打ち上げは座敷だって
祭り前日へっっ!
第5章
ラジオスタジオにて。
セットの横に続く通路に、柔草の髪がいた。壁のホワイトボードの前で、ペンを持って眺めている。辺りには、通る番組の話し声が耳になじむ。
少し力を入れ、キャップを外す。
「どこか空いてます?」
振り向くと、賑やかに跳ねた帯が近づいてきていた。ボードを眺めながら来て、後ろにもう一人いるようだ。
「一応ここだけ空いてますね」
ナギサは壁の方を向くと、閉めたペン先でボードの一部を指した。文字が沢山書き込まれた中に、一か所わずかに空白がある。
来た人から思案の声が流れ出た。
「予定入れられたいんですか?」
ナギサは横を向いて聞く。そうですねーとその横顔は呟きながら、視線を動かしている…他の部分に目をまさぐっているようだ。
ナギサは一度ボードに視点を戻すと、言葉を繋いだ。
「私はちょっと告知したいことがあるだけなので、よかったら冒頭3分だけ頂けたらそれでいいんですけど」
目を向けて聞いていたその人は、顔を明るくさせる。
「良いですよ!ありがとうございますっ」
ナギサはその返事を軽やかに受け止めた。ペンを渡し、その場を離れていく。
雑音の漂う通路を歩き始めると、服のポケットに手を入れ目線を落としていった。何か小さい粒を取り出していくと、歩きながらそれを揉むようにいじる。
「ナギサさん!」
ぱっと顔を上げた。通路の向こうから、歩いて来るモヒカンの人がいる。
「打ち上げあるって知ってます?ここのラジオスタジオ全体の」
「いえ知りません、何の打ち上げですか?」
足を緩めていきながら答えると、モヒカンは立ち止まっていった。
「秋祭りです、連休の前に先にやっておこうって事になったみたいで」
ナギサは理解の声とともに体を緩めた。下ろした手の指がゆらゆらと動く。
「2-E-52だそうです、もしよかったら」
「分かりました、ありがとうございます」
ナギサは軽く頭を下げ、2人はすれ違い歩いていった。
薄明るい中をナギサが歩く。乾いた柔らかさが周りに置かれ、人の声がそよいでいる。目の前に、座敷部屋の明かりが見えてきた。橙の灯に浮かぶふすまは閉じ、その下には靴が多く散っている。
薄い光が開き、5,6人がぞろぞろと、賑やかな音とともに出てきた。その手前に近づくと、知った人を見つける。
「カグヤさん、こんばんは」
たたっと足元を見ていた、浴衣姿の女形が顔を上げた。
「ナギサさん!……あれ、もう終わったんですか?」
動きを遅めるカグヤに、ナギサは立ち止まる。
「…え?終わってないんですか?」
「会場の掃除が終わってないって聞いたんですけど」
そう言いながら靴をソラから取り出し、下におろしていく。ナギサはそれを見て、
「そうなんだ、じゃあ私もそっちに行かないと」
と言葉を浮かせた。靴を履きながら、カグヤが近づいてくる。
「じゃあ一緒に行きましょうっ」
弾んでくる勢いに受け流れて、向きを変えて2人は歩きだした。
「結局秋祭りの方が忙しくて、あんまりアニメフェア手伝えなかったから」
笑ってカグヤはそう言い髪を弾ませると、それにナギサは横を向く。
「そっか、秋祭りの方されてましたからね」
辺りの影が抜け、片側が軽く晴れる。張り出したテラスが、城の通路の上空へ抜けていた。
もう片側は座敷部屋の入口がずらっと並んでいっており、歩く2人の横でぱらぱらと人が出入りしていっている。
風鈴の音がちりんと掠める。カグヤはちらっと辺りに目をやると、顔を戻して続けた。
「秋祭り中は何か仕事あるんですか?…アニメフェアの」
「いえ…人によって違うかな?基本は最終日の片づけぐらいだと思いますね」
辺りで案内や看板として、ホログラムの色が動いている。ナギサはそれに横目を吸われつつ、無理やりカグヤに固定して答えた。
カグヤは理解の頷きを見せると続けて、
「ナギサさんは秋祭り中は何かするんですか?出店とか」
と興味を滲ませ聞くと、ナギサは小さく口元を緩めて答えた。
「んーいや私は…ゆっくりするかな?……」
辺りが人で溢れている。特設会場の入口に入っていくと、もう暗い背後の夜の空気へ、明かりが賑やかに流れていた。
「ひゃー!めっちゃ多いっ!」
カグヤが人の中を進んでいきながら声を上げた。後ろにはナギサがついていきつつ、周りを見回している。
「リハーサルがどうとか言ってましたもんね」
遠くで音楽が宙にめくれているのが分かる。流れてくる人を避けながらナギサは呟いた。
ふと前のカグヤが、気づきの音を漏らした。ソラを触っている。
「……あれ、延長?」
「…どうしました?」
人の中で止まったカグヤに追いついていき、浴衣のそばに目を向けていく。
壁際には人がいくらかいた。その一部で話している人たちがいる。
下にしゃがんで壁に背をつけた、黒っぽい服の人が、前で立つ人に見上げて話していた。
「……あとはイベントの発案とか……新しい施設を考えたりとかもしてますね」
その傍で2人の会話を見る、白いワイシャツの男形がいる。聞く人はそれを聞き、理解するように漂うと、視線が流れていった。
2人が話す横では、壁に背をつけた人たちが他にもいた。
「ナギサさん!」
突然その一人が、別の方に声を上げた。漂っていた聞く人はそれに目をやると、前に戻ってしゃがんだ人を見る。
「なるほど……分かりました、ありがとうございました」
そう言いながら頭を下げると、向こうへと動き始めた。
「また今度声かけて下さい!」
ワイシャツがその後ろ姿に、響く声を飛ばす。聞く人はちらっと振り返り、小さく頷きながら遠ざかっていく。
「……あぁ俺もまだやることあるわ…じゃ」
ワイシャツは思い出したように言うと動きだし、しゃがんでいる黒に、軽く手を上げていった。
黒は目線を上げてそれに頷くと、壁を擦り立ち上がっていく。
髪を振り前を見ると、入れ違いに来た2人組が、人の波を抜けてきた。
「掃除はいつからですか?」
ナギサの問いを、壁から少し頭を離して、水色ワタルは聞き取る。
「午前3時かららしいですよ」
「ほんとに3時なの?!w」
隣のカグヤが呆れ気味に笑うと、ナギサはすぐに向き直る。
「他に手伝う事は何かあります?」
ワタルはえーっと、と宙を巡り始めると、その隣にいた草花みたいな人が、顔を傾けて会話に入った。その奥にはもう一人、その様子を見ている苺の髪がいる。
「ラジオ関係とか終わったのかな?」
「ラジオ関係も大体終わってると思いますよ」
逆から黒い人が入ってきた。草花はその方に目をやる。
「そうなんですか」
「はい。あとは……上でやる催し物の準備とかですかね?、上の構造を作るのが遅れてたらしいから」
あぁそっかと、ワタルが理解の声を上げる。
「じゃあ私そっちに行ってみますっ」
ナギサがちらっとカグヤを見て動きだすと、カグヤはそれを目で追った。
「そうですか…あぁじゃあ私も行ってみよっw」
振り返ったナギサは笑んで頷き、2人は動いていく。
茶葉の髪が人をかき分けながら進んでいく。
塊を抜け、体がほどけると、ようやく足が弾んで動きだした。
扉をがちゃっと開け、中に入っていく。
高くそれなりに広い空間に、軽やかな金属のちらつきと、人の声が舞っていた。特設放送局の中にはまだそれなりに人がいた。
茶葉は足取りを身に響かせながら、奥の方へ歩いていく。セットがあちこちに立てかけられており、まだ作っている人たちがちらほらと見える。
「どうですかー?」
茶葉は向こうの放送用の大きい机へ行きながら、そこにいる数人に呼びかける。体を机に傾けて話していた一人が振り向いた。
「こっちは終わりました!」
「あぁそうですか…」
茶葉は声を落ち着かせていきながらそのまま歩いていると、ふと横から声をかけられる。
「イズミどの、紙などお持ちでござるか?」
通りがかりながら振り向くと、小さい机で作業している数人がいた。机の上にはプリンターがあり、わずかな紙がささっている。
「え?いや…」
茶葉イズミがわずかな言葉を出しかけると、ふむぅとその人は首を外し漂わせていく。
「台本用の紙ですか?」
すぐに発せられた言葉に、その人は頷く。
「そうでござる」
「取って来ましょうか?何枚ですか?」
体の向きを変えながら動く格好になると、その人は同じテーブルにいる別の人の方へ向きながら答えた。
「3000…いや3500枚でよろしくお願いしますでござる」
「分かりました、ちょっと待って下さい」
イズミはさっと服の端を返した。別の人の謝辞の声を背中に受けながら、スタジオの外へ向かって走っていく。
他ではどんな準備やってるか、見ていこうっ!




