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23.カエルの襲撃

 翌朝、午前11時。イリーナ一行はウルウールの西門から出発しようとしていた。


 検査しようとした若い門兵がイリーナたちの顔を見ると慌てて敬礼した。

「失礼しました。レ……イリーナ姫様とコトネ様でしたか。チェックは必要ありません、どうぞお通りください」


「ありがとうございます。ところで、このまま西に真っすぐ進んだら宿屋街があったと思うんですが、今出発なら何時ごろに着きますかね?」

 コトネに問われた門兵は顔を曇らせた。


「はい、以前は確かにあったんですが……」

「あった、ということは今はなくなったんですか?」


「いえ、それが、なくなったというわけでもないみたいなんですよ」

 歯切れの悪い門兵の言い方にイリーナたちは首を傾げた。


「おい貴様、なんだその曖昧な言い方は! もっとはっきり言えないのか?」

 男嫌いなブリギッタは今にも殴りかかりそうな勢いであった。


「ひっ、すみません。私も実際に見たわけでなく通った人たちから話を聞いただけなのでよくわからないんですよ」

「ではその聞いた話を教えてもらえませんか?」


「はい。まずなくなったという話なんですが、3カ月ほど前のことなんですが、宿屋街の住人がこの街に移住したいとやって来たんです。事情を訊くと、魔物たちが増え活発化したため宿屋街を捨てて逃げてきたというんです」

「なんで? その宿屋街とやらにいれば安全じゃないの?」

 イリーナの問いに首を横に振る。


「あの宿屋街は王国が率先して造った街ではなく冒険者や商人が夜営地点として利用しそれが発展しできた小さな街、いや集落です。そのためここや他の街のような防壁はなくあるのは木材でくみ上げられた壁だけなんです。まあ元々、夜営地点にしてたぐらいなので今まではそれで十分だったんですけどね」


「それで、結局今はどういう状況なの? もうその宿屋街は破壊されちゃったの?」

 魔法少女という特異な格好をしたソラソラの存在を今認識したのか門兵は一瞬ぎょっとした。


「いえ、ここからが聞いた話なんですが宿屋街は無事らしく、商人や冒険者たちは今も利用しているそうなんですが、奇妙なことが起きているみたいで……」

「奇妙なこと?」

 門兵はなぜか周囲をキョロキョロ見渡してから小声で言う。


「どうやらゴーストタウンになっているみたいです」

 イリーナたちは首を傾げて頭上にクエスチョンマークを点した。


「いや、そりゃそうでしょ。住人全員避難したんだから。アホなの?」

「ゴーストタウンとは住民が他の土地へ移ってしまって無人化した町、のことです」

「奇妙でもなんでもないね。アホだなー」

「どうします? このアホぶっ飛ばしましょうか?」

 口々にイリーナたちは罵った。


「違います。そういう意味のゴーストタウンではなく本当の意味でゴーストタウンになっているんです」

「は?」「あ?」

 イリーナとブリギッタの威圧的な態度に門兵は思わず一歩下がる。


「で、ですから、ゴーストタウン、幽霊が棲む街になってるらしいんですよ」

「幽霊? アンデッド系のモンスターってこと?」


「いえ、そうじゃなくて本物の幽霊が出るって言うんですよ」

「幽霊ですか……。幽霊を見た人がいるんですか?」

「いえ、そういうわけではないんですが……」

 イリーナたちははぁーと深いため息を吐いた。


「真面目に聞いて損したわ」

「全くですね、これだから男は」

「でも本当にいたらどうする?」

「はー、アホ臭、幽霊なんかいるわけじゃない」

 そう主張するイリーナをコトネは生暖かい目で見守っていた。


「まあ、これで今日の寝床の心配はなくなったわけだし安心して行きますか」

「「おー」」

 ソラソラとブリギッタは楽しそうに返事した。


「それでは門兵君、あんまりしょうもない噂を流しちゃダメだぞ」

「だぞ」「わかったな?」

 3人は意気揚々と歩みだし門を出た。コトネはひとりため息を吐く。


「それでは失礼します」

「お、お気をつけて」

 門兵は敬礼でイリーナたちを見送った。




 イリーナ一行はウルウールを出て真っすぐ西に進んだ。

 道なりに進むと渓谷へと繋がる。この長く曲がりくねった渓谷の先にゴーストタウンと化した宿屋街がある。


「それにしても、前から思ってたんだけどさ、ブリギッタ」

「なんですか? イリーナ姫」

 イリーナはブリギッタの足先から頭のてっぺんまでをゆっくりと見た。ブリギッタはその視線に頬を赤めて嬉しそうに体をくねくねさせた。


「あんたのその服どうにかなんないの?」

 嬉しそうであったブリギッタの表情が一瞬で悲壮な物に変わる。


「ど、どこがですか? イリーナ姫」

「どこって……そりゃ」

 ここで改めてブリギッタの服装、否、装備を確認しよう。


ブリギッタ:金色の髪留め、ライトシールド(通常時籠手)、レフトシールド(通常時籠手)、アイアンブーツ、真っ赤なビキニ


「これのどこがおかしいというんですか?」

「おかしいに決まっているだろうが!! なんでビキニしか着てないのよ」


「なっ! イリーナ姫、よく見てください籠手と靴もつけています」

「そこがまた不自然なのよ。なんで手と足はがっつり守ってんのに他は出まくってんのよ」


「イリーナ姫、心配してくれてるんですね、ありがとうございます。でも大丈夫です、戦闘時にはダブルシールドがるので傷ひとつ付きません」

「あー、勘違いしてるみたいだからはっきりと言うわ。あんたと一緒に歩いてて恥ずかしい」


「は、恥ずかしい!?」

「それソラソラも思ってた。ウルウールの人たちはリギリギがその格好でも受け入れてたから気にならなかったけど、冷静に考えれば恥ずかしい」

「私は街中では常に少し距離を置いてましたよ」

 ブリギッタは膝から崩れ落ち大きなショックを受ける。


「この3日間で仲良くなれたと思っていたのに皆はそんな風に思っていたんですね、俺は、俺は……」

「そこもきついのよ、俺っていうのに女フェロモンばら撒くし」

「そうだよね。せめて男装したらいいのに」

 追い打ちを受けたブリギッタは更なるショックを受けるが、いつの間にか怒りに変わる。


「なぜ男嫌いの俺が男装なんかしなきゃいけないんだ。それに露出度高い方が俺の女体が見たい女子たちも喜ぶだろ?」

「複雑ですね。それに女体を見て喜ぶ女子ってあんまりいませんからね」

「それにだ、服装に関して言えばソラソラもおかしいではないか! 街でもかなり浮いてたぞ」

 言われて魔法少女コスのソラソラをイリーナとコトネはまじまじと見た。ソラソラはビシッとポーズを決めた。


「いやソラソラはなんか、もうこれでいいわ」

「そうですね。ソラソラさんは似合っているのでOKです」

「なぜ!? 納得いかない!」

 なぜかソラソラはポーズを変えてさらに決め顔をする。


「それにソラソラさんの服はこのスカウターで見たかぎりステータスを上げてますからね」

 さらにソラソラは得意げな顔をする。


「ステータス? たかが服で? 服でステータスが変わるのなんて陸上の靴と競泳の水着くらいでしょ?」

「そういう現実的なこと言わないでください。この世界ではそういう風にできているんですよ」


「ふーん、じゃあブリギッタのビキニは?」

 コトネはスカウター越しにブリギッタを見る。ブリギッタはセクシーポーズをとる。


「防御力を2、不快度を10上げています」

「不快度? そんなステータスありました?」


「とにかく、なんか服着てよ。短パンとタンクトップでいいから」

「それじゃあありがちな露出狂になっちゃうじゃないですか」

「露出狂な自覚はあったんですね」

「じゃあじゃあ、こういうのはどう?」

 ソラソラはコトネのポーチに勝手に手を突っ込むとなにかを取り出し、ブリギッタの手を引き岩陰に隠れた。


「今、何だしたの?」「さあ」

 二人の疑問をよそにソラソラが出てきた。


「お待たせー、じゃあリギリギ、どうぞー」

 呼ばれて出てきたブリギッタは少し恥ずかしそうに頬を赤らめていた。


「ど、どうでしょうか?」

 ブリギッタは花柄のエプロンを着用していた。お陰で確かに赤いビキニは隠され露出度は減った。しかし……。


「変態度が増しただけですが、というかそんなエプロンいつ入れたんですか?」

「エプロンは魔女が調薬するときに必要だから持ってけってドミ婆がこっそり入れたんだよ」

「本当にいつの間にですね。姫、これはなしですよね?」

 問われたイリーナは予想に反し力強く頷いていた。


「ありね」

「そうですよね、やっぱり……あれ? 今ありって言いました?」


「言ったわ。赤いビキニはなんかイラついたけど裸エプロンもどきはそこまで不快じゃないというか好きだわ」

「姫の基準がわかりません。しかし、このエプロン地味にいいものですね。特に魔法防御力を高めていますね」

「魔女の村の特注品だからね」

 三度ソラソラはポーズを決める。


「ブリギッタさん自身はその服装でいいんですか」

「イリーナ姫がこれでいいなら本望です」

 ブリギッタは力強く言い切った。


「じゃ、じゃあ、これでいきましょう」

 ブリギッタの装備に魔女の村の花柄のエプロンが加わった。



 そんなことをしているうちにイリーナ一行は渓谷の入り口が見えなくなるくらい進んでいた。

「なんかたかが服装の話ごときしてる間に随分進んだわね」

「言い出したのはイリーナ姫じゃないですか」


「あんたが変な格好してたから悪いのよ」

「今でも変な格好ですけどね。しかし姫、服っていうのは人間の特権なんですからたかがーとか、ごときーとか言ってはいけな」


 その時、大きな岩の影からぬっと体長5mほど、二足歩行、手にはレーザー銃のようなもの、そして宇宙服みたいな服を着たカエルが顔を出した。

 イリーナたちは素早く岩陰に隠れた。


「コトネ、今服を着るのは人間の特権とか言わなかった?」

「言いました。カエルのくせに生意気です。姫、人間様の力を見せつけてください」

「えー、見た目リアルなままでかくなってて超キモイんですけど」

 イリーナたちは岩の横から顔を出して覗き込んだ。


 岩の向こうはこれまで通りの一本道ではあるが大きく広がった道であった。その大きな道にでっかいカエルが数十体も闊歩していた。


「ソラソラ、カエル祭りの会場ってここだっけ?」

「ここは別会場なんじゃないかな。イリイリ、参加して来れば」


「昨日から言ってたでしょ、私はカエル嫌いなのよ。ソラソラこそ昨日行きたそうにしてたじゃない、ほらレッツフェスティバルしてきなさいよ」

「なんか思ってた祭りと違うから遠慮しようかな」

「二人ともごちゃごちゃ言ってないで祭りを楽しんできてください。私はいつも通り後方から見学していますので」


「いいんだよ、コトコトも祭りに参加して」

「そうよ、コトネもたまには前方に出なさいよ」

「全力で拒否させてもらいます」

 3人がそうこう揉めているうちにブリギッタが岩陰から飛び出してシールドを解放した。


「あーだこーだ言ってもしょうがない、まずは俺が道を切り開きます。ブリギッタ・ギータいざ参る」

 大声で宣言するブリギッタにカエルたちの視線が集まる。ブリギッタはにやりと笑うと一番近くにいたカエルに突っ込んでいった。


「おー、頼もしいわね、やっちまえブリギッタ、格好キモいけど」

「装備あれだけど、いけー、リギリギ」

「カエルも引いているんじゃないですか?」

 そんな応援か悪口かわからない3人の声が聞こえてるかはわからないがブリギッタは勢いよくカエルの右足にをシールドでぶち抜いた。


 わーいと嬉しそうにイリーナたちはもろ手を挙げて喜んだ。しかし、カエルの足がもげ飛び青紫色の血が噴き出すと「ひーーーー」と血と同じような色の顔をして悲鳴をあげた。


「ちょっと待って、倒した魔物はポンと音を出して消える方式じゃなかったの? なんであんなリアルに足がもげて血まで派手に出てんのよ」

「あのカエルの時点で薄々感じてはいましたがこのフィールドは少しテイストが違うみたいですね」

「テイストってどういうことよ?」


「イリイリもグダグダ言ってないであたしたちもいくよ。ほら、あそこに落ちてる武器回収して」

「落ちてる武器?」

 見てみればソラソラの言う通り、ブリギッタが倒したカエルの横にウェポンと書かれた緑色の箱が落ちていた。


「何あの箱?」

「だからあれが武器だよ。行くよ、『空飛ぶ隊員(スカイダイバー)』」

 ソラソラが魔法名を唱えるとソラソラの背中に機械の翼が生えた。そして、ソラソラは空を飛んだ。ソラソラの翼は羽ばたくわけではなく翼の形をしているだけでエンジンがターボがブーストを噴出して上空へと飛び立った。ソラソラはそのまま緑の箱へと一直線に飛び箱を回収した。すると、ソラソラの手にはハイテクな銃が握られていた。


「くらえー」

 ソラソラが叫ぶと銃口から電撃が放たれカエルに直撃した。カエルたちも応戦するようにレーザー銃から青く丸い光弾を放つ。しかし、空飛ぶソラソラには当たらず、地上で暴れまわるブリギッタにはシールドに防がれた。

 その乱戦をイリーナとコトネはぼーっと見ていた。


「うん、あれだね、なんか違う世界観だね」

「そうですね。RPG風ではないですね。いいから姫も戦ってきてくださいよ」

「仕方ないわね」

 イリーナは気だるそうに近くに落ちてた緑色の葉を拾った。その瞬間イリーナの目はキラキラと光り出した。


「どうかしましたか? 姫」

 イリーナはコトネも問いに返事せず凄い勢いで崖を登っていった。

 イリーナの背中には今拾ったのであろう武器が担がれていた。


「あー、そういうことですか」

 コトネは呟いてひとりとソラソラたちの後を追った。




 ソラソラとブリギッタはカエルたちを蹴散らしゆっくりではあるが確実に前進していた。その後ろをコトネがとぼとぼと歩く。


「コトネ殿、イリーナ姫はどこですか?」

 コトネしかいないことに気が付いたブリギッタが問う。


「あそこです」

 コトネが指さす先ははるか後方の崖の上。しかし、コトネの指の先を追ってもブリギッタにはイリーナの姿を捕らえることはできなかった。


「ど、どこだ?」

「しばらく見てたらわかりますよ」

 言われるままにブリギッタはコトネが指さした先を見ていた。すると、突然一筋の雷撃が飛んできてカエルの頭をぶち抜いた。


「び、びっくりした」

「スナイパーライフル拾ったら嬉しそうに崖の上に登ってずっとあそこに陣取ってるんですよ」

「スナイパーライフル?」

 自分も電撃を放つ銃を持ってるくせにソラソラが問う。


「ああ、本来はスナイパーライフルは存在しないんですね。とりあえずなんかすごい遠くから攻撃できる武器を持って浮かれてるってことですよ」

「ふーん、そんなのあるんだ。イリイリ、どんな顔をしているんだろう?」

 そのイリーナは崖の上でひとり「ぐへへへへ」と笑っていた。


「安全圏から一方的に攻撃できる快感、やっぱスナイパーライフルは最高ね」

 そして、嬉しそうにまたスナイパーライフルを構えるのであった。


「あっ、また飛んできた」

 再び崖の上から電撃が飛びカエルの頭をぶち抜くかと思いきや、カエルの脇をすり抜けていった。


「はずしましたね。残りは4体姫に任せて姫のスナイパーの腕を堪能しませんか?」

「いいねー、それ」

「イリーナ姫の実力……そうですね、見せていただきましょう」

 そう決めた3人は攻撃をやめて端の方に体育座りしてイリーナの腕を見守った。


 結局、イリーナが4体のカエルを倒すのに28発の電撃が駆け抜けた。

コトネはひとり

「ガバガバエイム」

 と呟くのであった。


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