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オタクは黙ってバッティングセンター

  面白ラジオスタジオにて。

ラジオスタジオと言いつつ、その実はテレビスタジオ的だ。文化フロアのこの一角で、音だけではなく映像も使い、様々な変な番組を作っている。

 今まで出てきた人たちの多くがここの関係者だ。先のイベント類もここの人たちが関わっている。

 テレビスタジオのような、セットのある広い空間がある。そのカメラ側の外にはスタジオの通路があり、その通路に沿って2,3個同じようにセットの空間が連なる。

 スタジオは6階まであり、今ここは3階の、一番奥の仕切りだ。アニメラジオという名の、アニメの情報と共に色々な試みをしている番組が放送していた。

 ここにも今日は妙な格好をした人がセット内のそこかしこにおり、雑な色合いを(かも)し出していた。

 今はラジオではアニメコーナーをやっているようだ、その辺に置いてある画面にキャラと背景が動いており、セットの中の人はゆるい空気の中ばらけて、各々適当なことをしている。


廊下の最奥(さいおく)にぽつんと置いてある小さいテーブルから、黒っぽいやつが立ち上がった。ソラを触りながら歩きだす。

  セット内のカメラの後方で、色おじ八重が腕を組んで話している。隣には、深海の髪の老婆がいた。

 八重は半身を回し、通路の方からセット内へ入ってくるゴスロリの方を振り向く。

「色んな世界の祭りを色んな世界観で同時にやるとか?」

近づいてくるツムギは顔を上げると、胸元にあった手を下ろしていく。

「…あー……一つじゃなくて?」

「うん、でこの世界もその一つみたいな?」

「そんな感じになるのか……」

ツムギは少し離れて立ち止まると、その辺にぼんやりと視線を置いた。八重の隣から老婆の声がする。

「でもそれだと世界観によっては、雰囲気が合わない可能性がある?」

八重は振り向き、一瞬巡って言う。

「…あぁ祭りだから?」

深海は見上げてうんと頷く。

「まあそれはそうかー……」

じっとセット内を眺めていくツムギは、思いついたように2人に目をやった。

「じゃああれは?……本編とは関係ないキャラを作るとか…あっでも祭りなら大規模だから無理か」(詳しくは後述するぜ!)

喋る途中で自己完結して、視線と体をセットの方へ戻していく。

「…あぁ、そういうことね」

2人はすぐに把握したように、理解の相槌を流した。

 間の後、ツムギはくるっと体を(ひるがえ)すと、通路の方へ再び歩き始めた。

「ツムギ!」

八重が視線を回して呼び止めると、黒いスカートが半分ふらっと振り返る。

「イロハさんの所行くの?」

「うん」

八重は体を後ろに向けながら、

「新人賞のアニメフェア用のPVの話だけどさ、本編の軽い前話とかどうかなって思って」

向こうでツムギも振り返っていき、聞き終わると、なるほどと理解に動いた。

 彼らはこの『アニメラジオ』で新人賞を設けている。脚本や絵など、どんな材料でもいいので募集して、良いのがあったらそれを使って映像作品を完成させる、というものだ。その作品を、今進行中のアニメフェアに出展するようだ。


「本編の最初のシーンとかも使っていいから、どんな作品かって分かるような、ちょっとした最初の部分への入りみたいなのとか良いかもとか言ってて」

声を漂わせるツムギに、八重はどう?と聞くと、

「…それいいね」

と軽く(こた)えた。八重の同調に、ツムギは頷く。

「うん。普通のPVより分かりやすくていいかも……ツバサさんには話した?」

思い出したように付け加えて聞くと、八重は頷いた。

「うんもう言った、OKって」

「…じゃあその追加分を頼めばいい?」

体を廊下に向けていきながら八重に目をやる。

「そう。いい?」

八重は頷くと、ツムギは返事をして体を動かしかけ、

「ハネは?」

と再び振り返った。前に戻りかけた八重も首を戻す。

「なんか脚本の進み具合を見てくるとか言ってたけど」

「どこか分かる?」

いや、と八重が首を振る。

「あぁ……分かった」

ツムギは頷くと、体を返していった。



  文化フロアの、あるバッティングセンターにて。

樹脂(じゅし)と人工物に軽やかに光が浮く中、カキンカキンと軽い音が響く。

 地味な格好の黒もじゃが、(あみ)の外にいた。通路の壁にもたれて、網の中をぼんやりと眺めている。

 カチャっと前の仕切りの扉が開き、バットと目線を垂らした地味な灰色が出てきた。

「それでさっきの話は?」

開いていく扉に声をかけると、ヒロは小さく顔を上げる。

「それで……プロの方に仕事依頼するとかって出来るのかなって思って……」

後ろを向いて閉めながら聞くと、アヤは理解に浮いた。

「そういうことか。それは人によると思う」

ヒロは俯きがちに近づいていきながら、思案の音をこぼす。アヤはポケットに手を入れたまま、壁から背を離した。

「誰か頼みたい人は決まってんの?」

「…マルイアニメの高橋さんって方です」

傍に来たヒロはバットを股に置き、手袋を外し始めながら答える。アヤは一瞬納得しかけ、

「……でも高橋さんって動きだったっけ?」

と目線をひねった。ヒロは頷く。

「一応動きもやったことあるらしくて」

アヤは納得し、手元を触るヒロを見て続ける。

「へーそうなんだ…。…作品はもう完成したの?」

「してます。…公開もしました」

そう言いヒロは頷き、もう一方の手袋をいじっていく。

「じゃあバージョンアップってことか」

「そうです」

一瞬の沈黙のうちに目を上げると、アヤが別の方を見ているのに気づく。ヒロはその視線の先を見た。

「…ツムギだ」

アヤの呟く先に、黒い影が歩いていた。網の中の方を眺めながらすたすたと歩き、こちらに気づかずにさっと通り過ぎていく。

  ツムギは一つ先の仕切りの前へ行くと、網の中を見ながら一瞬足を遅めた。すぐに速度を上げ、通路をさらに歩き始める。

もう一つ奥の仕切りの前で足を止めていく。流れに体を傾けながら覗いていき、中の動きを確認すると、元来た方へ(きびす)を返していった。

  再び一つ前の仕切りに戻ってくると、網越しに中を見ていく。

「コトハさーん」

中には、変な格好でバットを構えている人がいた。ぼんという音と同時に思いっきり腕を振ると、振った勢いで体が回りながら、ヘルメットを抑えてそのまま振り返っていく。

「はい」

コトハは動きに流されながら返事をして、仕切りの外の黒っぽい姿を見探っていく。

「脚本はどうですか?」

「出来ましたよ」

バットをたらっと垂らしたコトハは返事をすると、ゆっくりと網の方へ歩き始めた。

 そうですかと、ツムギは手元に目をやっていく。その後ろから、先の2人が近づいてきた。

「ツムギー」

ゴスロリは振り向き、背後に近づいてくる2人に気づくと、

「アヤさん」

と視線を手元に戻しながら挨拶する。

 その後ろで、網に近づいていくヒロは、中に向かって声をはなす。

「コトハさん、タマ祭り行きます?」

ごすごすと尻を()くコトハは、バットをぐったりと垂らしていた。ぼんやりと目を泳がせ、

「あー……まあ私はいいかなー……」

と空気のように断る。ヒロはわずかな声とともに頷いた。

「そうだちょっとお話があるんですけど」

網の前で、ツムギが手元から視線を上げて言った。

 ケツから出された手は、はいと答える。

「今度のアニメフェア用に軽めの前日譚(ぜんじつたん)を作ろうと思うんですけど、お願いできます?」

「いいですよ」

即答が通り過ぎる。

「……いいですか?」

はいとコトハは頷く。

「ありがとうございます、じゃあお願いします」

ツムギは軽く頭を下げて動いていくと、詳細は追って伝えるんでと、少し戻りながら付け加えた。

 コトハはそれに頷き、くるっと野球へ戻っていく。

  網の外でツムギは足を運び始めると、背後にいた2人が一緒についてきた。

「ハネ見なかった?」

ツムギは歩きながら体を返すと、後ろでポケットに手を突っ込み揺れる、アヤの姿が目に入った。

「さっきまでいた」

「ここに?」

空気の明るい通路には、軽い色がぱかぱかと辺りに浮いていた。アヤは歩きながら頷く。

「うん、タマ祭り行った」

ツムギは把握して前を見る。入口へ向かっていくと、アヤが質問を返した。

「ツムギタマ祭り行くの?」

「ちょっとハネに用事あるから。アヤさんは行くの?」

オレンジ色の光に、音が柔らかな響きになる。施設の廊下に出ていくと、向こうには階段が見える。

「ちょっと行ってみよっかなーと思って」

アヤは(あご)で頷き、雑な声色(こわいろ)を並べた。

次回、いよいよタマ祭りに行ってみよう!

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