イケメンの内臓をまさぐれ!
次の日、とある森にて。
風通りの良い空気の水面に、軽い光がさらさらと流れる。遥か高くに葉っぱのさざめきが聞こえる。
「へーなるほど……血とかは出ますよね?」
4人いた。巨大な木の幹のふもとのようだ、茶色のごつごつした根っこが片側に覆っている。辺りに水が浸る中、休憩を取っているようだ、各々何かを食べている。
探検家みたいな恰好の、柔草の髪の女形が、竹の容器を手に、前の方へ問いかけていた。
「出ます」
その目線の先で、男形が頷いた。木の根っこに座り、良い感じのガタイをしているイケメンの兄ちゃんだ。そう言うと足元におたまをつけて水を掬っていき、手元のお椀に入れていく。
「内臓とかってちゃんと作られてるんですか?」
斜め前にはもう一人いた。
戦闘服のスーツに身を包んだ、黒っぽい男形が、同じように木の根っこに座って、ナギサの話を聞いている。皿を持ち、こちらも何かを食べているようだ。
「それはどうなんだろう、モンスターはあったけど……」
戦闘服は食べるスプーンを止めながら、疑問を漂わせた。その会話の横では、薄花の髪のワイシャツが立って、黙って串の団子を食べている。
イケメンは思案に漂うと、お椀をソラに入れながら口を開いた。
「今確認してみましょうか?」
そう言い返事を待たずにシャツをがばっと脱いでいく。ナギサはそれに一瞬漂い、薄く不安を浮かべた。
「…大丈夫なんですか?」
「はい。自然治癒で30分もあれば治るんで」
イケメンはそう答えながら、手に下げたナイフをしゃっと流して広げた。そのまま持ち上げ胸にぶすっと刺す。血が噴き出し、その先のナギサは小さな声とともに避けた。
「あっごめんなさい!」
イケメンは爽やかな笑顔を向け、胸をぐりぐりと動かしていく。
「ちょっと移動しながらやろうか」
辺りを見回した戦闘服はその横で立ち上がり、しゃぱしゃぱと水を切って歩き始めた。
それに続きワイシャツ女形は、串を口にくわえたまま動きだす。
ワイシャツはちゅらちゅらと足元の水を揺らしていきながら、手元に持ち始めたナイフを自分の腕に当ててみる。
眺めていると、すぐに傷口がずずっと閉まっていくのが見えた。
「……へー」
「さっきの話の続きですけど……力は筋力だったら普通上げますよね?」
一行とともに歩き始めたナギサは再び話を始め、先に歩いていく戦闘服に言う。ぽきっと軽い音が聞こえ、一行は振り返った。
後ろに血まみれになった男がいた。ゆっくり歩きながら、自分の手を胸に入れ、力を入れて肋骨を折っていっているようで、そして同時になんとかタオルで血を拭こうと奮闘していた。
「あっすみません!手伝いましょうかっ」
ナギサは急いでその方へ返ると、はたと立ち止まりソラに手を動かした。
「そうですね、一番重要ですね。ジャンプ力も、足の速さとかも演出でよく使いますからね」
ナギサが取り出して掴んだタオルを、話しながら戻っていく戦闘服は手を出して受け取る。2人はイケメンの方に近寄った。
戦闘服は血まみれの傍に来ると、既にあった赤くびちょびちょのタオルに、新しいタオルを追加させていき、歩きながら腹の周りを拭き始めた。
ぼきっと音が腕の動きとともに聞こえる。
ナギサは辺りを見回すと、一瞬の後何かを見つけたように、どこかへしゃぱしゃぱと走っていった。
一行の横で、小さい竹を飲んでいたワイシャツアカリはそれを横目に、残り2人の方に目を向け、話を繋いだ。
「でも剛力は、体重とか固さっていうんだったら……」
「使わないですねあんまり」
戦闘服は視線を下ろしたまま頷く。
会話を後ろに、ナギサは光が差し広がっている方へ向かい、背中のリュックを揺らしていく。
横に続いていた木の幹が抜けていき、一気に明るさが顔にかかった。風がふわっと肌に流れ込み、柔草が顔にかかる。
ナギサはちらりとその視界を見ながらしゃがんでいく。木の根元には草の茂みがあった。
『そうですよね』
『はい、だからアイドルとかも、剛力は上げないのが普通ですね』
細かい光と影になびく草を薙いでいくと、その中に果実のような実が姿を現した。地面から生えているようだ。
手で握って力を入れ、黄色い実をねじり取ると、そのまま地面を押してさっと立ち上がっていく。
ナギサは一行の方へ戻っていく。
「凪草の実ありましたよ」
戦闘服は手ぶらでアカリと話していたのが顔を上げ、掲げられた実に目をやる。タオルはイケメンの肩に重なり乗っていた。
「あっありました?……そっかこの辺か」
辺りに目を移しながら、戦闘服は髪をふっと払う。
近づいたナギサは足を緩め、イケメンの方へ実を動かしかけた。すぐにぱっと手を引っ込めてソラを触っていき、代わりにナイフを手に取る。
「で体力は基本上げる?」
アカリがゆっくり歩きながら続けていくと、そうですねと戦闘服は頷く。
手元の実は、軽く鮮やかな空気に、ナイフの光がくりくりと回る。小さく切った欠片を手に、ナギサはイケメンの口元に持っていった。
イケメンは気づき、声とともに頷きながらそれを受けると、顎を動かしていく。
「ほんなもんか?」
徐々に一行になびいていた風がひらけて、辺りに光が差していく。
イケメンは立ち止まり、自らの胸の奥へ手を入れ始めた。他も足を止めていき、視線がぱらりと集まっていく。
「……おーある!……ありますね」
発見の声を上げると、一同沸き立ち、さっと駆け寄った。踊る空気に手を突っ込み、べたべたと触りだす。
「お前ら落ち着け!w……一人ずつ」
イケメンは笑って声を上げ、腰を下ろしていくと、周りはほどけていった。
離れながら笑みを残す戦闘服が、いいですよとナギサに言う。一番近くで触ろうとしていたナギサは、それを聞いて下ろしていた手を水面からぱしゃっと出し、改めて血の縁に向かった。
ナギサの顔の横をタオルが、ふっと風にさらわれる。それに気づいたアカリは声で反応し、あらぬ方向へと動いて追いかけた。
「あっすいません!」
風の開けた方に出ていくアカリの背中に声がかかる。
離れた所で、ひらかれた空気に躍るタオルを捕まえていくと、軽い勢いに足元の水が緩んでいく。
落ち着いてゆっくりと身を持ち上げ、ふと手元に気づくと、開いたタオルは湿った感触に、血がべっとりとついていた。
体を下げて下の水にぽしゃんと手を突っ込む。透過した奥に明るい地面が見え、水面にゆらちゃぷとそよがせていく。
そのままアカリは腰も落とし、腕の袖を小さく動かしていった。
髪の毛が揺れ、顔が上がり、辺りを見る。
森から水続きに海があった。ひらいた青に、小さい雲が線にかかり、風がないでいる。遠大な水は腕を横切り、端を遠くまわっていた。
水を切って絞りながら立ち上がると、雫の流れが散っていき、白いシャツが風になびく。
辺りを眺めながらアカリは振り返っていく。元来た方へ足を戻していくと、森の縁が小さく見えた。
向こうからは戦闘服が、周りの景色を見ながら、水をよけて歩いてきていた。
「あっちですよね?……会場」
アカリが海の横の方を指すと、戦闘服は首を動かし、そうですと頷く。
ナギサとイケメンの距離が近い。
赤い視界を、ナギサは覗き込むようにまさぐっている。眉に皺が入り、吐息がはらはらとかかる。
「……どこ触ってます?」
「ごめんなさいっw」
イケメンが下を見てツッコむと、声を緩ませてさっと手を引いた。ぱちゃぱちゃと音がして振り返ると、アカリが足を動かし戻ってきていた。
イケメンが続いて勧めると、タオルを片手に下げて立つアカリは、気づいて反応し近寄る。
2人は入れ替わりでしゃがんでいった。
傍に身を下ろしたアカリは布を再び軽く開き、胸の周りをさっと拭く。
すいませんと、男形が謝辞を述べる。そのままタオルをぱしゃっと下に落とすと、アカリは赤い切れ目に手を入れ始めた。
まくれた袖の腕を動かし、伏す顔に小刻みに影がかかっていく。
海側へ行っていたナギサは、ぽしゃぽしゃと現場へ戻ってくると、2人の前で立ち止まっていく。
手をすっと持ち上げ、自分の手と腕を改めて眺めた。
「ちゃんと作ってるんですね……」
感心に呟きつつ、手の爪に血が小さく残っているのに気づく。
軽く握った爪を持ち上げ、顔に近づける。輪郭がかすかに膨らみ、瞼が移ろいだ。
その時、突然激しい音が辺りに流れた。周囲を見る。
イケメンも視線を周りにやった。すぐに戦闘服がぱしゃぱしゃと戻ってくる。
「ちょっと歩きながらやろうか」
作業をする2人に声をかける。
イケメンは同意すると、自分の内臓に固着しているアカリを持ち上げながら動いていった。
海岸と船へ!




