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16.商業都市ウルウール

「すみません、エントリーの申し込みはもう終わってしまいまして」

 受付のお姉さんは精一杯の笑顔でそう言った。対するイリーナはゼェーゼェーと息を荒げ、背負っている荷物を床にたたきつけた。


「ぬおーーーー、あんたのせいだからね!!」

 叩きつけられた荷物ことソラソラはピクピク震えながらもなんとか意識を保っていた。


「イリイリの体力がおかしんだよ……あんなペースで走れる人間は存在しないと思うの」

 走り出したイリーナはずっと全力疾走であった。コトネはその恐るべきペースについていったがソラソラは3分ほどでギブアップして地に伏せた。


 仕方なくイリーナが力尽きたソラソラを背負って走ったためペースはガクッと落ちた。結果ウルウールの入場門に着いたのは15時五分前であった。


「すいません、身分証の確認と荷物のチェックをさせていただきます」

 門の兵に止められたイリーナは即座に切れた。


「貴様らは自分が守っている国の姫の顔も知らないのか!」

 イリーナの迫力に兵たちはビクッとして身分の確認も荷物チェックもしないままイリーナを通してしまった。


「この国はこんなんで大丈夫なのでしょうか?」

 呆れるコトネを見て兵たちはヒソヒソと何かを話しはじめひとりの兵が意を決したようにコトネに話しかけた。

「あの、あなたはもしかして姫の側近のコトネさん?」


「そうですよ。あっ、これを見てください」

 とコトネは勇者代行の証明文書を兵に見せた。


「ん? これは……確かに王の印鑑。では、本当にあの方がイリーナ姫なんですか?」

「……姫の認知度ってそんな低いんですか?」


「はあ、コトネさんや王妃様はわかるんですが国王と姫はちょっと……オーラがなくて」

「そ、そうですか。それでは失礼します」

 コトネはコトネはイリーナを追いかけた。


 ウルウールは城下町の5倍近い広さはある。なのにイリーナは碌に情報を聞くこともなくただひたすら走り回って冒険者一武闘会の受付を探しまわった。それでも10分も経たずに見つけれたのはイリーナの人間離れした身体能力の賜物だ。だが、残念なことにイリーナがその場所を突き止めた時には既に15時を過ぎていた。


 そして場面は最初に戻る。

「あのね、お姉さん。姫であるこの私がこうして汗を流し息切れぎれに申し込みに来たのよ。ちょっとの遅刻くらい大目に見てくれてもいいんじゃないかしら?」


「えっ? 姫? あなたが? 何言ってるんですか? 寝言は寝て言ってください」

 受付のお姉さんのあまりにひどい態度にお姉さんを殴り飛ばそうとするイリーナをコトネが羽交い絞めで取り押さえた。そんなコトネを見てお姉さんははっとする。

「もしかしてあなたは姫の世話係のコトネさんでは」


「はい、そうですが、門兵といいあなたといいなぜ姫はわからずわたしはわかるんですか?」

「コトネさんの水色の髪は他に見たことないので。……えっ!? じゃあ、もしかしてこの方は本当にイ、イ……イローラ姫?」

「イリーナだ!」


「し、失礼しました、イリーナ姫」

 お姉さんは打って変わって深々と頭を下げた。

「ふふっ、それが姫に対する正しき態度よ」

「姫らしからぬ発言ですけどね」


「それで結局エントリーは受理してくれるの?」

「それはちょっと……規則なので。それに、参加者が丁度32人でトーナメントを作るのに都合がいいのでもうこれ以上増やしたくないというのが本音です。これが31人だったら喜んで受理するんですけどね」


「なによその理由! じゃあ私を決勝までシードにすればいいじゃない。これですべて解決よ」

「そんなどこぞの強豪校の県予選みたいなことできませんよ」

「本当に申し訳ありません。私の力ではどうにも……」

 お姉さんは机にゴリゴリと頭をこすりつけながら謝罪した。


「じゃあ主催者に直接言ってやるわ」

「此度の大会の主催者でありますウルウールの街長、兼ウルウール商工会会長のナリーキン様は大会を開催するにあたり是非、国王と王妃にも見ていただきたいと自ら足を運びお二人をお迎えに上がっています。そのためただいま留守なのです。恐らく戻るのは大会当日、それからの変更はいくら姫でも難しいかと」


「ぐぬぬ、主催者いないなら規則破ってこっそり追加してよ」

「そんなあっさり規則破れとか言わないでくださいよ。それに、もう参加者リストは伝書鳩で飛ばしちゃったんですよ」


「いや、でも……」

 尚、説得を試みるイリーナの肩にコトネがポンと叩く。

「姫、これ以上は彼女がかわいそうですよ。諦めましょう」

 イリーナはなにか言い返そうとしたがチッと舌打ちをするだけで結局「邪魔したわね」と言い残しトボトボと出口へと向かった。イリーナに投げ捨てられたソラソラを回収したコトネがあとに続く。


「あのー、本当にすみません。心の奥底からそう思っていますので後からなんか処分とかやめてくださいねー、聞いてます、姫? あのー、本当にお願いしますよ」

 イリーナは振り返りもせず手をヒラヒラとさせお姉さんに応えて受付部屋をあとにした。




「あーーーー、どうすんのよ? これじゃあ魔王城にいけないじゃない! もうなんなのあの女! こうなったら姫権限であの女になんか嫌がらせしてやるわ!」

「やめてください。おでこを赤くなるほど頭を下げた彼女がかわいそうすぎますよ」

 冒険者一武闘会のエントリーに間に合わなかったイリーナとコトネ、そしてまだ体力が戻らなずコトネに担がれたソラソラの3人は行く当てもなくウルウールの大通りを歩いていた。


 ウルウールは商業都市と呼ばれるだけあって賑わっていた。大通りでは露店がいくつも並び大勢の人々が売り買いをする。まるで祭りのような光景であったが、これがウルウールの日常である。


 押し売りに近いキャッチも多く、なんだかんだで姫である高級そうなゆるゆるふわふわした服を着たイリーナと王家の服という明らかに高貴な服を纏ったコトネには多くの承認が群がった。そのたびにイライラがマックスに達しているイリーナは蠅でも払うかのように近寄る商人をちぎっては投げ、ちぎっては投げ飛ばしていた。


「コトネもコトネよ! なんで引き下がるよう言ったのよ」

 イリーナの言葉に反応するようにソラソラの顔ががばっと上がった。

「あのねイリイリ、コトコトとあたしにはいい考えがあるのよ」


「いい考え? なによそれ?」

「あのね、わざわざ大会に出なくつぇってうぐぐ」

 担がれたまま話そうとすることにも腹が立ったコトネはソラソラの口を強引に塞いだ。


「姫、私たちが大会に出れないのは確定しました」

「わかってるわよ、それでどうすんのよ? このままじゃ鍵は手に入らないわよ」


「だからね、主催しゃうむむ」

 コトネは再び話始めるソラソラの口にいつのまにか買っていたウルウール名物小判最中を放り込み遮った。


「これから話す案は正に一石二鳥の案です」

「なんかよさげな案ね、それでどういう案なの?」

「参加者の中から優勝できそうな実力の人物を先に仲間にするという案です」

 コトネの案を聞いたイリーナは目をパチパチさせてからポンっと手を叩いた。


「なるほど、その手があったわね。そうと決まったら早速仲間を募集するわよ。まずはビラ作りね。行くわよ」

 目的を見つけたイリーナは意気揚々と歩み始めた。


「ねえ、コトコト、主催者にお願いした方が手っ取り早いんじゃないの? それに仲間も結果出てから優勝者なり準優勝者なりを勧誘した方が効率いいし」

「ソラソラさん、そんな子供の姿で効率とか夢のないことを言ってはダメですよ。それに……」


「それに、なに?」

「新たな仲間が優勝できるかどうかって展開でハラハラできるじゃないですか」


「そ、そんな理由なの?」

「そんな理由です。さあ、いきましょう……ところで、もう下ろしていいですか?」


「ええー、もう少し」

 コトネはソラソラの言葉を無視して下すともう見えなくなっているイリーナを追う。

「コトコト、イリイリ見えないけどどこ行ったの?」

「ビラ作るって言ってたので恐らく……恐らく漫喫です」


「……コトコト、マンキツって何?」

「パソコンがあるんですよ」


「……パソコンってなに?」

「……そういえば、伝書鳩を飛ばす世界観でしたね」

 そうこう言っているうちにイリーナが逆走してきた。


「コトネ、ビラ作ろうと思ったけどPCどこにもないんだけど」

 当たり前のことをイリーナが吠えると、一行はとりあえず宿を探すことにした。


 宿にてコトネの王家秘密道具:パパパパソコンによってビラは完成付属のププププリンターで大量に印刷された。

「姫、この募集条件なんですが……」

「なに? なにか問題ある?」

 ビラに書かれているのは次の通りである。


 魔王討伐及び勇者奪還の冒険に出た麗しきイリーナ姫と共に旅する仲間募集お知らせ。

パーティ紹介

・勇者代行:イリーナ姫~オラオーラ王国の姫。とてもか弱い身でありながら魔王の討伐を命じられた不幸な姫。

・姫の世話係コトネ~表情が変わらない無愛想な女。

・魔法使いソラソラ~いい年して魔法少女の格好をした痛い女。

姫以外は残念な人ばかりですがとっても明るく風通しのよいパーティです。

パーティ入隊特典

・あのイリーナ姫とおまけたちと冒険ができます。

・四六時中一緒、宿も経費削減のため同じ部屋に、もしかしたら嬉しいハプニングもあるかも。

・魔王討伐後は活躍度に応じて褒美が! 最高の褒美はなんと姫の旦那に!

応募条件

・冒険者一武闘会参加者、優勝を狙える実力者。

・戦士、格闘家などの近接型

・イケメンの男性(27歳以下)

 イケメンの方応募どしどしお待ちしています。 了



「これのどこに問題があるのよ?」

「いや、ありありですよ」

「あたしとコトコトの紹介悪意ありすぎだよ」


「悪意? 事実でしょ?」

「姫、こんな書き方してたら集まるものも集まりませんよ。イケメンなんて以ての外です」

「そういわれたらそうね。仕方ないわね、じゃあんたたちの紹介分は自分で書いていいわよ」


「そうですか、ではクールビューティ、と」

「じゃああたしも、正義の味方麗しの魔法少女、と」

「あんたらも大概ね。じゃあ、これでビラを配るわよ」


「まだありますよ。入隊特典、一言で言えば酷いですよ」

「酷いってどういうことよ! こんな魅力的な特典他にはないわよ」


「魅力的って……姫ともあろう方が己をダシに使うような真似はやめてください」

「コトネなにか勘違いしてない? このビラは仲間を募るためのビラじゃないのよ! 私の未来の婿を探すためのビラなのよ!!」

 イリーナの力強い主張にコトネとソラソラは絶句した。暫しの沈黙の後にソラソラが口を開く。


「もうイリイリの好きにすればいいと思うよ」

「言われなくてもそうするわよ! というわけでこれで完成ね」


「まだですよ。応募条件の最後の部分も問題ですよ」

「好きにしていいんじゃなかった?」


「姫の婿候補を探したいというのはわかりましたが、魔王討伐の仲間集めも兼ねているので無意味に応募条件を厳しくするのはやめてください。イケメンにかぎるとか27歳以下とかの条件は消しませんか?」

「嫌よ。婿候補になる仲間なのよ! イケメンは絶対の条件に決まってるじゃない」

「気持ちはわかりますが、自らカッコイイと思ってる男性なんてナルシスの気持ちが悪い男性しか来ませんよ。あと、なぜ27歳以下なんですか?」

「それは私の好みよ」


「そんなどや顔で言われましても。本当は年齢どころが性別にも制限を設けたくないんですが婿探しがメインと主張する姫とここで揉争っても意味ないので諦めます。その代わりにイケメンははずさせてもらいますよ。ナルシストと四六時中一緒とか吐き気を催すので」

「そこまで言う? ……わ、わかったわ、コトネが珍しくそこまで言うなら諦めるわ」


「良かったねコトコト、そしてありがとう」

「ソラソラもそんなに嫌だったの!? まあ、いいわ集まった中からイケメンを選べばいいだけだものね。じゃあ、これでビラ配るわよ」


「姫、肝心の応募方法が書かれてませんよ」

「あっ、本当だ。どうしようかしら、どこかに集まってもらって面接をしたいんだけど、場所が……あっ」


「どうしました? 姫」

「いい場所があったわ」

 イリーナは悪戯に笑った。



「たのもー」

 イリーナが訪れたのは冒険者一武闘会の受付を行っていたウルウール商会所のビルだ。


「ひっ、姫! まさか、こんなにも早く復讐に」

 イリーナの恨みを買った自覚がある受付のお姉さんはあまりに早い再訪にひどく怯えた様子であった。


「復讐? 安心して、それはまだよ」

「まだってことはする予定はあるんですね」


「それじゃあ安心できませんよ。他にできることは何でもしますので許してください」

「そう? じゃあ早速お願いがあるの」


「な、なんでしょうか?」

「まあまあ、そんなに怯えなくていいわよ。捕って喰おうってわけじゃないんだから。これを見て」

 イリーナは先ほどできたばかりのビラを見せた。


「仲間応募のビラですか?」

「そうよ。見てほしいのは一番下よ」


「一番下ですか? えーっと、応募する方は履歴書持参のうえ、あすの午後1時に……ウルウール商会所ビル? ここですか?」

「そうよ。そういうわけで、ここ貸して」

「明日って急すぎますよ」


「さっき何でもするって言ったわよね?」

「言いましたけど……うう、わかりました、なんとかします」


「それでいいのよ、あとこのビラ参加者に配っといて」

「えええっ」


「えええっ、じゃないわよ。そこの応募条件見たらわかるでしょ? 武闘会参加者に配らなきゃ意味ないのよ。最初は適当に街でばらまこうと思ったんだけど、あなたに頼んだら確実に参加者の手に渡るって気が付いたってわけよ。とうわけで今日中によろしくね。できなかったら、その時は覚悟しといてね、じゃあ」

 イリーナはそう言うなり回れ右してトコトコ歩き出した。


「ひ、姫、待ってください。参加者全員が今どこにいるかまではわかりませんよ」

 受付のお姉さんが弁解するもイリーナは「よろしくねー」とだけ言い残して出ていった。ソラソラも「よろしくー」と笑顔でいってイリーナに続いた。


「うう、コ……コトネさん」

 受付のお姉さんはすがるようにコトネを見た。しかし、


「そういうことです、頑張ってください」

 とコトネも素っ気ない態度ですぐに出ていってしまった。

 ひとり残されたお姉さんは泣く泣く申込用紙を手掛かりに参加者を探し始めるのであった。


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