未来のアニメの作り方を考える
プロの制作現場へ行ってみよう
ノボルと縞々(オサム)が、石畳と空色の中を歩いている。城の屋上には、目の前に巨大なマンションが1つそびえ立っていた。
「先週の技術説明会は行かれなかったんですか?」
建物の入口へ近づきながらノボルが聞くと、横を歩くオサムはちかっと目を揺らがせた。
「あっそんなのあったんですか?」
「やっぱりね……そんなことだろうと思ったよ」
人工的な明かりと響きに入っていきながら、ニヤりとした声が流れていく。オサムはそれを見て、かたい顔をほぐした。
「すいません……確認してませんでした」
2人はそのまま建物のロビーを歩いていく。やがて近づいたボタンをノボルは押すと、扉が開いた。
「これから行く第一スタジオっていうのは、最先端の技術を色々実験的に扱ってる所で…」
ノボルは話し始めて小部屋に入っていくと、オサムも続く。
「…まあ物語付きの普通の作品ってよりは、CMとかPVとかをよく作ってる所なんですよね」
手を動かして説明を続けると、奥の壁に行って背をつけたオサムは、理解の声を漂わせた。まもなく床に圧を感じていく。
「『きらめきパーティ』とかご存じですか?」
「あぁ知ってます!……いいっすよねあれ」
オサムはぽんと上がると、ノボルは笑みを散らし頷く。
「だけど一応普通のも作ってるし、技術には詳しいんで、大体のことは分かると思います」
再びふわっと圧を感じていく。オサムは理解するように頷くと、おさまっていく床のゆらぎの中で動きだした。
マンションの扉を開けていくと、広々と開放的なロビーっぽい玄関に出た。
廊下の奥からは、緑っぽい人がとんとんと歩いてきていた。声をかけてくる。
「こんにちはー、マルイアニメの方?」
ぺたぺたと音がなる。
「はい、お仕事中すみません」
オサムは挨拶しながら頭を下げると、緑は顔を明るめた。
「あー!どうぞどうぞ……靴はそのままでいいですよ、土足なんで」
屈みかけたオサムはふっと顔を上げその人を見る。
「え?……あぁ」
「じゃあ俺はこれで」
横でノボルは体を返し、扉をがちゃっと開けていった。オサムは振り返って謝辞を言うと、にっと口元をずらし消えていく。
その後ろで、緑はくるっと廊下を振り返り、一人で呟く。
「えーっと……まあいいや、とりあえずこっちに来ます?」
目をやりそう言うと、たらっと動きだした。オサムは返事をしながら廊下に踏み入れていき、周りの景色が目に入る。
アクリルと観葉植物が爽やかに照らされていた。壁には明るい星が散っているような模様がある。普通にちゃんとした制作スタジオだ。やべえ。
「こっちの部屋にどうぞー」
ちらほらと見回しながら進む先で、緑は開いた扉のそばに立ち、部屋を手で示した。
中に入ると、大きめの机と椅子が置かれた部屋だった。落ち着いた色に覆われており、壁には絵が所々に掛かっている。
続けて緑が入ってくると、椅子へどさっと座りながら、手元のソラを触り始めた。
「えーっと……」
「来たかの?」
人の気配がして、オサムは振り返った。白髭ぼーぼーの仙人みたいな人が、開いた扉に半身を出していた。垂れた髪の毛も白く、もはや目が隠れている。
緑は扉の方を見ると、肯定を返した。
「制作ちゃんの使い方とな?」
仙人はオサムの方に目を移した。オサムははいと頷くと、
「ならこっちで説明する方が早かろう」
と仙人はちょいちょいと手招きする。緑はそれに、椅子からがたっと動いた。
「じゃあお願いします、私ちょっとだけ用事あるんで」
そう言うと各人は動きだし、部屋から散っていく。
制作現場に入っていく。
広い部屋には、大きい数人用の机がいくつも散っていた。机の上にはごとごとと物が置いてある。
辺りでは、掃除をしているような人がいた。掃除機のようなものを床に当てていき、すうすうと床を擦る音がしている。
部屋を見ながら、オサムは一つの机に向かい歩いていった。
そこに座る仙人は、上は真っ白だが、脚は妙に若々しく見えた。近づくと、机の上に散乱している紙をばたばたと触っていたのが、気づいて話し始める。
「制作ちゃんは何も難しいことは無くての、とにかく材料を入れていけばいいだけなんじゃよ」
「材料を……」
ソラを触り、手元に画面をつけながら話す仙人の前で、オサムは宙に呟く。
「まず脚本入れるじゃろ?……順番も別にどうでもよくての」
そう言うと仙人は、机の上から紙の束を手に取り、画面の影にすっと透過させていった。画面がレジみたいに反応して変化する。
へーと小さく漂うオサムの前で、仙人は続けて手を動かしていく。
「絵コンテを入れて……」
細かく描きこまれた絵コンテがちらっと見える。仙人はそれを同じように画面に通した。
「設絵も…まあ普通じゃな」
続けて持った紙の束をぱらぱらっとめくっていくと、自然物や人工物の美術設定みたいな背景が見えていく。ふんふんと頷くオサムの前で、それらを次々に画面に通していく。
「で動き原は……?」
仙人はきょろっと机の上を見回し、がさごそと腕を突っ込んで漁り始めた。
「すみませーん、掃除してもいいですか?」
ふっと傍に人が来た。さっき部屋の端で動いていた人だ。それに気づいたオサムが少しずれる。
「あっすまんの」
仙人は手を探りながら顔を上げ、がたっと机から立ち上がっていった。
2人は廊下に出た。
手元をばたつかせる仙人と歩き始めると、向こうから緑の人が来た。軽く声をかけてくる。
「すいません、今掃除してて」
オサムが応えると、緑はさっと2人に並んでいき、仙人の手元を見る。紙だらけの手をばたつかせ、仙人は何かを探しているようだ。
あっそうだと緑は呟くと、すぐに反転してどこかに歩いていく。その横で仙人は再び話し始めた。
「動き原は……これじゃな」
なんとか取り出した紙の束をぱらっとめくると、ひどくラフに描かれた原画が見えていった。
2人は玄関ホールに出ていく。
仙人はそれを画面に通すと、続けて手を動かし重ねていき、別の紙の束を手に取っていく。
「でキャラデザ……も普通じゃなぁ」
手に持つ紙の束には、キャラデザが描かれているのが見える。
2人が玄関にたどり着いていくと、早い足音がぺたぺたと後ろからして、横に緑の人が戻ってきた。緑は仙人に目をやると、前へ動いていき扉を開けていく。
「絵ざわりはこんなんじゃ」
微かに抜けた音に、扉をくぐりながら仙人は説明を続ける。示した紙の束には、よく描き込まれた、特徴的な質感の絵が見えた。
別の明るさの中に出ていきながら、オサムはその紙の束を見て声を出す。
「えっそれ絵ざわりですか?」
扉を通りながら言うと、後ろから緑が反応した。
「制作ちゃんは、結構少ない枚数でもいけるんですよ」
オサムは振り返って驚きの声を出す。仙人は扉を出て横の壁へ行きながら、そうじゃそうじゃと思い出したように相槌を追った。
「後は……色組みが無いの?」
「こっちにあるの使います?……適当なのありますけど」
緑は扉から離れていきながらソラを触り、さっと紙の束を取り出すと、それを仙人に突き出していく。
「あぁそうじゃな。……これも普通じゃな?、入れて…」
受け取った仙人は、それをちらっと見せた。シーンの時間帯などの、様々な場合分けにより指定されている、色の具合を示した絵が見えた。
2人の前に立った緑は、続けてソラから紙の束を出していき、仙人に手渡していく。
「で撮影組み……」
仙人は頷き受け取ると、流れるように入れていく。ちらりと撮影の具合が示された、表情豊かな光が表現された絵が見えた。
「……でいいかの?」
仙人はそう言うと手を動かし、動画を再生し始めた。音が鳴り、それら全てが材料として統合されたような映像が手元で流れ始める。
オサムは緑と一緒にそれを覗き込んでいき、理解の声を流した。
「あとは音関係とかは言いました?」
緑はふいと仙人を見る。仙人は椅子をどこかから取り出して置き、その上に紙の束を置いていっていた。
「あぁそうじゃ、声とかの音も、でき次第適当に入れていっていいんじゃ」
仙人は身を起こして答えた。緑が床に向かっていくそばで、オサムが頷く。
「なるほど……じゃあ基本の部分が大きく違うわけではないんですね」
胡坐で廊下に座った緑は、目の前の椅子の上に急須と湯飲みを出していきながら、それに頷いて答える。
「まあでも統合的に作るっていう性質があるんで」
そうじゃなと仙人が納得に頷く。オサムは椅子の方を眺めてじっと聞き、統合的?と疑問を放した。
緑は湯飲みにお茶を注ぎながら、説明を続けていく。
「例えば……音に関する細かい指定を絵コンテに書いたりとか」
理解の声を浮かせるオサムの横で、腕を組む仙人が続く。
「絵とか動きの指定も、脚本側である程度出来たりとか…」
さっと立ち上がった緑が、オサムに湯飲みを差し出した。オサムは会釈とともに茶を受け取っていきながら、なるほどと納得の声を出す。緑はずずっと一口飲んで頷く。
「あとは補完機能がしっかりしてますよね。さっきの絵ざわりもそうだけど、描いてない所を作ってくれるのが上手くて」
そう言いながら椅子の方へ目を移していくと、仙人は身を上げながら同意に頷いた。
手を止めて聞いていたオサムは、別の疑問を転がす。
「…入力した時のブレとかはどうですか?……時々によって仕上がりが違うとか」
仙人がごくごくと飲んでいく横で、緑が巡らせる。
「別の材料を入れたりとか、他の部分をいじってたら関係ないところまで連動して変わってしまう、みたいなことですか?」
ずずっと飲んでいたオサムが、そうですと頷く。
「まあそれは抽象的に作る以上は仕方ないかなー……」
そう緑は仰ぎ言うと、横で仙人が、屈んで急須に手を伸ばしながら声を出す。
「そうじゃなー。だから拘りたい所ははっきりさせて指定していく……というのは、引き続き重要なんじゃな」
なるほどとオサムが頷いていくと、隣の扉が開いた。
掃除の人は、場の様子をくるっと見て呼びかける。
「あ、いいですよ」
「了解ひゃ」
仙人は口に飴玉を含みながら答えた。
第2章
ある城の屋上の海にて。
人の賑わいの風が吹く、砂浜と海が広がっている中を、2人が歩いていく。編み込みの躍るベストと、青いバナナの髪だ。
すんすんと歩くベストの後ろで、青バナは辺りを眺めながらついていっている。
今日はロケット発射実験とパンフェスと昔のおもちゃ体験会が併催されているので、広がる景色が随分賑やかだ。
城の縁の方には適当にテントが並んでおり、少し首を傾げれば上空に、隣の城の上に立つ超高層マンションが視界に入る。
ちなみに城は上から見ると円状で、直径はおよそ500mだ。東京ドームが200mの四角形ぐらい。
さあ、イベントが動きだすよ!!




