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29.ハリセンボン田家でございます

「改めましてわたしハリセンボン田マキーガイと言います。この街の町内会長を務めています。先ほどは本当に失礼いたしました」

 イリーナたちはハリセンボン田家に招かれサザエのつぼ焼きを振舞われていた。


「いえいえ、お気になさらず」

「コトネ、なんであんたが言うのよ」


「姫の世話係なので」

「答えになってないわよ。それよりもあの子供たち、声をかけただけですぐに防犯ブザーを鳴らすなんてちょっと過剰じゃないの?」

 イリーナは不満げにそう言いながらサザエのつぼ焼きを口に運ぶと「うまっ」と漏らした。


「言われてみればそうですね。なにか理由があるのですか? あっ、これ本当に美味しいですね」

 とテレーザ。


「実は最近、子供の行方不明が相次いでるんですよ」

「幼女が行方不明だと!? むむっ、これはうまい」


「リギリギ、だれも幼女に限定してないよ。なにこれ、おいしい」

「皆さんサザエの感想をいちいち混ぜないでください。その行方不明というのは今この街を襲っているという魔王軍幹部となにか関係しているのですか?」


「多分なんですがそれとは違うと思うんですよ」

「なぜですか?」


「この街を襲っている魔物は海からというか少し離れた島から来て、海上や海辺の人間を襲ってくるんですよ。でも、行方不明になった子供は街中でのことなんですよ。ツルツールのサザエは美味しいでしょ? たらこもどうぞお食べください。スケトウダラオ、冷蔵庫からたらこ出してちょうだい」

 呼ばれた少年は「はいです」と返事をしてすぐにたらこをイリーナたちの前に運んだ。因みに、防犯ブザーを鳴らした少年も彼である。


「あら、ありがとう。それにしても子供が行方不明になるなんて物騒な話ね、それじゃああんな対応になるのも仕方ないわね。これご飯ほしくなるわね」

「さすがは姫様、心がお広いですね。姫様、はいご飯」


「ふふっ、まあね」

 得意げにイリーナは笑ったが、それと姫の顔を忘れるのは関係ないだろうとコトネたちは思ったが誰も口には出さなかった。


「それで姫様たちは誰を探しているんですか? 他の皆さんもご飯はどうですか?」

「ちょうだーい」「俺もほしいです」「わたくしもよろしいでしょうか」

 ソラソラたちは前者の質問には答えず後者の質問だけに答えた。3人が返事するやいなや目の前にホカホカご飯が届けられた。


「皆さん、テンポ悪いんで一旦ご飯の話やめてもらえますか。探している……というほどではないですが、とりあえずこの街を仕切っているという漁業組合の組合長に会いたいと思っているのです」

「組合長? あらら、偶然ですね。その組合長っていうのは私のお父さんですよ」


「へー、本当に? ラッキーね」

「ラッキーというか予想通りの展開ですね。それでマキーガイさんあなたのお父さん……失礼、名前をお伺いしてもよろしいですか?」


「はいTSUNAMIH℮yです」

「……面倒なのでカタカナ表記にさせてもらいますね。それで、そのツナミヘイさんにはどこに行けば会えますか?」


「えーっと、少々お待ちを」

 マキーガイはたらこ白飯の順に頬張ってから冷蔵庫に貼られたホワイト―ボードに目をやった。

「お父さんは今日……港B地区ですね」

「ビーチク!?」

 素晴らしい反応速度でブリギッタが叫んだ。


「ブリギッタ、マジでキモイ」「リギリギそれはないよ」「ブリギッタ様、悔い改めてください」

 ボロクソに言われたブリギッタであったが、さすがに己の失言を恥じて赤面していた。


「すみません、こちらの変態が」

「今のは確かに俺が悪いですけどそんな言い方しなくても……」


「どう考えてもあんたが悪い。それでそのB地区にはどう行けばいいの?」

「行くのは簡単ですが……B地区、いえ、港に入れないと思いますよ」


「入れない……? なぜですか?」

「今、襲ってくる魔物の性質上、港には女子供は入れないようにしているんですよ」

「魔物の性質上ってどういうことよ?」

 マキーガイは深刻そうな顔をしてからゆっくりと口を開いた。


「敵はカニの魔物なんです」

 イリーナたちはしばし固まった後にクビを傾げた。


「カニの魔物と女子供の出入り禁止が繋がらないんだけど」

「姫、丘の上からこの街を見た時のこと覚えていますか?」

 コトネに言われてイリーナは記憶を巡らす。そして何かを思い出し「あっ」と漏らした。


「なるほど、それであの惨状なのね」

「そういうことだと思います」

 イリーナとコトネの間で共通の答えが出たらしく、うんうんと何度もうなずいた。


「あのイリーナ様、わたくしたちにもわかるように説明していただけませんか?」

 イリーナはテレーザのその問いには答えず、じーっとテレーザの顔を見た。


「イリちゃん……じゃなくてイリーナ様、なにか?」

 イリーナはにやりと笑った。


「これはチャンスなのでは?」

 その悪そうな笑顔にテレーザは思わず肩をびくっと震わせた。


「チャンス……? ああ、なるほど、そういうことですか」

 イリーナの真意に気づいたコトネはテレーザを憐れむように見た。


「コトネ様、その表情はいったい何を示唆しているのでしょうか?」

「……行けばわかります」


「そうよ、行けば全部わかるわよ」

 イリーナは残っていたたらことご飯を一気に掻っ込んだ。

「ごちそうさま。さあ行くわよあんたたち」

 イリーナはひとり飛び出した。


「イリーナ姫、待ってください」

 次いでブリギッタが一気にご飯を喰い、イリーナを追った。間もなくソラソラとテレーザも後を追いかけた。


 ただひとりコトネはゆっくりと食事を続けていた。

「すみません、私にもご飯貰えますか? あと味噌汁とかありませんか?」

「ありますよ。カツオ出汁のニジマスとわかめの味噌汁が」


「……強引に全部ぶち込みましたね」

「はい?」

 マキーガイは首を傾げながらご飯と味噌汁を出した。


「いえ、こっちの話です」

「それよりもコトネ様はそんなにのんびりしてていいんですか?」


「問題ありません、どうせすぐ戻ってきますから」

 コトネはそう答えて涼しい顔で味噌汁を飲んだ。


 数分後、コトネの予言通り息を切らしたイリーナたちが戻ってきた。

「ちょっと、港B地区ってどこよ!?」

 そんなイリーナたちを見てマキーガイは「なるほど」と呟いた。


「なるほどって何よ?」

「こっちの話ですよ」

 マキーガイに代わってそう答えたコトネは丁度食事を終えていたのであった。


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