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31.伝説の防具

「おー姫様、ようこそ港町ツルツールへ。私がツルツールの漁業組合の組合長、ツ・ナミHEYです」

 ツナミヘイは丁寧に挨拶をした。台本を見ながら。最早そのことにイリーナは突っ込まない。


「あー、どーもどーも。とうかその台本こっちの分はないわけ? というか誰が書いてるのよ、その台本」

 コトネがそっとイリーナに耳打ちする。


「姫、どうやら勇者verから姫verに改定されいるようですが、改定版はエレザベス王妃が書いたみたいです」

 その瞬間イリーナの姿勢がきりっとした。


「いやー、素晴らしい台本ですね」

 笑顔で取り繕うイリーナに対し、ツナミヘイは困惑の表情を浮かべ、周囲の者たちとヒソヒソと相談を始めた。


「姫、どうやら台本にない返答だったらしいです。台本にありそうなセリフに変えてください」

「糞、アドリブに弱い奴らめ。仕方ない、あー、コホン、組合長、私たちはここに魔王軍の幹部がいると聞いて駆けつけたのですが」

 イリーナの言葉にツナミヘイたちはハッとし、再び台本を見てから整列した。あの台本には立ち位置までも指定されるのかとイリーナは呆れた。


「そうなのですよ、姫様。実は近くの島に魔王軍の幹部六天王のひとりが棲みついてしまったのです。その魔物が先ほどの蟹たちのように海中生物モチーフの魔物ばかりなんです。お陰様で海は魔物だらけ、漁に出ればすぐに魔物が襲ってくる始末。先日、遂に全ての漁船が破壊されてしまいました。姫様、どうにかあの魔物を退治しこのツルツールに平和を、そしてこの国の漁獲量を回復させてください」

 ツナミヘイはすらすらと読み上げた。


「最後の国の漁獲量は明かに言わされてるな」「完全に国目線のコメントだもんね」「台本の作り手の本音が大きく反映されていますね」

 ソラソラたちが口々に指摘する。


「あんたたちこの台本様に文句をつける気?」

「わたくしからも言わせてもらいますが、そこは触れない方が身のためかと」

 ふたりの妙な圧に3人は黙って何度もコクコクと頷いた。それを確認してからイリーナはツナミヘイたちの方に向き直した。


「組合長、勿論私たちもそのつもりでここに参上したのです。それでその幹部というのはどこにいるのですか? 島と言ってましたね? もしかしてあの島ですか?」

 イリーナは眼前の大きな山がある小島を指さした。


「あっ、いやその島ではなく」

「ではあの島ですか?」

 コトネは次に密林の島を指さした。


「いえそれでもありません」

「じゃあ、あれ?」

 ソラソラは雪が降り注ぐ小島を指さす。


「いえそれでもなく」

「ではあの島か?」

 ブリギッタが雲の上に見える島を指さす。


「すみません、それでもなく」

「それではあちらの島でしょうか?」

 テレーザが海底に見える?? 島を手で示した。


「いやー、その島でもなく……すみません」

 否定の連続でツナミヘイも申し訳なさそうであった。


「いやそれは別にいいんだけど、この辺の海はなんなの? 偉大なる海なの?」

「姫、そこには触れないでおきましょう。それで結局どの島に六天王がいるんですか?」

 ツナミヘイは申し訳なさそうに地図、いや海図を取り出した。全員で海図を覗き込むとみんなが指さしたはるか先の島に赤丸が付けられていた。


「……いや、遠くない?」「海図じゃなきゃわからない場所ですね」「そもそもこれ近くの島って言うの?」「他にこれだけ近くの島があることを考えればふさわしくないですね」「それにしても、なぜその幹部はこんな遠くの島に根城を築いたんだ?」

「言われてみれば、確かに……」

 答えを求めるようにイリーナたちはツナミヘイを凝視した。


「す、すみません。その理由は我々にもよくわからなくて。しいて言うならあの島は渦潮に囲まれてて攻めにくいとうことかと」

「渦潮で守られてる島ですか。確かに攻められにくいという利点はわかりますが……」


「逆だよね? その魔物こうして積極的に攻撃しに来てるるわけだし」

「そうよね。最初からこの街に攻撃する気なら最初からもっと近い島に陣取ればいいのにね」


「ですが一方的に攻めることをできるというのは大きな利点ですよ」

「だとしても一々渦潮を回避して遠い島から攻めてくるのはかなりの労力だ。その幹部はイリーナ姫の力にビビッて引きこもってるだけではないか?」

 と首を傾げるイリーナたちの背後からチッチッチッとそこそこ腹立たしい音を鳴らす男がいた。デェスケである。


「わかってませんね、姫様たちは」

「なんか腹立つ言い方ね」


「まあまあ。それでデェスケさん、何か知っているのですか?」

「ふふふ、実はですねあの島には伝説の防具が眠るという伝説があるんですよ」


「伝」「説の」「防」「具?」

 イリーナ、ソラソラ、ブリギッタ、テレーザが謎の連携を見せた。


「なんで急にそんな息ぴったりなんですか? あと、デェスケさん伝説って2回連続で言ってアホみたいですよ」

 コトネの指摘にデェスケはしゅんとする。


「違うんです、違うんですよコトネ様。みんながそう言ってるのであってあっし個人が言ってるわけではないんです」

「おっさんがいじけても気持ちが悪いだけなんだからやめろ」

 ブリギッタの本気のイラつきを察したデェスケはすぐにシャキッとした。


「それにしてもその伝説の防具っていうの、気になるわね」

「やっぱ強いのかな?」


「それでその伝説の防具っていうのはなんなんですか?」

 デエスケはにやりと笑う。


「ヘイ。姫様たちも聞いたらそりゃもう確実にほしくなりますよ」

「もったいぶらずにさっさと教えなさいよ」


「へい、あの島に眠っている伝説の防具の名は『あぶねぇビキニ』、戦士用アーマーです」

「………………」

 防具名を聞いたイリーナたちは若干の間の後に神妙な顔をした。ひとりを除いては。


「戦士用ってことはブリギッタの装備よね?」

「そうなりますね」


「でも、こいつの装備……」

 イリーナたちは改めてブリギッタの装備を確認する。ブリギッタはぱっと見は裸エプロン、しかし実際はその下にちゃんと赤い水着を装着している。

 まじまじと装備を確認されている当人はひとり目をキラキラ輝かせていた。


「もう既にあぶねぇビキニなんですけど」

「そうだよね、リギリギはあぶねぇビキニだし、色々とあぶねぇ人だよね」

「ソラソラ嬢、それはどういう意味ですか?」

「私はそのままの意味だと思います」

 ブリギッタは迷いもなく賛同しただけのテレーザだけを殴った。


「まあ、そういうわけで折角の伝説の防具が眠るとか言われてちょっとワクワクしたのにもう興味失せちゃったんですけど」

「いえ、あっしにそんな風に言われましても……ただ、そういう防具がありますよって話なんで……では、あっしはこれで」

 デェスケにとって予想外の反応だったらしく、デェスケは気まずそうにフェードアウトした。


「それで、どうする? あの島行く?」

「いや姫、あの島行く? じゃなく、行かなきゃいけないんですよ。魔王軍幹部がいるんですから」


「ああ、そうだったわね、そうね…………ここで待てばよくない?」

「いやいやいや、それはダメですよ!!」

 イリーナのやる気0発言に誰よりも早く喰い付いたのはブリギッタであった。


「イリーナ姫、行きましょうよ、あの島に!!」

 すぐに誰もがブリギッタの心情を悟った。伝説の防具『あぶねぇビキニ』が欲しいのだと。


「リギリギ、欲しいんだ、伝説の『あぶねぇビキニ』」

「そ、そういうわけではない」


「今の水着も十分に際どいと思うのですが?」

「貴様、見た目はそんなんでもやはり男か!! 俺の体をそんな風に見ていたとは!!」


「いえ、テレーザさんはそういう目線ではなく、どちらかと言えば母親目線で心配されてましたよ」

「なっ! それはそれでやめろ!! と、とにかく一刻も早くディア殿を救うためにもここで待つなんて呑気な選択はせずにこちらから攻めるべきです! ……そして、ついでに伝説の防具とやらを拾って帰りましょう」


 …………。

「い・や! べろべろべー」

 イリーナは思いっきり舌を出して拒否した。そのイリーナの拒否っぷりに場は凍り付いた。


「イ、イリーナ姫!!!!! なぜ、なぜですか? 行きましょうよ! あの島に行って調子に乗ってる幹部ボコボコにして、『あぶねぇビキニ』手に入れましょうよ」

 ブリギッはイリーナにに縋りついて懇願した


「いやよ。遠いし、渦潮に阻まれてるとか言うし、それに何よりなんかこれじゃあ、あんたのために行くためみたいじゃない」

「そんなツンデレ発言いいですから、行きましょうよー」


「誰がツンデレ発言よ!! 1ミリたりともデレ要素ないじゃない!」

「どう見てもデレる前振りじゃないですか。どうせなんだかんだで結局島に行くことになって、魔王軍幹部を倒すためであんたのために伝説の防具をとりに行くわけじゃないんだからね、勘違いしないでよ! って言いだすパターぶへっ」

 ブリギッタが言い終わる前にイリーナの2回転半回し蹴りが炸裂しブリギッタは一番近い島へと吹っ飛ばされた。


「ブリギッタ様は命が惜しくないのでしょうか?」

「ソラソラは気づいたよ、今みたいに蹴り飛ばせば渦潮を超えてあの島までいけるよ、リギリギは」


「さすがのブリギッタさんでも死にますよ。それで姫、本当に行かないとか言わないですよね?」

「えー、やっぱりダメ?」


「当たり前です。待ってても敵、特にボスキャラは出てきません」

「この前のキノコは出てきたじゃない」

 イリーナが言うキノコとは魔王軍幹部六天王の最初の敵キ・ノコノコJrのことである。


「あれは別ですよ。誰だって自分の家の前で見知らぬ人がBBQを始めてどんちゃん騒ぎした挙句、家を煙で充満にされたら溜まらず出てきますよ」


「イリーナ様たちはボスのアジトの前でいったい何をなさったのですか……?」

「コトコトの言葉のまんまBBQだよ」


「……なぜそのようなところでバーべーキューをしたのですか?」

 テレーザの問いにイリーナたちは思わず顔を見合わせ首を傾げた。


「なんでだっけ?」「なんででしょう?」「なんでだろう?」

 そして、今度は3人で答えを求めるようにテレーザを見て「なんで?」と声を揃えた。


「あの私に聞かれましても……」

 当然の答えが返ってきた。


 そりゃそうだ、という微妙な間の後にコトネがパンッパンッと二回手を叩いた。

「話を戻しましょう。姫、本当に島に行かないとか言わないですよね?」

「……そこからやり直すの?」


「その方がわかりやすいじゃないですか。ではもう一度。姫、本当に島に行かないとか言わないですよね?」

「えー。やっぱりダメ?」


「……姫まで全く同じセリフでやり直したら何も変わらないじゃないですか」

「それに何か問題でも」

 イリーナは自信満々にそう答えた。同時にコトネたちは呆れるように笑った。


「イリイリそれにどんな意味があるの?」

「意味? 意味って言われても……そうね、やり直したところで私の意見は変わらないわよ、ってことかしらね」


「イリーナ様のそういう性格決して嫌いではないですが、このままでは史上最も無意味なループにはまるのではないでしょうか?」

「そう思うなら私じゃなくてそっちが折れなさいよ。次にコトネが、そうですねここで敵を待ちましょうか、っていったらループから抜けられるじゃない」


「そうしたらそうしたで話が進まないじゃないですか。いいですか姫、よくお聞きください。たまにRPGで主人公にはいといいえの二択があるようで実際のところは決まった方を選ばなきゃ進まない選択。これはあれです」

 イリーナは暫しの沈黙のあとその場の誰にも聞こえるほどの大きさでチッと舌打ちをした。


「わーたわよ。行けばいいんでしょ行けば」

 そうイリーナが悪態をつくソラソラとテレーザはヒソヒソと話す。


「テレテレ、イリイリは今のでなんで納得したの? というかRPGってなに?」

「ソラソラ様、申し訳ありません。わたくしにも何がなんだかさっぱりです」

 ふたりの会話はイリーナとコトネの耳にも届いていたがきっちりシカトした。


「ワカリマシタ、デハ、マオウグンカンブヲタオシニ、アノシマニ、イキマショウ」

「姫、急に片言にならないでください」


「最近のゲームでも主人公には意思があるようでないというのを表現しただけよそして、そして。。まあ、行くなら行くでいいけどその島への侵入を阻んでいるその渦とやらはどうするのよ?」

 イリーナのそのセリフを聞いた瞬間、ボケーッとしていた街人たちが、きびきびと動き出し台本を捲り始めた。そしていまだにボケーッとしていたツ・ナミヘイの肩をバンバンと叩き、 台本の朗読を促した。

「姫様、実はあの渦潮を消す方法があるのです」


「糞っ、ここで参加してくるのかよお前ら。いいよ、もう面倒だからジャンプで飛び超えるよ!」

「姫、自暴自棄にならないで。それに今のは姫が誘導したものじゃないですか」


「……認めざるを得ない」

 イリーナは膝を折った。


「わかったならこれ以上は何も言いません。それでツ・ナミヘイさん、その渦潮を突破する方法とは?」

「えーっとですね……、それはですね……」

 ツ・ナミヘイは老眼鏡を変えて指をペロッと舐めて台本を捲る。


「いや、把握してから喋れや」

 イリーナの文句にツ・ナミヘイの代わりに周囲の漁業組合員たちが何度も頭を下げた。そうしているうちにツ・ナミヘイは目的のページを見つけ満足そうに微笑んだ。


「笑ってんじゃねぇよ!! 気持ち悪いんだよ!!」

「姫、一般人に辛辣すぎます。それでその渦潮の消す方法とは何ですか」


「実は渦潮を消す秘伝の技があるのです」

「……秘伝の技ですか。それでその技とは?」


「『渦潮を消す』です」

 ツ・ナミヘイの返答にイリーナたちは露骨にイラっとした顔をした。


「そのまんまだね」「技名っぽくないですね」

「『渦潮』だったら二重の意味で丸被りですからね」

 二重の意味がわからない二人は首を傾げた。


「こっちの話です。それでその技はどうやったら使えるようになるのですか?」

「あっ、はい、えーっとですね……」

 再び台本を凝視するツ・ナミヘイ。


「テンポ悪いなこの窓際族」

「姫、確かに彼のデスクを見る限りそのような疑惑はありますが、根拠なき言いがかりはやめましょう」

 イリーナたちの中傷はツ・ナミヘイの耳には届いてないようでふたたび目的のセリフを見つけたらしく嬉し気にニコニコと笑った。

「あーはいはい、実はその技を伝授できる方がいるのです」


「鬱陶しいな、で、その人物って誰なのよ?」

「魔物サファリパークの園長です」


「「……魔物サファリパーク?」」

思わずイリーナとコトネが声を揃える。


「はい、魔物を安全に見ることができるという画期的な施設です」

「うーん、魔物のサファリパーク……いや世界観的にダメでしょ」

「普通ならあり得ないですね。しかし、秘伝技という響きにサファリパークという単語、いい予感がしませんね」


「いや、そこは、大丈夫、きっと大丈夫よ。それじゃあ、その園長に会いに行けばその秘伝技とやらを伝授してもらえるのね?」

「その筈なんですが……最近の園長は様子がおかしく、フガフガ言ってばかりでコミュニケーションが取れないのです」


「「やっぱりか!!」」

 またしても声を揃えて叫ぶイリーナとコトネに、ソラソラとテレーザはびくっとした。


「イリイリ、コトコトさっきからおかしいよ」「お二人は何にそんな過敏に反応しているのでしょうか?」

「いえ、こっちの話なのでお気になさらずに。それで姫、どうします?」


「どうするもこうするもないでしょ。行くしかないんでしょ? その魔物サファリパークとやらに」

 諦めたようにそう意を決するイリーナの肩を何者かがポンっと叩いた。


「ふふっ、さすがはイリーナ姫、なんだかんだ言いながら結局島に行ってくれるのですね。正にツンデレの鏡ですね」

 その正体はいつのまにか島から泳ぎ戻ってきたブリギッタであった。


「……ねえあんたたち、その魔物サファリパークってどこ?」

 ツ・ナミヘイたちは一斉に西に位置する高原の手前にある少し大きめの建物を指さした。


「そう、ありがとう」

 感謝の言葉を述べながらイリーナはマンのサファリパーク目掛けてブリギッタを殴り飛ばした。


「さあ、行きましょうか」

 そう微笑むイリーナを見て改めてこの姫は怒らせてはいけない、ソラソラとテレーザはそう心に誓うのであった。


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