美少女、爆誕
マツリは話を再開し、
「こういうのがあって…まあ要は『線引きくん』みたいな感じで」
とその手元に影の画面が浮かんでいた。すでにハネが身を出して覗き込んでいる。
何らかの機能が表示されているようだ、カメラのように辺りの景色が透過している。
マツリはその画面を持って皆に見せていくと、サキは覗き込んでいきながら理解の反応を示した。ハネが言う。
「でも線引きくんってグッズとかには対応してましたっけ?」
「そうです、だからこれ改良版なんですけど」
マツリは正面に近づいたハネを見て補足すると、へぇと呟く。
「それで、権利者の方に用意してもらったガイドラインと合わせて、説明するって感じですね。……それと事前にもこれを配布しておいて、参加者の方には作る前にそれで判定してもらうっていう……『線引きくん』と同じようにラフな絵とかにも対応してるので」
流れる説明に、場が理解に漂った。
「…難しいのは判定できるんですか?……例えばこういうのとか……」
続けてサキが疑問を揺らしながら、マツリの前に腕を伸ばしていった。テーブルの奥に置いてあった醤油入れを手に取り、一同の前にさっと持ってくる。
容器の口を指で塞いで、傾けて見せた。
「これ可愛いですよねw」
マツリが笑みに落ちる。
醤油の口から外を、中から覗き込もうとしているキャラが描いてある。傾けると、注がれるべき醤油を、キャラが上から覗き込んでいくように見えるというやつだ。
「あとは……」
サキはそれをテーブルの上にとんと置くと、ソラを触っていき、コップを取り出す。
柔らかな模様がコップ全体に描いてある、どうやら何かが描かれているようだ。
「あぁ、それね!w」
ハネが勢いとともに身を乗り出すと、マツリはそのコップを視線で触る。
「要はこれ全体が足の親指だから……ペロペロしながら飲めるっていう」
すぐに理解したマツリは、破れたように笑い始めた。乗ったサキは、更にソラを触っていき、別のを出していく。
「えーと…こういうのとかも?」
穏やかな色のTシャツを広げていく。笑いが止まらないマツリはテーブルに手をかけながら、何とか目を上げていく。
「腕の所を抱き枕みたいに抱き着いてるタマとか」
甲冑の上に当てていきながらサキは説明する。若干はだけたキャラが、幸せそうに腕を広げて眠っているさまが描かれていた。
ハネが理解に浮かぶ。マツリはそのTシャツを笑いながら眺め、少し落ち着かせながら頷く。
「それは見たことありますw」
サキは弾むように更に手を動かす。
「あと陰毛タオルとかw………あれ?」
ぽんと黒い布を出していったサキが、一瞬固まる。何それっ!とハネが弾けて手に掴んでいく中、サキは横を振り向くと、マツリは僅かに笑みに固まり揺れていた。
「あっすいません」
サキは真顔でばっと体を伸ばし、ハネが笑って掲げ広げる黒々しいタオルをひったくると、すぐにソラに戻した。
横でマツリは頷いて軽い笑みを含ませる。
「……まあ大体は反応できるとは思いますよw」
改めて目をぬぐいながらそう言うと、横でサキは手元の、先のTシャツをくしゃくしゃにしていきながら、声を戻した。
「そうなんですかwならいっか」
「…判断が難しいようなグレーゾーンとかはあるんですか?」
今度は斜め前のツムギが疑問を流していく。その隣でハネは横に置いてあるメニューを手に取って見始めている。
「ありえますね。一応、判断が難しい場合は取り下げてもらうことがありますって、事前に告知して呼びかけてますけど、もし起こったら納得してもらえるように努めます。……お互いにグレーゾーンは作らないようにしようとも言ってますけどね」
ツムギは納得に漂っていると、個室の入口の方に、人影がうごめくのが目に入った。サキはそれに気づかず理解の相槌を打っていると、「失礼します!」とまもなく個室に快活な声が響く。
見るとめっちゃ可愛い美少女だ。さらりと流れる黒髪に、服には元気な模様が躍っている。イオリではない。
美少女はテーブルの傍で腰を落とし、
「大変お待たせ致しました!こちら萌え萌え苺スムージーとコーヒーになります!」
ときらきらした笑顔で言うと、それらを配り始めた。
ツムギは手元に配られていく、ピンクのハートが盛られた巨大なコップに目を移していく。
「あぁこれ?……w」
配り終えた美少女はツムギの方をまっすぐに向き、爽やかな笑顔を見せた。
「じゃあお客様っ!一緒に萌え萌え儀式を行いましょう!」
「いや…」
「私がいちごー?と言ったら、しゅわしゅわー!と仰って下さい!」
輝かしい笑顔で、見事な接客だ。
「あぁいや……もうよくね?」
「いいからやれ」
「はい」
低く鋭く言われ、押されるように即答する。
「いちごー???」
美少女は両手をいっぱいに広げて超かわいい。
「しゅわしゅわー!w…」
ツムギは両手をぎこちなく広げる。
「きゃー可愛いーっ!お客様ーっっ!」
美少女はそう叫ぶとゴスロリにタックルを浴びせ、畳に倒れ込んでいった。
「あぁお客様っ激しいですっ…!」
ぐちゃぐちゃになりながら、声にならない音とともに2人はもつれていく。
テーブル越しに見るマツリは頬を揺らがせ、
「…大丈夫なんですか?」
「いつもの事なんで」
サキは流れるように答えると、マツリは理解に笑った。
全身もこもこの着ぐるみを着たやつが、別の個室から出てきた。
廊下に出て歩き始めると、なんか騒がしい個室があるのに気づく。ふらっと近づいていくと、中から我らが店のメイドが出てきた。
メイドはさっと靴を履くと部屋へ振り返り、完璧な所作で笑顔を振りまいて去っていった。
近づき覗くと、乱れたゴスロリが畳からむっくりと起き上がりながら、低い声を出していた。
「あー……」
「そうだ!」
その奥に座っていた空色の髪が、突然声を上げる。
「何?」
サキは個室の縁側に座っていく着ぐるみをちらっと振り返ると、テーブルの方に向き直りながら聞く。マツリも飲み物を吸っていきながらハネに注目した。
「秋祭りって色んな出店あるよね」
うんとサキが頷く。話すハネの横でツムギは深い髪を触り、再び変な髪型に直していっている。
「なんかそんな感じで、体験型の出店とかもOKにしたらよくない?」
サキは目を泳がせて聞くと、理解の声を上げた。
「あぁなるほど!…えっそこまで出来る?」
「…まあ乗ってくれる人がいるなら……」
俯きがちに髪を触るツムギがそのまま言うと、ハネは続ける。
「で屋上の上に更に建物作るとか?…それ面白いかも!ちょっと伝えてくる」
「え?ハネっこっちはどうすんの?」
ツムギは自らの手をどけながら視線を上げていく。部屋を回りかけたハネは、足を緩めて振り返った。
「…それは適当でいいんじゃない?」
「適当……まあ別に難しくは無いと思うけど」
ツムギは髪を整え終わりながら体を戻していくと、ハネは再びぱっと自分の席に戻っていく。
マツリがストローから口を離した。
「規模はどれくらいなんですか?」
「規模は…かなり大きいです」
ツムギが落ち着いて答えると、マツリは思案に漂っていく。
「じゃあカメラ設置するとかですかねー…」
「あぁ、それで疑似的に犯罪コード作るってことか」
サキの言葉に、マツリはそうですと肯定する。
ハネはそわそわしながら口を開き、
「で警告?…までは無理?じゃあ人がそこにいて担当者に通知とか?…あれ、そうだタマ祭りって後ちょっとですか?」
正面を見るマツリは、手元を動かして見る。
「…そうですね」
「うわー!早く行こうっ!」
「ちょっと落ち着けっw」
ツムギが制し、再び勢いよく立ち上がりかけたハネが、笑いながらバネのように戻っていく。
それを見てサキが言った。
「さっきそこにいたユイさんとかそういうの作れるよね」
一同の目線が縁側にふれていく。着ぐるみの姿はもう無かった。
ツムギはその方を見て、
「マジで?……じゃあちょっと聞いてみるか」
と腰を上げていくと、再びハネもさっと立ち上がっていく。
マツリはストローの先で氷の音を鳴らしかけ、動いていく2人を見ると、言葉を走らせた。
「あとそもそも許可しているか否かの判定とか、有料なら値段の判断とかも必要だと思います。全体的にやるんだったら色んな可能性があるので」
入口から振り返ったツムギはそれを聞くと、理解を示して部屋を出ていく。
廊下には明かりがさっきに比べると増えていた。その中を2人は歩いていく。
個室エリアを抜け、広く明るいテーブル席の散る場所へ出ていく。ハネが思いついたように言った。
「線引きしてない作品はどうするの?」
ツムギは首を動かし、各所で動くメイドを流して見ていく。
「線引いてるやつで作って下さいっていう告知はどうせするでしょ」
そのまま空間を横切っていきながら答えると、そっかとハネは理解に跳ね、たっと走っていった。
ハネはキッチンへ身を出し、声を出す。
「ユイさーん……いない?」
傍にいた美少女が振り向いた。他の店員と話していたようだ。
キッチンは爽やかな色に、軽やかに水が整っていた。少し奥にはイオリなど他の人がいるのが見える。
続いて中に入ってきたツムギに、美少女は目を上げた。
「……何?」
「ユイさんって情報処理とか得意なの?」
ツムギはその場に聞くと、ふっと後ろから声が聞こえる。
「呼んだ?」
振り返ると、全身着ぐるみがそこにいた。
盆を持ち、すんと立っている。
ツムギはユイと2人で歩き、個室の光の並ぶ廊下に再び入っていく。
「それぐらいなら出来るよ」
着ぐるみは前を見ながら言うと、ツムギが言葉で追った。
「出来ます?」
はいと着ぐるみは歩きながら小さく頷く。
「もしよかったらお願い出来ませんか?」
ツムギは続けて依頼をかけていく。元の個室の前で立ち止まりながら、着ぐるみは振り返った。
「いいけど……あっ私からもちょっとお願いがあるんですけどいいですか?」
着ぐるみの言葉に、ツムギも立ち止まっていく。
「はい、何ですか?」
次回、いよいよ面白ラジオスタジオに行ってみよう!




