屋台で食おうぜ!
「うわー、結構多いな……どうしよう?」
屋上には、特設に作られた施設などを縫って埋めるように、屋台がぞろぞろと並んでいた。
司が辺りを眺めていく後ろには、イズミがぼんやりとついていっている。
「あっツムギさん」
近くにいる黒い影に、司は声をかけた。ゆっくりぽつぽつと歩いていたゴスロリは振り向き、挨拶を2人に垂らす。後ろでイズミはどっかを見ている。
「ツムギさんも食べるんですか?」
「そうですね。…食べようかな」
ツムギはそう言い、3人で歩き始めた。
辺りには、煙があちこちに漂っていた。人の声が並んでこぼれる中で、オレンジの光が水気にぱさついている。
「あそこ空いてるんじゃないですか?」
司が声を出した。見るとその屋台は、人がほとんどいないようだった。
近づくと客は一人だけで、カウンター席の端に、柔草の髪がラーメンを食べていた。
「ナギサさんこんばんはー」
柔草は陰の中で音を啜ると、ふっと振り向く。その前でカウンターの向こうから、ちっこくて可愛い女の子の店員が、ひょこっと身を出した。
「いらっしゃーい」
3人は乾いた光がかかり、そわそわと座っていく。その隣に腰を下ろしていくと、ツムギは顔を上げて店主に向かった。
「注文いいですか?」
「はいどうぞー!」
店主は元気に高い声を上げた。夜中の頭に冴えわたる。
「えーっと……ブジリラーメンを一つと……マカロン饅頭とチョコシェイクをお願いします」
上に掲げられたメニューを眺めながら適当に決めていく。店主は復唱しながら動くと、そのまま流れるようにゴトっとツムギの前に置き始めた。
割り箸を取っていく手元に、満たされた器が置かれている。司は横でそれを見て顔を上げた。
「じゃあ俺もブジリラーメンを一つお願いします」
「はいブジリラーメン一つ」
店主は慣れた手つきで、前にゴトっと置いていく。
「おー美味しそうっ!……あれイズミさん?」
ふと隣を見ると、死んだようにカウンターに伏せている人がいた。呼びながら肩を叩くと、茶葉の髪をさっと上げる。イズミはちらっと周りを見て、そのまま目線をさらに上げた。
「…えーっと……おでん盛り合わせとご飯お願いします」
抜けた声に社交性を込めて発話すると、店主は流れるように応える。
「はいおでん盛り合わせとご飯ですね」
ゴトゴトと目の前に置かれていく。動いてくる器にイズミは手をどけると、湯気にかかった中身を眺めながら、ゆっくりと箸に手を伸ばした。
ずぞぞっと麺を啜る音の中、ツムギが器から口を離し、沁み入るように声を出す。
「あー……そうだ次のイベントどうします?」
ナギサに聞くと、逆側から司が動く。
「ふぎのいれんほっれいるなんれふほ?」
ツムギは横目で見ながら、黒いコップから口を離す。
「いやまだ何も決まってないですけどね……ちょっと落ち着けw」
咳き込みかけた司は笑って口を引っ込め、腕に謝辞を伸ばした。声をまとめ、すぐに再び横を向く。
「……海底コスプレ大会とか?」
ツムギは理解を示す。奥で器を置いたナギサが振り向いた。
「今海上都市計画が進んでますよね」
「あぁ海底ライブ会場のとこですね」
頷くナギサは手元に動く。黒っぽいとろっとした何かが、そこの皿の上にあった。
「どうなるんでしょうね……変な建物とか建ったらいいけど」
そう言いながらシャシャシャシャシャと赤い粉の容器を振って、それを箸でつまんでいくと、横から司が入ってきた。
「飛行機と空港を作るみたいな話聞きましたけど本当ですか?」
ぶふっと枯れたくぐもりが鳴った。麺を持ち上げていたツムギが振り向くと、ナギサは目の前のティーカップを掴んでいく。
「……本当みたいですよ……でも陸側はどこに空港作るんでしょうね」
途中でのどを潤していきながら喋り、続けてポケットに手を突っ込んでいく。
ツムギは箸を持ったまま、前をぼんやりと見て呟く。
「海上都市を複数作ってその間を飛ばすとか、誰か言ってた気がするけど……」
「そういうことなんですね!」
ナギサは椅子の上で身をずらし、取り出した小さい粒を、揉むように広げていきながら相槌を打っていく。
ツムギは一口啜りもぐもぐしながら横を見ると、少し首を傾け覗き込んだ。
「……新聞ですか?」
「そうです……えーっと……」
波打つしわしわの紙を広げると、その表面に薄くかかる明るさを手でなぞり始める。
「海上都市計画……空港は作るみたいですね」
ツムギが覗き込んでいると、向こうの司も気づき立ち上がってくる。
「やっぱそうか……へーモールとか作るんだ」
「そうですね……どういう事ができるかな?」
ナギサは影の密度から身を起こしていくと、前の老人が頭を上げて言う。
「…空一杯にホログラム映すとか?」
カップに口を隠していくナギサを見ると、手元から別の低い反応の声が漏れる。司は身を引いていき、
「でその中を飛行機で飛ぶとか?」
と眼下のツムギを見ると、ニヤりとした顔がぶつかった。
「それいいですね!」
ナギサが声を弾かせる横で、ツムギは少し痒そうに宙を見る。
「出来るのか?それw」
「出来たらぜひやりましょう!」
笑みに溢れるナギサに、司は頬を弾ませ頷きながら、さっと戻っていく。
ナギサはテーブルに向き直り、ティーカップの液体をラーメンの残りにしゃっと入れた。器を持ち上げていくと、その横でツムギが思い出したように言う。
「そういえばナギサさん、雪山がどうとか言ってたらしいですね」
ぐいっと体を前に揺らす。手元を隠した髪の毛がはらりと落ちた。そのままさっと陰で口元を整え、そうですと頷く。
「何ですかそれw」
奥から司が再び面白そうに覗き込んだ。横を向き直ったナギサが答える。
「雪山でみんなでアニメを見るっていうイベント……?」
「…あぁー…!……」
「それ最近開発されたやつをいくつか使えば、何とかなるんじゃないかって話してて」
ツムギが箸を残して横を向くと、ナギサは驚きの声を出した。
「へーそうなんですか?」
「今度外ガイドの人たちと一緒に実験してみようって言ってるんですけど、ナギサさんも行きます?」
残りの少し入ったガラスコップを手に取って言うと、ナギサは頷く。
「出来れば行きたいです。いつですか?」
ツムギは口を離し、
「まだ決まってないんですけど、……何なら秋祭り期間中でもいいですけどね、外は人少ないだろうし」
とソラを触っていくと、そうですねと同意が跳ねる。
「予定はどうです?」
ナギサは一瞬宙に目をやる。
「えーと2日目と3日目は今の所大丈夫です」
「分かりました……じゃあどうなるか決まったら連絡しますね」
ナギサは頷き返事をすると、何かに気づいたようにソラを触った。
「…あっ掃除始まるみたいですね」
そう手元に目線を落として言うと、ツムギは反応して声を出し、ぐいっと残りを飲み干す。
「俺も手伝いますよ」
横から司が声を入れてきた。ツムギは振り向き謝辞を言い、がたっと立ち上がっていく。
さあ掃除の時間だぜ!!




