第28話 心の扉
【第一部】心の扉―始―
背中に伝わる温もりに、思わず胸が驚きで跳ねた。
でもその優しさに、涙で緩んだ心がそっとほぐれていく。
柔らかなあたたかさに包まれながら、自然と気持ちが落ち着き、穏やかさが広がっていった。
「えい……ぜん……」
「そんな……儚げな顔をするでない」
「……そん……な……顔して……たかな……」
「トワ……言いたくないのなら無理にとは言わぬ。だが、心に何か抱えているのなら、私に話してくれないか。私はトワの全てが知りたいのだ……其方に寄り添いたい……支えたいのだ……」
そう言って栄善が、私をぎゅっと包み込む。
胸の奥に、言葉にできない温もりが一瞬で染み渡った。
その瞬間、心の中に渦巻き、ずっと留まっていた薄黒い何かが、すーっと消えていくのを感じた。
長く閉ざされていた「心の扉」が、静かに開いた気がした。
この人になら、心の奥を見せてもいい──
この人なら、きっと受け止めてくれる──
ううん……全てを知ってほしい……
「栄善……あの……ね」
私は栄善に少しずつ、心の奥にしまい込んでいたことを話し始めた。
私がこの世界とは、文化も生活様式も異なる別の世界から来た存在だということ。
その世界では、私は責められ、否定され、苦しく、とても辛かったこと。
人が怖く、自分の存在の意味さえも分からなくなっていたこと。
そんなとき、目が覚めたらなぜか、あのお城にいたということ。
栄善に全てを明かした。少しだけ緊張したけれど、栄善はただ優しく、静かに、私の話を聞いてくれた。
「……そうであったのか。まさかトワが別の世界から来たとは思ってもみなかった……私はてっきり、海を越えて来たものだとばかり思っていた。そういうわけだったのか……」
「栄善……なかなか言えなくてごめんね。ずっと言わなきゃと思っていたんだけど……お殿様だし、私みたいなものをお城に置いておくのは心配だったよね」
「いや、これは私も不思議なのだが……トワには、初めて会ったときから、なぜか心が落ち着くような気がしたのだ。それに……悲しそうで、今にも消えてしまいそうな表情を浮かべていた其方を、私はあのときから放っておけなかった」
そう言って、栄善が親指の腹でそっと私の頬を撫でた。
まるで愛しい人を見つめるかのような眼差しで。
初めて会ったときの私は、今にも消えてしまいそうな顔をしていたんだ……
「トワ、一人でよく頑張ったのだな。だがもう一人ではない。私がいる。泣きたいときは思う存分泣けばいい。弱音もため込まずに吐けばよい。楽しいことは、共に楽しもう。私が其方のすべてを受け止めよう」
ずっと欲しかった言葉を、ここで初めて聞けた気がした。
涙が頬を伝うと同時に、胸の奥がやさしい温もりで満たされていった。




