第27話 美しい景色
【第一部】心の扉―始―
だん吉さんのことを思い浮かべながら、私たちは山道を進む。
「だん吉さん、すごく明るくて元気な方だね!ふふっ、名前も似てるからかな?なんだか団丸みたいだった!」
「ふっ、確かにそうだな。あの元気のよさは、団丸みたいだな」
だん吉さんのあの明るさは、本当に楽しそうで見ているだけで元気をもらえたな。
「哀伝たちは色んな人と関わりがあるんだね!諭作さんも言ってたけど、お嬢って方がいるの?」
「ああ、外交補佐の幼馴染で、名を杏歌と言う。普段は城内で書類や会議に追われているが、交易班との連携の際には、哀伝たちと一緒に現場に駆り出されることもある。必要に応じて、団丸や七左衛門も同行しているんだ」
「現場にも仕事に行くなんて、やっぱりみんなすごいな」
こうしてみんなが支え合っているんだ──その光景を思い描くだけで、胸の奥がほっと温もりに包まれた。
「上司は城内で書類や指示に追われているから、現場の視察は主に部下の役目なのだ。現場を知ることは、部下にとってとても大切な経験になる。……まぁ呑んだくれ上司もいるがな」
「そうなんだ。哀伝たち、すごく元気だし、上司の方々もきっと頼もしいだろうね。だん吉さんが、お嬢はみんなとよく言い合いしてるって言ってたから、とても明るい方なんだろうな」
呑んだくれ上司って……なんだか、ちょっと愉快そう。
「あいつらの所属する班は、個性豊かな面々ばかりであるからな。気は強いが面倒見のいい奴だ。トワともすぐ打ち解けるであろう」
「なんだか嬉しいな〜。私も会えるといいな〜」
「仕事詰めのやつであるから、食事の時間などずれておるかもしれんが、機会があればいずれ顔を合わせることもあるかもしれぬな」
「うん!そうだよね!」
ふふふ、個性豊かな人たちが、たくさんいるんだな。
今日は色んな方々の名前を聞いたし、実際にお会いできたら嬉しいな。
心の中でそう思いつつ、少し足を止め、山の冷えた空気を胸いっぱいに吸い込む。
ああ、こういうひとときって、やっぱりとても幸せだなと感じた。
「トワ、今から行くところだが、景色は美しい。ただ、先まで行くと崖になっていてすぐ下は海だから気をつけるのだぞ」
「なんだか秘密基地感が増して、ちょっと冒険みたい!だけど、気をつけて行くね!」
自然の香りに心を弾ませつつ、道を辿りながら前へ進む。
心地よい風が肌を撫でる。
まだ見ぬ景色──山と海を一望できる場所が確かに近づいている気がした。
──────***
「……う、わぁ〜」
想像を超える美しい景色に、思わず声が漏れた。
「トワ、気に入ってもらえたであろうか?」
「……うん。……すごく、すごく、美しい……素敵……」
「そうか、トワが気に入ってくれてよかった」
そう、すごく美しいの……
目の前に広がるのは、山も海も遠くまで一望できる景色。息を呑むほど美しい。
栄善の言うとおり、澄んだ風が心地よく吹いている。
雑音のない世界で、風の音が私から時の流れさえ忘れさせる。
この国には電気も通っておらず、視界を遮る電柱も存在しない。
行き交うのは人や馬ばかりで、空気はどこまでも澄み渡っている。
携帯電話やテレビもなく、情報や時間に追われることもない。
目には見えない──決してお金で買うことのできないもの。
この景色、この空間、この空気が、ただただ美しくて、気がつけば自然と頬から涙があふれていた。
ずっと責められ、否定され続けてきた私。
この景色の中に、ずっと溶けていたい──
「……トワ?お主……泣いておるのか……」
「あ……れ?ごめん、違うの。この景色があまりにも美しくって……」
そう言って涙を拭おうとした瞬間、背後からあたたかく力強い感触に包まれた。
驚きと同時に、胸の奥がじんわりとあたたかくなるのを感じた。




