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37.勇者の加護

 イリーナたちが魔王軍幹部六天王ウマジャナイ・エイデスを倒して僅か3時間、イリーナ一行は取り返した入れ歯を園長ふつつかに渡し、ついでに裏切り者ノリノリをつるし上げ、町の人々が開いた勝利の宴を早々に切り上げ、陽が落ちているにも関わらず港町ツルツールを出発した。


 これまでのイリーナからは考えられないほど素早い行動であった。その理由はただ一つであった。

「重い……重すぎる。誰か交代して」

 ブリギッタの棺桶を引きずり歩くこと約二時間、それまで文句を言わなかったイリーナがとうとう音を上げた。


「姫、誰のせいでブリギッタさんがそのようなお姿になったと思っているのですか?」

「リギリギも色々あれだったけど、今回ばかりはやりすぎたイリイリが責任もってそれを運ぶべきだと思うよ」


「イリーナ様、ブリギッタ様の棺を最後までひとりで運ぶことで、きっと神もイリーナ様の罪を許してくれるでしょう」

 コトネたちの正論にイリーナは言い返しが思い浮かばず黙った。



 棺桶はウマジャナイ・エイデスとブリギッタを巻き込んだギョギョギョライの自爆の直後、イリーナたちの目の前に現れた。棺桶を開けると中にはきれいな顔をしたブリギッタがいた。

 この不可思議な現象にイリーナとソラソラは困惑したが、心当たりがあるコトネとテレーザは割かし落ち着いていた。


「この棺は……噂には聞いたことありましたが、実物は初めて見ました。コトネ様、これは……」

「そうですね。恐らくはテレーザさんの想像通りだと思います。ですが、まだ確証が得られないので移動しながら連絡を待ちましょう」


 イリーナとソラソラは二人が何を言っているのかを理解できなかった。しかし、その次のコトネの言葉で全てを理解した。


「要するに、ブリギッタさんを生き返らせるこもしれないって話です」

 そこからイリーナたちの行動は早かった。用事をすぐに済まし、ツルツールを出発、現在に至るのである。



 暫し黙っていたイリーナは恐る恐る口を開いた。

「た、確かにそうだけど、私は皆が宴を楽しんでいる間も泳いだり跳んだりしていたわけだし、少しばかり手伝ってくれてもいいんじゃないかなと思うんだけど……」


「それも姫の都合じゃないですか」

「ですがイリーナ様の行いは神は評価していると思いますよ」

「まあ、それはそれこれはこれだよね」


 イリーナは諦め、大人しくブリギッタが入った棺を引き続けた。

 それから数分後、コトネが待ち続けていた連絡がようやく来た。


 イリーナたちの前にモニターが現れた。映し出された画面の中で囚われの勇者ディアが黒い着物を着て、正座し、涙を拭っていた。完全に喪に服していた。


「ディアさん、連絡を待っていました」

「うう、コトネさん、すみません。姫様たちが幹部を倒したと知ってすぐに連絡しようと思ったんですが、天からお告げがありまして……」


「天からのお告げ? 何よそれ?」

「実は、ブリギッタさんが亡くなったというお告げが……」

 イリーナはギクリとし、さり気なく棺を隠した。


「なぜかわかりませんが、そのお告げは真実だという確信がありまして、こうしてブリギッタさんを遠くから弔っていたのです」

「なるほど、それでその格好なんですね」

「でも、なぜ和風?」


「あのー、それでブリギッタさんは本当に……」

 コトネは静かにコクリと頷いた。その少し後ろのイリーナは全力で目を逸らした。コトネの答えを聞いた瞬間、ディアの目から涙が流れ落ちた。


「そうですよね。シスターの方も見えますし、今は式の最中でしょうか?」

 ディアはシスターテレーザに小さな声で「ありがとうございます」と呟きながら一礼した。


「あっ、違いますよディアさん、こちらのシスターは新たに仲間に加わりましたシスターテレーザです」

「そうでしたか、これはとんだ勘違いを。すみません」


「いえ、こちらこそ挨拶が遅くなり申し訳ありません……あのコトネ様、こちらの素敵な女性はどちら様でしょうか?」

「そっか、テレテレとディアディアって会うの初めてなんだね」


「テレーザさん、こちら現在魔王軍に囚われている勇者ディアさんです」

「うう、紛れもない事実ですがその紹介は勘弁してください」


「そうでしたか、あなた様があの勇者様だったのですね。わたくしはヒーラー役としてイリーナ様のパーティに加入いたしました、テレーザと申します。勇者様の囚われの身とは聞いておりますが、必ずイリーナ様があなた様を助けに参りますので、どうかそれまで諦めず耐え抜いてください。神のご加護があらんことをお祈りいたします」

 テレーザは跪いて手を組んで祈りを捧げた。


「あ、ありがとうございます」

 ディアはしどろもどろに手を合わせ和風の祈りを捧げ、答えた。


「あんたたち何やってんのよ、全く。コトネ、あんたが待ってたのってディアからの連絡でしょ? 結局どうなの? ブリギッタは生き返るの? どうなの?」

 イリーナの言葉にディアは勢いよく立ち上がって画面いっぱいに顔が映し出されるほどカメラ(イリーナたちに映像を届けるためにあると思われるがイリーナたちおはその存在を確認出来てはいない)に近寄った。それでも勇者ディアが美しく見えたのはさすがとしか言いようがなかった。


「それはどういうことですか? コトネさん」

 度アップのディアにコトネは思わず一歩下がった。


「落ち着いてくださいディアさん。今から説明しますので。ですので一度下がって、座ってください」

 ディアはコトネの言われるままに数歩下がってその場にペタンと座った。因みにではあるがイリーナたちはディアが映し出される画面が一緒に動いてくれるので歩きながらである。


「ブリギッタさんがあの魚の魔物たちの自爆に巻き込まれた時、正直ブリギッタさんは死んだものだと私も思いました。いいですか姫、この世界でも死んだらそれでおしまいです。普通は復活なんかありません」

 コトネはイリーナだけに向けて言い放った。至極当然のことだからだ。


 イリーナは内心

 ――いや色んな物の要素パク……お借りしてるんだからそう思っても仕方ないじゃん。

 と不満に思っていたが口には出さなかった。


「ですが、この棺が現れたことで事情が変わりました。昔、私は聞いたことがあります『勇者一行はゴキブリのようしぶとい』、と。最初は勇者パーティがそれだけ打たれ強い、防御録画高い、HPが高いという意味だと思いましたが、詳細を聞けばそれは違いました。ゴキブリとまで評されるしぶとさ、それは『勇者の加護』と呼ばれる力と関係がありました」


「「「勇者の加護?」」」

 イリーナ、ソラソラ、ディアの3人が声を揃えて聞き返す。


「はい。それは真の勇者にだけ与えられる特別な力。真の勇者の仲間は戦闘で死んだとき不思議な力で仮死状態となって棺に納められ、教会の神父にお願いすれば蘇らせてもらえるというものです」

 イリーナはちょっとの間考えてハッとする。


「ちょっとそれっぽい名前つけただけで見たことあるシステムじゃない!!」

「ちょっとそこうるさいですよ!!」

 コトネは逆切れした。


「じゃあリギリギを教会に連れていけば生き返るってことだね」

「そう聞いています。実際に見たことはないので絶対とは言えませんが……」

 コトネは若干顔を曇らせた。そこですかさずテレーザは挙手をした。


「その点についてはわたくしから捕捉させていただきます。わたくしが修業時代お世話になっていた神父様からお聞きしたことがあります。神父様の齢は100を超えます。つまりは、封印される前の魔王がいた時代を知っているお方です。そして、それは言い換えれば真の勇者様がいた時代でもあります。神父様は教会の生まれ、生まれてからずっと協会に従事していました。神父様は幼い頃に何度か奇跡を見たと話してくれました。その奇跡とは、勇者様がお持ちした亡骸を神父様が蘇らせたというものです」

 テレーザの貴重な情報に「オオッー」と歓声が上がった。


「じゃあ教会に連れていけば間違いなくブリギッタは生き返るのね?」

「私の知識、テレーザさんの聞いた話、そしてディアさんが聞いたお告げ。それらを総合的に判断すればほぼ間違いなく生き返らすことができます」

 再び「オオッ―」と歓声が上がった。


「じゃあ今は教会を目指してるんだね?」

「いえ、そうしたいのですが……実はどの街に教会があるのかわからないのです」


「はあ? 教会ってどの街にもあるもんじゃないの?」

「いえ、現にこうしてツルツールを出てるのでわかると思いますが、あの街には教会がありませんでした」


「なんでよ!? 魔王軍幹部が襲うぐらい大きな街でしょ!?」

「なんか世界観にそぐわないとかで」


「あの世界にも教会くらいあるわ!!」

「ないものはないので受け入れてください。それで今はツルツールから最も近く、大きな街ヌクヌークを目指しています」

 その街の名を聞いた瞬間、イリーナとテレーザはときめいた。


「ヌクヌーク? それってどんな街?」

 オラオーラ王国から独立した隠れ魔女の村に住んでいたためその名を知らないソラソラが質問した。


「ヌクヌーク、別名温泉街ヌクヌーク。名前の通り温泉が有名な街です。オラオーラ王国内で連休に行きたい街ベスト3に毎年入る街です」


「温泉! いいなー、ソラソラ、温泉って入ったことないんだよね」

 ひとり遅れたが、イリーナたち以上にソラソラが温泉街という言葉に心をときめかせた。


「ヌクヌークは魅力的で大きな街です。しかし、それ故に魔王軍に狙われる可能性も高いです。それも含めて、私はヌクヌークを目指していました。しかし、実際に教会があるか、魔王軍、特に幹部がヌクヌークを攻めているのか、その辺については詳しい情報は私にも届いていません。そういう話も含めてディアさんの連絡を待っていたのです」


「そういうことでしたか。わかりました、今確認します」

 そう言うと、ディアは画面外の何者かに向かって手を振った。すぐに画面内に白骨姿の魔物が現れディアと言葉を交わした。数十秒後、魔物が画面外へと消えていった。ディアは画面の方へ向き直すと笑みを見せた。

 その光景を見てテレーザは小声でイリーナに尋ねた。


「あの、イリーナ様、ディア様は魔王軍の囚われの身なのですよね? こちらに有利な情報を魔物がくれるわけないのではないでしょうか?」

「そうなんだけど、なんかあいつ身辺の魔物手名付けてる臭いのよね。どうせあの美貌で寝返らせてるのよ、本当に腹立つわ」

 イリーナの美への嫉妬は相変わらずだなとテレーザはしみじみ感じていた。


「今、ホラー君から教会について詳細をお伺いいたしましたところ、残念なことにヌクヌークにはないみたいですがヌクヌークまで行く途中の山中にある村コリゴーリ、に教会があるみたいです」

 コトネは立ち止まり怪訝な顔した。


「コリゴーリ? コリゴーリってあのコリゴーリですか? いえ、ヌクヌークから真東に位置する村のことですか?」

「そうですそうです」

 コトネはポーチから地図を取り出し広げた。


「コリゴーリ、地図にも一応載ってますね……ディアさん、周辺の他の村には教会はないのですか?」

「ないみたいです」

「そうですか……それなら、仕方ないですね」

 コトネの向きがやや北へと修正される。


「申し訳ありません、皆さま。目的地を北西へと修正します。私に続いてください」

 コトネは地図を見ながら歩き始めた。イリーナはコトネの後ろから地図を覗き込んだ。イリーナはとあることに気が付く。


「コトネ、この赤い点が私たち?」

「はい、正確にはこの地図がある場所です」


「凄い高性能な地図ですね」

「これも王家秘密道具なわけ?」


「いえ、これは市販の『こんな地図を待っていた~オラオーラ大陸ver~』です。大陸を旅するときの必須アイテムですよ」

「市販かよ! それで気になったんだけど、コトネはツルツール出た時からヌクヌークを目指してたのよね? でも私たちの現在地はここよね? なんでこんなに南回りしてるわけ?」

 イリーナの指摘通りイリーナたちが今いる場所は、ツルツールとヌクヌークを結んだ直線から遥かに南に位置していた。また、その直線状には教会があるとわかった村コリゴーリもあった。


「本当だね。なんか随分と遠回りしようとしていたんだね」

「なにか理由があるのですね?」

 コトネは苦虫を嚙みつぶしたような顔をした。


「皆さんはヌクヌークがどういうところにあるかご存じですか?」

 イリーナたち3人と、ついでにいつの間にか喪服からパジャマに着替えた画面の中のディアが首を横に振った。


「ではそのことを踏まえて説明します。温泉街ヌクヌークはとある山の山頂……は言いすぎですかね、だいたい8合目あたりにある街です。その山というのがあの山です」

 コトネは遥か前方に見える、いやずっと見えていた大きな真っ白な山を指さした。


「あの山の名前は『大雪山ユキユーキ』。年がら年中雪が降っている山です。それ故に、ヌクヌークではいつでもどの温泉でも雪見風呂を楽しめます。ぬくぬーかうが連休に行きたい観光地1位になった最大の理由ですね。あと、10年ほど前からは若者も取り込みたいとスキー場を増設して1年中スキーも楽しめるようになっています。あっ、それから最近新たに源泉が見つかったそうですが、温度が低く温泉には使えないからと温水プールにしたとも聞きました」


「物凄いレジャーに特化した街じゃない」

「教会が入る余地はありませんね」


「いいね、凄い楽しそう。でも、ずっと雪降ってるってなんか色々と大変そう。雪見たことないから知らないけど」

 オラオーラ王国内で雪が降るのは大陸西側だけである。そのため、ソラソラのように雪を見たことないという人は多い。そのことが、ヌクヌークが人気観光地となっているひとつの理由である。


「そうですね。雪が降り続けていると聞けば確かに大変そうに聞こえますがヌクヌークはそうでもないらしいです。というのも雪が降ると言っても時間あたりの量は少ないのです、小雨ならぬ小雪がずっと降っているそうです。その理由は簡単です。あの辺は雲が常に東から西に向かって動きます。ヌクヌークは大雪原ユキユーキの西側、つまり東から来た雪を降らす雲は山頂を越える必要があります。そして山頂を過ぎた頃には雲はすっかり小さくなって、少量の雪しか降らす力が残っていないということです」


「なんか超理論な気がするけど、結局そのとっても楽しそうなヌクヌークに行くのになんでこんな遠回りしてるのよ?」

「今の話でわかりませんか?」

 イリーナはまだピンと来ていなかった。事情を察したディアが代わりに答える。


「要するに大雪原ユキユーキの山頂より東側は小さくなる前の雲が常に雪を、いや大雪を降らしてるってことですよね」

「あっ、なるほど、なんかそれは大変そう」

「大変という表現では済まないほどではないでしょうか?」


「その通りです。ユキユーキの東側は超豪雪地帯。その上、風も強く月の半分はブリザードが吹き荒れると聞いています。まともな人間は近寄りません」

「そういう事情なら避けるのも当然ね、私はてっきりブリギッタを生き返らせることに対する迷いかrわざわざ遠回りしてるかと思ったわよ」


「いや、そんな酷いこと考えませんよ」

「イリイリがそう言うこと考えてるからそう思うんだよ」

 イリーナは笑顔のまま棺でソラソラを殴った。

「ま、そのコリゴーリが豪雪地帯にあるってわけじゃないでしょ? 面倒だけどコリゴーリでブリギッタ生き返らしてから迂回してヌクヌークに言ってのんびり温泉にでも漬かりましょ」

「イリーナ様、言いにくいのですがヌクヌークに教会がないとわかった今、ヌクヌークを目指す必要はないのではないでしょうか?」


「あっ……いや、魔王軍幹部がいるかもしれないでしょ? そうよね、コトネ」

 イリーナがただ単に温泉に入りたいというのは火を見るよりも明らかであった。

「その辺はディアさんに聞いた方が確実ですよ」


「それもそうね。どうなのよ、ディア」

「それが実はですね……」

 ディアは無駄に周囲をキョロキョロ見渡してから身を屈めてカメラへと近づく。イリーナたちもディアに倣いコソコソと画面に身を寄せた。


「なんか今、ヌクヌークに魔王軍の大物? 偉い人? が入り浸ってるみたいなんです」

 ディアは小声で言う。


「大物?」「偉い人?」

 それに反しイリーナとソラソラの声は大きかった。


「幹部ではないのですか?」

「それが違うみたいです。魔物さんたちが話してるのを盗み聞きした感じ、場内にいる四天王、あっ、今は御三方しかいませんでした。その御三方の言うことも聞かず手に負えなくて困ってるみたいです」


「四天王って魔王の次に偉いんじゃないの? そいつらの手に負えないとかありえなくない?」

「副魔王みたいなナンバー2がいるとか?」

「聞いたことありませんね」

 一同はうーんと唸った。


「謎ですね」「謎だね」「謎です」

「まあ、行ってみればわかるでしょ」

 とどうしても温泉に入りたいイリーナがそうまとめた。コトネたちは少し考えてから


「そうですね」「そうだね」「その通りですね」

 とイリーナに賛同した。結局は皆、温泉に入りたいのであった。


「ところで姫、ひとつ訂正しなければいけないことがあります」

「何よ?」


「先ほど、姫は、『ま、そのコリゴーリが豪雪地帯にあるってわけじゃないでしょ?』と言いましたよね」

 コトネはイリーナの声色と身振り手振りを真似てそう言った。イリーナはその完成度の高さにちょっとイラっとした。


「それがどうかした?」

「……何度確認しても、コリゴーリはその豪雪地帯のど真ん中にあるんですよ」


「……はあ?」

 イリーナは呆れと嫌悪感を含んだ「はあ?」を腹の底からねじり出した。


「いやおかしいでしょ、あんたはさっき『まともな人間は近寄りません』」

 イリーナも負けずとコトネの声色を真似したがあまり似ていなかった。その事実を誰よりも自覚したイリーナのかは少し赤くなった。

「って言ったじゃない! なんでそんな場所に村があるのよ!?」

 恥ずかしさを誤魔化すようにイリーナは叫んだ。


「だから私も困惑しているのではないですか。そもそもコリゴーリは幻の村のひとつ。本当にあるなんて私も思っていませんでした」

「幻の村? どういうことよ?」

 イリーナの問いに答えるためにひとりの男がイリーナたちのはるか後方から走ってきた。


「その質問にはあっしがお答えしましょう!! てやんでぇぇぇぇぇえ!!」

 走ってきたのは武具屋で一日コーヒーを12杯飲むで有名なデェエスケであった。


「あんた、今回の登場は完全にストーカーよ」

「デェスケさん、街中以外で出てくるのは通りすがり感ありますけど、こんなところで出てくるのは不審者感が強いのでやめてください」

 イリーナたちはデェエスケを白い目で見た。


「す、すみません、皆さま! べらんめぇえ!! ただ、あっしは姫様方がこちらに進むのならあの伝説の武具について触れるのではないかと思い、こうして後を尾けて来たというわけです、てやんでぇえ!」

「やっぱりストーカーじゃない」


「勘違いしないでくだせぇえ。あっしは姫様方ではなく、武具のストーカーです」

 デェエスケは意味不明な言い分で誤魔化した。


「まあ、いいけど。それにしてもまた伝説の武具とかなんか他にネタないわけ?」

 するとデェエスケは得意げな顔してチッチッチッと舌を鳴らしながら指を振った。

「姫様のお気持ちはわかりますが、今回の伝説の武具は方向性が違う伝説の武具のお話なんすよ」


「その顔腹立つわね」

「同感です。なのでここからは私が説明します。一言で言えば大雪原ユキユーキに眠ると言われてる伝説の武具は魔王の武具です」


「魔王の?」「なにそれ、面白そう」「魔王様も武具を装備していたのですね」「どんな装備なんでしょう、気になります」

 魔王の武具というワードに皆が喰い付いた。


「やっぱり気になりますよね、魔王の装備。詳細についてお話しします。約100年前、御存じの通り魔王は封印されました。その時魔王を封印した勇者たちは魔王の装備を取り外し破棄しようとしました。


 しかし、魔王の武具はとても強く破壊できませんでした。仕方なく、オラオーラ城で保管していたのですが、半世紀を過ぎたころから、魔物たちがそれらを取り返そうと度々お城に襲来するようになりました


 。また、いつからか魔王の武具から不吉な力が漏れ出し、近くにいた弱きものの精神を蝕むようになりました。内側と外側からの攻撃に疲弊したオラオーラ王国は、お城で保管していた5つの魔王の武具を秘密裏に別々の場所に隠すことに決めました。


 隠した場所は人間は勿論、魔物でも近寄りがたい場所。5つの武具のうちその内のひとつはユキユーキの東側に隠されたと言われています」


 長文を言い終えたコトネはすかさず水筒を取り出し喉を潤した。


「あれ? 秘密裏なのにコトコトはともかくディアディアも知ってるの?」

「それに人間も魔物も近寄れないような場所に隠したっておかしくない?」


「確かにそうですね、それができるという者がいるなら人間でも魔物でもなくなりますね」

「人間でも魔物でもない……あっ」

 テレーザは何かを察した


「そうですね、その点に関しても説明します。魔王の武具、それ自体が機密情報、それをどこに隠したか? それは超機密情報でした。しかし、その情報を漏らした方がいます」

「誰よその間抜け?」


「エレザベス王妃です」

 イリーナはすかざず土下座した。


「エレザベス王妃は魔王の武具を隠した張本人です。エレザベス王妃は妹共に大陸を回り魔王の武具を隠しました。因みにですが、この任務がきっかけで国王と王妃は出会い、国王が一目ぼれし結婚に至ったそうです」

「私の両親の馴れ初めとかどうでもいいのよ!! それよりもなんでお母さまはそんな情報を漏らしたのよ!?」


「どれだけ隠そうとしても、人の口を塞ぐのは困難なことです。王妃が魔王の武具を隠したという噂がいつからか立ちました。それを追求するメディアに嫌気を指した王妃は自伝を出版しました」

「いや、その解決はおかしいでしょ」


「自伝の冒頭は次の通りです。『魔王の装備か? 欲しけりゃくれてやる。探せ! 魔王の全てをそこに置いてきた』です」

「なんでそんな焚きつけるような言葉使ってるのよ!」


「なんでしょう、凄い心に響く言葉ですね」

「ソラソラもなんか探してみたくなったんだよ」

「私もこの牢獄から飛び出て追い求めたくなりました」

 よくわからないがテレーザ、ソラソラ、ディアは少年のような顔をしていた。


「だったら、さっさとその牢獄から飛び出ろ!!」

「まあまあ落ち着いてくだせぇえ、姫様。コリゴーリがなぜ幻の村と言われているかはこれからなんですから」

 なんでこいつに宥められなきゃいけないのかと思ったが、イリーナはなんとか堪えた。


「そうですね、その辺について説明します。王妃は自伝で4つの武具についてどこに隠したかヒントを与えています。そこで出てくるのがコリゴーリです。王妃はコリゴーリの人たちに魔王の武具をどこ隠したかを伝えたと記しています」


「ん? それでなんでコリゴーリが幻の村になるのよ?」

「……王妃の自伝を呼んで、多くの人が魔王の武具を求めて旅立ちました。ですが……」

 コトネは勿体ぶるように黙る。


「ですが、何よ?」

「ですが、誰もコリゴーリを見つけられませんでした」


「はあ? ……いや、意味不明、イミフなんですけど。だれも見つけられない村がなんで市販の地図に載ってるのよ」

「それは王妃がここにあると言ったからです」

 イリーナは再度素早く土下座した。


「要するにイリイリのお母さん以外が見つけられなかった村ってことだよね。リギリギを生き返らすためだけにその村を探すのはちょっと無謀じゃない? 少し遠くても他の教会のある街に行った方がいいんじゃない?」


「確かに無謀かもしれません。私も最初はそう思いました。しかし、私はコリゴーリに行くべきだと思います。その理由は魔王軍側がコリゴーリに教会があるということ知っているからです」

「そっか、コリゴーリに教会があるということを知っているということは魔王軍はコリゴーリを見つけているということになりますね」

 ディアが気が付く。


「そういうことです。先に言っておきますが、王妃の自伝に教会は出てきませんが神父は出てきます。その記述からコリゴーリに教会がある可能性は高いです。しかし、断言はできません。しかし魔王軍はディアさんに教会がある村を聞かれコリゴーリを上げました。


 魔王軍がもしコリゴーリを見つけているなら教会の有無を知っているはずです。そして、まず間違いなく魔王の武具を回収しようとしているはずです。私たちはそれを阻止するべきです。しかし、なんだかんだで囚われの身のディアさんの情報。偽の情報を掴まされている可能性もあります。


 それでも私はコリゴーリが本当にあるかどうかを確認すべきだと思い、今地図上のコリゴーリに向かってます。姫、ここまでの話を踏まえ進路を変えますか?」

 コトネは立ち止まりいつになく真剣な目でイリーナを見た。イリーナも珍しく緊張した。だから真面目に考えた。


「そ、そうね。……今、最優先すべきはブリギッタの復活よね? だったらそんなあるかどうかわからない村に行くよりも、少し遠くても確実に教会がある街に行くべきじゃないかしら?」

 イリーナは名探偵さながらの顔を作った。


「姫様、わかりました、今他に教会がある街を聞いてみます」

 ディアが手を振るとディア曰くホラー君という魔物が画面上に現れた。ホラー君は一回画面から消え、再度現れた時は地図を持っていた。その地図をディアに渡すと画面外へと消えていった。

 ディアはその貰った地図をイリーナたちに見える用に広げた。


「姫様、見えますか? 面倒なので教会がある街を全て赤丸してもらいました」

 ディアは満面の笑みであった。


「ホラー君、従順すぎじゃない?」「こいつ枕営業でもしてるんじゃないの?」「姫、その発言はひどすぎます」「これは真の勇者だからこそ為せるものではないのでしょうか? そうですよね我が主よ?」

 イリーナたちはその手懐けっぷりに若干引いた。


「うーん、どこもここからじゃ遠いわね。なんでこんなに南側に偏ってるわけ?」

 ディアが突きつける地図を眺めながらそう零した。


「確かに南に偏ってますね、宗教的な問題でしょうか」

「すみません、神父になる人は寒いのが苦手な方が多いらしいです。仕事のとき以外はアロハシャツを着用する神父が8割を超えると聞いています」

 テレーザが衝撃の事実をさらっと述べた。


「いやいや、この国の神父どうなってるのよ!!」

「でも陽気な感じでいいじゃん」


「アロハシャツ=陽気ではないですよ。いずれにしても遠いですね。姫、どうします?」

「そうね……」

 イリーナはうーんと唸り声を上げて悩んだ。


「イリーナ様、ひとつよろしいですか?」

 テレーザがわざわざ挙手して発言した。


「何よ?」

「わたくしの師である神父から聞いた話には続きがあります」


「続き? いや待って、あんたの師の神父の話ってなんだっけ?」

「わたくしの師は幼い頃に勇者が連れてきた棺の中の亡骸を復活させたという話の続きです」


「ああ、そうだったわね。その話に続き? 続きなんかあるの?」

「続きという表現はふさわしくないかもしれません。当時、教会は少なく、勇者様はいつも仲間になにか合った時復活させるときはいつも師がお世話になっていた教会に来ていたようです」


「ふむふむそれで」

「ある日のことです、神父様はいつも通り勇者様が連れてきた棺の中の亡骸を蘇らせました」

「なんだろう、そんな高頻度で仲間死んでたとか、嫌だわ」


「イリイリ先に言っとくね。ソラソラは一度もシニタクナイ」

「ブラック企業も顔真っ青な環境ですね」

「こんな危険なようで安全な場所からは言いにくいですが、どうか皆さん『命を大事に』」

 イリーナたちは今と昔の違いをしみじみ感じた。


「皆様の言う通り、勇者様は仲間の師に慣れていたのかもしれません。そのためか、教会に来るのが遅かったみたいです。……蘇らせた死体は腐っていたそうです」

 その瞬間、誰もがテレーザの話のことの重大さに気が付いた。


「えーっと、テレーザ、それってどのくらい放置していた場合の話?」

「……個人的な見解を述べることを許してください。気温や湿度にも影響されるとは思いますが、コリゴーリ以外の教会でブリギッタ様を蘇らしても、どこかしら腐食していると思われます」

 イリーナたちは何とも言えない顔で互いの顔を確認した。目だ遭ったソラソラにイリーナは問う。


「ソラソラ、どう思う?」

「うーーーーん、正直、これってコリゴーリに教会がなかったらリギリギは……まあ、あれなんじゃないかな」


「あれってなによ!? テレーザは?」

「神に祈りましょう。コリゴーリに行けば全てが万事うまく行くと」


「……コトネは?」

「コリゴーリという村があり、そこには神父がいる。そう言ったのが誰かと考えれば迷う必要はないと思います」

 イリーナは同意するように鼻で笑った。


「ディアはどう思う?」

「コリゴーリは実在する、そこの神父はいる。そう言っているのはエレザベス王妃です。その上で、エレザベス王妃の妹、私のお母さんもそう言っているのだから間違いありません。姫様、ブリギッタさんのためにもコリゴーリを目指しましょう」

 イリーナたちは「うん、うん」と頷きながら「ん?」と思った。


「ディア、あんた今なんて言っ」

「あっ、すみません姫様、消灯の時間です。必ずブリギッタさんを蘇らしてくださいね。それでは、おやすみなさい」

 イリーナたちの前にあった画面は一瞬で消えた。


「……は?」

 画面が消えた後はイリーナたちの間抜けな声が広野に響くだけであった。


 とりあえずイリーナたちは超豪雪地帯にある幻の村コリゴーリに行くことが決まったのであった。


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