第20話 蔵のひととき
【第一部】心の扉―始―
奉書紙の数を数え終えた頃、ふとお菊さんがつぶやいた。
「色奉書が少ないわね〜。大丈夫なのかしら?」
「あぁ、そうなんだよ。茶々蔵さんには伝えてあるんだけど、なかなか時間が取れないらしくてね。ほら、あの方は会議詰めでお忙しい方だからね」
茶々蔵さん……確か、このお城の家老で、白いお髭がよく似合う紳士そうなおじいさん。
私は直接お会いしたことはないけれど、城内でたまにお姿をお見かけすることがある。
哀伝たちの話の中でもよく話題になっているので、間接的にどんな方かなんとなく知っている。
『茶々蔵ってば、僕が栄善のことを「悪の道へ誘った〜」とか言うんだよ?昔のことだし、悪の道なんて誘ってないのに本当に嫌になっちゃうよ〜』
そんな話から、きっと幼い頃からみんなのことを見守ってきた方なんだろうなと、勝手に親近感が湧いている。
やんちゃ坊主だったみたいだし、幼い男の子四人の面倒を見るのはきっと大変だっただろうな。
団丸なんて元気すぎだし……そう考えると、つい可笑しくなってきた。
それにしても、紙が足りないみたい……
大丈夫なのかな?
お手伝い係として誰かの力になれることが何よりも嬉しかった私は、考えもなしにこんなことを口にしてしまった。
「それでしたら私、明日お休みなので買ってきますよ!この間、町への行き方も覚えましたし、お店の名前を教えていただければ町の人に聞いて行ってみます!」
「ありがとうトワさん。その気持ちとても嬉しいよ。だけどね、奉書紙はこの国では、家老の茶々蔵さんかお殿様の栄善様しか買えないんだよ」
そう松風さんは、穏やかに説明してくれた。
思わず私は口をポカンと開けてしまう。
え……?そうなんだ……
と言うか、普通に考えて、私はなんて可笑しなことを口にしてしまったんだろう。
お菊さんだって『奉書紙はとても貴重な紙だから施錠をして厳重に保管されている』って言ってたじゃない……!
帳簿まで金庫に入っていたし、実際、施錠された金庫をこの目で見てるのに〜!
そんな貴重な紙を、私なんかが買えるはずないのに〜!
私のばか、ばか!
しかも、まさか国レベルの話だったなんて……!!
あぁ、穴があったら入りたいって、まさにこのこと。
羞恥心が増して、この場から逃げ出したくなった。
「松風さん、トワちゃんとても優しい子でしょ〜。人を想う気持ちが本当に素敵なのよ〜」
うぅ……お菊さん……!
恥ずかしくて思わず逃げ出したくなったけれど、お菊さんの優しい言葉に心から救われた。
松風さんも「本当にそうだね。トワさんの一つひとつの作業には、心がこもっているのが伝わるよ」なんて言ってくれて、ほのぼのとしたお二人の雰囲気に、私はとても心地よさを感じた。
── そのときだった。
「お菊にトワ、ここに居たのだな」
ずっと聞きたくて、会いたくてたまらなかった声が、蔵の中に響いた。




