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第23話 山茶花団子と奉書紙

【第一部】心の扉―始―

福紙堂(ふくしどう)を出たあとも、諭作(ゆさく)さんの穏やかな笑顔が胸に残っていた。


「諭作さん、すごく品のある素敵な方だったね!お城の方やお客様の喜ぶ顔が嬉しいなんて、本当にあたたかい方だなぁ……腰、早くよくなるといいな」


あのとき「可愛らしいお嬢様」なんて言われて、ちょっと照れちゃったな。


「ふっ……その通りだな。諭作は私が幼い頃からの付き合いで、実に紳士だ。私も大変世話になった。山茶花団子(さざんかだんご)は、城の者たちや町の者たちが気に入っておるゆえ、喜ぶ顔を見られることが諭作にとって余程の喜びであったのだろう。腰を痛めているのだから、無理せぬとよいが……」


「ふふふっ。本当だね。山茶花団子ってみんなにすごく喜ばれてるんだね。食べるのが楽しみだなぁ〜」


「山茶花団子はちょうど今頃の晩秋から冬にかけて出る限定ものでな。山茶花の色を映した団子には、餅米で作った生地にまろやかな黒糖の餡が包まれているんだ」


それを聞いて、手に取る前からどんな味か想像して、私はますます楽しみになった。


「わぁ〜、なんだかとても美しいお団子なんだね。餅米に黒糖なんてすごく美味しそう!しかも限定となると特別感が増すから、お城の方たちも楽しみだよね」


「あぁ、特に山茶花団子の入った箱もまた特別なんだ」


「箱も特別なの?」


「特別」という言葉を聞いて、どんな箱なんだろう……と、わくわくしてきた。


「そうなんだ。限定の山茶花団子用に特別に作られた紙箱で、箱には色とりどりの山茶花の柄が描かれており、それがまたとても美しいのだ」


「素敵だなぁ〜。そんなに美しい柄が描かれてるんだね。職人さんが一つずつ描いてるの?」


「トワの言う通り職人が丁寧に一つずつ仕上げているんだ。箱も丈夫で軽いゆえ、気に入って小物入れにしている者もいる」


……丈夫ってことは、私の世界で贈り物に使うようなお菓子の箱なのかな?


私の知っている歴史では、この時代に丈夫な紙の箱なんてなかったはず。


やっぱりここは『並行して存在する、もうひとつの世界』なんだと改めて実感する。


まだまだ知らないことばかりだなぁ……


「そう言えば、奉書紙(ほうしょし)って金庫で保管されてるんだね!しかも色んな種類があるなんて……私、知らなくてびっくりしちゃった」


「そうなんだ。奉書紙は高級品でな。本日買い付けた色奉書(いろぼうしょ)は、外交や贈答、交易の文書などに使われるんだ」


「だから松風(しょうふう)さんが言ってたんだね。この国では茶々蔵(ちゃちゃぞう)さんか栄善しか買えないって」


「ああ、権威ある貴重な紙なんだ。偽文書などを防ぐため、松風や諭作たちには管理を徹底してもらっている。無断で使った者には厳しい罰がある。国の平和を守るための大切な取り決めとしてな」


私は思わず目を見開いた。


無断で使うと厳しい罰があるなんて……そんなに貴重な紙だったなんて……


そっか……だからだったんだ……お城での紙の扱いがとても厳重だったのは。


御品書きを貼り出している紙も、使用後は必ず松風さんのところへ回収しなければならなかった。


「ちなみにトワがいつも書いてくれている御品書きの紙は、(とり)子紙(こがみ)という高級な和紙だ」


「ふふっ。鳥の子紙ってなんだか可愛いな。……えっ!?御品書きに使っている紙って、そんなに高級な紙だったの!?」


そんな高級な紙を私は日々使って書いていたなんて……

なんだか恐れ多くて、申し訳ない気持ちになってしまった。


私がずーんと、効果音がつきそうなほど肩を落とし、あからさまに沈んでいる横で、栄善(えいぜん)は右手を口元に添え、人差し指の甲を軽く唇にあてて、くすくすと笑っている。


「前に町へ繰り出したときにも思ったが、トワは本当に素直な性格なのだな。御品書きに一筆一筆、心を込めてくれるトワに、鳥の子紙も使ってもらえてさぞ幸せであろう」


──ああ、ずるい。

私のときめく仕草で笑うんだから。


しかも、私のことをちゃんと見てくれている。

そんな嬉しい言葉まで添えて。


「……それに、じゃがいもの絵も楽しみにしている」


そんなやさしい声で囁かれたら

そんなやさしい瞳で見つめられたら……


じゃがいもの絵は、忙しい栄善のために楽しんでもらえるようにと思って添えたもの。


でも、ちゃんと届いてたんだ。

自分のことを考えてくれている、覚えてくれている──


そんなことが心の底から嬉しくて、胸がいっぱいになった。

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