25.真夜中の戦い
午前2時。草木も眠る丑三つ時、イリーナもコトネも、酔っぱらって気持ちよくなったソラソラもベッドの上ですやすやと眠っていた。しかし、ブリギッタだけは違った。
「眠れない、眠れるわけがない、眠れるわけがなかろうではないか」
目をギンギンに見開いたブリギッタは意味不明なひとりごとを呟いてからガバッと上体を起こした。
「そうですよね、皆さん?」
ブリギッタの問いに返事はない。その代わりにブリギッタは妙な音を聞いた。カキンカキンと金属と金属がぶつかり合う音。戦士であるブリギッタにとってその音は聞きなれたものであった。
ブリギッタはベッドから出て窓の外を見た。雨は既に止んでおり視界を遮る雨粒はなく、見えるのはぽつぽつと見える微かな赤い光。
ブリギッタは目をゴシゴシと拭い赤い光を見つめた。
赤い光は閉ざされているはずの門の先にあった。光の正体は松明。そして松明を持つのはゾンビの魔物。
そのことに気が付いたブリギッタはぶるると震えた。
しかし、それだけでは終わらない。そのゾンビに襲い掛かるひとりでに宙に浮く剣。
ブリギッタは何が起きているのかすぐに理解した。
「み、みんな、起きてくれ! そ、外で、外でゾンビと幽霊が!」
ブリギッタの大声にコトネとソラソラは眠たげに目を覚ます。しかし、イリーナは寝返りを打つだけで目を覚まさなかった。
「ブリギッタさん、こんな夜中に何ですか? トイレならひとりで行ってください」
「リギリギ、控えめに言って……殺すよ」
「ソラソラさん、右半身大人に戻ってますよ」
異形の者と化したソラソラは寝ぼけているのか指摘されても姿は戻せずブリギッタを睨んだ。
「二人とも、そんなに怒らなくても、緊急事態なんです! とりあえずあれを見てください」
ブリギッタの慌てように事態を察した二人は気だるそうに動き出しブリギッタが指す窓の外を見た。そして、ほぼ同時にゴシゴシと腕で目を拭った。
「なんで門開いてるの?」「そこ!?」
「幽霊VSゾンビ、まるでB級映画ですね」
意味を理解できないソラソラとブリギッタは首を傾げる。
「それよりもどうしますか? ここから逃げますか?」
「そうですね……正直、状況がよくわかりません。なぜ幽霊たちとゾンビが戦っているのでしょう? 私たちから見れば仲間にしか見えないんですが」
「アンデッド的な存在の派閥争いとか?」
「アンデッド界にもそんなのがあるか?」
「あるのかもしれませんよ、私たちはそのどちらとも話したことないのでなんとも言えませんが。そして、その片方と喋れる姫ですが……御覧の通りです」
イリーナはベッドから半身を落としながらもぐっすりと眠っていた。
「どうする? あたしたちも二度寝する?」
ソラソラは大きな欠伸をした。
「いや、待ってくれ……あれは、なんだ?」
窓の外から目を離していたコトネとソラソラはブリギッタの視線の先を追った。視線の先には幽霊たちのやや後方で黒装束纏う人の姿。背中には大きな十字架が担がれていた。
「……うーんと、シスター?」
「そのようですね。そして、お二人にも見えているということは幽霊ではないみたいですね。どうします? 会いに行きますか?」
コトネの問いにソラソラとブリギッタは顔を見合わてから首を大きく横に振った。
「いいよ、アンデッド系の争いにあたしたちが首を突っ込むべきじゃないよ」
「ソラソラ嬢の言う通りです。何も見なかったことにして寝ましょう」
そう言って二人はベッドに戻ろうとしたが、コトネに首根っこを鷲掴みにされた。
「ブリギッタさん、起こしておいてそれはないですよ。それに、このままでは話が進みません、行きますよ」
コトネはそのまま二人を引きずって外へと向かった。
月明りを頼りにコトネ、ソラソラ、ブリギッタの3人は幽霊VSゾンビの最前線へと向かう。しかし、ブリギッタのあまりのへっぴり腰に思うように進まなかった。
「リギリギ、ちゃんと歩いて」
「な、何を言う!? しっかりと歩いているじゃないか」
そう言いながらもブリギッタの足はがくがくだ。
「そういうのはいいのでせめて松明の光が見えるところまではついて来てください。そうなれば心置きなく置いていけるので」
「コトネ様、どうかそれだけはやめ……」
そう言っているうちに赤い火の光が見えた。コトネは宣言通りブリギッタを放り出し光へと突き進み始めた。ソラソラもそれに倣いブリギッタを放ってコトネに続いた。
「ま、待ってくれ、二人とも置いてかないでくれ」
懇願するブリギッタは無視され二つの影は遠ざかっていった。その代わりにひとつの影が暗闇からブリギッタに忍び寄った。
「あ、あの、大丈夫ですか」
可愛らしい声と共にブリギッタの肩が背後から叩かれた。虚を突かれたブリギッタは口から心臓を飛びだたせてから、ゆっくりと振り向いた。
そこには銀色の髪をもつ美しきシスターが立っていた。
「うあああああああああああああ」
ブリギッタは悲鳴を上げながらシスターを殴り飛ばした。シスターは吹っ飛ばされ闇へと消えた。
ブリギッタの悲鳴を聞いたコトネとソラソラは訝しげな顔をしてからぶUターンしてブリギッタへと駆け寄った。
「ブリギッタさん、どうかしましたか?」
「シ、シスターが、シスターもどきが突然背後から……」
ブリギッタが怒りに震えながら指さす暗闇から声がした。
「痛たたた、なにも殴らなくてもいいじゃないですか」
暗闇で何かが動き、ゆっくりと3人に近づいてきた。数秒後、3人の視界にははっきりとシスターの姿が見えた。
「シスターですね? あなたは幽霊ではなく人間ですね?」
「勿論、人間ですよ……って、もしかしてコトちゃん、いえ コトネ様ではありませんか?」
予想外の呼びかけにコトネは眉をしかめた。コトネにはシスターに知り合いはいないし、コトちゃんなんて馴れ馴れしく呼ぶような知り合いとなれば尚のことであった。
「コトコト、知り合いなの?」
「いいえ、初対面のはずです」
「そ、そんな!? 忘れてしまわれたんですか? 僕、いえわたしです覚えてませんか?」
「覚えてませんかと言われましても……僕?」
「僕って言ったね、僕っ娘だね」
「いいやそれは違う!」
ブリギッタがなぜか怒り気味に力強く否定し、シスターを指さした。
「こいつは僕っ娘などではない!」
「何言ってんのリギリギ? 最初に完全に僕って言ったじゃん」
「どうやらブリギッタさんが引っかかっているのは僕の方じゃなくて、娘の方みたいですよ」
「っ娘?」
ソラソラは首を傾げた。
「そうです、俺が否定したいのは僕の方ではなく、娘の方です。俺のセンサーが告げています、こいつは断じて娘などではない」
ブリギッタの宣言にソラソラはポカーンとしてから険しい顔をした。
「リギリギ、失礼だよ。女はいくつになっても女の子なんだよ」
「そういうことを言ってるんじゃない」
「わたしはそんな老けて見えるでしょうか?」
シスターは露骨にショックを受けた顔をした。そんなシスターをまじまじと見ながらコトネは何かを考えていた。そして、突如ポンっと手を叩いた。
「なるほど、そういうことですか。ありがとうございますブリギッタさん。お陰で全ての謎が解けました」
「ど、どういたしまして」
ブリギッタは戸惑いながら返事した。
「ソラソラには何が何だかわかんないんだけど。コトコト、謎が全て解けたってどういうこと?」
「そうですね、まず先ほどの初対面という発言を訂正させてもらいます。私はこのシスターと会っています」
コトネの言葉を聞いてシスターの顔がパァーっと明るくなった。
「コトネ様、思い出していただけたのですね?」
「思い出したという表現は正しくありません。あなたのことはよく覚えています。あまりの変貌ぶりに気が付かなかっただけです……というか、なんで今そんなことになっているんですか?」
コトネの問いにシスターは顔を赤らめモジモジした。
「イリちゃ、いえイリーナ様の助言を実行しただけです」
「姫の?」
「モジモジするな気持ちが悪い!!」
二人の会話にブリギッタが怒りのままに割って入った。そしてソラソラがなぜか手を挙げながら二人の間に恐る恐る入った。
「それで、結局二人はどういった知り合いなの? というか、なんでリギリギはそんなイライラしてるの?」
「リギリギさんがイライラしていることも含めて説明します。このシスターと知り合ったのは……何年前でしたっけ?」
「10年前です」
「そうでした、10年前です。彼の名前はジョニ」
「コトネ様、ストップ!」
シスターは凄い形相で、かつてないほどの大きな声でコトネに待ったをかけた。
「その名は捨てました。今はテレーザと言います」
テレーザは形相を戻し微笑んだ。
「ちょっと待って、彼ってどういうこと?」
ソラソラは何とも言えない微妙顔をしていた。
「そのままの意味ですよ。テレーザさんは男ってことですよ」
「こんな美人なのに!?」
「男のくせして女のふりするとは最低だな、どうせ何かよこしまな考えがあるのだろ」
「それは違います。先ほども言った通りわたくしが男を捨てシスターの道に進んだのはイリーナ様と深く関係しています」
「姫と? なにかありましたっけ?」
「コトネ様は覚えていないですか? わたくしが進むべき道を示してくれたイリーナ様のお言葉を?」
「……いえ、ちょっと記憶にありませんね」
「そうですか、それではせっかくなので詳しくお話いたしますね。そう、あれは10年も前のお話です」
そして、テレーザは語り始めた。
【わたくしがイリーナ様とコトネ様と出会ったのは10年前の夏のことでした。お母さんの伝手でお二人と知り合うことがグブハッ】
回想を始めるや否やテレーザの顔面に枕が飛んできた。
コトネたちは枕が飛んできた方向を振り返った。その先には宿他の窓から顔を出すイリーナがいた。しかし、イリーナの目は閉じたままでグーグーといびきをかいていた。
「カイソウ、ダメゼッタイ、ムニャムニャ」
イリーナは寝ながらも回想を阻止するのであった。
「イリイリはなんでこんなに回想嫌いなの? その理由の方が知りたいんだけど」
「うう、何が起きたのですかって……あれはイリちゃ、ではなくイリーナ様! やはりイリーナ様も来ていたのですね」
テレーザは回想を邪魔されたのに凄く嬉しそうであった。
「結局、イリーナ姫とコトネ殿と貴様はいったいどういった知り合いなんだ?」
「ですから、今からそれを話そうとしていたのにイリーナ様が邪魔するから」
「姫の前では回想にならないように話すコツが必要なんですよ。代わりに私が説明します……がその前にあのゾンビどもをどうにかしてください」
そうこう話しているうちにゾンビたちが幽霊たちの防衛網を突破して門の内側まで入ってきていた。
「うわー、やってしましましたわ、わたくしとしたことが! すみません、」少しの間待っていてください、すぐに退治しますので」
テレーザは背中のの十字架を逆さにして剣のように持つとゾンビの群れに殴りかかった。
「その十字架そう使うもんなんですか?」
正しい使い方とは思えないが十字架で殴り飛ばされたゾンビは綺麗さっぱり浄化されていった。
「リギリギ、なんかぽっと出のシスターに活躍の場を奪われてるけどいいの?」
「なぜ俺だけに問うんだ? 活躍の場を奪われているのはソラソラ嬢も同じではないか」
「うーん、それもそうだね。よしっ、負けてられないね、いくぞー」
ソラソラは魔法のスティックを掲げると勢いよくゾンビの群れへと突っ込んでいきポカポカ叩き始めた。
「なんか急に張り切り始めたなソラソラ嬢。しかしソラソラ嬢は杖での肉弾戦もいけるのか、素晴らしいな」
「いけませんよ」「えっ?」
「ソラソラさんは魔法を使わない限り単なる雑魚です。ほら見てください」
ソラソラの攻撃。ゾンビAに3のダメージ、ゾンビBに2のダメージ、ゾンビCに3のダメージ。
「全然ダメージ与えられてないじゃないですか!」
「それだけじゃありませんよ」
ゾンビAの噛みつく攻撃。ソラソラに132のダメージ。
「大ダメージじゃないですか!」
「そうです、魔法を使わないソラソラさんはただの雑魚なんです。あっ、本格的にやばそうですね」
気が付けばソラソラの姿はゾンビ軍団に埋もれ見えなくなっていた。
「うおー、ソラソラ嬢今行きます!!」
ブリギッタは慌ててゾンビたちを自慢のシールドで吹っ飛ばしながらソラソラの元へと駆け出した。
ブリギッタとテレーザ、ついでにソラソラ、そしてテレーザ率いる幽霊軍団の奮闘によりゾンビの群れは確実に減っていった。しかし、ゾンビは次から次へと進行してくるためきりがなかった。
「糞っ! この腐れゾンビどもの侵攻はいったいいつまで続くんだ?」
流石に疲れの色を見せ始めたブリギッタが吐き捨てた。
「日が出ればゾンビたちは退却します。それまでの辛抱です」
ブリギッタの愚痴を聞いていたテレーザが答えた。
「日が出るまでだと? 丸々一夜戦えというのか? ふざけやがって」
「お陰様でわたくしは昼夜逆転の生活を送る羽目になっているのです。幽霊たちは眠らないので関係ないんですけどね」
「知るか、そんなこと!! それに幽霊などは存在しない!! それよりもこのゾンビたちを全滅させることはできないのか?」
「それは無理だと思います。もう二カ月以上毎夜戦ってますけどゾンビが減る気配はありませんもの」
「なんだと! ゾンビは無限なのか?」
「ゾンビなんだし復活してるんじゃないの?」
いつの間にか戦闘から離脱しカフェのテラスのテーブルでコトネとティータイムを楽しむソラソラが言う。
「ソラソラ嬢、コトネ殿、何をゆったりしているんですか? というかその紅茶はどこから?」
「お店は全て幽霊が営んでいるので24時間営業なんですよ。それよりもやっぱりゾンビは復活してるんでしょうか? たまーにこのゾンビ前に倒したなーというときはあったんですけどね」
「もっと早く気づけよ、女装シスター!! それでどうすればいいんですか? コトネ殿」
「さっきから見てましたが倒されたゾンビは骨だけになり、その骨はひとりでにゾンビたちの群れの始まりであろうあの崖の上へと戻っててます」
そう答えながらコトネはゆったりと優雅に紅茶を口にして門の遥か先に見える、丁度満月の下に位置する崖を指さした。
「なるほど、あそこにこの群れのボスが……ってコトネ殿遠くないですか?」
ブリギッタの言う通りコトネが指した崖はとても遠くにあるうえ、その間にはゾンビの行列ができていた。
「ゾンビを倒しながらあの崖まで行くのは厳しいですよ、コトネ様」
「ですが、あそこにいる敵を倒さない限り終わりませんよ」
「だって。頑張ってリギリギ、テレテレ」
既に戦闘に参加する気を失くしたソラソラはそのままテーブルに突っ伏して眠りに就こうとした。しかし、その時笑い声がした。
「キシシシシシ、キシシシシシ」
笑い声の出どころは噂の崖の上からであった。なのであまりに遠かったためコトネ以外には聞こえていなかった。そのため、ソラソラはそのまますんなり寝た。
「おい、寝るな、舐めてるのかそこの小娘」
相も変わらず叫んでいるがその声は起きているブリギッタにもテレーザにも届いておらず、大きな独り言でしかなかった。
気の毒に感じたコトネはブリギッタとテレーザを手招きで呼び二つのアイテムを渡した。
一つは王家秘密道具:望遠補聴器。照準を合わせることで遠くの声を拾うことができる。そしてもう一つは双眼鏡だ。
二人は双眼鏡で崖の上を見た。そこには仰々しいマントを羽織った骸骨が立っていた。
「むむっ、それは双眼鏡、さては貴様たち見ているな!」
「なんかごちゃごちゃ言ってますし、見てほしいのかと思いまして、そちらからもこちらが見えているのですか?」
「キシシシシシ、勿論だ、吾輩はゾンビの目を、耳を通してそちらの様子も全てを確認できているぞ」
骸骨は自信満々に答えたがコトネはどうでもよさそうであった。
「そうですか、それでは自己紹介をお願いします」
「キシシシシシ、我こそはアンデット族の王の候補の一人ホラーメンズだ」
「王ではないんですね」
「まだ王ではない。今は王を決める選挙の活動の最中だ。そして、王になったあかつきには魔王軍幹部になることが約束されている」
「ということはまだ幹部じゃないんですね」
「その通りだ」
ホラーメンズはなぜか偉そうに答えた。対してコトネはがっかりした様子であった。
「ブリギッタさん、テレーザさん、幹部じゃないらしいのであまりページ数を割けません。ちゃちゃっと倒してください」
「コトネ殿、ページ数って何ですか?」
「こっちの話です、気にしないでください。とりあえず、倒してください」
「コトネ様、そうは言われてもやっぱり遠すぎますよ」
ブリギッタとテレーザは答えながら、双眼鏡を覗きながらもゾンビを狩り続けていた。
「キシシシシシ、無駄だ無駄だ、貴様らには吾輩のゾンビ軍団を突破し吾輩に攻撃するなど不可能なのである」
ホラーメンズは勝ち誇ったように踊り始めた。ブリギッタはテレーザは舌打ちをして不快感を露わにしたが何も言い返せなった。一方で、コトネは顎に手を当て思案を巡らせていた。どうでもいいがソラソラは既に完全に熟睡していた。
「ところで、なぜあなたはこの街を襲うのですか?」
「キシシシシシ、よくぞ聞いてくれた。この街は貴様ら人間の大きな街と大きな街を結ぶ重要な街と聞いている。その重要な街を吾輩たち魔王軍が乗っ取ることで貴様ら人間に多大なダメージを与えると四天王たちはお考えだ。そして、その重要な任務に選ばれたのが吾輩ホラーメンズなのである! キシシシシシ」
誇らしげなホラーメンズの奇怪な踊りのキレが増す。
「ほう、それは凄いですね。是非、あなたがどのようにしてこのような重大な任務に選ばれたのか聞きたいですね」
やけに敵をおだてるコトネをブリギッタとテレーザは不思議そうな顔で見た。
「キシシシシシ、仕方ない教えてやろう、なぜこのような重要な任務に吾輩が選ばれたのかを」
そして、ホラーメンズは語り始めた。
【あれは3カ月前のことである。四天王に呼ばれ吾輩を含めたアンデット族の王の候補である3体の魔物が会議室に呼ばぐあああああ】
優優に語り始めたホラーメンズにベッドがぶち込まれた。勿論、ぶち込んだのはイリーナである。一瞬の出来事にブリギッタとテレーザだけではなく、幽霊たちも呆気にとられた。
「骨のくせして回想してんじゃねえよ」
イリーナは眠ったままなのにはっきりとそう言いながら親指を立てた手を逆さにして振りかざした。その光景にブリギッタもテレーザも幽霊たちも恐怖を覚えた。
「まさか吾輩がベッドなんかに」
ホラーメンズは力尽きた。同時に全てのゾンビが崩れ落ちた。イリーナたちはゴーストタウンの防衛に成功した。
「これで万事解決ですね。とりあえずもう一度寝ますか」
コトネは立ち上がるとソラソラを揺り起こした。
「コトネ殿、今のは狙っていたんですか」
ブリギッタは恐る恐る尋ねた。
渋々眠ったままのソラソラをおぶって宿に戻ろうとしていたコトネはピタリと歩みを止めた。
「さて? なんのことでしょう?」
そしてコトネは再び歩き始めた。残されたブリギッタとテレーザはコトネの恐ろしさを理解してか身をぶるっと震わせてからコトネたちの後を追った。
日が出るころにはコトネ、ソラソラ、ブリギッタ、テレーザもベッドでぐっすりと眠りに就いた。それから数時間後の朝九時、己のベッドを投げ捨て床で眠っていたイリーナは一人目を覚ました。眠たげに辺りを見回した。ぐっすりと眠るコトネたちを見て呆れるようにため息を吐いた。
「まったくいつまで寝てるのよ、というかこのシスター誰? まあいいわ朝ごはん、朝ごはん」
そう言い残してイリーナは幽霊たちと朝食を楽しみ始めた。」しかし、昨日までとは違い幽霊たちはイリーナに怯え、気を使っていたがその事実にイリーナは気づかないのであった。




