快晴の船の上で、演出を語ろうぜ!
船尾付近にて。
少し上階に比べて張り出した場所が広がっていた。眩しい日差しと青空の中、先の4人がセットを作っている。他の人の姿はないようだ。
椅子を持ち、服をなびかせて歩きながら、新が口を開く。
「そうだ、何か視覚的な刺激以外もやるっていう話になってるらしいですよ」
すれ違って歩いていくワタルが目を振る。
「そうみたいですね……僕たちもさっき聞いたんですけど」
「アニメフェアの話ですか?」
向こうからアカリが呼びかけてきた。別の机にチエと椅子を運んでいっているようだ。
新は椅子を机に仕舞いながら、向こうへ肯定の返事をすると、アカリは把握に頷いた。
「簡単な温度操作とかだったら何とかなりません?……エアコンとか使って」
新の言葉に、再びすれ違っていくワタルは思案の声を漂わせる。
椅子のいくつか置いてある所が、机と少し離れた所にあった。新はそこへ歩きながら続ける。
「あと使える刺激が少なくても、例えば温度を使って別の表現をするとか出来るんじゃないですか?」
「あっ出来ると思いますよ」
今度は向こうからチエが反応した。新は椅子を手に取りながら、そっちを見て付け加える。
「あとは風とか?」
机の傍で立つワタルは、手を置きながら考えを巡らす。
「……でもどういうのが考えられます?…そんなに面白いのあるのかな?」
たたっと来たチエは立ち止まり、その言葉に一瞬宙を巡らせる。
「…まあカメラの動きに合わせて風をつけて、臨場感を増やすとかも出来そうだし……」
ワタルが理解に揺れた。奥でアカリが顔を触って掻きながらこちらを向き、続けて案をこぼしていく。
「…地面の揺れとか……あっ、バスの揺れを穏やかな風で表現するとか?」
「あぁそういうのもあるのか!」
そう声を明るめるワタルの横で、新も相槌に頷く。アカリは向きを変えて話を続けた。
「でも面白いのは……今回のこのイベントは、ホログラムを適用するのが会場全体ですよね?」
動いていきながらそう言い、一同をちらりと見る。新は机の上に腰を上げて腕を組んだ。
「そうですね」
「だとしたら多人数用ってことですけど、今出てる立体表現って、大体は個人用で……あくまで一人で体験するように作られてるのが殆どなんですよ」
机に椅子を入れながらそう言うと、相槌の声が立った。あぁそっかと、チエも椅子をつかんで床に置いたままこぼす。作業を終えたアカリは、歩いて近づいてきた。
「なのでそういう性質もうまく利用出来たら、面白くなるかもしれませんね」
暴れる髪を掴みながら立ち止まり、チエの方を向く。
場が考えにおさまっていく中、小さい音が遠くから聞こえてきた。
「まあ全部がそういう演出にする必要は無いですけどね」
そう付け加えながらアカリは足音の方を振り向く。見ると、向こうからナギサが歩いてきていた。
「アカリさん、アメさんが少し用事があるみたいですよ」
アカリは了解を示して動きだす。向こうから、更に別の人が走ってきていた。アカリはそのままその大柄な男形と入れ違っていく。
「どうだった?…視覚効果以外もやるとかなんとか」
その場に来たシゲルは身体を弾ませながら、軽い息とともにセリフをまとめた。新は机から体を下ろしていく。
「とりあえず可能性探ってみようか」
「じゃあアタルさんの所に行こうか?」
その提案に新は浮き上がり、ナギサに目をやる。
「変な機械とか作ってる人ですけど色々詳しくて」
聞くナギサは理解の声を置いた。
新は一瞬ぼんやりとして振り向く。
「あっ今から?」
「うん。もう俺らの仕事は終わってんじゃん」
「まあそうか……行ってみます?」
新は考えて再び横を見ると、ナギサは同意に浮いた。
「はい!何か良い案あると良いですね」
「私も行っていいですか?」
「あっ俺もw」
会話を見てチエとワタルが身を乗り出してきた。動きかけていたシゲルは振り向き、
「いいですよw行きましょうっ」
と足を動かし、一行は弾けるように動きだす。
第3章
どこかの城の屋上にて。
マンションの横で、特設会場が組み上がりつつあった。建築は補助機能があるので非常に早く進む。
トンテンカンと作られていく広大な特設会場の中で、乾いた鉄と空気の匂いが揺れている。
そこに、広がる空間を眺める茜色の髪がいた。ズボンの上に爽やかさを纏っている。
「すいません、もしよかったら企画作りに協力お願いします」
ふと声をかけられその方を見ると、濃い髪の下に、山吹色の瞳がちらりと視界を吸った。
「はい…これ何ですか?」
差し出された紙を、茜色は受け取っていきながら聞く。
「秋祭りでここのイベントの裏で、アニメ系の面白ラジオが集まって生放送をやるんですけど…」
へーと呟き、草木のように立つその人の説明を聞いていく。
「期間中ずっと放送するんで、その企画が足りなくて」
言葉を聞きながら紙の上に目を移す。……魔法少女ものの限界突破法を模索……夏期壁アニメ総括……天パの作画法をプロに聞こう……。
「内容は何でもいいんですか?」
顔を上げると、山吹と目が触れる。
「はい、もしよければ企画を立ててもらうだけでも良くて、実際に番組を作るのは、私たちが手伝ってるので」
「あぁ……分かりました」
茜色は説明に軽く頷く。よろしくお願いしますとその人は言うと、ふっと視界の外へ出ていった。
手元の紙に再び目を落とす。少し眺めると、へーと呟きながらずれていき、腕を下ろして歩きだした。
会場の出入り口へと向かう。巨大な壁は建築の幾何に、光が通ってばらけていた。そよそよと小さな風の漂う中に、種々の作業をする人たちが見えている。
頭上高くまで伸びる、巨大な門の前にて。ちらほらと人が行きかっている。
ここは城の内側で、これは外と繋がっている扉だ。広場のような場所が扉の前には広がっており、奥へ進むと城の内部に続くようになっている。
茜色の髪が小走りで走っていた。広場に近づくと、辺りをきょろっと見回しながら歩いていき、目的の姿を見つける。
「ヒロ!」
灰色の髪の、地味なTシャツを着た男形がその先にいた。ぼんやりしていたらしいその男形は、呼ばれてふっと振り返る。
手を軽く振ったアカネは近づいていった。
「ごめん何か分かりにくかったw」
歩き始める灰色の隣に、適当に謝りながら並んでいく。ゆっくりな歩みが少し持ち上がっていった。
身をすんすんと動かしていきながら、アカネはきょろきょろと辺りを見回す。
「一つの地域にいくつも城があるってことね」
そう言いながら首を持ち上げ、上の方に目を投げる。
城の7階層が遥か遠くまで見渡せ、広く空間が抜けていた。層の端っこがそれぞれ見え、螺旋のようにうねる階段が、全ての階に巻き上がっている。
ヒロの小さい頷きの音が聞こえるのを横に、上を眺めながらアカネは言う。
「ここが13番で?……向こうに14番があるってこと?」
地表に顔を戻し、指で周りをさしながら聞くと、ヒロはそれをちらっと見てうんと頷く。
「歩いていけるの?繋がってんの?」
更に質問を投げかけていくと、ヒロが更にうんと頷く。
「そういうことね」
理解とともにアカネは前を向き、腕を振っていった。
うねり上がる巨大な階段へ差し掛かり、大きい石畳の上にとすとすと上がり始める。誰もいない広い階段に、乾いた足音が残っていく。今度は灰色の髪が横に目を向けた。
「……服はどうする?」
アカネは振り向き、小さくこちらに傾くヒロを見る。
「服はもうこれ買ったやつだよ」
そう言い自分の服のすそを手にとって広げ、上から眺める。瑞々しい服だ。
「いや……」
ヒロがぼんやりと視線をずらしながら否定を呟いていくと、アカネは思いついたように声を上げた。
「あー!タマ祭りのやつ?」
ヒロは小さく頷く。アカネは理解に頷きながら前を見ていった。
「それは後で何とかなると思う」
少し遠い人の喧騒が聞こえている。ヒロはわずかに顎を揺らしていった。
彼らは一体何者なのか?!……次回、マンションへ




