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雑貨店にて。
軽い明かりのレンガの壁に、音楽がうっすらとかかっている。辺りには色々な雑多なものが置かれた棚が並び、人はわずかだ。
壁際の一つの棚の前で、トオルが一人屈んで商品を眺めていた。目の前にあるラクダのような物体を眺めている。
ふと足音が聞こえて振り向くと、通路をハネが軽く走ってきていた。
「どうー?」
ハネは声を回し、棚の横を通ってくる。
「大体買ったよ……後は歯ブラシかな?」
トオルは身を上げると、足元に置いてある商品カゴに目を落として言った。中にはタオルやら何やらが入っている。
ハネは目を落としながら通り過ぎ、呟きながら隣の棚に視線をかけていった。
トオルはカゴを持ち上げ、それに続く。
「ハネさん最近どうですか?」
棚からハネは振り向く。
「最近?」
「いやちょっと話すの久しぶりだったからw」
トオルは笑って言うと、そうだっけど、ハネは宙を見て戻っていく。
「……これでいいや」
棚を再び見始めると、可愛い装飾のごてごてと入った歯ブラシをぽんと一つ手に取っていった。
「そういえば、結構アニメ系のラジオ増えたよね」
トオルが何気なしに言うと、体を起こしたハネがそれを聞く。肯定に相槌を打ちながら、2人は動き始めた。
歩きだしながらハネは声をかけて、商品カゴを受け取っていく。
「俺も何か作ろっかな……」
中身の商品をがさごそ手に取っていくハネの横で、トオルが呟くと、
「何かテーマあるの?」
とハネは手に持った物をぼさっとカゴに戻し、続けてポケットに手を突っ込む。
「いや何も決めてないけどw」
曖昧に笑うトオルの横で、ハネは手に出した通貨をととっと数えていく。入口付近に近づいていき、外の様子が差し込んできた。
「ちょっと寄り道していい?」
足元の箱に通貨をはなし、ハネは振り向く。そこで商品カゴを戻していたトオルは、振り向いて肯定に浮いた。
下の料理フロアに来た。温泉城2階だ。
エスカレーターから降りて、人の緩やかな往来の中を、2人は歩いていく。
料理屋の看板があちこちに散っている。城の多くは7階建てだが、1階あたりの高さがそれなりにあるので、それぞれの階に更に部屋が7階分作られている。
城の一つの階には、通路と部屋の列が平行に繰り返されて縞々になっており、並んでいる部屋は一つ一つが大きいので、その部屋を高さ方向に分割して建物のように扱っている。
歩くハネは角度を変え、一つの棟に向かっていきはじめた。トオルは辺りを見ながらついていく。
一人の店員が店の前で、立って辺りをゆらゆらと見ていた。そこにハネが近づいてきて、視線が一点に定まっていく。
「こんにちは、カグヤさんいますか?」
早足で歩いてくるハネが言うと、店員は答えに動いた。
「さあ……上かな?」
そう言うと店の上の方を見やる。
ハネは把握に頷き、横へ動いた。料理屋の前を横切り、明かりのこぼれている階段へと向かう。
トオルは後を追い、小走りでついていった。
階段をととっと2人は上がっていく。しっかりと照らされた壁に、服の音が掠める。
「誰か探してるの?」
前へ動いていくハネに続き、トオルは体を揺すっていきながら聞く。階の床に上がるハネはちらっと振り返った。
「え?あーえっと秋祭りに詳しい人がいないかなって思って」
トオルは続けて階に上がっていくと、狭い踊り場のそばには別の料理屋の入口があった。じゅうじゅうという音と、人の声が漏れている。
「秋祭りって何?」
「知らないの?」
次の階段に差し掛かっていきながら聞くと、とんとんと駆けあがっていくハネが声を出した。うんと頷きながらトオルは上がっていき、階段は少し薄暗くなっていく。
「元々夏祭りだったのが、何かやることが膨らんでいって…時期がずれて…秋祭りになったらしい」
ぽつぽつと照明が少なくなり、辺りは小さく汚れてきた。緩い照明の踊り場を回っていきながら、トオルは視線を巡らせる。
「はー……え?どういうこと?」
上っていたハネが、階段の上の方で動きながら振り返った。
「いや、俺もよく分かんないんだけどw」
あぁそうなの、と適当な笑みをかわすと、ハネはそのまま前に向いて、階段を上り切っていく。
静かな廊下に出ていくと、暖かな照明と古い床に、扉がいくつか続いていた。
「じゃあその関係者の人とか?」
「そうそう」
褪せた木の板っぽい廊下を進み、2人は話す。
やがて一つの扉の前に着き、流れでそのままノックした。
静寂が流れる。
物音ひとつ無い。
「……あれ、いない?」
ふいっという音が聞こえた。
呟くハネがドアノブに手を伸ばしかけると、別の方から声が飛んでくる。
「すいませーん、さっき市場に行ったみたいです!」
エレベーターの光の影から身を出した、さっきの店員の姿がいた。
ハネは振り向きその方を見ると、回しかけたドアノブから手を離す。
「分かりましたー、じゃあ市場行こっか、どうせ行くし」
トオルはそれに頷くと、2人は階段に戻りはじめた。
「……エレベーター使わないの?」
目の前を通っていくハネに、店員が突っ込んでいく。ハネは振り向き、
「あっそっかw」
と2人は笑って体を返した。
市場にて。
各城の1階には、一部を使って市場が設けられており、基本的な素材の取引場として使われている。
広い空間には大量の照明が散り、素材が入ったレンガ造りの入れ物や、小さい箱の乗った台が並んでいる。
売る側の人の姿はそこにはいない。
小さい箱はアイテムボックスと言い、今まで出てきた、手元に収納するのと同じように、物を異次元空間に収納することができる。
どうでもいいが、植物とか肉とか水の石なんかの、時間によって変化しやすいものはアイテムボックスに入っている。アイテムボックスの内部は、時間が進まないように設定されているからだ。
箱の陰に座り込んで、俯いてソラをいじっている姿があった。床に反射する明かりがうっすらと見え、人の雑踏が小さく届いている。
「あれハネさん?」
声がして振り向くと、通路の先でこちらを見ている人がいた。
「カグヤさん!」
ハネは慌てて背中の箱を手掛かりに立ち上がっていく。かっこよさが派手な服を着たその女形は、顔を明るめて足取り軽く近づいてきた。
「あぁーお久しぶりです!」
「秋祭りについて聞きたいことあるんですけどっ」
立ち上がりハネがすぐに言うと、近づいてくるカグヤは、化粧の濃い顔を少し落ち着かせる。
「はい、何ですか?」
「秋祭りの出店って大きさの制限とかあるんですか?」
割と真剣な表情で聞くカグヤは、立ち止まり理解の声を漂わせた。
「それはなんか最近話してましたねー、……結局どうなったんだろう?」
「分かんないですか?」
ハネは落としていた何かに気づき、床に向かいながら声を這わす。カグヤは傍の箱に手をかけて巡り、
「えーっとね……今ライブ会場が開放日で開いてて、秋祭り関係の人たちが結構いるから、直接聞いてみたらいいかも」
とハネに目を戻した。
「分かりました、聞きに行ってみます」
そう言い振り返ると、目の前にゆらっとトオルがいた。
「…え何?w」
トオルは足を止め、2つの視線を受けてなんか笑みを漏らす。それを見たカグヤはハネに視線を戻した。
「何かするんですか?」
ハネはぱっと向き直る。
「大規模なアニメのイベントをやりたいから、秋祭り中に特設会場作って出来ないかなと思って」
トオルは話すハネを見ながら近づいていく。カグヤは理解を浮かせ、
「あー……どれぐらいの大きさの?」
と声をはなすと、やや目を上げてハネは答える。
「ライブ会場ぐらい?」
「そんなに大きいのを?」
顔に笑みが広がり、カグヤは体を揺れ動かした。ハネも笑いながら頷くと、
「面白いねそれw私もやりたいw」
と髪がちらっと揺れ、カグヤの表情が弾ける。
「何?何?w……さっきの話?」
その様子を見たトオルが、ハネを覗き込むように言葉を挟んでいくと、すぐにカグヤが言葉を思いつく。
「でもやるんだったら早くやんないと……秋祭りまでってそんなに時間無いよ」
後ろの箱の近くに来た人を振り返り、わずかに体を動かして避けながら言う。
そうだよねと、ハネは市場の広さに目をやる。後ろのごそごそと言う物音の中、カグヤは続けて言葉を流した。
「人集めようか?……何ならすぐイベント会議でも開く?」
「あっそうしよう!……ね」
ハネは顔を明るくさせて横の男形に振ると、ずっと自分の口元のニヤけと戦っていたトオルが、ようやく喋る間を得た。
「その秋祭りっていうのの中で、さっき話してたイベント?……をやるってこと?」
踏み歩くように話すと、それを聞いたハネはそうそうと頷く。
理解に漂っていくトオルを見ながら、カグヤもようやく落ち着いて体を緩ませた。後ろの人がひっそりと去っていく。
「どうする?」
一瞬落ち着いたハネが聞くと、
「…良いんじゃない?…よく分からんけどw」
とノリを溢れさせてトオルは2人を見た。それにカグヤも小さく笑みを浮かべる。
「いいですか?」
「はい!やってみましょう!wあ、ちょっと待ってナギサさんにも連絡しよう」
ノリで突っ切りかけ、思い出したようにトオルはソラを触り始めた。その横でカグヤはすぐに動いていく。
「じゃあ私声かけてくるね」
「うん。俺らも会場行ってみよう」
そう言いハネは下を向くトオルの体を叩いた。肯定の音で頷きながら、トオルは引っ張られていく。
城内部のライブ会場は、でかいぞっ!




