立体のアニメとは?…実例を見ながら語ろう
マットに低いテーブルが並んでいる場所にて。
落ち着ける場所のようだ、暖かい穏やかな空気の中で、人はまばらだ。
座って書き物をしている、ぱっこりした服を着た、薄い緑茶の髪がいた。ペンを動かし、文章か何かを書いているようだ。
ふと小さな声がしたような気がした。
目を上げると、向こうの方に、マットに上がりかけている集団がいるのに気づいた。見知った人が混じっているのが分かる。
「えーと……こういうのですね」
チエはテーブルに腰を下ろしていきながら、画面の影を触っていると、その手元に立体の模様が出現した。
それを触って再生し始め、体を動かし座る場所を適当に調整していく。
ところで端末でもホログラムは再生できるが、大きさなどの制約がいくつかあるので、それを映す機械が別に作られる事には、一定の意味があるという設定です。
ホログラムは何かの映像のようだった。映った場面には、話しているキャラの絵があった。
新は正面に座り、それに目をやりながら、チエに聞いていく。
「アニメの立体表現を作るのは難しいんですか?」
背後に近づく気配にシゲルが振り返ると、そこに軽く人影がかかっていく。
早送りに指を動かしていたチエは、顔を上げて答えた。
「そうでもないですよ。平面表現からの起こしとかは、最近は自動で出来ますし」
触っていたホログラムを放置して、別の画面を触り始めながら答えていくと、場に小さく反応が流れる。
「例えばこういうのとか……あっヒナタ」
ふっとソラの陰から現れた、小さな人影に気づいて声をかけた。その川水の髪はふいと辺りを見回す。
『……着いた?』
ヒナタはそう言いてくてくと歩いていくと、ホログラムが身の周りに突然現れ、首を動かした。
何かのアニメの映像のようだ、激しい表現が立体でうねっている。OPかPVか、いずれにせよそんな具合だ。
続けてチエが指を動かすと、連動してそれが凸凹に波打った。平面と立体の形を行き来し、同じ色合いが形を変えて切り替わっているようだ。中でヒナタは歩きながら、それを眺める。
「こんな感じで……」
「あぁこれ平面から起こしたやつですか、元々立体ってわけじゃなくて」
新が理解したように言うと、チエはホログラムを見ながら、そうですと肯定する。
「…まあこれぐらいだったら簡単に出来ますね」
へーとシゲルがそれを眺めていると、その横に座り、テーブルから身を乗り出していたハジメがぼそっと呟く。
「……あぁ『モエツチ』のOPか」
「じゃあ元々平面で作ってるやつを変換して、そのままイベントに出展っていう風にも出来るのか」
シゲルが咀嚼に動いていくと、チエは顔を上げてそれに答える。
「そうですね、一応できるとは思います」
ヒナタはラッパのような拡声器を取り出して口に当てると、梯子を上りながら上を見上げ、やや控えめに声を張り上げた。
「最初から立体で作る場合とはちょっと違うから、それは分からないと思いますっ」
『あっちょっと待って……w』
チエが上の方で慌てたように動きだすのが分かった。透明な光が掠めていき、うごめく窓ガラスが視界に揺れていく。
ラッパを下ろしてソラを触り始めると、眼下で足元の方に、人影が動いているのが見えた。
ヒナタの頭上高くで、影の輪郭が動き、ぼんやりと疑問を言っているのが聞こえる。
梯子に足をかけながら手元に軽いヘッドフォンのようなものを出し、頭に装着していくと、耳元から上の彼らの会話が聞こえるようになった。
『そうですね……基本的に遠近感とかが強く出るから、それを生かしたような表現とか……あっいいよ』
色づきとやかましさを抜けて、穏やかな明かりと薄くなった音楽が広がると、チエの声が辺りに響いた。ちらりと見上げながら、梯子から降りていく。
そのまま前を向き、歩き始めると、巨大な別のホログラムが視界に立っていた。軽く駆けだし、わずかに抑えたような声を上に投げていく。
「この辺りからのシーンとかがそうだよね!」
ヒナタの声が二重の輪郭に大きく響く。もやがかかるような2つのホログラムの音に、上からの同意の声が交差して混ざる。
そのホログラムには、空色を背景にキャラの絵が動いていた。アップになったキャラ同士が何か叫んでいる絵が、巨大な四角形の中で動いているのが見える。
軽い女の声が聞こえる。
『これ何ていうアニメですか?』
『これは…』
透明な壁を掠めると、顔に空気が触り、遠く抜けていく種々の音々が肌に満ちた。揺れた服に、頭上を何かが横切っていき、ヒナタの髪が影に躍る。
そこでは大量のキャラが動いていた。空の上のようだ、一面空色の中を、ガラスの床をキャラが走り回り、空にも飛び回るのがいる。
動きが視界を掠めていき、皆向こうにいる巨大な敵を攻撃しているようだ、光や何かの玉を飛ばしている。
景色はずぅっと動き、速さに乱れてばらけていく。向こうの方から爆発がぼんぼんと近づいてくると同時に、耳元から反応の声が響いてきた。
「うん……こういうのもだし、」
ヒナタはその中を歩いていきながら、ずんと遠くで起こる大きな振動をよそに、立ち止まり上の彼らの方を向く。気流が髪を乱し、
「、例えば大きな目がぐっと近づいてくるとか、」
ばらばらと透明な破片が溢れてきた。ヒナタは小さく動き、軽く目を瞑りながら、その中をゆっくり歩いていく。
「、最初から球状に作る背景とか?……こう……全方位に色んな絵が描かれるのとか」
「あぁー、なるほど」
穏やかなテーブルの上で、シゲルは映像を見ながら身を揺らす。
数人の影が、ふと気づくと低テーブルの傍にゆらっと来ていた。立ち止まり横から眺め始める。
チエは手元のソラを触りながら、下から届くヒナタの声に相槌を打った。
「そうそう……そういうのは立体を前提にしますよね。
……他には……こういうのとか?』
「あと逆だと最初から平面的な表現とか?」
周囲で動き続けるさわがしさの中で、ヒナタは目を落としていく。ソラを触りかけると、ふっと足元のそばに、広い巨大な影がやって来たのに気づいた。それに乗っていき、草の茂る地面を離れていく。
『そうだね、立体化する意味が薄いものもあるよね』
ぐおっとソラへ漂い、緩んだ光にさらされ色づきが飛ぶ。チエの相槌とともに勢いよく飛んでいくと、やがて風の向きが変わり、異なる音の具合の中にいた。手元にはぱっと画面がつき、周囲には映像の音がはっきりと聞こえる。
動きが鈍った景色の方へ、ヒナタは目線を下ろしたままずれていく。降りながらふと横を見ると、巨大なキャラの姿があったのに気づいた。
「ぅわっ!……あぁこれか」
声を上げてそれを見ながら手を動かす。手元から、端末の影がぶわっと拡大され、ヒナタの前を覆った。
「…こういうのとか」
そう言ってヒナタは上の人々に示しながら歩き始める。追随して体の横に、その大きな透明な画面がついていく。
そこには、平面的な図形などで表現された映像が映っていた。
『あぁ!昔のEDとかであるやつね』
声が耳に流れ込んできた。ヒナタは歩きながら横に映っている映像を眺め、
「この場合なら、単純に立体図形にするとかはできるけど、その表現で良いのかは場合によるし…」
と手を持ち上げかけると、今度は風の向きが変わったのに顔を上げる。
広く開けた場所にいた。斜めに2人組の背中が通り過ぎていく。見えた景色は遠くに小さくビル群が一望でき、青空が広がっていた。
『立体化してどうなるかはものによるってことか』
ヒナタは手元に現れた椅子を掴むと、歩きながら置いていき目を上げる。
階段の上からの景色のようだった。前へ通り過ぎた2人組は階段に差し掛かっていくと、向こうから上がってきた女と交差していく。
階段の向こうには男が見え、女はそれと言葉で会話しながら上ってきているようだった。女の服は、片腕の袖が肩から破れているようだ。
チエの声が流れてくる。
『そうです。これはなるべく遠近感が出るように作ってますよね……そうこことか』
ヒナタは明るい風に腰を下ろす。横を向き手を持ち上げていくと、近づいてくる女の声が耳に当たった。
再生していた平面映像の影を消して前を向くと、視界に闇が被った。目の前にズボンの布が揺れたかと思うと、肌と目と耳のそよぎが間近ですれ違う。
相槌の声が耳元で流れた。
身を起こしズボンは向こうを振り返り、光がひらき視界の端がちらついた。向こうでは男が何かを言いながら、こちらに階段を上がってきているようだった。
斜めに視界をねじり上げると、肌はあらわな腕と肩に、匂いが漂った。空に動く輪郭がそこにある。横顔は瞼をわずかにちかっとさせ、しわの線が横に沈んだ。
『…横を見ると表情が見えるようになってるとか』
ヒナタは椅子から立ち上がり、そよぐ声の圧を後にしてくるっと身を返していく。
追ってそれを説明するチエの声が耳元から聞こえる中、今度は後ろの方へ回り込んでいく。
『なるほど、カメラも違うように使えるのか』
後ろから見ると、今度はその場の景色が細かくうつった。辺りの空気に揺らぐ光が目に入る。
見ると女の服から、光る蝶のようなものが首元の袖を通り、ちらちらと沢山出てきている。
片方の肩甲骨辺りも服が破れており、蝶たちはその穴に群がっているようだった。
すぐに女はそれを手を後ろにやって払おうとすると、蝶は霧散していく。
『……こういう遊びとかw』
理解に笑い呟く声が聞こえる中、蝶はゆらゆらと宙で集まっていき、人の形をかたどっていく。
『まあ一応前だけ見て完結するように作るっていうのが基本なんですけどね…』
世界のすべてが前へ動き、景色を抜き通りかけ止まった。チエの声がビクッと揺れる。
色と隙間に引き延ばされた線が、世界全体に広がっている。
ヒナタは上を見た。
「あれ?どうした?」
チエは手を動かしていくと、
「あっ!ラジオ始まるって!…すいません、これで」
えっと何かを言いかけた小さな人影が、否応なしにソラに引きずられ消えていく。
「ありがとうござい……ましたw」
消えたソラへ、ワタルが声を追いかけかけた。
なるほどねぇとシゲルは言いながら、体を後ろの方に緩んでいく。
辺りの視線は少し減っていた。その広い場所には、ほぼ自分たちしか残っていないようだった。
傍にはテーブルから身をはなしていく、座ったトマト髪の女形が一人いた。その横でワタルは周囲に目をやり言う。
「風呂とかありましたっけ?」
「あるよ、下の階に」
トマトは手をつき立ち上がっていきながら答えた。向かいでシゲルは体をひらひらと動かしながら反応する。
「あぁ行く?……行ってみようか」
そう言い立ち上がっていくと、一行は動き始める。
トマトはじゃあねと言い、体を別の方へ返した。挨拶が散り、場がほどけていく。
3人で風呂でも入るか??おいっ!




