね。私が話を聞いてあげられなかったから……」
「トワ……ごめんね。辛かったよね」
私のために、みんなが涙を流して泣いてくれている。
だけど……
何かがおかしい。
お葬式に参列しているのは、私の家族や親戚、そして友達……
「トワちゃん、ごめんね。私たちが責めたから……苦しかったよね、辛かったよね……」
「……トワ、助けてあげられなくて……ごめんね。トワがそんなに悩んでいたなんて……知らなくて……うっ、うっ……」
「私も……あのときは、ああするしかなかったの……怖かったから……ごめんね、トワちゃん。本当に……うっ……ごめんな……さい」
ああ──そうだ。
そうだった。
──目が覚めたら、いっそ誰も私のことを知らない世界でありますように……
そう願ったあの日。
私は、自らの人生を終えていたのだった。
ずっと辛かった。
苦しかった。
人が怖くて、もう解放されたかった。
私の心は、もう……頑張ることができなかった。
そして、目が覚めたら、あのお城にいて、栄善と出会った。
涙を流しているみんなを、私は静かに見つめる。
その様子を見ていると、栄善が言っていた言葉が蘇ってくる。
『違う角度から見れば、皆それぞれ事情を抱えている』
そうだ……
そうだよ……
私は、あのとき、責められ、否定され続ける毎日が辛くて、自分のことしか考えていなかった。
だけど……
みんなだって、辛くて苦しかったんだよね。
こうして、私のために涙を流してくれている人たちがいる。
きっと、栄善と出会えたのも……
──愛されたい──
私がそう願ったから。
あの世へ行く前、成仏できない私の魂が彷徨っていたから……見えない存在たちが、その願いを叶えてくれたのかもしれない。
これで……成仏できる……
──みんな、ありがとう。
私の頬に、あたたかい涙が静かに流れる。
ここにいるみんなが、この世を旅立つとき、安心して成仏できるように。
私は、笑顔でその想いが伝わるようにと、心を込めた。
そうしたら、みんなの顔も優しく微笑んでいるように感じた。
きっと──天国に行けるよね。
天国で、また栄善に会えるといいな。
私は、あたたかい光に包まれながら、そっと目を閉じた。




