第46話 御誕辰祭
【第一部】心の扉―始―
今日は栄善の御誕辰祭。
お城の行事は一通り終わり、朝からの慌ただしさもようやく落ち着いていた。
師走の冬至らしく、外はひんやりと冷たい。
私はお菊さんと一緒に夕食の準備をしていた。
華礼の式の日──
みんなが帰ってきたあとお城の中が慌ただしかったから、「大丈夫だったのかな……」と心配になり、哀伝たちに聞いてみたら、ぬかるんだ道で小梅姫の着物が汚れて大騒ぎになったんだって。
確かに前日はすごい嵐だったもんね。
それに大切な挨拶の日だもん。
着物が汚れてしまって……大変だったよね。
その話を聞いて、私は少しほっとした。
お城の方たちが無事に帰ってきて、本当によかった──
結局、華礼の式は天候面などを考え、春の季節に見送られたみたい。
胸を撫で下ろし、夕食の準備を進める。厨には薪の火で炊いた舞茸ご飯の香りがふんわりと漂っていた。
湯気の向こうには、黄金色に光るご飯粒が顔を覗かせ、木のしゃもじで混ぜるたびに香りがさらに立ち上がる。
私は思わず顔を近づけ、ほっと一息ついた。
「うわぁ〜、舞茸のいい香りですね」
「ふふふっ、あとで私たちもいただきましょうね」
「ふふっ、楽しみです」
そして私はじゃがいものお味噌汁を、お菊さんは芋きなこ和えを作っていた。
『私はトワが剥いたじゃがいもがいいんだ』
栄善がそう言ってくれたから……
未だに歪なじゃがいもの形だけれど、栄善が喜んでくれるのならと気持ちを込めてじゃがいものお味噌汁を作った。
「トワちゃん、ここにきなこをまぶしてもらってもいいかしら?」
「もちろんです!」
私は芋きなこ和えの最後の仕上げとして、きなこをふんわりとまぶした。
── 御菜は芋きなこ和えと、トワが剥いたじゃがいもの味噌汁でお願いしたい。
栄善にそう頼まれた日のことを、きなこの香りを感じながら静かに思い返す。
どうして栄善は芋きなこ和えを選んだんだろう?
私が剥いたじゃがいものお味噌汁については、『歪な形のときは、当たりであろう?』と栄善が言ってたから、なんとなく理由は分かるけど……
そんなことをあれこれ考えているうちに、夕食が出来上がった。
そして最後の仕上げ──御品書きの準備に取りかかる。
・季節の舞茸ご飯
・芋きなこ和え
・じゃがいもの味噌汁
御品書きの一筆一筆に心を込めて書いた。
私の得意とする筆で、丁寧に。
『御品書きに一筆一筆、心を込めてくれるトワに、鳥の子紙も使ってもらえてさぞ幸せであろう』
栄善が褒めてくれた、私の御品書き。
そして……最後に、じゃがいもの絵を添えて。
書き終えた御品書きをしばらく手に取り、そっと見つめる。
思わずにっこりと小さく笑った。
「トワちゃん、私は食堂前に御品書きを貼り出してくるわね。ふふふっ、今日もじゃがいもの絵が可愛いわね」
「ふふっ、お菊さん、ありがとうございます!」
私はいつものように、食堂前の御品書きも、栄善の御品書きも真心を込めて書いた。
栄善、お誕生日おめでとう。
生まれてきてくれてありがとう。
私に幸せを与えてくれてありがとう。
たくさんの感謝の想いが栄善に届きますように──




