……へぇ
マンションの部屋が並ぶ中を、黒っぽい女形がとんとんと歩いていく。辺りは静かだ。
歩いていく行先に、しゃがんで何かを見ているゴスロリの姿があった。
「アップデート来た?」
近づきながら言うと、ツムギが気づき振り向く。
「あぁうん」
扉の横には、色づいた模様が浮かんでいた。下にはそれを映す、黒い立方体の機械が床に置いてある。
イオリは横に来ると、ふさっとしゃがんだ。
「…こんな感じね」
緩やかな光に目をやると、中に手を入れてみる。黒とオレンジっぽい模様に、妙な生物と変なキャラのようなものがはしゃいでいた。
すっと黒髪を近づける。色づきの中に、じっとした目線を突っ込んだ。
「匂いも無い?」
「無い」
横で立ち上がりながらツムギが答える。
「本当に見た目だけってことか」
ツムギは扉のドアノブに手をかけて頷いていき、開いていくと、向こうからぱたぱたと足音がするのに振り向いた。
「あの3人落ちたよっ」
アジサイの髪の女形が来た。吐息を漏らしながら、大真面目な顔で報告する。
イオリは動かしかけた手を床に落として振り向き、顔を上げた。
「……あぁそう」
すぐにホログラムに目を戻すと、下の機械をさっと持ち上げてみる。
「結構ごついね」
少し覗き込むように、アジサイの髪がそれを見ていく。扉を足で止めていたツムギは再び開けていった。
「まあまた少しずつ改良版出していくんだろ」
それを聞いてイオリは納得を呟くと、機械を戻して、立ち上がっていく。
閉まりかけた扉を開くと、中の廊下に目が行く。続いていく床にも、そこら中にホログラムが漂っていた。
「こっちも?……」
イオリの吐息がかすかに揺れる。
ゴスロリは廊下に上がっていきながら、前に向かって声を転がした。
「意味は無いけどなんとなく」
イオリはさっと靴を脱いで、廊下に上がっていく。
「カメラは出来た?」
軽く足を早めて言葉で追う。横に通りがかったリビングの中で、着ぐるみの頭が見えた。大画面でアニメを見ながら作業しているようだ。
「いや、立体ディスプレイの方やってたから、まだ終わってない」
ツムギはそう言いながら扉を残すと、部屋にイオリは続けて入っていった。
「じゃあさっさと終わらそう」
その後ろに、廊下をアジサイの髪がすたすたと歩いてきた。その扉の前を通り過ぎ、別の方に向かっていく。
奥の部屋には窓とベランダがある。そのうちの一つの部屋にて。
ほとんど何もないカラッとした部屋は、窓が開いており、日差しが床を流れていた。
茜色の髪が外気の中で座っていた。ベランダで俯いて、手元のソラで手を動かしている。
ふと後ろに気配を感じて振り向いた。
「こんにちは」
視線の先には、アジサイの髪の人がいた。
「こんにちはー……プロの方の話はどうでした?」
アジサイはベランダに入り、横に腰を下ろしていきながら聞く。手元に戻りかけたアカネは応えた。
「とりあえず話をしてもらえることになりました!」
「おー!良かった……楽しみだね」
顔を輝かせるアカネに、アジサイは体育座りをしながら緩む。
前に視線をやると、空中に浮かんだ景色があった。巨大なマンションが端に見える。
空の遠くをこまかく音がうつっていく。アジサイはふと振り向いた。
「……それ何かやってるの?」
ぴらぴらと動いている手を見て呟くと、アカネは振り向く。
「これは……」
そう言いたたっと手を動かし、画面を現わす。
「二次祭り用のキャラのホログラムを作って欲しいって言われて、……それ使って会場の中を歩かせたりするらしいです」
3Dのキャラをモデリングしていたようだ、細やかに作られた、カッコかわいいキャラが映っていた。
「へー!なるほど」
覗き込んだアジサイは声を明るめた。
アカネはつられて笑みが差したかと思うと、突然立ち上がる。
「あっそうだ!会場一回確認したいんだった。ちょっと行ってきますっ」
そう言いながらさっと動き、会話が霧散した。
玄関の扉が開き人影が入ってきた。黒いだぶだぶのTシャツを着ている。
その女形は入っていくと、そこに素早く動いてくる人影に気づいた。人影は玄関に到達したと思うと、靴を履きに体を落としていく。
こんにちはと、背後で閉まっていく扉の中で、女形は声をかけると、アカネはばたっと立ち動きながら、
「こんにちは!」
と元気に返し、閉まりかけていくドアに向かっていき、そのまますいとどけると、勢いよく外へ飛び出していった。
そのツツジ髪の女形は足元を崩していくと、今度はとんとんと廊下を歩いてくる音が聞こえ、顔を上げる。
「バイト?」
廊下に上がり、ホログラムがゆらぐ中へ入っていきながら声をかける。
歩いてきたユイは巨大な頭でアニメ館とだけ答え、下をくぐってよけていくツツジとすれ違っていった。
ツツジはそのまま廊下をたたっと歩いていく。
前の方に別の廊下から、アジサイの髪がゆっくりと姿を現してきた。
「ムスビさんっ」
その方に目をやって声をかけながら、サキは近づいた半開きの扉を開けていく。
中に入ると、目当ての2人がそれぞれ床に座って、手元で作業をしているのが目に入った。
「ごめん雑巾とかある?」
入って言葉をそこに真っ直ぐ飛ばす。胡坐をかいて何かを作っていたようだったツムギが振り向いた。じろっと一瞬こちらの視点をまさぐる。
「…雑巾?」
「ちょっと色々汚れててさ……無い?」
立ち上がり近くの机に向かっていくツムギに、サキは適当な説明を重ねる。その後ろを、ムスビはすっと部屋に入っていく。
ツムギはソラ箱の上に浮かぶ画面を、さらっと触っていくと呟いた。
「……そっかここには無いか……」
「これ使う?」
振り向くと床に座るイオリが、タオルを2,3枚、入口の方へ突き出していた。
サキはごめんと言いつつ、手を伸ばしそれを引ったくる。
後ろを振り返っていくと、目の前に血っぽい女形が立っていた。マツリだ、服にうっすらと血が滲んでいる。
「下拭いてきます!」
「下は大体拭きましたよ!」
即座に答えるマツリは部屋の外へ向かうと、廊下で足を止めたサキが振り返った。
「そうですか」
「はい、後は自分でやると思うんで、渡り通路の方行きましょう」
そう言って廊下で歩みを早めた時、空気が裂けた。マツリの声が飛び上がる。
「あっすいません!」
後ろにいたツムギは、床に転がる黒い機械へ動いた。倒れて角度のおかしい色づいた光とともに、それを横にどけていきながら、顔を上げて言う。
「手伝いましょうか?」
マツリはとんとんと片足で、後ろを向き落ち着いていく。
「えーっとじゃあお風呂とかは……ここどなたの家でしたっけ?」
「じゃあ渡り通路の方頼む」
マツリが頭をくるっと見回していると、素早く戻ってきたサキが、タオルを押し付けてくる。
ツムギは手元に目をやりながら、
「…風呂なら俺の家が下にあるんで使ってもいいですよ」
と顔を上げると、マツリが声を浮かせた。
「本当ですか?分かりました、じゃあお願いしますっ」
そう言って体を返していく。
ツムギは動きながら返事をすると、立ち止まって後ろを向き、そこにいたイオリにタオルを突き出した。
「…あぁ頼んでいい?」
「…え?」
イオリは一言落とし、ゆっくりと手を持ち上げながら見る。ツムギは手にぽんと押し付けていくと、
「頼む。後で何か奢るから」
と言って体を返し、玄関へ歩きだした。
後に残されたイオリは突っ立ってそれを眺める。やがて静かにちらっとムスビを見ると、続けて廊下を歩いていった。
準備の進んでいる会場に行ってみよう!、どんなことが起こってるかっ?




