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第22話 福紙堂・諭作さん

【第一部】心の扉―始―

栄善(えいぜん)と歩く、二度目の町。

一度目と違うのは、今回は初めから──

私の手が、栄善の大きな手にしっかりと握られていること。


あのときは、慣れない服装でつまずきそうになったから、栄善が気を遣ってくれたんだろうな。


「まずは色奉書(いろぼうしょ)を買ってから、トワの行きたい所へ行こう」


「うん!ありがとう栄善」


そう言って、手を握ったまま互いの存在を感じながら言葉を交わす。


栄善はすごく背が高く、私は自然と見上げる形になる。そんな私を、栄善は目を細めてあたたかく見つめてくれる。


隣にいるだけで伝わる、栄善の大きな存在。


そんな些細なことで、幸せに満ちあふれている私がいる。


町の人々の賑わいさえも、スローモーションのように感じるくらい私はこの雰囲気に酔いしれていた。



やがて私たちは、紙屋「福紙堂(ふくしどう)」に足を踏み入れた。


色とりどりの紙や筆、文具が所々に置かれ、上品な空気が店内に漂っている。


栄善の話では、ここは町の人でも気軽に買い物ができる紙屋らしい。


普通の紙や文具は誰でも手に入るけれど、奉書紙は、この国では茶々蔵(ちゃちゃぞう)さんか栄善しか購入ができないため、お店の奥の金庫で大切に管理されているんだって。


そんな話を思い浮かべながら店内を見渡すと、品のある店主が、にこやかに私たちを迎えてくれた。


「おや、栄善様ではないですか!お越しいただき光栄でございます。本日はどのようなご用向きでございましょうか?」


諭作(ゆさく)、本日は色奉書をお願いしたいのだが。数はいつもの量で頼む」


「それでございましたら、ちょうどこの後、糯虎(もちとら)さんのところから納品がございますので、本日中にはお城へお届けできますよ」


「さすがは諭作。いつも頼りになるな。恩に着る」


「栄善様のお頼みであればお任せくださいませ。本日は可愛らしいお嬢様もご一緒でございますな」


二人のやり取りを聞いていた私は、まさか自分に話が向くとは思わず、つい目をぱちくりさせてしまった。急に注目されて、思わず顔が熱くなった。


「諭作紹介しよう。私の城でお手伝い係をしているトワだ。トワ、諭作は、この国における貴重な奉書紙を扱う老舗の店主だ」


「初めまして。笠原トワと申します」


「あら、お(きく)さんのところの方でしたか。お菊さんもこんな可愛らしい方が来てくださって、さぞ嬉しいことでしょう。栄善様をはじめ、お城の方々は皆、素敵なお方ばかりでございます。トワさんこれからも頑張ってくださいね」


「はい!ありがとうございます」


諭作さんと挨拶を交わしたあと、栄善が諭作さんに声をかけた。


「そうだ諭作。このあと綿花(めんか)がここに来る。綿花は初めての一人任務だ。よろしく頼む」


「綿花様もやっと独り立ちなのですね。本日が初めての任務とのことで、さぞ緊張されていることでしょう。助太刀いたしますぞ」


「あぁ、そうしてもらえると助かる。あと雲祈(うんき)も別で来る予定だ」


「雲祈様も来られるのですね!それでしたら、ちょうどお嬢様方のお好きな穏花処(おんかどころ)さんの山茶花団子(さざんかだんご)を今朝、買っておきましたよ!早速お渡しできますな……あたたたっ!」


諭作さんが嬉しそうな声を上げたと思った矢先、急に痛そうな声を漏らし、腰をさすり出した。大丈夫かな……?


「諭作!大丈夫か?」


「えぇ、最近ちょっと腰を痛めましてね。山茶花団子をお渡しできると聞き、嬉しさに力が入ってしまったようで……皆様の喜ぶ顔が嬉しくて、ついお客様にも配ってしまっているのですよ。ほほほっ。驚かせてしまいましたな」


「そうであったのか。無理するでないぞ……まったく、諭作らしいな。茶々蔵もたまに痛めておるな……まぁ、ほとんどは私たちのせいだがな」


栄善は、諭作さんに心配そうに声をかけつつ、茶々蔵さんとのこれまでの出来事を思い出しているのか、口元にそっと笑みをこぼしていた。


「幼い頃の栄善様たちは、とてもやんちゃでございましたからね。今でも皆様のことが可愛くて仕方がないのでしょう。それに、私や茶々蔵さんくらいの年齢になるとそういうものですよ。ほほほっ」


ふふふっ。茶々蔵さんが腰を痛めるくらいだから、みんなの幼少期がちょっと気になってきちゃった。


「山茶花団子は、綿花さんか雲祈さんにお渡ししておきます。栄善様もトワさんも、後でどうぞ召し上がってください。栄善様、お嬢様方へもよろしくお伝えください」


「あぁ、伝えておこう。今朝早く並んだのであろう?毎年貴重な山茶花団子をすまぬな」


栄善は言葉を静かに落とすようにして、諭作さんを見つめた。


「この時期、皆が嬉しそうに食べる姿を見ると、私も心が温まる。諭作、昔から本当に色々と感謝している。納品も無理するでないぞ」


「とんでも御座いません。私は皆様のお役に立てることが何よりの幸せでございます。栄善様、有難う御座います」


その真摯な言葉に、栄善はほっと微笑む。言葉だけでなく、互いの想いがすっと通じ合うひとときだった。


「納品はどうかご心配なく。色奉書は後ほどお届けに参ります。栄善様、トワさん、またいらして下さいね」


そう言って、にっこりと笑った諭作さん。


私たちは諭作さんにお礼をして、福紙堂を後にし、再び賑やかな町へと歩み出した。

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