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メイド

  1階の映画館部にて。

多くの人が行きかう中、壁際にさらっとした格好の女形(おんながた)がいた。視線の先には広告用のディスプレイがあり、勢いのあるアニメの映像が動いている。

「こんにちは、マツリさんですか?」

ふと声をかけられて振り返る。空色(そらいろ)のくせ毛の少年が、明るく差す瞳を向けていた。

 女形は肯定(こうてい)の返事をすると、ハネはくるっと身を返していく。

「じゃあ行きましょう!」

とんとんと向こうへ行くハネに、マツリは早足でついていく。

「タマ祭りって何時からですか?」

人が交差する雑踏(ざっとう)の中を歩いていきながら、ハネがちらっと後ろを見ながら聞く。

 6時からですと、マツリは少し身を近づけて言うと、楽しそうな声が上がった。

「あとちょっと!……あっじゃあちょっと早くした方がいいのか」

散りめぐる人のざらつきの横を、階段へ差し掛かっていく。とかとかと上っていきながらハネが言うと、マツリは隣についていきながら、ややくっきりと声を出した。

「いえ、もう準備は一通り終わってるので、しばらくは大丈夫ですよ」

それを聞いたハネは理解に頷き、2人は一緒に上っていく。


  再びテラス席にて。

「来たよー」

ゴスロリとメイドが、先の客と4人で相席(あいせき)で座っていた。

 客は2人で控えめに楽しそうに話している。メイドが小さい本を読んでいる横で、浮かぶ画面に手を動かしていたゴスロリは、軽い声の方に振り向いた。

「こんばんはー」

到着した2人の姿を目に入れて声をかける。後ろに近づいてくるマツリはこんばんはと、歩きながら挨拶を返してきた。

「人多いね」

立ち止まって店内を見回したハネが一言呟く。

 ツムギは辺りをちらっと見ると、料理を持った人がうろうろしている姿が目に入った。それを見て席を立っていく。

「ここ無理だね」

メイドはその声にふっと頭を上げると、続いて立ち上がっていく。

「上の階行く?」

「いや上も多いよ」

ハネの提案に、椅子を入れながらツムギが返した。メイドは椅子を入れると、顔を上げる。

「じゃあウチ来る?……多分空いてると思うけど」

「じゃあそっち行こう」

ツムギは同意して動きだした。

 そのまま一行は流れ、テラス部から下へ続く階段の方へ行く。ハネが先に駆けていきながら、振り返り声を出した。

「参加したっていうのは、どういうイベントなんですか?」

後ろで歩いていたマツリは顔を上げ、前の方へ足を早めていく。

「普通の同人誌即売会(そくばいかい)でしたよ」

「へー……どこでやったんですか?」

階段に差し掛かっていくと、眼下に料理屋部全体のうねりが見えた。隣に来たマツリは客を避けながら、体を落としていく。

「えーっとあの砂漠にある城の……屋上のプールです」

「あそこか!…どんな同人誌ですか?ジャンルとかは?」

先にとんとんと下りつつ、ハネは手すりを持って後ろを振り返りながら、質問を続けていく。

「いや特に偏りとかは無かったかな?…普通でしたよ」

足元を時たま見ながらマツリはゆったりと答えると、へーとハネは前を見て呟いていった。



  文化フロアの床を歩き、目的の喫茶店に着いた。

扉を開けて、メイドを先頭に一行が入りかけていく。後ろのツムギが思い出したように声を上げた。

「そうだ、サキいる?」

店の明かりの半開きの扉に、手をかけたメイドが後ろを向く。

「サキ?」

ツムギが頷くと、メイドは扉にかけた手を少し緩め、

「さっきは向こうにいたよ」

と動き少なく横を示した。ツムギは把握(はあく)し、その場を残して歩きだす。

 店の隣の(とう)へ歩いていくと、横に比べて地味な壁になっていった。

  扉を開くと、人の声が多く漂っていた。身を入れ、部屋の中を見回していく。

人がそれなりにいた。変な格好に身を包んだ人たちが、服をいじったり着替えたりしている。

 机が適当に置かれ、壁には何かと物がぶら下がっているような部屋だった。

ツムギは見渡しながら壁際を歩いていく。

 その近くで、椅子に座っていたアジサイの髪が、顔を上げてその姿を追った。

「…どうしたの?」

ツムギはその編み物をしている人を見る。

「サキいる?」

「あっえっとね…」

アジサイはがたっと席を立ち、辺りの部屋の中に目を差していくと、

「あの人」

と部屋の中ほどを指した。ツムギは見て頷き、そこへ足を向ける。


「サキ!」

甲冑(かっちゅう)を身に纏った女形が振り向いた。

「ツムギ!……あっちはまだ出来てないよ」

その女形は、虹色の甲冑を身に纏っていた。(そば)では、なにやら調整するように甲冑をいじっている人が動いている。

「いや……もう作ってる?」

うんと縦に頷くその人に近づきながら、ツムギは(あご)を漂わせ、

「あぁ……ちょっと状況が変わったから、一応伝えておこうと思って」

甲冑をいじる人は手を続ける。それに小さく身を動かされながらサキは応えた。

「何?」

「えっと……」


  薄暗い中で扉が開き、明かりとともに2人が出てくる。

「なるほどね……確かにそっちの方が良いかもね」

扉を通りながら言うと、前に進んでいくツムギが頷き返す。薄暗い廊下の両側に、開けた個室が明るく並んでいる中を歩き始めた。

 すいすいと見回しながら歩いていくツムギに、カチャカチャと音を立てながら追いついていき続ける。

「でも引き続き作るけど、別にそれはいいよね?」

部屋を見つけてふっと向きを変えていくツムギが、後ろを振り向いた。

「……あぁ分かった、じゃあ頼む」

ツムギは動いていきながらそう言うと、一つの部屋の明かりの前で、屈んで足元へ向かった。

 サキも続き、甲冑の音を立てながら靴を脱ぎ始める。個室の縁側(えんがわ)にツムギは足を上げていくと、振り返った。

「…それタマ祭りのやつ?」

「いや全然関係ないよw」

部屋の光の中で座っているメイドが振り返る。サキは笑いながら靴を足元でこぼし、細い縁側に上がっていく。

  開いた扉からガチャガチャと入っていくと、明るい小部屋で一つのテーブルを囲い、3人が先に畳に座り込んでいた。

 片側の奥に、見慣れぬ女形が座っているのに気づく。

「…こんにちはー」

呼びかけながらその人の隣へ歩いていくと、マツリは振り向き挨拶を浮かせた。マツリとその正面のハネの前には既にコップがあった。ハネのは空だ。

 2人がバタバタと座っていくのをよそに、ハネは正面を向き直って話に戻った。

「それで具体的にはどんな感じでやったんですか?」

マツリはその声に向き、正面に戻る。

「えーっとまず判断基準……どういうのが良くてダメなのかっていうのを用意しておいて、それを元に現場で違反してるのがあったら、まず警告して、それでもやめなかったらこの世界の運営に通報……って感じですね」

マツリは軽く手ぶりを加えながら説明すると、その前でハネは相槌に漂う。

 サキは説明するマツリの隣に座っていくと、両肘をついて2人に視線を泳がせ、反応を上げた。

「それを?……あっそういう風にやんの?」

そう言うサキの正面で、ツムギが見る。

「絵づかいに犯罪コードが反応しないらしいんだよね」

「あぁそっか。…実際やったんですか?……全部人で?」

マツリはサキの疑問に頷き、

「はい、同人誌即売会で、その関連の物も売られてるような場だったんですけど」

と説明すると、サキは体を動かして相槌を打った。

「へー、…まあでもそうするしかないのか」

「どんな感じで警告とかするんですか?」

ハネの質問に、マツリは再び前を向く。

「違反してるのがあったら説明するだけです。えーっと……」

ツムギは話を聞きながら少し身を引いていくと、ふと入口側に目が留まる。

「……イオリ働かなくていいの?」

メイドの輪郭はテーブルに肘をつき、じっと座っていた。イオリはその言葉に目をやると、片手で小さくソラを触る。声を漏らすと動き始め、黒髪が垂れた。

「…2人なんか飲む?」

その声にサキは振り向き、適当でいいと伝えると、ツムギも見上げて軽く頷いた。

次回、反応しがたい二次創作とは?!

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