第50話 鼓動が告げる愛
【第一部】心の扉―始―
何が──起きたの……?
栄善の声が聞こえて
それで、それで……
栄善が、仰向けで倒れている。
「えい……ぜん……?」
栄善の左胸に、小刀のようなものが突き立っていた。
私は倒れている栄善に駆け寄り、そっと頭を持ち上げて、膝の上に抱き寄せる。
「栄善! 栄善!」
私は、必死に呼びかける。
胸の奥が締め付けられ、鼓動の音がうるさいほどに響いていた。
ふと顔を上げると、近くに立つ小梅姫が、手を震わせたまま、その場に立ち尽くしていた。
小梅姫が、栄善を刺したの……?
いや、違う──
小梅姫に刺されそうになった私を、栄善が庇ってくれた……
「……栄善! 栄善!」
栄善の左胸からは、血が滲んでいる。
「誰か……誰かっ!」
「……ト……ワ……」
「栄善……!」
栄善の手が、そっと私の頬に触れる。
「トワ……無事で……よかった……」
「うっ、うっ……栄善……」
私の頬に添えられた手を、私は両手でそっと握った。
鼓動は、まだ胸の奥で暴れたまま。
栄善は、低く震える声で続けた──
「トワ……あの日……口づけを……交わしたあの日……其方に……想いを……伝えることができなかった……臆病な私を……許してくれないか……」
「……っ、う……」
栄善のその言葉に、涙がとめどなく溢れてくる。
「言って……しまえ……ば……トワへの想いが……溢れて……もう……止められなくなる……気がしていた……」
途切れ途切れの声。
それでも必死に紡がれる言葉。
「立場も……責任も……すべて……投げ出して……其方と共に……生きる道へと……」
「……っ、うっ……」
「トワ……私は……其方を……愛している。初めて……出会った……あの日から……この想いは……ずっと……胸の奥に……あった……」
「……っ……う……栄善……私も栄善のこと、愛してる。初めて栄善に出会ったときから……ずっと……ずっと、あなたを想ってた……」
「そうで……あったか……よか……った……」
微かに、安堵したような息。
「私の人生は……トワに出会えて……幸せであった……悔いはない……」
「……っ、栄善……」
「その簪……よく……似合って……いる」
そう言って、栄善は柔らかく優しい微笑みを浮かべた。
「えい……ぜん……ねぇ、栄善……やだ……栄善……! 栄善……!」
私の呼びかけに、返事はなかった。
栄善は、まるで安心しきったような穏やかな表情を浮かべている。
私の腕の中で──眠っているかのように。




