祭り前日の地下鉄
例の城の屋上のプール、人工の海にて。
もう暗く、辺りは照明に表面が爽やかに照らされている。盆踊りみたいに提灯が宙にかかっており、ちらほらと屋台の店から煙が流れている。
脚立を持った色おじさんが砂浜を歩いていた。そこらでは花火をやっているような人がおり、色とりどりな光の散る中を歩いていく。
歩く先にはテントがあった。向こうから、同じように脚立を脇に抱えて歩いてくる、大柄な男形の姿があった。声をかけてくる。
「終わった?」
「うん。……終わりましたー」
八重はテントの中を覗いていき、中で立って談笑していた人たちに声をかけた。その一人が振り向く。
「ありがとうございましたー、……これお礼です」
そこには長机があった。上には紙の包みが並べられており、その一つを取って渡してくる。たたっと別の人影がテントに入ってきた。
「はい…これ何ですか?」
受け取りながらシゲルが聞くと、隣で八重が中身を確認して言う。
「あっ花火だ」
「何?もらっていいんですか?」
来ていたジャージの人が隣に来た。その人が肯定すると、ジャージは把握して手に取っていく。
その横で、手元を触るシゲルは身を動かしていきながら言う。
「そうだ、ラジオの議論番組ってどうなったの?」
話し始めながら、一行はその場から体を返した。テントの陰を歩き砂浜に出ていきながら、顔をやった八重は答える。
「あれは……逆に現実の人が、作品の中のキャラを演じることになった」
「……ほう?」
柔らかさに身の揺れを刻んでいきながら、ジャージイロハが目をやる。横の八重の頬がそよいだ。
「元々その物語とは別に新しく作るわけじゃん?……オタクのキャラってことで」
砂を踏み歩き、イロハは足元を見る。
八重は前から来た火の石を受け取り、手元の線に火をつけながら続けた。
「だったら……逆に現実の人をモデルにして、そのキャラを作ってしまえばいいんじゃないっていう……はい」
涼しげな空気が人の中に通っていく。イロハは相槌を打ちながら、受け取っていく火の石に目をやると、驚きの声とともに手が飛びのいた。
シゲルが振り返って立ち止まり、なるほどねと、体を向けて理解に流れる。
砂の中で火の石は、赤く透明に輝きゆらゆらと燃えていた。
イロハは相槌を言いながら、それに手を伸ばす。
「じゃあどっかの世界のオタクっていう格好で……こっち側の世界の人が出演していくってことか」
身を上げて言うと、火の石を指で持ち、線に近づける。ぱちぱちと火花が散り始めた。
八重は肯定していると、何かに気づいたようにソラを引っかく。
「ちょっと用事があるんだった、またね」
そう2人に思い出したように言うと、急ぐように砂浜を走っていった。
再び文化フロアのラジオスタジオにて。
適当に人の行きかう通路で、話している2人がいた。
真っ青な全身スーツを着たやつと、青軽い髪の女形だ。
「後これですね」
ぺちゃんとしたゴムっぽい布切れが、青い手の上に差し出された。分かりましたと、青軽い髪はそれを手に取りながら頷く。
「じゃあお願いします」
「はい、ありがとうございました」
動きだし離れていくゴム人間にそう応えていると、同時に目の端に別の姿を捉えて、視点が揺れる。
「千鶴さーん」
色おじさんが手を上げて近づいてきていた。青軽千鶴は布切れをソラに仕舞いながら、そっちに目を向ける。
「八重さん……そうださっき監督がまた聞きたいことがあったみたいで…」
「そうですか。…どうせこれから行くんですよね、シオリさんに呼ばれててw」
八重は動いてきながら答えると、千鶴は把握して笑みを浮かせ、2人は歩きだした。
エスカレーターに2人が乗って下りている。眼下からは喧騒の明かりの響きが、ふいふいと流れてくる。料理フロアだ。
「さっき初めてアニメ館に行ってきたんですけど」
前に乗っている青軽い髪は振り返り、後ろの八重を見上げる。
「あぁ!どうでした?」
「20分とかの作品も上映してたりするんですね」
八重はそれを聞き、段を動いていきながら頷いた。
「そうですね」
「時間の制限は全く無いんですか?」
千鶴は前へ戻り、エスカレーターを降りていく。八重は宙へ目をやった。
「基本無いです。アニメ館だけじゃなくて、ここにある映画館って大体そうですね」
階を切り返して、ついていきながら説明していく。次の流れに乗った千鶴は、再び後ろを向いていった。
「へー!そうなんだ……何か自由で良いですねw」
瞳から笑みを溢れさせて千鶴が言うと、そうですねと八重も軽く同意する。
「値段設定とかもそれぞれの作品で違いますよね」
広い空間に入っていきつつ、巨大な構造の影がうっすらと2人にかかっていく。
八重の肯定の返事に、千鶴は理解とともに前に向き直っていった。
青軽い髪がなぜる。向こうには、駅の広い空間に、人がばらばらと行きかっているのが見える。
八重は一歩下りていき続けた。
「前はRMTしてなかったから、結構色んな実験的なことやってたんですよね」
千鶴は振り返ると、エスカレーターを降りていきながら、納得の相槌を打った。床に身をならしていき話を続ける。
「あの世界観はオリジナルなんですか?それとも二次創作とかですか?」
話しながら広い渡り通路を歩き始める。暖かい雑然とした空気の中、ちらほらと浴衣や着物を羽織った人たちが目に入った。
八重は歩調を少し早め、前を見ていきながら答えていく。
「あれは……オリジナルのやつもあるし、ネットで見つけた一枚絵の作者を探して頼んだりとかして」
「へー!なるほど、良い雰囲気だなと思って」
千鶴は辺りをちらっと見回しながら言うと、隣で八重は明るんだ。
「そうですよね!……一つは僕が選んだんでw」
そう嬉しさをこぼしながら言うと、千鶴は笑顔に振り向く。
「そうなんですね!」
「はいw」
駅のホームの上にて。
イチョウの髪がいた。足湯に腰かけて、お湯を数人で囲っている。
雑踏の音の中、アナウンスが遠くに澄み響いていき、風のゆるむ音が小さく漂っている。
足湯の傍の頭上には、ホログラムの光がゆっくりと波打っていた。駅の案内のようだ、それをイチョウはぼんやりと眺めている。
「なんか最近寒くなってきてない?」
斜め前のお団子頭が言った。水面の水しぶきを足でくりくり動かしている。それを、その前に座って頬杖をついている人が眺めている。
レモンの髪は横を見て、呟きに応えた。
「季節はあるらしいですよ」
団子がちらっと横を見てへーと呟く。
イチョウはその会話からホームの方に目をやると、ふと声をこぼした。
「…八重さんだ。八重さーん!」
ホームの上で2人が一緒に歩いていた。呼ぶ声が聞こえて振り向く。
「トオルさん!…知り合いです」
隣の青軽に説明を入れ、八重はその方へ動いた。歩いていくと、屋台の煙が顔にかかる。
トオルは立ち上がってソラを触っていた。
「こんばんはー」
八重は声をかけながら近づいていくと、トオルは一枚の紙を取り出した。風が吹き、ぴらぴらと電車に揺れる。
「これハネさんに頼まれてたやつなんだけど、渡してもらってもいい?」
差し出された紙を、八重は見ていく。急がなくても大丈夫なんだけど、とトオルは付け加えると、八重はその言葉に目をやり、頷きながら受け取った。
「分かった。……ハネどこ?」
「俺も分かんなくて……見た?」
足元の人々にトオルは質問を流す。後ろで人がホームをばらばらと歩き始めた。千鶴はそれを眺めている。
ほど近くでアナウンスが鳴り始める中、団子が顔を上げた。
「私は見てないよ」
隣にいたスキヘも、目を上げてうんと頷く。もう一人の女形が、横に立つトオルを見上げた。
「連絡したら?」
「したけど返事返ってこないんですよね」
「…あぁあの人いつもそうだしね」
空気の中に、わずかに別の電車の音が響き始めた。八重はその音に振り向きながら相槌を打つ。
「そうなんだw」
トオルの軽い笑いに、八重は僅かな鈍い頬で頷くと、体を小さく傾けていく。
「会ったら渡しとくね」
そう言いながら、ソラに紙を入れて歩き始めていった。謝辞が投げられ、風が吹いていく。
止まった電車に近づいていくと、ふと知った姿がすたすたと視界に入ってきた。目が合う。
「こんばんは」
蜜柑の髪が通り過ぎながら挨拶の声を手放した。2人の挨拶が返ると、少し離れた所でくるっと振り返る。
「そうだ、ラジオは千鶴さん……」
蜜柑メグリは立ち止まりながらそう声を上げかけ、横に目をちらりと滑らせながら、あー……と何かに言い淀む。
八重はそれに気づいて声をぽんと上げた。
「…そうかプロか」
「あっご存じなんですね」
メグリはそう言いながら、宙に漂うアナウンスを聞き、ぱっと動いていく。2人も見回し、引かれるように目の前の入口へ向かった。
明るい二重線を跨いでいきながら千鶴が聞く。
「何の話ですか?」
人の声のさわめきの中に入り、隙間にはじかれ身を置いていく。
まだらに影が落ち、布が明るい照明を弾く。扉のそばに立っていくメグリは、ぺたぺたと足をそろえていき、外から千鶴に目を移した。
「今回のアニメフェアって、二次祭りっていうのが一つのテーマになってるんですよ」
話し始めると、目の前で音が閉まり始めた。千鶴はメグリの方に体を傾けて聞くと、
「それは聞きました!あとは何か議論番組とかって……」
と控えめに声を立てながら、後ろに立つ八重に目をやる。閉じられたささやき声の中、そうですと八重は頷いた。
「あっそれに私もってことですか?」
千鶴は顔を戻して聞いていると、じんわりと空気がゆらぐ。メグリは頷き返し、
「そうです。…ちょっとすみません、電話が……」
と言い、ソラをぱぱっと触り始めた。後ろから八重が言葉を繋げる。
「監督には、この前行った時に頼んだんですよね」
そう話す横で、光に歪む模様が残っていく。千鶴は振り向き、理解に声を明るめた。
「番組はいつなんですか?」
「明日の朝9時です」
ふっと窓に暗闇ができ、反射する明かりが残された。流れていたアナウンスの下で、顔を上げたままの千鶴が目を動かす。
「明日ですかっ」
そう言い千鶴は顔を小さく弾く。後ろでは、あさっての方向を見たメグリの、口がはむはむしているのが見える。
八重は頷きを落とし、
「はい……あっごめんなさいwもしよかったらなんですけど…」
と言うと、千鶴は頭を傾けて手元を触っていく。
「いやそっか、秋祭り明日からですもんね」
扉の横のメグリは手の動きを終えていく。顔を上げると、手をぴらっとさせている千鶴が目に入った。
「えーっと分かりました、じゃあ参加させてもらっていいですか?」
車内がむっと傾く。千鶴は目を上げると、外の暗闇を眺めていた八重は振り向いた。
「ありがとうございますっ!」
「……大丈夫ですか?」
横からメグリが入ってくる。千鶴は振り向くと、ぶわっと辺りが光にひらけた。
「はい。……何とかしますw」
次は待望の、二個目のアニメスタジオに行ってみようっ!!




