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             祭りの会場にて

着替えコーナーに来ると、左右に広がったあちこちの着替え用の仕切りから、カーテンの開け閉めの音が聞こえていた。人の軽やかな声と布の音に満ちている。

 ツムギは空きの仕切りを探して歩いていると、いきなり手元から声が聞こえた。

「あっちに空きあるよっ!」

振り返ると、体の近くに置かれた画面から、葡萄(ぶどう)が向こうの方を指している。ツムギはその方に目をやり確認すると、早歩きで向かい始めた。

  仕切りに近づくと、背後からまた元気な声が追ってくる。

「ちょっと待ってっ!」

振り返ると、葡萄がたたっと走ってきていた。髪と(よそお)いを空気に弾ませ、目の前で急停止すると、はらっと小さく舞って顔を上げ、

「こっちの方がいいかも!」

と緩やかに明るい布を視界に広げて見せる。

 ツムギは手を伸ばしながら同意をこぼすと、くしゃっと閉じながら葡萄の髪が再び現れた。

「だよね!とりあえずちょっと着てみてっ」

そう言い布を押し付けて、葡萄は身を(ひるがえ)していく。

 受け取ったツムギは改めて仕切りに向かうと、背後に元気な床と服の音が遠ざかっていくのが聞こえた。

 靴を脱いでいき、目の前の照明の光る狭い部屋へ上がっていく。壁の内側には画面が配されているようだ、落ち着く雰囲気が全体に広がっていた。横を同じように葡萄の髪が入っていく。

 ツムギは後ろを振り返り、カーテンを掴んでいった。外界(がいかい)が押し出され、静寂(せいじゃく)にうつる。

 黒い布がぱさぱさと空気に重なり、音が擦れる。ツムギは身を回しつつ髪をほどき始めた。

「二次祭りって私たち関係あるの?」

さらっと声が響いた。

 見ると目の前に、しゃがんで腕に顔を乗せた葡萄が、上目でこちらを見ていた。ツムギはそれを見下ろして見ながら、そのまま鏡へ向きつつ答えていく。

「いや……そういうのも何も決まってないみたいだけど」

深いゆるみがはずれ、視界のふちに光が落ちた。黒い布が丸く立ち、指にちらりと髪留めが絡む。

「へー。……さっきアニメラジオ見ててさぁ」

落ち着いた何もない部屋の中で、ガラスの前にしゃがんだ葡萄は、そのまま続ける。指を腕に仕舞い、頬をあずけて袖に口元を触る。

「アニメコーナーで、その場で質問とか受け付けて対応していってたじゃん?」

「そういうの何かやってるみたいですね」

低い声とともに、布がぱさりと落ちるのが聞こえる。葡萄はぼんやりと目線を垂れて続けた。

「そういうやり取り的なものなのかな?と思ったんだけど……」

深い髪が揺れ、白いシャツの腕が動く。かたい音がしていくと、床には複雑な柔らかい音が落ちた。足でどけながら、相槌を続ける。

「二次祭りが?」

「そう……あっごめんっ」

葡萄は突然慌てふためき、勢いよくよろめき立ち上がりながら横へ動いた。

 脱ぎかけたシャツからツムギは戻り、顔だけを出す。動いていく姿を目で追うと、葡萄はそのままの勢いで画面から外れていった。

 残されたツムギは格好そのままに、体を壁の方に傾けていく。画面を横向きに眺め、静かになった部屋の景色を眺めると、再び頭をシャツに突っ込んでいった。


  会場は(おうぎ)形をしている。扇の根元にあたる部分にステージがあり、さっきの料理コーナーはその辺りにある。

 そこから扇の広がりに従って平たい場所があり、その先には傾斜と階段とともに、座席部分が会場の奥まで広がっている。今は座席は取り外されており、傾斜と階段だけが残り、そこにも光る画面や色々なものが散っていた。

  並んだ着替えコーナーの仕切りの横を、歩いていく姿があった。秋っぽい色のドレスみたいな恰好をしたツムギが、辺りを見渡しながら歩いている。

 やがて着替えコーナーを抜けて会場の傾斜部分に近づいていくと、近くに躍る声がやって来た。

「似合ってるじゃんっ!」

振り向くと、葡萄…もといシズクが空気を揺らして近づいてきた。もう一人一緒のようだ、すぐに続けて、

「あっそうだこっち、ハナちゃんっていうんだけど」

一緒に歩いてきた硫黄(いおう)ヘドロのようなうねうねした、花柄のタコ人間を紹介する。紹介を受けて、花柄はペコっとタコの頭を下げる。

「この子も二次祭りに興味あって」

ツムギの横にすっと近づいてくる影があるが気づかない。タコ人間は、こんにちはと女の声で挨拶した。

「こんにちは……ところで青い髪のちっちゃいやつ見ませんでした?」

「青い髪のちっちゃい……見た?」

シズクは少し屈んで、足を掻きながら横を見ると、ハナはタコ首をひねる。

「うーん……まあそういう人沢山いるし……」

そうゆらゆらと周囲を見て呟くと、ツムギも背後を振り向き、その辺を眺める。

「何っ?探してるとか?」

後ろからの声に、秋ドレスは背を向けたまま頷き、そうですと言う。

「なるほどっ!ちょっと待って……他の特徴とかある?」

明るい声に、ツムギは再び振り返っていくと、シズクは手元のソラを触っていた。ツムギも手元に目を落とす。

「えーっと……この人です」

ツムギは適当に画像データを弾きだし、宙に浮かせた。2人はそれに反応して近づく。

 あんまり決まってないくせ毛の顔が写っていた。

「……ちょっと借りていい?」

じっと見ながら伸ばされた手に、ツムギは頷くと、そのままその影を手に取り、シズクは手元をいじっていく。

「えーっと……他にもスタッフやってる人いるから、気づいたら教えてくれるかも」

シズクはそう顔を見せると身を返し、たっと傾斜の階段を上っていった。

 それを追って一行が動き始めると、秋ドレスはふと横についてくる人影に気づく。

「…あれ、アヤさん達は?」

海色に軽い線の入った、海賊みたいな恰好のヒロがいた。ヒロは歩きながらわずかに顔を上げると、小さく首をひねる。

「それでっ?!…あっまだ何も決まってないんだっけ」

人の散る中に入っていき、見渡しながらシズクが話を始める。

 辺りには沢山(たくさん)の物があった。キャラの絵や模様が入った、何かに貼るステッカーやタオルなど、様々なものが売られ、置かれている。トレイや棚を単位としてまとめられたものがそこかしこに並べられ、もう既に(から)のものもちらほらと見える。

 ハナは画面をとびとびに行きながら口を開いた。

「二次祭りってアニメコーナーみたいなのなんですか?」

可愛いタコ顔を画面から出し、人のちらりと行きかう中を歩いていくツムギに声を出す。

「普通に考えればそうなりますよね」

横の方へ目をやりながらツムギは答えると、ハナは別の画面へと向かいながら、ふんふんと頷く。

「さっきは複数の世界で、それぞれの世界観の祭りを同時にやるとか、他の人と話してたんですけど」

歩きながらツムギは会場の中心方向を眺めていくと、

「あぁ、なるほど……」

と今度は前の方から、ハナの声が小さく聞こえた。

 その上の方に高く掲げられた画面から、続けて別の元気な声が聞こえてくる。

「例えばアニメフェアやるとか?」

画面の枠にまたがったシズクが、ぱっと通路を見下ろした。秋ドレスは見上げて振り向き、笑みを漏らす。

「……あぁ他の世界でも?」

「うんw……あっ!」

シズクはひらりと頷きながら体を投げると、何かに気づいたように駆け出していく。

 一行はそれを追って動くと、やがて向こうの画面の一つからシズクが手を振った。

人とすれ違っていき、様々なタマの表しが目に入る。

 そこら中に置いてある画面では、こちらと同じような会場の雰囲気の中で、沢山のキャラが動いていた。外には(あふ)れるようにグッズ類が置かれている。

「これ私のグッズだけどどうっ?」

一行がその場所に近づくと、シズクが勢いとうきうきが漏れ出すように聞いてきた。

 他と同じように、そこには堅い紙で作られた小さな棚が置いてあった。シズクらしき絵や模様が入った、眼鏡拭きやコップなどが、ばらばらと掛かっている。

 ツムギははらりとそれを眺めて一言、

「……まあいいかな」

おーいっ!とシズクはずっこけていく。その後ろから、吸い寄せられるようにヒロが近づいてきた。

「……俺買います」

「ほんと?!いいよっ買って!」

シズクは猛烈な勢いで立ち直ると、棚の前で買っていくヒロに抱き着いていきすりすり……しようとして画面の中で再びずっこけていく。

 背後の画面でそれを避けたハナは、そのまま話を続けた。

「でも合う世界観は限られるんじゃないですか?」

一行は再び動き始める。すぐにたたっと戻ってきたシズクはそれを聞くと、一瞬ぼんやりと立ち考えた。

「…そっか、石器時代とかだったらアニメ無いしねー……」

再び身を弾ませてそう言い、一行の前へ走っていくと、今度は上の方へかじりつき上っていく。足元がぴらっと光った。

「…石器時代……?」

床に落ち倒れている画面がそこにはあった。

 ヒロがぼそっと呟く横で、歩くツムギはそれに近づきながら相槌を打つ。

「まあそうだね……どうですか?自分の作品だったら、祭りとかやりそうですか?」

しゃがんで画面を拾い立て直しながら、ドレスは振り返って(そば)のヒロを見る。

 海賊は足を止めて首を傾げた。

「うーん……まあしないですかね……?」

「君アニメ作るのっ?!」

頭上の方から声が降ってきて見上げると、

 2つの手とシズクがあった。逆立ちをしているようだ、目が合う。

はいと小さくヒロは頷いた。

「へー!そうなんだ!」

そのままの体勢でヒロをじっと見る……と顔に服が被ってきて、ぴょんと跳ねて降りていく。

「じゃああれはどうなんですか?アニメコーナーでやってる、…」

ふと気づくとハナの声がなぜか遠のいていく。振り返ると画面が無い場所のようだ、すぐにヒロが手を持ち上げ画面の影を出すと、途中からそこから聞こえ始めた。

「、…本編とは全く関係ないキャラを作って出すってやつ」

ヒロの手元から声が出てくる。ツムギはそこに視線を移して理解を示していると、シズクが声を上げた。

「何それ?…あっちょっと待って」

ヒロの目の前のシズクの背中が止まった。制した手はぴらっと消え、自身のソラ端末を触るのが見える。

 くるっと振り返ると、ヒロの顔を下から覗き込む。

「向こうにいるみたいだよ!」

シズクは会場の中心方向を手で指すと、ぱっと画面を残して去っていった。

 一行は指された方へ、向きを変えて段差を下り始めた。

移動するにつれて、辺りが少しずつ暗くなり、光る画面の数が多くなっていく。ハナは画面にちらちらと映りながら話を続けた。

「本編のキャラをそういうのに出すと、それがいつなのかとか……時期と内容によっては違和感があったり、矛盾(むじゅん)が出かねなかったりするのが気になるじゃん?」

ツムギが止まって、何かその辺の物を買い始めたのをよそに、ハナは説明していく。

 ぴょんぴょんと薄い暗がりに光を跳ね、シズクは振り返った。

「気にならないけど!」

「そういうのを避けて、当たり障りのない内容にするみたいな回避法もあるけど、でもそれだと場所とかも……劇中で行ったことが無い所を、一緒に話しながら探検するとかもやりづらい……ってことですよね?」

「そういうことだったんだ!」

再び歩いていくツムギにハナが言うと、前でゆらゆらと光っているシズクが明るい声を上げた。ツムギは段差を下りていきながら、それに頷いて繋げる。

「そう……なら本編とは全く関係ないキャラを作ったらいいんじゃない?っていう」

シズクが暗がりに納得の声を上げていく中、ハナは頷きながら顔を上げ、ん?と目を前方に止めた。

「あれ、あの人?」

一行は振り向いてその方向を見る。

薄暗い中に大量の画面が光りうごめき、何が何だかよく分からない。

「……いや分かんないけど」

ツムギが呟くと、

「ついてきてください!」

とハナは明るめた声をこぼして、先立って動き始めた。

二次祭りの発想を作ろう!

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