イベントが動きだす
再び温泉城5階の、文化フロアの、ライブ会場にて。
ここは、フロアの高さをいっぱいに使った巨大な施設だ。
横に高さに広々とした会場の通路を、2人が歩いていた。上の席へ行くためのエスカレーターなどの大きな構造が、辺りにどかどかと鎮座している。
2人の目の前に、大きな壁が近づいてくる。壁の一部には小さな扉があるようだ。
「……じゃあ城の上に、マンションの横とかに特設会場を作る?ってこと?」
トオルの話を聞きながら、ハネは扉のドアノブに手をかけ入っていく。人の声が近くに広がり、照明の具合の違う廊下に出た。
ハネは頷き、肯定を言っていく。控室の並ぶ廊下はぱたぱたと浮足立っており、向こうに霞んだ音楽の重なりが見える。トオルは理解を漂わせ、早足でついていった。
やがて2人はステージ袖の付近に来た。
袖の暗い闇がそこに見え、その向こうから大きな音が躍り流れてきている。ハネはちらっと見ながら通り過ぎ、その横に沿って続く通路へ入っていく。ステージの裏側方向だ。
「…でもそんなことできんの?」
トオルは歩きながら、向こうの明かりに向かっていきながら呟く。
隣のハネは頭をぴらっと傾げて、軽く答えた。
「うーん、でもそれぐらいできないと面白く無いじゃん?」
視界が広がり、広い空間に出ていく。明るい大きな場所には人が多くいた。踊ったり、衣装の準備をしているようだ、そういう動きが辺りに散っている。
まあ確かに、とトオルが笑ってなびく隣で、ハネはきょろっと見回し動いた。
「トモさん!」
何か他の人と話していた、ぼさぼさ頭の人が振り返った。人のぴらつきの中を走ってくる姿を目に入れると、体の向きを変えていく。
「こんにちは」
「こんにちは!ちょっと秋祭りについて聞きたいんですけどっ」
ハネは勢いに任せて、立ち止まりながら言葉を流していくと、ぼさぼさははいと返事をする。後ろにトオルが追い付いてきた。
「大きい出し物ってやっていいんですか?……イベントの特設会場を作りたいんですけど」
「どれぐらいの大きさですか?」
「このライブ会場くらいです」
「そういうのもあるのか……やっていいですよ」
ぼさは頭を辺りに回していくと、向き直って答えた。
「いいですか?」
「はい。場所どり申し込んでおいて下さい」
「分かりました!ありがとうございます!」
ハネは頭を下げると、くるっと踵を返した。トオルと目が合い、やっていいんだ、とニヤりとする。
「やっていいって!」
動き始めたハネが、前の方に声を投げた。トオルはそっちを見ると、さっきの市場の女形が、人の中をとつとつと歩いてきていた。
カグヤは視線をずらし、ハネを挟んで後ろのぼさと目を合わせていく。
「こんにちはー!、やっていいんですか?」
「はい良いですよ」
ぼさは少し距離を挟んで声をやった。
「あぁ、結局そうなったんだ」
カグヤは足を止めて軽く頷くと、歩いてくる2人とそのまま合流していく。
「じゃあここに入ってる機材は別に使わなくてもいい?」
ステージの袖で話す2人がいた。しゃがんで喋っているTシャツの話を、ギターを胸に提げた彩り豊かな女の子が、腰を屈めて聞いている。
その後ろには、乾いた明かりの被るステージが見えている。音楽は鳴っていない。――準備中のようだ、人がちらほらと動いている。
「いいです、大体は皆自分で用意してきますね」(この辺も細かい話だから、適当に流していいよ)
女の子がそう答える前で、Tシャツが2人の前にある箱を指していた。2人のすぐそばで、数人が立ってその会話を見ている。
Tシャツはソラ箱に目を移しながら続ける。
「えーっとじゃあ?……当日にここにアンプとか送って……」
その手振り確認を聞きながら、女の子はギターを横向きのまましゃがんで抱え込んでいく。
「送るのは普通向こうですね。……控室にもソラ箱あるんで」
ステージ袖の方を腕が指す。袖の暗さの向こうに、控室の通路の明かりと、そこを動いている人たちが見える。女の子は続ける。
「そっちにまず送って……じゃないと他の出演者とかがいる場合、こっちの中身がぐちゃぐちゃになるんで」
Tシャツは控室の方を眺めながら女の子の手振りを聞くと、納得を言いながら頷き、ソラ箱に目を移す。
「それで出番の前に控室からこっちに送って、ここで出して…って感じです」
Tシャツが理解する。傍で立って聞いていた別の一人は、それに考えるように頷いていくと、その場をすっと離れ始めた。
「あれ、どこか行くでござるか?」
それを見て、同じく一緒に聞いていた一人が、剥がれるようについていく。
暗く広い袖の中、前の人はすたすたと歩いていきながら話していく。
「もし本当に大きい会場作れるんだったら、折角だし何か出来ないかなぁ?……普通にアニメ見るだけ?」
ござるは並んで歩き、人の行きかう通路に出ていく。
「ふむ……。でも何ができようか?……音楽ライブと組み合わせるとかでござるか?」
人を避けてすいすいと動いていきながら言うと、水色の髪は頭を傾げていく。
「うーん……何か出来ないかなー……」
どこかのマンションにて。
エレベーターの扉が開き、人がさっと出てきた。ワイシャツに半ズボンの女形だ、手をソラで動かしている。
辺りは1階ロビーのようだ、緑の木の根がうねるように覆っている中を、とんとんと歩いていく。
マンションの入口へ近づくと、ふと目を上げた。
開いた自動ドアから後ろの闇夜と共に、勢いよく人が入ってきた。見慣れた明るい茶色の髪のワイシャツだ。
「ノボルさん」
声をこぼすと同時に目が合う。
ノボルは元気な声を出しながらすれ違っていく。半ズボンは引かれて振り返りながら口を開いた。
「秋祭りでアニメ関係のイベントの話が新しく出てきてるみたいなんで、ちょっと行ってきますね」
踏みしめるように素早く言うと、振り向いたノボルは動きを止めて聞く。
「へー!分かりました」
そう了解すると、さっと建物の影に消えていった。
文化フロアにて。
広い城の通路を、先のワイシャツ女形が歩いていく。
もう外は日が傾き、店々の並んでいく通路には血が巡り、そこらを明るい声と足音が行きかっていた。
目的の入口は大きく開かれ、人がちらほらと動いていた。ワイシャツは向かっていると、そこに知り合いの姿を見つける。
「千鶴さん!」
入口へ向かっていたその人は、こちらを見て立ち止まっていく。青軽い髪だ。
「こんばんはー。アカリさんもですか?」
ぽんと出た疑問に、近づきながらアカリは頷いた。
「そうです。…なんかいきなり話が飛び込んできて」
「そうですね、何やるんでしょうね」
2人は合流しながら入っていき、空間へ問いを手放していく。
爽やかな雰囲気が広がっている。落ち着いた色で敷き詰められた会議場には、既に人がそれなりにいた。整然と並んだ長机と椅子のあちこちで話し声が聞こえ、適当な普段着の人たちが笑っている。
部屋の真ん中を、一人の淡白な格好のスキンヘッドがずんずん歩いている。
前の方にある机の上には、会議のしおりが積まれてあった。近づいたスキヘ新はその上を眺め、腕を伸ばしてぱっと一つ取ると、身を返して来た道へ戻っていく。
歩きながらしおりを開き、さらさらとめくっていく。やがてぱらっと最後のページをめくり切って顔を上げると、入り口の近くに、見知った水色の髪がいるのが目に入った。
「ワタルさん!」
呼びかけると水色ワタルは気づき、人の漂いの中で足を止めていく。隣にもう一人一緒にいるようだ。
「新さんこんばんは」
「会議出ます?」
問いかけに、ワタルは肯定とともに頷く。新は立ち止まっていきながら続けた。
「さっきアップデートの告知が出て、立体ディスプレイっていうのが出るみたいなんですよ」
「それは真でござるか?!」
隣にいた、不潔なたんぽぽが反応した。それに続いてワタルも、視線を落としてソラを触っていく。
「立体ディスプレイっていうとホログラム……のことですよね?」
「だと思うんですけど、会場をそれで埋めて、立体映像中心でやるとかどうかと思って」
顔を上げたワタルは声を明るめた。
「それ良いですね!」
それは面白そうでござるな、と盛り上がる3人の後ろに、すっと近づいてくる人影があった。立ち止まってその様子を眺めていく。
「それ提案しておいてもらえます?……僕は今から海底ライブの準備に行くんで」
身をずらしながら言っていくと、そこに留まり立つワタルは、了解の言葉とともに頷く。
「じゃあお願いします」
廊下の方に向くと、知った顔が目の前に映った。
「あっハジメさん」
「リハ行きます?」
ベストを着たハジメは、引っかかった新を見て声を動かす。新は頷いた。
「はい、ハジメさんもですか?」
「はい……ちょっと時間的に無理かもだけど」
ハジメは髪をふっと揺らし、辺りに目を振った。その前で新はソラを引っかく。
「いや、でもかなり遅れてるみたいなんで、間に合うかもしれないと思って」
「そうなんですか!じゃあ行きましょう!」
ハジメは声を跳ねて応え、2人は廊下を走りだした。
いざ夜の海底へっ!




