第21話 二度目の町へのお誘い
【第一部】心の扉―始―
「お菊にトワ、ここに居たのだな」
その言葉とともに蔵に姿を現したのは、久しぶりに会う栄善だった。
思わず目が釘付けになり、胸が小さく跳ねるのを感じた。
「本日は、月に一度の備品確認であったな。お菊、いつも大変な作業をすまぬ。トワも慣れない作業で、さぞ大変であったろう」
「あら、栄善様。いいえ、そんな。皆様のお役に立てて光栄ですよ。トワちゃんも一緒に頑張ってくれて嬉しかったわ〜」と、お菊さんがにこやかに頭を下げながら言った。
「二人とも恩に着る。松風も日々の管理、誠に感謝している。色奉書を買わねばならなかったであろう?遅くなってすまぬな」
栄善の優しい言葉に、松風さんは目尻を緩めて微笑んだ。その微笑みの奥に、この蔵への深い想いがふっと伝わってきた気がした。
「いいんですよ、栄善様。素敵なお言葉を有り難う御座います。色奉書をお求めになるお時間はございますでしょうか?」
「あぁ、昨夜の会議であらかた話がまとまってな。色奉書も必要になったゆえ、明日買い付けに行くことになったのだ」
栄善の「明日」という言葉に、思わず反応してしまった。
明日、町へ出かけるんだ。
私もお休みだし、一緒に過ごしたいな……
……なんて、欲張りなことを考えてしまった。
栄善は仕事の一環で町へ出るのに、私ったら何考えてるんだろう……!
忙しいに決まってるのに……
そんなことを思っていた矢先、栄善から願ってもみなかった言葉がかけられた。
「実はここへ来たのは色奉書の確認と、トワを誘いに来たのだ。来客用の手土産選びを手伝ってもらった礼に、今度はトワの行きたい所へ私が連れて行こうと思ってな」
え……驚きと嬉しさで、つい反応が遅れてしまった。
「確かトワは、明日休みであろう?この間は町をゆっくり見られなかったからな。私も明日は時間が取れそうなのだ。トワが良ければどうだろうか?」
そんなの……決まってる。
口にするより先に、私の心はもう頷いていた。
「私でよければもちろん!栄善、明日よろしくね!」
「あぁ、どこに行きたいか少し考えておくといい」
そう言って、二人で顔を見合わせて笑いあった。
松風さんとお菊さんも、そっと微笑んでくれていた。
明日、栄善に会えると思うだけで胸が弾む。
嬉しい気持ちを抱えながら、残りの紙の確認も一つひとつ丁寧に進めた。
手元の帳簿に目を落としながらも、心はすでに栄善と過ごすことでいっぱいだった。
明日はどこに行こうか──心は町の景色を駆け巡っていた。




