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仮想空間の料理って、絶対面白いよね

  暗い部屋にて。

柔らかさに覆われた中で、緑の画面がぱっと現れた。同時にピピピという音が鳴る。

 伏す頭をもぞもぞと動かし、横に光る画面にちらりと目をやる。動かしていく手がそこへ到達すると、ふっと音が消えた。

 布の厚みをどけて起き上がっていく。

辺りの薄暗い中に、布団が散っているのが分かった。


部屋を出ると、うっすらと明かりのさす廊下に出た。扉を閉めながら、向こうに光が増えていく廊下を見る。

 長髪はゆっくりと歩き始めた。柔らかな甘い焦げた匂いが、口を掠めていく。



千鶴がすたすたと歩いている。部屋の陰にふっと長髪が現れ、目の端に見えるが、気にせず歩き、キッチンへと身を入れていった。

「何か手伝いましょうか?」

明るい中に白さが散り、ちらちらと音が舞っていた。3人おり、話していたコンロの前のシオリが、言葉の切れ目に振り向く。

「大丈夫ですよー……あっやっぱこっち頼んでいいですか?…何か来た」

そう言い胸の前のソラを、箸を握ったまま触り始める。千鶴は返事をして、(そで)をずらしながら入っていった。

 ふっと隣で人影が消えていく中、シンクで千鶴は手を洗い始めながら、横を見る。

「ヒロさん達は、アニメ館とかには作品持っていかれたんですか?」

野菜を包丁でごきごきとやっていたヒロは、力を緩めて向きをずらす。

「……アニメ館は多分こっちから行ってもしょうがないんで……」

千鶴はタオルで手をぱさぱさと拭き、コンロにずれていく。隣で作業していた八重が反応し、奥へ目を移した。

「結構大きいですからね」

千鶴は鍋の中に残っていた箸をどけていきながら声を上げる。

「そっか!まあそうですよね、大きいですからね」

そう頷き、置いてあったボウルに手を入れた。

 ボウルの中にはタネが入っていた。白いべちゃつきが指に絡み、引き上げて満ちた油の表面へ持っていく。

「……まとめ売りでもいいんですけど」

じゅわっと音が上がり、ヒロの呟きに重なった。

「あぁ最近始めたっていう……色々やってますね」

じゅらじゅらという音の中、千鶴は背中を動かしながら緩やかに呟く。

 八重はねちゃねちゃした肉を赤黒い液体につけながら、思いついたように口を開いた。

「そういえばヒロさん達の作品、調べても出なかったらしいけどなんで?」

ふいと頭の向きを変えて横を見ると、その先でヒロは手元に集中していた。

「え……あタグとかかな……?」

「タグ?」

あぁと、向こうで千鶴が理解に声を浮かせる。

 ぱさぱさした粉に肉をつける八重の隣で、ヒロが体を起こしていった。

「何か制限掛けてますか?」

向いたヒロと目が合い、小麦(こむぎ)の瞳がうつった。

 八重は考えるように言う。

「制限?……あーラジオの人が調べたから、その人が掛けてたってこと?」

「あぁ……じゃあそういうのかもしれないです」

ヒロは小さく頷きながら、向きを戻していく。そこへ、キッチンにさっきの声が入ってきた。

「ありがとうございました!」

それに八重は振り返りながら、納得の相槌を打つ。(ひげ)の黒衣が近くを動いてきた。

 コンロの前の千鶴が振り返る。

「あれ、もう良いんですか?」

「はい、ありがとうございました!」

シオリは近づいていきながら答える。

 2人が場所を交代していっていると、更に別の足音がばたばたと近づいてきた。千鶴はバットを手に動いていくと、キッチンに身を出してくる2人に気づく。

「何か食べます?」

外へ動いていきながら聞くと、(ツカサ)が声を弾かせた。

「良いんすかっ!」

千鶴は手元のバットに目をやり、

「えーっとこれとか?……あ、ナギさん食べます?」

テーブルの向こうの席で本を読んでいる長髪の方を見て言う。いいです、と本を読んでいるナギはふっと答えた。

「…前作ったやつとかあったかな?」

千鶴は持ったバットをテーブルに置き、振り返っていく。横には、ソラ箱がいくつか置かれた台があった。

 画面をつけて触っていくと、司とアカネも一緒に覗き込む。

  コンロの前では、鍋の中のお湯を八重が見下ろし眺めている。

その隣でシオリは再び鍋に向かっていくと、近くに置かれた、肉の整ったトレイに気づいた。

「あぁありがとう。……風呂入ったら?」

「そっか、もらいまーす」

鍋から振り向き、八重はその場を離れていった。


  扉を開ける。

「うぁびっくりした」

脱衣所の中の、脱ぎかけのオサムが飛び上がるように声を上げた。

 部屋には2人いた。あと一人は素っ裸のおっちゃんだ。おっちゃんは暖かい照明の中に立ち、手元を掲げて静かに髪をそよがせている。

「入っていいですか?」

扉に手をかけた八重が中へ聞くと、オサムは再び脱ぎ始めた。

「…まあ……良いならいいけど」

八重はそれを聞き、入って扉を閉めていく。ドライヤーを持ったおっちゃんは、扉の方を向いた。

「明日秋祭りって?」

八重は肯定に答える。おっちゃんは風を止めると、手元に置きながら聞いていった。

「うち間に合ったんですか?」

体を緩ませて八重は伸びをしながら、

「さっひ受け取りまひたよ」

とあくび声で言っていると、突然後ろの扉の音の勢いにむせ返った。

「今から風呂?」

ナミの声が、明るい照明とともに元気に入ってきた。おっちゃんはうわっと一言小さく叫び、逃げるように部屋の奥へ向かっていく。

 オサムは半裸(はんら)のまま振り向くと、はいと冷静に答えた。後ろから新緑の髪も、入り口から顔をのぞかせる。更に追うように向こうで奇声が聞こえるが、誰も気にしない。

「私も一緒に入っていいっ?」

ナミが数歩たたっと中に入ってきて、微動だにしないオサムを見る。

「いや無理っす」

「背中洗いっこしよ?」

「いや無理っす」

「お酒もあるよ?」

「いやいいっす」

「…」

ナミはしゅんと肩を落とし、とぼとぼと入口へ歩き始めた。その様子を、脱衣所の入口に入りかけた司がきょとんと見ている。

 洗濯機に向かっていた八重は、脱いだ上着を放り込みながら振り返った。

「あれ、前みたいにマッチョで来れば?」

オサムは振り返る。

「は?」

「え?」

変な空気が絡む中、その後ろで向き回ったナミは声を弾けた。

「そっか!ちょっと待ってて!」

うきうきと動きだし、ソラを触ってさっとその場に消える。向こうで扉に手をかけて見ていた新緑の女形も、笑いながら同じように動きだした。

 その場を眺めていたオサムはゆっくりと体を回していき、八重と目が合う。

「……やべ、さっさと入ろ」

オサムは目をぱちぱちさせると、思い出したように動き始めた。

みんなで一緒に風呂にでも入ろうぜ!!

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