一緒に祭りでもするか!
どこかの施設内にて。廊下で長椅子に座る2人の女形がいた。楽しそうに話し、言葉が跳ねている。
そこへ、廊下を歩いてくる黒い大柄な姿があった。2人に近づいていき、声をかける。
「すいません、アカリさんって方ご存じですか?」
2人は話すのを止めて振り向くと、目の前に古代の暴君王のような格好の男形がいた。黒いマントのようなものを纏う、中年の髭面だ。
「……いやちょっと分からないですね」
手前の女形は心を発泡スチロールで固めながら答えた。
そうですか、と暴君は軽く受け答えると、手前は動き少なく頷いていく。
「はい……」
「あれどこだろう?……ありがとうございました」
暴君は惑うように廊下を見回すと、謝辞の言葉をほうり、踵を返していった。
「……今のもしかして八重さん?」
奥で見ていた、暖かい色の上着が呟く。手前はそれに振り向いた。
「知ってる人?」
「多分……」
褐色の女形は言葉少なく立ち上がり、席を離れていく。
階段の空間につくと、上へのぼっていく黒いマントが目に入った。
「八重さん?」
姿を目に入れて下から声をかける。空間に重なり抜けていく声に、暴君は振り返った。階段を跨いで下へ、視点を飛ばしほじくる。
「はい…え?」
「やっぱそうだよね!、私…オト」
そう指で自分の顔をさしながら言う。翡翠の瞳から、笑みが響いている。
「あれっオト!?」
八重はすぐに階段を下り始め、声をひらいた。オトは階段に近づいていく。
「誰か探してんの?」
「えっと……戦略部門のアカリさんって人見てない?……さっき3階の部屋に一緒にいたんだけど、どっか行ったみたいで」
とつとつと階段を下りながら言うと、オトは巡らせていく。
「いや、見てないね……」
階段の終わりごろで足を止めると、八重はふと疑問を口にした。
「あれ?…っていうか何でここにいんの?」
オトは顔を戻し、ちらっと自分を示して答える。
「私、声優の仕事もやってるからw」
「そうなんだ!へーすごっ」
「うん……ちょっとその人探してみようか」
オトは軽く頷き、そう言いながら八重の横に歩いていった。
「八重は何でここにいんの?」
階段を上り始めながら声を流すと、八重は向きを変えて再び上り始める。
「えっとね……二次オタク祭りっていうのをやることになって」
たたっと上がって横に行きながら説明を始めると、オトは声に水をにじませる。
「え何それw」
踊り場をぱたぱたと通りながら、説明を続ける。
「要は、色んな世界観の……オタク的な人が集まって祭りをやろうみたいな?」
再び段を上がり始めたオトは足を遅めていき、手すり側に身を寄せていきながら呟く。
「…オタク的な人……?」
その目線の先で八重は、反対側の壁に体をつけていく。
「アニメコーナーみたいな感じで……別にそのためのキャラを、世界観ごとに何人も作って」
「あーなるほど!」
オトは亀のようにスローモーションになりながら宙を見て、理解の明るさを咀嚼していく。
「でそれを今度のアニメフェアで一つのテーマとしてやろうかっていう」
「へー!面白っ!w……私も参加していい?」
オトは動きを止め、自分を指さしゆらっと笑んだ。八重は肯定すると、
「おーやった!、なるほどそういう風に分けてね……」
と再び足を動かしてオトは上り始める。
「そう……それでアイドルプロジェクトの人を誘って」
八重は階の床に上がっていくと、前の方でオトは歩きつつ言葉を落とす。
「アイドルプロジェクトって何やってんの?…あんまり知らないけど」
そう言いつつ壁から半身をひょいと廊下に出して、通路を覗き込む。誰もいないようだ。
「色々あるみたいだけど、一つにスターシステムとアイドルを繋げるみたいなことをやってる人たちがいて」
オトは後ろに向き直って壁に背をつけた。すたすたと近づいてくる八重を見る。
「何?スターシステムって」
ふいと身を翻しながら疑問をこぼし、廊下に出ていく。ついていきながら、八重は続ける。
「スターシステムっていうのは、色んな作品に同じタマを出すっていうやり方で……」
オトは上の方を見上げて目線を引っかけながら、扉に手をかけがちゃっと開いていく。
「あー同じ作者の?」
開いた扉から、暗くがらんとした部屋に音が吸い込まれる。後ろから八重も中を覗き込んだ。
「うん大体同じ作者だね」
「でそれと?」
オトはちらっと振り返りながらばたんと閉めていき、再び廊下へ歩きだす。
「それをアイドルがやるってこと」
八重の言葉に、前を歩くオトの足がジェルに突っ込んだ。数歩進み、
「…えどういうこと?」
とくるっと振り返ると、それにつられて八重も立ち止まる。
「えーっと……だから普段アイドルとして、配信とかやって……あっアイドルは架空で、強くAIにはしないでね」
八重が小気味よく説明を流していくと、オトはふんふんと横にずらして頷く。
「そしてそのアイドルが登場人物の物語を作っていって、出来上がったらそれを公開するのと同時に、それを経験したテイになる?……でその影響で性格もちょっと変わったりして……」
「……え?」
オトは目をぱちぱちさせる。
「時間とかは歪んでて、すぐに行って戻ってきた……みたいな感じになるんだけど」
「……あーそういうことか!なるほど!」
理解にオトは漂うと、くるっと振り返り、再び歩き始めた。
別の階に出て、2人は歩き始める。ふと明かりに開いている扉がほど近くにあるのに気づき、オトはその方に歩きだした。
扉に手をかけて中を覗いてみる。
一人で踊り狂っている人が中にはいた。工事中みたいにごちゃごちゃした部屋に光が照っており、超ノリノリで楽器を弾いている。生っぽいベンベンと言う音が小さく響く。
「すいませーん、アカリさんって方見ませんでした?」
オトは覗いたまま声をかける。男形はすっと動きを跳ねながら緩めていくと、髪の毛を払い扉の方に向いていった。
「そっちの会議室に行きましたよ」
躍る息とともにさくっと言う。派手でセクシーな格好の男形は、手で壁の方をちらっと示した。
「あっそうですか」
オトは答えに軽く浮くと、隣で覗いていた八重と一緒に、すぐに廊下に引っ込んだ。
廊下を再び歩き始めながら、オトは横に視線をやる。
「…っていうかその恰好は何?w」
覇王のような八重の装いを眺める。黒いマントに、白い曲線がふいふいと流れている。
八重は自分の格好を見下ろした。
「あぁタマ祭りに行こうとしてた所だったからw」
「そっか!今日だったっけ。…私も後で行こうかな」
そう呟いて目的の扉に近づくと、がちゃっと向こうから扉が開いた。人の声と明るさの中から、明るい茶色の髪のワイシャツ男形が出てくる。目が一瞬合い、軽く会釈して入れ違う。
部屋の中に入っていくと、それなりに広い室内に、大きい長テーブルの中ほどで4人ほどが話していた。テーブルの上には、何か物が散乱している。
「どうなりましたか?」
八重はその場に呼びかけながら入っていく。
テーブルの向こう側に1人、こっち側に3人並んで座っていた。
話している向こうの人が、こっちに気づいた。手前側の一人が振り返る。
「八重さんすみません!」
入口に近い席に座っていた、ワイシャツ女形が謝辞を飛ばした。
黒の覇王は軽く応えながら3人の背後に近づいていく。その横に座る薄い緑茶の髪も、後ろを見て補った。
「なんかあの部屋使うことになったらしくて」
「みたいですね」
「八重さん、それぞれの世界の人がやることって具体的に何か決まってましたっけ?」
更に一つ奥に座るタンクトップの男形が、体をずらして声をかけてきた。
オトは八重の後ろから横に身を出して、場の話を聞いていく。
「いやそういうのは決まってないと思います」
タンクトップは顎を漂わせる。続けて机の向こうのパーカーが口を開いた。
「一応会場全体をホログラムで覆うなら、その辺歩いてる別の世界の人をホログラムで作るとか考えてたんだけど」
八重が歩き机を回り込んでいくと、それにオトも続いていった。目線を落とし、持っていた上着をソラに入れていく。
「あー会場内にキャラのホログラムを歩かせるってこと?」
「そう。なんなら通路とかまで覆えるなら、そこもそうやって歩かせたりとか」
パーカーの席の隣に来て、椅子を引いていく。更にその隣にオトが手をかけていきながら、声をぽんと浮かせた。
「あっ、会場内にも来るってこと?」
八重は座っていきながら横を見る。
「そうそう、各世界から集まってきて……一緒にここでアニメフェアやるっていう」
「あー!そういうことか……あー…あれ、じゃあ向こうの動きとかは?」
「向こうの動き?」
向こうで反応するタンクを見て、オトは爽やかな袖をまくっていく。
「えっ向こうの世界で、こっちの世界で祭りがあるってことを聞いて……みたいな流れとか……」
「そっか!それもあったわ」
「そういう話もしてたけど……何か忘れてたねw」
場がなびいた。その反応をオトは見ていき、話を続ける。
「例えば何か全体的な動きがあるとか?……こっちの世界と他の世界が、次元の扉で全部繋がる……みたいな事件があるとか…適当だけどw」
八重が納得の声を弾いた。ハジメも反応し、
「確かにそういうのも考えないといけないかも」
と言うと、その隣のアカリが小さく頷く。
「そうですね。作る側の人が、どういう風に作ったらいいか分からないですからね」
オトは頷いて頭を振ると、片腕をついていく。
「え、会場内で何かやるってことを考えてるってこと?」
横を見て、八重とオトの視線が絡んだ。
「いや会場内っていうか、こっちの世界で?……つまりもっと何か、各世界観の人たちが、しっかり参加してる感が欲しいよねって話をしてて」
説明にオトは深く揺れて、
「あーなるほど……確かに!」
と机に向かい、ソラを手で触った。その前で2人の会話を見るハジメは、ちらっと上の方に目をやる。
「アカリさん、時間大丈夫ですか?」
横には、髪にうずくまるアカリがいた。顔を上げ壁にかかった時計を見る。
「あっほんとだ」
しっかり参加してる感ねぇ……どうすんべ?




