第25話 桂ノ塩
【第一部】心の扉―始―
賑やかな町を抜けると、風の匂いが少しずつ変わっていく。ひんやりとした空気に、晩秋の名残と冬の気配がほんのり漂う。
視界の先に、まるでダイヤモンドのように輝く岸が広がっていた。
その海辺では、何やら作業をしている人たちの姿が見える。木の桶を抱え、白い湯気の立つ釜のまわりで忙しそうに動いていた。
「わぁ〜!綺麗〜!海が輝いてるね!」
「そう言ってもらえて良かった。しかし、私が案内したいのは、もう少し先の場所なのだ」
「えっ、まだ先があるの?」
「ああ。海風を抜けた先には──もっと澄んだ風が吹く」
「なんだか、秘密基地みたい!」
「そうだな。昔、哀伝たちとも秘密基地だと言ってよく行っていた場所なんだ」
みんなの思い出の場所に私も来られるなんて……なんだか嬉しいな。
「ここで作業している人たちは何をしてるの?」
「あの者たちは塩職人だ。海の恵みをこうして形にしている」
胸の高鳴りを感じながら視線を上げると、海の光を浴びて白く輝く釜が目に入った。
職人さんたちの手元では、釜で作られた白い塩が木の桶に入れられ、カタカタと音を立てて、光を受けてきらめいていた。
遠くで波が、静かに砕ける音も聞こえる。
「塩職人さん……すごいな、こんなふうに丁寧に作られているんだね」
私は手を胸にあて、湯気と光に包まれた光景をじっと見つめた。
「なんだかすごく、胸があたたかくなる……」
私の言葉に目を細める栄善。
その口元には、微かに柔らかな笑みが浮かんでいた。
「この国と他国を支える塩を作ってくれているのだ。職人たちの手で、丁寧に作られた白く細かい塩──この後、天日に干されて、さらに白さを増す。上質で贈り物にもなるほどの塩だ。これを桂ノ塩と言う」
私は思わず、手のひらにそっと乗せた塩を思い浮かべる。光を受けてキラキラと輝く塩……丁寧に作られたその白さが海の恵みをそのまま閉じ込めたようで、胸がいっぱいになる。
「……すごく真心が込められているんだね。この国と他国を支える塩だなんてすごい」
「この桂ノ国は沿岸国であるため、塩や魚は豊富だ。だが、広い田が少なく、米の自給は難しい。そのため、塩が取れない内陸国と米を交換する形で交易を行っている。米と塩は天秤の両極端にあるようなもの。どちらかが欠けても国の安定は揺らいでしまうのだ」
「……そうだったんだ。確かにお米って主食だからとても大切だもんね」
「ああ、そうなんだ。それで山茶花団子も餅米で作られているから、とても貴重なんだ。山茶花が咲く晩秋から冬の時期にだけ、餅米を仕入れて販売してもらっているんだ」
山茶花団子のことといい、奉書紙のことといい、今日は驚くことばかりだ。
栄善は、私の知らないところで、こんなにも深く国のことを考えているんだろうな。
考えの重さや国を思う気持ちが、言葉の端々に滲んでいるように感じた。




