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第38話 お城のひととき

【第一部】心の扉―始―

私は幸せな気持ちに包まれたまま、お城へと戻った。


栄善(えいぜん)と別れ、自室に戻ってゆったりとその余韻に浸っていると、哀伝(あいでん)たちが諭作(ゆさく)さんからいただいた山茶花団子(さざんかだんご)を届けに来てくれた。


「トワ〜、おかえり!はい、これ諭作からもらった山茶花団子。お(きく)の分も入ってるから、二人で分けてね」


「うん、ありがとう哀伝!」


哀伝は、竹皮に包まれた山茶花団子を手渡してくれた。


「山茶花団子は特別だからな!トワ、よく味わって食べるんだぞ!がははははーっ!」


「いつの日からか急にどうしたんだよ、団丸(だんまる)……」


ふふっ、栄善が言っていた団丸の「特別」。


蛍火(ほたるび)さんの想いも重ねて、大切に味わって食べようと思った。


「トワごめんね。本当は山茶花団子、箱に入れて持って来ようと思ったんだけど、僕の後輩がその箱気に入っちゃってさ〜貰っちゃったんだよね」


「ううん、山茶花団子をいただけただけで充分だよ。哀伝、ありがとね!」


「本当?それならよかった!」


色んな想いの詰まった山茶花団子。

食べるのが楽しみだな。


「トワの髪の毛にひっついてる(かんざし)、綺麗だな!」


「ひっついてるって……団丸、もう少し言い方あるだろ。トワ、その簪綺麗だぜ」


ひっついてるって、団丸らしくて思わず笑みがこぼれる。


そして、それを冷静にフォローする七左衛門(しちざえもん)の様子もまたらしくて、二人の絶妙な掛け合いから仲の良さが伝わってくる。


「本当だねトワ、すごく似合ってるよ!小ぶりだから仕事中にもぴったりだね」


「ふふっ、哀伝も団丸も七左衛門もありがとう。すごく嬉しいな」


栄善がきっと心を込めて一生懸命選んでくれた簪。


褒めてもらえて、すごく嬉しかった。

  

「今日買ったのか?」


団丸にそう言われて、私は少し照れちゃって、ごまかすように答えた。


「へへへ、内緒!」


「そうか!きっとトワの特別なんだな!がははははーっ!」


団丸が分かっているのか、それとも分かっていないのかはよく分からなかったけれど、その笑い声につられて、みんなで笑い合った。


「あれ……その花……」


「ん?どうしたの、哀伝?」


哀伝は何かを言いかけたあと、両手を頭の後ろに組んで無邪気に言った。


「いやぁ〜今日はトワ、楽しかったかな〜って思ってさ」


「うん、すっごく楽しかったよ。あっ、それにみんなと一緒にお仕事している方々の話も、今日初めて聞いたんだ。個性豊かな人たちがたくさんいるって聞いて、私まで楽しくなっちゃった。呑んだくれ上司さんとかもいるんだってね。ふふっ、なんだか愉快でつい笑っちゃう」


私がそう言うと、哀伝は少し困ったような顔をして、七左衛門と団丸は笑っていた。


「ちょっと二人とも、笑い事じゃないんだからね?本当に大変だったんだよ、僕たち」


「くくっ、悪いな哀伝。だけど、時雨(しぐれ)らしいよな」


「時雨はいつも酒ばっかり飲んでるからな!外でも城内でも酒ばっかりだ!がははははーっ!」


呑んだくれ上司さんって、そんなにお酒ばっかり飲むんだ……なんかすごい。


「哀伝、何かあったの?」


「聞いてよ、トワ。僕の上司なんだけど、今日は僕の後輩が初めて他国に出す文書を書く日でさ。教えなきゃいけなかったのに、お酒飲んじゃってて出来上がっててさ。僕も仕事から帰ってきたばかりだったから、もうどっと疲れちゃったよ」


わぁー……愉快そうって思ってたけど、なんか想像と違って、結構大変そうな上司さんだった。


「結局、外交の上司が交易の出す文書の書き方を教えてくれてさ〜。文書は今日中に無事に出せたからよかったけど、本当に申し訳なかったよ」


春風(はるかぜ)のやつも、自分の限定の酒も飲まれて、交易の文書も教えて、大変な一日だっただろうな」


「まぁ、いつものことだからな!愉快なんだ!がははははー!」


団丸、それは愉快というのかな……

そう思いながら、三人で顔を見合わせた。


それがおかしくて、私たちは再び笑い合った。


団丸はきょとんとした顔をしていて、その様子もまた、なんだか面白かった。


哀伝に「今日は大変だったね。お疲れ様」と声をかけ、みんなにお礼をしてから、私はお菊さんのところへ山茶花団子を渡しに向かった。


ちょうどお菊さんも仕事終わりだったので、栄善から教えてもらった囲炉裏(いろり)のある部屋で、二人で暖を取りながら山茶花団子を味わった。


栄善が言っていた通り、寒い冬でもこの囲炉裏のぬくもりが冷えた足元を和らげてくれるだろうなと思った。


山茶花の形をしたお団子、淡い彩り。


もちもちとした食感に、コクのあるまろやかな甘み。


囲炉裏の灯火を眺めながら、今日という一日を静かに噛み締めていた。

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