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30.ツルツール港B地区

 ハリセンボン田家を出て10分。マキーガイに描いてもらった地図に従い緩やかな坂道を下り続けていたイリーナたちの鼻にようやく潮風の匂いが届いた。耳をすませば波音も聞こえてくる。しかし、肝心の海はまだイリーナたちの視界には入ってこなかった。代わりに見えるのは高さ3メートルほどの鉄の壁であった。


「なによあの壁、せっかくの海が全く見えないじゃない」

「丘から見た時に壁があるのはわかりましたが思った以上に高いですね」

 鉄の壁の前まで辿り着いたイリーナたちは思わず壁を見上げた。


「でもイリイリならこのくらいの壁跳び越えられるよね」

「うん、跳ばないけどね」

 ブリギッタが壁をコンコンと叩く。


「厚さも相当ですよ」

「でもイリイリならこのくらいの壊せるよね?」


「うん、壊さないけどね」

「それではこの先にはどう進めばよろしいのですか? 上もダメ、正面もダメ、となると下ですか?」

 テレーザは真顔でレンガ造りの地面をポンポンっと叩いた。


「でもイリイリならこのくらいの地面掘れるよね?」

「あんた私をなんだと思ってるのよ?」


「姫はお好きな方法で壁を越えてください。私たちはこの先にある出入り口から行きますので」

「いや私も普通にそっちから行くわ」

 というわけで左折。鉄の壁沿いに進むこと約300m、港B地区出入り口と書かれた扉が見えてきた。


 扉の前にはしっかりと起きている兵……ではなく若い漁師と思わしき女性二人が座していた。なぜ漁師と思わしきかというと、ツルツール漁業組合と書かれたTシャツを着ていたからだ。


「王国兵よりもちゃんとしてますね」

「これで一目でイリイリを姫と認識できたら完璧だね」


「ソラソラ様、それは少々酷な期待かと」

「あんたら一々八々九々喧嘩売らないと気が済まないわけ?」


「姫は姫でありもしない言葉を使わないでください。すみません、ちょっとよろしいですか?」

 コトネが声をかけると漁師たちは目を丸くした。


「その水色の髪、もしかしてコトネ様ですか」

「そうですコトネです」

「そしてその後ろの姫っぽい格好しているのが姫様、イリーナ様ですね?」

 女漁師たちがすぐにイリーナを姫と認識したことに感動したソラソラたち三人は思わず「おー」っと声を上げた。イリーナも余程嬉しかったのかニヤついていた。


「そうです、私がオラオーラ王国の姫ことイリーナです」

 イリーナはドレスを上品にわずかに持ち上げ威風堂々と自己紹介をした。


「やはりそうでしたか。お話はマキーガイ姉さんから聞いてます。冗談かと思ってたんですが本当だったんですね」

 ソラソラたちは肩をガックシと落とした。


「……なんだ不正か」

「不正とは失礼な! 私はなにも手を下していない」


「はいはい。マキーガイさんに感謝しましょうね。それでは私たちがここに来た目的も聞いてますね?」

「へい、組合長にお会いしたいということですよね? しかし、申し訳ないことに組合長は今ちょっと持ち場を離れられないんすよ」


「持ち場を離れられない……? まさか、今魔物が襲ってきているのですか?」

 コトネの問いにイリーナ以外の3人がすかさず身構える。


「いえ、そういうわけではなくて組合長の台の当たりが止まらなくて……」

「台って……パチンコか!!」


「姫、この世界にはパチンコはありません」

「パチンコ……はよくわかりませんが、釣りの話です」


「釣りですか? 漁ではなく?」

「いやー、勿論できるなら漁をしたいんですが海は魔物だらけで……それでもなんとか船を出していたんですけど、遂にこの前すべての漁船が壊されてしまいまして、だからと言って魚を獲らないわけにはいきませんので全員で釣りをしてなんとか漁獲量を確保しているのです」


「そうでしたか、これは大変失礼なことを聞いてしまいました、申し訳ありません」

 深々と頭を下げるコトネに女漁師たちは慌てふためいた。


「いえいえ、コトネ様が謝るようなことではありません、どうか顔を上げてください。元々、漁師でありながら命ともいえる漁船を壊された我々が悪いのですから」

「なーに言ってるのよ、悪いのは船を壊してる魔物じゃない。あんたたちが悪いことなんて何もないじゃない」

 誰もが予想しなかったイリーナの優しい言葉に漁師たちは目を潤ませた。


「どうしたのですか? そのような慈悲深い発言イリーナ様らしくありませんよ」

「ちょっとどういう意味よ」


「姫、似合わぬ発言はお控えください。テンポが悪くなります」

「知るか!」

「組合長さんが動けないというのなら私たちが組合長の所に出向きますけど」

 コトネの提案に二人の女漁師はうーんと声を唸らせた。


「ありがたい申し出なのですが、今港には女性子供は立ち入り禁止にしているんですよ。それで我々ふたりも漁師でありながらこうして港の外側の出入り口の見張りというか受付というかみたいなことをしているんです」


「その女子供は立ち入り禁止のルールは要するに魔物がいて危険だからではないのか? だとしたら魔物、いや魔王を退治するため旅をしている俺たちをそのルールに当てはめるのはおかしくはないか? ですよね? イリーナ姫」

 意気揚々と迫りながら同意を求めるブリギッタをイリーナは無言で押しのけた。


「まあまあ郷に入れば郷に従えってやつよ。男なら問題ないのよね?」

 イリーナの問いに女漁師ふたりは不思議そうな顔をしてからイリーナたちをひとりひとり見直した。そして、ふたりは再度顔を見合わせ首を傾げた。


「男の方ならある覚悟をお持ちなら大丈夫ですが」

「「「覚悟?」」」

 ソラソラ、ブリギッタ、テレーザの三人は思わず聞き返す。その横でイリーナはにやりと笑う。


「覚悟? 勿論あるわよね? テレーザ!」

「えっ? あっ、はい」

 突然名指しで振られたテレーザは思わずはいと答えてしまった。


「はい、じゃあ決定。テレーザが代表して港に入ります」

 イリーナはドンっとテレーザの背中を押し女漁師二人の前に差し出した。


「姫様、ですから女性の方は……」

 困惑するふたりにイリーナはテレーザの修道服を思いっきり捲り上げ、その中を見せつけた。


「きゃーーーーーー」

 乙女ふたりとか弱き男、三つの悲鳴が響き渡った。イリーナは満足そうに捲り上げていた修道服から手を放す。


「これでわかったでしょ? こいつは男よ!」

「イリちゃ、ではなくイリーナ様、男と証明するのにこのようなはしたない方法はおやめください」

 顔を真っ赤にしてテレーザは抗議する。顔を赤くしているのはテレーザだけではない。とんでもないものを見せつけられた女漁師たちは、日に焼けた黒い肌を真っ赤にし、テレーザに背を向けヒソヒソと話す。


「なにいまの?」「わからない。わからないけど、なんかすごかった」

 女漁師たちは恐る恐る振り返りテレーザの顔を見ると限界だと思えた顔の赤さを更に増して再び目を逸らした。


「漁師だろ? このくらいのもの見慣れてるだろ?」

「リギリギは漁師をなんだと思っているの?」


「いや漁師だからというわけでなくてだな、男ばかりの集団に女性がいると自然とそういう場面に遭遇しやすいという話をしているのであってだな……」

 と、ブリギッタが見苦しい言い訳をしてると壁の向こうからゴンゴンっと乱暴なノック音が鳴り響いた。


「おーい、さっきから騒がしいけどなにかあったか?」

 男の声がしたと思ったら、鉄の扉の横の一部がスライドして開いた。わかりにくいが小窓があったのだ。


 小窓からツルツル頭の中年男が顔を出した。

「アナゴンダさん、先ほど話した姫様一行が本当にお着きになったんです」


「なんだってー、どうせマキーガイさんの嘘だと思ってたよ。おー、その水色の髪、間違いないコトネ様ですね?」

「はい、そうです私が姫の世話係コトネです」


「いやー、初めまして私アナゴンダと申します。マキーガイさんの旦那さん同じ船に乗っている漁師です」


「その辺の細かい話は色々と面倒なので結構です。すみません、ここまでのお話をアナゴンダさんに伝えてくれませんか?」

 コトネの申し出を受け女漁師のひとりがアナゴンダさんにかくかくしかじかさざえさざえと説明を始めた。その横でもうひとりの女漁師は暫しお待ちを言わんとばかりにクネクネと謎のダンスを踊っていた。


「あの踊りはなんなの?」

「しいて言うなら終わりを告げるダンスよ」


「まだまだ終わらないんですけどね」

 説明を聞き終えたらしいアナゴンダさんは舐めまわすようにテレーザを見ていた。その視線に気が付いたテレーザは尋ねる。


「あのー、なにか?」

「いやー、そういうのもありだなーと思ってね、目覚めちゃいそうだよ」


「おっさんの目覚めとかどうでもいいわ、いいから早くこの扉開けてテレーザを組合長とやらの所に案内してよ」

「いやー、僕的には勿体ないと思うんだけどなー」


「あんたの意見なんて知らん」

「うーん、勿体ないなー」

 小窓の前から姿を消した。鍵は内側と外側の両方からかけられているようで、イリーナたち側の鍵も施錠しようと女漁師が作業に取り掛かる。


 間もなく、両方の鍵が解かれ鉄の扉が開かれアナゴンダさんが姿を現した。

 現れたのはアナゴンダだけでなく、壁で見えなかった海も姿を見せた。そして、その海に向かい等間隔に並び釣りをする漁師たちの姿も見えた。釣りをする漁師体の後ろ姿は皆輝いていた。


 そのことにソラソラとブリギッタは気が付いたが、テレーザはうまいことイリーナに視界を塞がれたためその輝きは見えていなかった。


「さあ、テレーザ行くのよ」

「あのー、イリーナ様具体的にわたくしは何をきいてくればよろしいのでしょうか?」


「えーっと、組合長に会って……コトネ、あとは頼んだ」

「いい加減ですね。では私から説明します。組合長に話しかければクエストが発生しますのであとは流れでお願いします」


「あんたの方がいい加減じゃない!!」

「冗談ですよ。テレーザさん、組合長に姫一行がこの街、ツルツールに巣食う魔王軍幹部の討伐に来たと伝えてください。それから、その幹部がどこにいるのか、どんな魔物なのかなどできる限りの情報を引き出して来てください」


「わかりました。それでは、いってまいります」

 テレーザが扉の向こうに行くとすぐに扉は閉ざされしっかりと鍵がかけられた。その間、イリーナは不気味なほどの笑顔で手を振り続けた。


「ねえねえ、イリイリ」

「なあに?」


「港にいた漁師……みんなハゲてなかった?」

「そうだね、見事にツルツルだったね」


「あの、イリーナ姫」

「なあに?」


「イリーナ姫は気づいてのですか?」

「なにに?」


「漁師たちが全員ハゲてるってことにです」

「まっさかー」

 イリーナは終始ニコニコしていた。そんなイリーナの背後にコトネはこっそりと回り込みイリーナのお尻に王家秘密道具:本音で喋り場スピーカーを貼った。


『ふふっ、そんなの当たり前じゃない。丘の上から見た時からわかってたわよ。そして、あのへんてこな髪の家で話を聞いて確信したわ。カニの魔物は髪を切る。この魔物をうまいこと利用すればテレーザはハゲになる。ハゲになればシスターから僧侶に強制転職、すなわち男に戻るはず!』


「だそうです」

 イリーナは隠す気はないようで、うんうんと深く頷いてから尻のスピーカーをぺりぺり剥がした。


「わー、さすがはイリイリ陰湿」

「なるほど、そういう目論見があったのですね。では、覚悟というのは……」

「ハゲてもいいという覚悟でしょうね」


「その通りです。あの蟹の魔物に襲われればほぼ確実にツルツルヘアーにされます。あの蟹の魔物たちはありとあらゆる毛を刈ろうとしてくるのです。しかし、毛を刈られるのを恐れ釣りをやめてしまえばこの街は終わりです、なんせ他の収入のあてはないのですから。そこで組合長は決めたのです。ハゲる覚悟のある者だけで釣りをすると。本当は私たちも釣りをしたいのですが……髪は女の命と皆に説得されこうして港出入り口の受付に甘んじているのです」

 女漁師たちはシクシクと泣き始めた。


「糞みたいな男たちのために泣いてあげるなんて、なんて優しいのだろう。今宵は俺が慰めてあげよう」

「あー、リギリギって女を口説くキャラでもあったっけ?」


「姫や私には敬語で変態なんですけど、一般女子には男らしい女として女を、いえ女体を口説くキャラを保ちたいんですよ」

「コトネ殿、妙な分析はやめてもらえませんか。やりにくいです。とりあえず男のために涙を流すのはやめるんだ」


「いえ、ただ単に釣りができなくて悲しいだけです」

「そっちなのね」


「あんたたちもそれよりも見てみなさいよ、テレーザを」

 小窓から港を見守るイリーナは皆を手招きした。手招きされたコトネたちに加え女漁師のひとりも押し掛けたのでぎゅうぎゅうになった。


「こっちにもありますよ」

 もうひとりの女漁師が反対側の小窓を開けた。厚意に甘え二手に分かれイリーナたちはテレーザの行く末を見守った。というか実況を始めた。


「さあ、なんの事情も知らぬテレーザさん、アナゴンダさんに案内されるまま釣り人たちに近づいていますね。おっと、ここでテレーザさん何かに気が付いたみたいですね」

「恐らくは釣り人全員がハゲということに気が付いたのでしょうね」


「いや、そりゃ気づくよね」

「気づいたところで口に出せる状況ではありません。さあ、テレーザさんなんらかの嫌な予感を拭えぬまま漁業組合組合長ツ・ナミヘイさんの元へ。いったいどのハゲ……もとい紳士がツ・ナミヘイさんなのでしょうか」


「ここまで来れば一目瞭然ね」

「と言いますと?」


「クーラーボックスよ。組合長は当りが止まらず動けないと彼女たちは言っていた。そうなれば組合長の近くには積まれているはず、パチンコの玉を入れた箱さながらの魚が大量に入ったクーラーボックスの山が!! ふふっ、真実はいつもひとつ」

 イリーナはどや顔であった。


「さあ、どうでもいい推理が披露されましたが嬉しくも悲しくも予想は的中! クーラーボックスの山に囲まれているハゲの元にテレーザさんは案内されました……いえ、よく見れば違います、ハゲでは……ツルツールではありません!!」

「さすがはツ・ナミヘイの名をもらっただけあるわね、毛を一本死守するとは恐れ入ったわ」


「毛の一本や二本じゃたいした変わらないのでは?」

「何言ってるのよ、頭のてっぺんの毛が一本か二本か三本か、それすなわち兄か弟かあるいはお化けか、それほどの違いがあるのよ」


「すみませんイリーナ姫、俺には何を言っているのかさっぱりです」

「こちらの話なのでお気になさらず。さあ、そうこうしているうちにテレーザさんがツ・ナミヘイさんと接触。いい感じですね、ただいま握手を交わしています。あーっとここで海の方で異変が!! 水しぶきが立っています!! あれは明かに自然のものではありません!! どう見ますか解説の姫」

「あっ、解説だったんだ」


「そうですね、漁師たちの反応からも察するにあれは魔物が陸に向かってきている、魔物が立てている水しぶきでしょう」

「なるほど、果たして姫の予想は当たるのでしょうか? さあ、海から何か飛び出してきた!!」

 海からカニの甲羅を背負い、両手に髪切りばさみを持った各々オシャレで個性的な髪型をした人に近い魔物が現れた。


「なんか思ってたのと違う感じの魔物が出てきたんだけど、というか魔物なのにシャレオツイケメンなんですけど」

「姫、見た目に惑わされないでください。あの魔物はカニスマという魔物でカリスマ美容師の振りして人間に近づき全ての毛を奪うという恐ろしい魔物です」


「コトネ殿、魔物の正体を知っていたのですか?」

「勿論です。この魔物図鑑にばっちりと記載されてますので。あーっと、そうこうしているうちに魔物たちが一斉にテレーザさんに、より正確に伝えるならばテレーザさんの髪に襲い掛かる!!」


「なんであの蟹? たちは髪ばっか狙うの?」

「図鑑によりますと髪を定期的に奪わなければ自身がハゲるみたいです」

「要するに髪争奪戦なのですね」


「そんなのどうでもいいから早くテレーザの髪を奪うのよ蟹ども!!」

「ナチュラルに敵を応援するのはやめようよイリイリ」

 そんなソラソラの願いは無視されイリーナの声援は熱を帯びていった。

「姫の応援のおかげか蟹たちの動きにキレが増してきましたね」

「いやコトコトも実況続けてるけど助けに行かなくていいのこれ?」


「はあ? そんなことしてみなさい。月に代わって私があんたを殺すわ」

「月に殺される理由が見当たらないんだけど……」

「おーっと、ここでテレーザさんにも動きがありました。十字架です、背負っていた巨大十字架を抜きました」


「余計なことしなくていいのに、とうか何よあれ、十字架をあんな風に使って言いわけ?」

「あっ、姫は初めて見るんですね。あの巨大十字架を逆さに持って剣みたいに戦うのがテレーザさんのスタイルなんですよ」

「なによそれ、だいたいあいつってヒーラーポジションで入ったんじゃないの?」


「そのはずなんですが、どうやら近接戦闘も可能なようです」

「リギリギよりも直接攻撃強そうだよ」

「ソラソラ嬢、なんてことを言うんですか! イリーナ姫、間違いなく俺の方が強いですよ」


「でもあんたよく考えれば盾で殴ってるだけよね? そう考えたら、あんたの攻撃力って実は低いんじゃないの」

「なっ! そ、そんなことありませんよ俺の盾は特別製ですから。それにそんなこと言ったらあの女装野郎のぶきだってただのでかい十字架ですよ! 攻撃力なんて無に等しいはずです」


「くっくっくっ、わかってないねお嬢さん」

 と、その時、白熱の議論を交わすイリーナたちの背後から男が突然議論に参加してきた。


「むっ、何奴!?」

 思わずブリギッタがシールドを戦闘モードにして身構える。


「ほう、それは『ダブルシールド・EX~右手に盾を左手にも盾を~』じゃないか。中々良い武器を持っているじゃねえか、てやんでぇ」


「その盾そんなダサい名前だったの?」

「俺も初めて聞きました、というか誰だ貴様は!?」

 そこには白い手ぬぐいをハチマキ代わりに使い、緑の腹巻を装備する角刈りのおっさん……。すなわち


「あ、あなたは三度の飯を武器屋や防具をおかずにして食べるで有名な、デェスケさん」

「御無沙汰しています、姫様、コトネ様」

 デェスケは指を閉じた状態のピースサインをハチマキの上で作り、右斜め上に突き上げながら挨拶した。


「なに、このおじさん。 コトコトたちの知り合い?」

「第一話に出てきたチョイ役よ。再登場するとは思わなかったわ」


「デェスケさんは武器と防具に詳しいので解説役として今後も出てくることがあるので覚えといてください」

「コトネ、その説明はいったい誰に向けたものかしら?」


「みんなに決まってるじゃないですか、み・ん・な」

 コトネはそう言ってカメラ目線??でウインクした。


「ま、まあいいけど。だとしても、再登場させるには期間空けすぎなのよ」

「何言ってるんですか、姫。第一話以外にも出てるじゃないですか」


「は? どこで?」

「冒険者一武闘会の解説者、それがデェスケさんです」

 ババーンと紹介されたデェスケは誇らしげに独特なポーズを決めていた。


「解説? そんなのいたっけっ?」

「ソラソラも覚えてないな」

「俺もやたらテンション高い司会者

 しか記憶にないです」

 するとデェスケさんはふっふっふっと笑い始めた。


「あの司会者、俺を解説で呼んだくせに最後の最後まで存在を忘れて話を振らなかったんだ、べらんめぇ!!」

「いやそれ多分それ忘れてたの司会者じゃなくて作……」


「姫、それ以上は言ってはいけません。それよりも、そうこうしているうちにテレーザさんが魔物たちを全て倒しそうですよ」

 コトネの指摘で全員の視線がテレーザに戻る。


「はあ!? あいつら何してんの!? テレーザの髪全く切り落とせてないじゃない!!」

「イリイリは本当にひどいなー、それにしてもテレテレはこの短時間であんなにいた魔物をここまで減らすなんて、本当にリギリギよりも近接戦闘強いんじゃないの?」


「なっ!! そんなことあり得ませんよ」

「そうかなー?」


「ソラソラさん、残念ながらそれはちょっと違うみたいですよ、よく見てください」

 コトネに言われソラソラは目を凝らす。そしてソラソラも気が付く、テレーザが強力な魔力らしきものを帯びていることに。


 次の瞬間、テレーザは唱えた。

「13万Ⅴの金曜日」


 テレーザの十字架から雷が放たれた。テレーザの雷は5体のカニスマに直撃、カニスマはポンっと音を立てて消え、代わりに蟹の丸焼きが残っていた。


「なんでテレテレが攻撃魔法使ってるの? しかも超強力だし! シスターって回復魔法とか補助魔法限定じゃないの?」


「いえ攻撃魔法も少しは使えますよ。ただあの魔法は普通となんか違いますね」

「それについてはあっしの方から説明いたしましょう。コトネ様たちには見えますかい? あのシスターの後ろの黒い影が」

 デェスケの言う通りテレーザの背後には黒い人型に見えなくもない大きな影が漂っていた。


「いや、なにあれ?」「助っ人じゃないの?」「イリーナ姫にはあれが人に見えるんですか?」

「は? どう見ても人でしょ。ちょっと浮いてて黒焦げだけど」


「姫、浮いてる人間はまだくも、黒焦げの人間を普通に受け入れるのはやめましょうよ。それでデェスケさん、あれはなんなんですか?」

「あれは亡霊……じゃなくて精霊です」


「今、一回完全に亡霊と言いましたよね?」

「亡霊と精霊、似てるから間違えただけです、てやんでぇえ」


「いやいや、そんなに似てないよ」

「てやんでぇえで誤魔化すなこの角刈り!」


「あんたらさっきから亡霊だの精霊だのなに言ってるの?」

「姫が参加するとややこいので黙っててください」

「なっ!」

 予想に反した冷たい対応にイリーナは言葉を詰まらすが、それすらコトネは無視して話を戻す。


「それでデェスケさん、あの幽霊だか精霊だか悪霊だかはいったい何なんですか?」

「あれはあの武器、『鬼神に十字金棒』の特殊効果です」

「キジンになんだって?」

「鬼神に十字金棒、だそうです。あの十字架の名前ですね」


「コトネ様、それはちょっと違います。あれは十字架に見立てた金棒で、打撃系の武器こん棒に分類されるもんです、てやんでぇえ」

「細かいですね、それであのこん棒の特殊効果とはいったいなんですか?」


「へい、あの武器の特殊効果とはGETした浮遊霊を使い魔、いえ使い霊にできるというものです。と、言ってもこの能力はいわば都市伝説だったんですがね。そもそも浮遊霊をGETの意味が分かりませんでしたからね。しかし、現にこうしてあの能力を拝めるとは……長生きはするもんですな」

 感動のあまりデェスケは涙ぐんだ。


「泣きそうになるほどのことですか?」

「というか浮遊霊をGETってどうなの?」


「そこについてはあっしたちも疑問でありましたが今回ではっきりしました……霊はGETできる」

「何を言ってるんだ、この角刈りは!! 霊なんて存在するわけないだろ!」


「ブリギッタさんはまだそんなことを言ってるんですか。それにしても、精霊か幽霊化悪霊かは知りませんが、テレーザさんはそういう類のもののお陰で強力な魔法も使えるんですね」


「へい、あのシスターさんが持っている『鬼神に十字金棒』は武器界における十段階評価で反則級に位置づけられるほどの強武器です。金棒ゆえの高い打撃攻撃力と特殊能力による魔法攻撃、現にその力を目の当たりにして理解できます。この武器は間違いなく反則級です。しかし実際にこうして使いこなせる人がいるとは……てやんでぇえ!!!」

 デェスケは謎の咆哮を上げた。


「その感動、全く理解できませんね。それに十段階評価の反則級もいまいちピンときませんし」

「ちょっと待て、その十段階評価では俺の武器は何級なんだ?」


「ダブシーEXは……べらんめぇえ!」

「こいつ、誤魔化しやがった!!」

 殴りかかろうとするブリギッタの首根っこをコトネは掴んで制止した。


「さあ、デェスケさんがテレーザさんの武器を解説しているうちにテレーザさんは見事に魔物を全滅!!」

 テレーザは拍手喝采を受けた後にハゲの集団によって胴上げされていた。


「いやー、テレーザさん本当に強かったですね、魔物を全く寄せ付けませんでしたね、姫」

「そうですねー……というか、いやー、まあ、あれだよね、テレーザさえいればソラソラとブリギッタいらなくね?」

 イリーナの発言にソラソラとブリギッタは肩をビクッと震わせてから互いに視線を交わし、目でなにか合図を送ってから頷いた。


「そ、そうかな? ソラソラはそ、そんなことはないと思うけどなー。確かにテレテレのあの十字架での攻撃も凄かったけど、やっぱリギリギのダブシー? の安定感というか安心感? が段違いだよ」


「そうですよ、精霊だかの力を借りた魔法も確かにまあまあ強力でしたけど、やはりソラソラ嬢のでたらめな魔法の方が何倍、いえ何十倍、いやはや何百倍も強力ですよ」

 二人はがっちり肩を組んでイリーナに笑顔を差し向けた。そんな笑顔とは対照的にイリーナは白々しい顔を返した。


「ふーん、君たちがそれでいいならそれでいいけど」

 イリーナの冷たい物言いにソラソラとブリギッタは笑顔のまま固まった。固まった時を動かすようにコトネがパンッパンッと手を叩いた。


「不毛な争いはその辺にしてください。それよりも魔物が片付いたことですし私たちも組合長に会いに行きましょう、問題ないですよね?」

 コトネは女漁師2人に問うた。2人は暫し顔を見合わせてから


「聞いてみます」

 と元気よく答えて扉の向こうの漁師に「すいませーん」と呼びかけた。そんな2人の肩にイリーナはポンっと叩いた。


「あー、もう許可とかどうでもいいから」

「あのー姫様、それはいったいどういうことでしょうか?」

 次の瞬間にはイリーナの鉄拳が鉄の扉を吹き飛ばしていた。


「あいつの髪を切れなかった時点でその辺の話はどうでもいいのよ。だいたい姫である私にこの国で立入禁止の場所とかありえないから」

 そう吐き捨ててイリーナは港へと入っていった。


「……でも扉を壊す必要はないよね」

 ソラソラがあとに続く。


「まあ、それがイリーナ姫ですし」

 次いでブリギッタが続く。


「後でしっかりと直しておきますのでご勘弁ください」

 コトネは固まる2人の女漁師にそう告げて3人を追った。


「そういうことなんで、てやんでぇえ」

 最後になぜかデェスケが意味不明なことを言い残してイリーナたちの後ろをついていった.



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