ナミ参上!!!
2つ目のアニメスタジオに行ってみよう!
城の中のある一棟にて。
暖かい光で埋められた階段の中を、2人が歩いている。とんとんと上り切って向こうを見ると、明かりの続く廊下の先に、人影が見えた。
「八重さん!」
茜色の髪が、こっちに気づいて手を上げた。隣には、地味な灰色も一緒にいるようだ。
八重は千鶴の後ろで廊下を歩きだしながら手を上げた。
「よーっす……あれ何してんの?」
「いや……なんか気になって来ちゃったんですよねw」
アカネは適当に笑うと、近づく千鶴は軽く笑って頷き、扉をがちゃっと開けていく。
「そういうことかw」
人々は続けて扉へ入り、軽やかな照明に迎えられていく。
広い玄関には、辺りのフローリングの光の上に、物がやたらと散っていた。廊下の向こうから、すたすたと人が歩いてきていた。真水の髪だ、山で血だらけで背負われてた人、名はナミ。
「千鶴さん!」
一行に気づき、速度を上げてくる。千鶴はそれに気づくと、靴をいじっていた体を緩ませ、ソラを触り始めた。
同時に別方向で、玄関からほど近い部屋の扉が開いた。中から話し声がずれてくる。
「会えましたか?!」
玄関に着いたナミは勢い混じりに聞く。千鶴はソラで手を動かし、
「これと…これですね」
と紙一枚と、変な布切れを出していった。
ナミは謝辞とともに受け取ると、その青い布切れを広げる。一応服みたいだ。
「おー!かっこいい!」
言うが早いか早速そのまま服の上から、その狭そうなスーツを着始めた。
別方向の部屋からは、新緑の髪の女形が姿を現してきた。扉を後に残し、玄関の様子に目を移していく。
続けてその部屋から2人出てきた。背の高い縞々の男形は、玄関の様子に気づく。
「千鶴さん、終わりました」
千鶴は顔を上げ返事をすると、その横に続けて視線を向ける。もう一人、若草の老人が部屋から出てきていた。謝辞の声をかけると、それに司老人は反応する。
「あっはい…あれ八重?」
司は返事をしながら、廊下を歩いていく八重に気づいた。
横でナミたちが馬鹿なことをやり始めた中、向こうに行きかけた八重は振り返る。
「あぁどうだった?」
うるさい2人を無視して話しだす。縞々オサムはそれを見て疑問をやった。
「知り合い?」
司がそうですと肯定していると、横のナミの声が白熱する。
「タコとイカの協奏曲!」
「何!私のわかめ・バリアーを破ったとでもいうのか?!」
新緑がノリノリで体と手を動かす。ナミはくるりと縞々オサムを向き、足を動かした。
「くらえ!さばむくろキーック!」
「……は?」
紙が何かと目に付く現場に入っていく。
壁にあちこちべたべたと貼ってある中を歩き始めると、向こうから色の薄い、白っぽい人が歩いてきていた。
「八重さん、ちょっと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
皺のかかるその人はすんすんと歩きながら、軽く話しかけてくる。
「はい、さっき千鶴さんに聞きました」
「そうですか!じゃあ少し待っててもらっていいですか?」
返事に頷き、2人は横をすれ違っていく。
壁際を奥へ向かう八重の横には、現場の様子が広がっている。
部屋の中には異形化した机が散っていた。向こうの壁には、落書きしかされていない意味の無さそうな黒板がある。
作業机の多くは、さなぎのように机が装いに囲われており、作業する姿は外からは見えない。
監督の作業場に近づいていく。机には黒っぽい影がちょこんと座っていた。
「こんばんはー」
机は横に片側一枚の仕切りが立てられている以外は開けていた。
前から近づき、机を回り込みながら声をかけていくと、影は俯きがちに向きをずらし、八重の下半身に向かって頭を下げる。
机の上にはごちゃごちゃと物が置かれていた。
わずかな足音とともに、ふっと仕切りの上に人影が来た。
「あれ監督は?」
来た人は仕切りの上から顔を出して、その上を動きながら言い、机の前に身を出していく。姿が現れると、妙にボタンの多いふわっとした服の女形だった。
「さっき向こうに行きましたよ」
八重は向こうを指して言うと、ボタンは机に手を置いて、その方を振り返る。あーそうと、すぐに身を起こし言うと、持っていた紙を放しながら動きだした。
「スズちゃん何やってるの?」
机を回っていきながら、ボタンは机の方にひらっと目をやっていく。
「監督に聞きたいことがあって…」
影はわずかな声を出すと、後ろから回り込んだボタンは2人の間に入っていった。
「何?」
傍に着き、横から掬うように関心を向ける。
「えっ…と制作ちゃんで…髪の毛がなびいてるシーンを描くとして…動画30枚分として…そのうち最初の5枚だけを描いて…どうなるか…とか……」
スズが小さく言葉をこぼしていく。机に屈んで向かい、動きを止めて聞いていたボタンは、すっと宙を仰いだ。
「はー……どういうこと?…あれ、っていうかスズちゃん動きやるの?」
見える横顔に聞いていくと、小さく頷く。
「……監督にやってみたらって……」
「へーそうなんだ!……えっそれで?」
身を起こし前髪を触りながら、再び机に向かいかける。隣でぼんやりと考えていた八重が口を開いた。
「…最初の5枚だけ描いて……残り25枚にもその5枚と同じような感じが出るか……ってこと?」
僅かにずれるスズは、それに頷く。後ろを向いたボタンは、身を動かしていきながら言う。
「あー……つまりその5枚だけで指定するってことですよね?」
八重は漂いながら頷き、
「うん……ってこと?……っていうかカザネさん分からないんですか?…w」
と言うとカザネも笑みに崩れた。
「だって描かないから分かんないもんw……練習してた頃は全部描いてたし」
笑いながら八重は理解に頷くと、カザネは机の方を向いていく。
「なら描いてしまえばいいじゃん、……ちょっといい?」
誘われてスズが席をどいていくと、さっとそこへ座った。
「えーっと……」
きょろっと机の上を見回し、紙をその辺から適当に取ると、ささっと描き始める。
「そうだ……一部しか描かなくていいからね」
2人が覗き込んでいく中、手を動かしながら言葉を漏らす。紙の上に鉛筆の影が回り、さらさらと音がなる。
「うわー……はやっ…うまっ」
「かなりラフでも認識してくれるからね……」
驚嘆の声に呟き返していると、机の前にふっと別の影が現れた。
「…八重来てた?」
顔を上げると、黒い白衣に髭の似合う男形がゆらりと動く。
「あっシオリさん」
黒衣シオリは体を傾け、カザネの手元を覗き込んだ。机にうっすらと甘い匂いがうつる。
更にその向こうに足音が小さく立った。シオリは気づき振り返ると、さっきの白っぽい人が、机の方に歩いてきていた。
「……こんなんでいいんじゃない?」
机の上の紙をぱらっと整えると、カザネは画面の影をつけて触っていく。
白い人は机の傍にゆっくりと立ち、その様子を眺めだした。
視点が集まる中、カザネは紙を画面に通して操作していき、該当部分を再生し始める。動画が流れ始め、髪の毛がはたはたと流れているさまが映った。
カザネが呟く。
「……うん、適用されてるね」
その横で覗き込むスズから、理解の音がこぼれた。カザネは画面を閉じながら席を立っていくと、白い人に気づく。
「あっ監督……これ」
席の上に置いていた紙を、くいっと身を戻して掴むと、白い人に渡していく。監督は差し出された紙を受け取り目を落としていくと、カザネは去っていった。
続けて小さい影も離れていきかけ、それに気づいた監督は顔を上げる。
「スズさん?」
スズが振り返る。琥珀の瞳が向いた。
「終わったみたいですよ」
八重はシオリの手招きを受けて、向こうに動きながら言うと、監督は目線を滑らせる。
「終わったんですか?」
影はわずかに動き、はいと頷き小さい声が届く。
「そうですか、分かりました……あっ八重さん!」
監督は続けて慌てて声をかけると、その場を離れかけた八重は振り返り、はいと答える。
「ごめんなさい、ちょっと聞きたいことがあって」
「そうだったw」
八重はシオリに取り残され、数歩戻っていった。机の傍に立つ監督は、立ったまま考えを巡らせ始める。
「えーと……特徴的な表現とかは自分で描くんですか?……その作品特有の火の表現とか…」
八重は一瞬巡って頷く。
「基本そうです」
「やっぱりそうなんですね。……そろそろうまい具合に予測してくれたりしないかなと思ったんですけどw」
監督は緩んだ衝動をちらつかせると、八重も笑った。
「なるほどw」
「そうだ、今何か料理作ってるんですか?」
そう言い奥の方に目をやる。八重は振り返った。
「はい、それで手伝ってって呼ばれて」
「そうですか。……ちょっともらいに行こうかな」
監督は歩きだすと、八重も一緒に動き始めた。とつとつと現場の壁際を歩きだし、思いついたように再び話を始める。
「3Dデータとかはどういうものが使えるんですか?……何でも材料として使えるってことでしたけど」
八重は紙だらけの壁の横を歩きながら答える。
「よほど分かりにくいのじゃなければ大体行けると思います」
監督が理解の相槌を打つ。2人の横を、皿を持ったナミがすんすんと揺れながら通り過ぎていく。
「はい……僕も前試したことがあって、キャラの動きだけを棒人間で指定した3Dデータとかでもいけたんで」
「おーなるほど!……なら結構広いですね」
2人は部屋の端へ向かっていく。




