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38.大雪山ユキユーキ~道中~

「前方をご覧ください、あちらに見えますのがオラオーラ王国一の豪雪地帯、大雪山ユキユーキでございます」

 コトネは観光案内のガイドをマネするように普段よりやや高めの声で言った。


「わー、すごい高い」

「それに真っ白ですね」

 ソラソラとテレーザはありきたりな感想を述べた。


 大雪山ユキユーキは今イリーナたちがいる場所、すなわち南側から見れば波の形に見える。要するに東側は傾斜がきつく、西側は傾斜がゆるいのだ。


「あのー、わたくしたち、あの山の右側に向かっているのですよね?」

「そうですよ」


「……人が立ち入るところには見えないのですが」

 大雪山ユキユーキ東側の上空には巨大な暗雲が立ち込め、はるか遠くからでもわかるほどに吹雪いていた。


「そうですね。私もそう思います」

「これは日を改めた方がいいんじゃないかな?」


「日を改めても変わりませんよ、あの山は年中ああなんです」

「そのような場所に本当に村なんてあるのでしょうか?」


「まず、ありえないと思うのですが……あの王妃があると言っているんですよね」

 コトネは渋い顔をした。


「結局、イリイリのお母さんの言葉だけを信じて行くしかないんだね。イリイリはどう思うの? って

イリイリ聞いてる? おーいイリイリ?」

 ここまで全く会話に参加していなかったイリーナは一人地面を見てなにかぶつぶつ呟きながら歩を進めていた。見かねたコトネがイリーナを呼ぶ。


「姫、……姫。…………姫!!」

 イリーナはようやくハッとする。

「何よ、急に大きな声出して」

「いや、全然急じゃないですよ」

「さっきから何回も呼んでたよ。イリイリどうしたの、なんかディアディアとの通信のあとから変だよ」

 イリーナは目をカッと開き、ソラソラを睨んだ。


「あんた、あの小娘の話を聞いてなかったの!?」

 イリーナは鬼の形相であった。


「なんでそんなに怒ってるの? イリイリ!」

「怒っ!? いや、べ、別に、怒ってるわけじゃないわよ」

「では、なぜそんな負のオーラをまき散らしてるんですか? 不愉快です」


「ふ、不愉快!?」

「コトネ様、はっきり言いすぎです」

 テレーザのフォローは珍しくフォローにならなかった。


「いやいや、だってあんた達もディアの話聞いたでしょ?」

「話って……ディアさんのお母さんが王妃の妹だって話ですか?」


「そうよ! その話よ! あんたらなんでもっと騒がないのよ!?」

「うーん、確かにびっくりはしたけど、でもソラソラ的には、『へー、そうなんだ』くらいだよ」


「へー、そうなんだ、じゃないわよ! もっと驚きなさいよ! 驚愕の新事実ってやつなのよ!!」

「うーん、そう言われても……」

 イリーナが力説してもソラソラにはピンとこなかった。


「イリーナ様はディア様が従姉妹だとお気づきになられなかったのですか?」

 テレーザの問いに、イリーナは失望したような目でテレーザを見た。


「気づくはずないでしょ……」

 困惑するテレーザの隣でコトネはコホンと咳払いした。


「姫だけがなぜそんなに驚いているか、姫に代わって説明します。そもそもなんですが、王妃に妹がいるというのも先ほど初めて知ったのです」

「えっ? そうなの? そんなことってあるの?」


「王妃は謎多き方なんですよ。家族構成、出生どころが、国王様と結婚する以前のことは全て謎です」

「そんな謎だらけでよく国王なんかと結婚できたね」


「その結婚に関しても色んな噂がありますからね。当然ですが、当時のことは姫は勿論、私もこの国にはいなかったのでよく知りませんが、王妃が王都に現れてその1週間後には国王との結婚が決まったと言われています。その過程については、国王のひとめぼれだとか、王妃が口説き落としたとか、王妃が国王あるいは国の弱みを握ったとか、力で有無を言わせなかったとかいろいろ言われていますが真実は闇の中です」

「噂とは言え、神をも恐れぬことを仰る方がいるのですね」

「テレテレが信仰してる神っていったい……」


「まあ、そういった事情で姫が驚くのも無理はありません。しかし、なぜ姫がここまで衝撃を受けているのかは理解しかねます」

「キサンは何を言っとるんじゃ!!」

 コトネの言葉にイリーナは歯をガタガタ震わせて怒りを露わにした。

「ですから、その驚きから変わった怒りの源が理解できないって話ですよ」

 ソラソラとテレーザはコトネに同意し力強く二度頷いた。


「いやいやいやいやいや、考えても見なさいよ! 明らかにおかしいでしょ!」

「な、何がですか?」

「いい!? 私とディアが従姉妹ってことは祖父母が同じ、つまりは同じ血が流れてるのよ! なのに! なぜこんなに美貌に差が生まれるのよ!! 絶対おかしいでしょ!! こんな不公平なことある!!?」

 イリーナの涙ながら訴えであったがコトネたちの心には響かずただポカーンとした。


「あのんw、イリイリ、落ち着いて聞いてね。従姉妹ってそんなに似ないものだよ」

「えっ?」

 ソラソラの言葉にイリーナは目を丸くした。


「そうですよイリーナ様、わたくしにもたくさんの従姉弟がおりますが美貌に関してはわかりませんが似ているとは言えません」

「えっ? そうなの?」

 テレーザの追い打ちにイリーナ目をパチクリした。


「姫には兄妹は愚か、従姉妹を始めとした同年代の親戚というものがいないから幻想を抱いているのかもしれませんが、血が繋がってるからと言って皆が皆、容姿はもちろん、性格、才能その他もろもろが絶対に似るという者ではありません。もっと言えば従姉弟間で似ることは稀です」

「えっ? えっ? そんなもんなの?」

 コトネの追撃で己の過ちを察したイリーナは変な汗をかき始めた。


「そんなもんだよ。ソラソラの村って物凄ーーい狭い社会だから村人全員が親族じゃない感じだけど全然似てないからね」

「……魔女ってそんなに少ないの?」


「ソラソラさんの所は基本純潔だけですからね。他にも魔法を使える人間って言うのもたくさんいますけど元を辿ればソラソラさんの所に他の血が混ざった存在です。人によっては穢れた血と言われるものです」


「なにそれ? 隠れ魔女の村って本当はなにザリン的な村なの? 語尾はフォイなわけ?」

「語尾がフォイの人間なんてどこにも存在しませんよ。とりあえず姫に知って貰いたいのは従姉妹が絶世の美女だとしても自分も美女じゃないというのはおかしいとはなりません。付け加えれば兄妹でも片方が美人、もう片方がやや残念というのもありがちなのが世の中なんですよ」


「ええっ!? いやいや、流石に兄妹で似てないとかはないでしょ」

 コトネたちはシラーっとした気持ちイリーナを見た。


「姫、夢を見すぎです。世界は姫が思う以上に残酷です。同じ親から生まれたはずなのに格差は生まれます、それは容姿だけではなく学力や運動神経あらゆる面で同じです」

「……う、嘘でしょ?」

 同意を求めるようにイリーナはソラソラとテレーザを見た。しかし、イリーナの期待はあっさりと裏切れる。ソラソラとテレーザは呆れた様子で首を横に振っていた。


 イリーナは何度も瞬きしながら、他に誰もいないのに自身の考えに賛同してくれる人を求めるように辺りをキョキョロ見渡すが勿論同意してくれるものは愚か、コトネたち以外には誰もいない。それでもイリーナは同意してくれる誰かを探した。


「姫、戻ってきてください、現実を見てください」

「なんだろう、イリイリって本当に姫様なんだね。世間知らず加減が」


「ちょっ! なんたる偏見!!」

「イリーナ様は気にしなくていいのですよ、イリーナ様は真の姫様なんですから」


「なんかそのフォローも傷つくんだけど!!」

「まあまあ、姫の世迷言なんて聞き流してさっさと行きましょう、ブリギッタ様のために」

「そう言われたら何も言い返せないんだけど!!」

 4人と一つの棺は歩を速めた。




 それから数十分後、大雪山ユキユーキの全貌が視界に入らないくらいまでの距離にイリーナたちは来ていた。

 そんな中、テレーザが挙手した。


「あのー、ひとつよろしいでしょうか?」

「なんですか?」

 コトネはけろっとした顔で答えた。


「これからあの雪山を登るのですよね? でしたら、この服装では頼りないのではないでしょうか?」

 そう言うテレーザの足元の草地は既に霜が降りていて、4人が進む度シャリシャリと音を立て、冬の到来を告げていた。実際は人が立ち入ってはいけない監獄の山血が近いというだけであるのだが。


 イリーナたちは互いの装備を見直した。コトネとソラソラがテレーザの意見に同意するように頷く中、イリーナは一人笑っていた。


「いやいや、こんくらいなら問題ないでしょ」

 偽りのないイリーナの笑顔を見て、テレーザとコトネは助けを求めるようにコトネを見た。


「すみません、姫は冬でも半袖短パンでアイスを食べるタイプなので……」

「なんだろう容易に想像できるよ」


「ちょっとそれどういう意味!?」

「あの、いずれにしても防寒着がないままこのまま進むのは危険だと思うのですが」

「大丈夫よ、こういう時のためのコトネの胡散臭いポーチでしょ。ぼうか、……ウインターファッションなんていくらでも出て来るでしょ」

「いや、出てきませんよ」

 コトネは真顔で答えた。


「いやなんでよ!? これまでおかしなくらい都合のいい道具出てきたのにたかが、ぼう、じゃなくてウインターファッションがなんでないのよ?」

「姫、別にウインターファッションはオシャレ用語じゃないですよ」


「そ、そんなのわかってるわよ」

 そう言いながらイリーナのかおは赤くなっていた。


「姫は勘違いしているみたいですが、四次元ポーチから出てくるのは王家秘密道具と、姫の旅の準備にと国王様から渡された旅行用グッズと、これまでに手に入れたアイテムだけです。皆様の防寒具などはこれまで買っていないので入っていません。今後はこういうことを踏まえ色んな物を買っておいてください。特に今後あるかもしれない水着回のために水着は買っておいた方がいいと思います」

「どんな忠告よ!! だいたい、文字しかない小説に水着回など関係ないわ!!」


 コトネは呆れるようにため息を吐いた。

「姫は何もわかっていないようですね。絵がある水着回と、文だけの水着回は最早別物。絵があれば、言うならば事実がそこに載っています。しかし、文だけの水着回は読者の自由、限られた情報の中で各々が自由に理想のキャラを想像することができるのです。絵があれば自身の理想と違う者が突きつけられ絶望することもありません。そう、文だけの水着回は、読者たちの夢天国なんです」


「いや、確かにそう言われればそうかもしれないけど……それほどの想像を掻き立てられるかどうかは文章次第なのでは」

 その言葉にコトネは鼻で笑った。

「そうです。だからこそ、カワイイ絵を所々に挟めてもらえるラノベはありがたいんですよ」

「……なんの話よ!!?」


「いや、本当に二人ともなんの話なの?」

「あの、結局どうするのですか? このままあの雪山に行くのですか? それとも、一度近くの街に行き装備を整えてから行くのですか?」


「私個人の見解ですが、時間をかけるのは得策ではありません。ブリギッタ様が生き返っても、腐ったブリギッタ様と表記されるようになってしまいます」

「思ってた以上に切羽詰まってたんだね」


「ですが、このまま進めばわたくしとソラソラ様もブリギッタ様みたいになってしまいます」

 テレーザは遠回しにこのままじゃ死ぬことを伝えた。


 皆がうーんと、唸る中イリーナが名案を思い付いたのか「あっ」と声を上げた。

「イリイリ何か思いついたの?」

「よく考えれば、ソラソラとテレーザは勇者のなんちゃらでブリギッタ同様生き返られるんだから何も問題ないじゃない。死んだふたりも一緒にコリゴーリとかいう村の教会で復活させればいいだけじゃない」


 ソラソラとテレーザの顔は一瞬で青くなった。そして、二人は涙目になりながらイリーナに縋りついた。

「「命大事に!!」」

 ソラソラとテレーザは何度も繰り返した。


「な、なによ、別に生き返るからいいじゃない」

「姫、そんなどこかの竜の玉で生き返るから別にいいだろみたいな野菜の人の発言を受け入れられる人はいませんよ」


「えー、割と効率的な発言だと思うんだけど」

「姫、人命を効率云々で語らないでください」

 ソラソラとテレーザは何度も深く頷いた。


「じゃあどうしろっていうの? 他に方法なんて……あっ、そうだ、ブリギッタの棺をあの雪山のどこかに一旦隠して冷凍保存して、その間に装備を整えにどっかに行くっていうのはどう?」

 コトネたちが白い眼をする中、イリーナはどや顔であった。


「イリイリ、リギリギがなんで死んだかと思い出そうよ」

「イリーナ様、主は常にあなたの行いを見ておられますよ」

「要約します。姫のせいで亡くなった体を放置するのはあまりに非人道的ではないでしょうか? ということです」


 イリーナは3人の責めるような視線からすかさず目を逸らし、

「まあ、そういう考え方もあるわね」

 と言った。


 その時、コトネはあるものを発見した。

「皆さん、安心してくださいすべて解決しました」

 イリーナたちは突然のコトネの発言にキョトンとした。

「コトネ、あんた何言ってるの?」


「姫なら見えるはずです、あれが」

 コトネが指さす先をイリーナは追った。そこには看板があった。


『この先5km、大雪山ユキユーキ南東麓、スキー、スノボー、スケート、雪山登山、冬に関する者なんでもござれ。ウインターファッション専門ブランドショップ【ホワイト・ラヴァー♡】営業中』


 イリーナは少し悩んでから言う。

「欲しい装備を売ってる店が丁度良く現れる、これこそが正に都合主義ではなくて?」

「いえ、違います。欲しいものが欲しいところにある、これが現実です。しかし、それには多少の代償が伴います」


「代償? どういう意味?」

「行けばわかります。……覚悟してください」

 コトネの言葉を理解できなかったが、イリーナはただついていくしかなかった。そして激しく後悔することになるのであった。

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