15.勇者ディアも出番が欲しい
イリーナ一行はタケノコな里をあとにして西に進むことにした。
タケノコの山を下山すると、どこまでも広がるかのような草原に出た。草原には舗装された一本の道があったので一行はその道に従って進んでいた。
「ねえねえ、おかしくない?」
切り出したのはイリーナだ。
「何がですか?」
「仮にも魔王軍の幹部の一体を倒したのよ。章のボスを倒したのよ」
「章とか言わないでください」
「ボスを倒して里が救われたのよ。だったら普通するでしょうが!」
「何をですか?」
「宴よ」
真面目な顔してそう言い切るイリーナにコトネは少しばかり引いた。
「宴とかどこの海賊ですか。それに宴みたいなものは戦う前にやったじゃないですか」
「あれは違うわよ。美味しい物を見つけて衝動的に開かれたBBQよ。私が言ってるのは打ち上げ的な宴よ。普通するでしょ?」
「普通と言われましても。ソラソラさんからも何か言ってあげてください」
「ソラソラもお酒飲める機会が増えるから宴したかったかな」
「私としてはソラソラさんの飲酒は勘弁していただきたいのですが……せめて大人の姿に戻って飲んでくれませんか?」
「それは絶対イヤ! というか大人の姿って何? ソラソラ、コトコトが言ってる意味よくわかんない」
ソラソラはぷいっとそっぽを向く。その態度にコトネだけでなくイリーナもイラっとした。
「とにかく、私としてはひとつのけじめとして宴したかったの。そうすることで気持ちよく次の戦いにいけるってもんでしょ? だいたいこういうのは救われた街、今回で言えば里の人間からお礼もかねて宴をしましょうってなるもんでしょ?」
「勇者代理として魔物を倒してお礼を求めるのはどうかと思いますけど……気持ちはわかりますが今回はそうならなかった要因があるじゃないですか?」
「そうならなかった要因? なによそれ?」
「第一に里の人々は魔物たちから直接的な攻撃を受けていなかったという点です。魔物に襲われて里の人が殺されたり、大怪我したりというものはなかったみたいですからね」
「まあ、それはそうだけど呪いがあったじゃない」
「それが第二です。第二に里の人々に掛けられていた呪い、正しくは催眠がキノコが好きになるという割とどうでもよい呪いだったという点です。なんならこのままタケノコな里なのにキノコを名物にした方が受けるんじゃないかって話が出てたくらいですからね」
「だ、だとしても魔物退治を依頼してきたのは事実なんだから宴とまでは言わなくともなんらかのお礼をするのは筋でしょうが」
「思い出してください。魔物を退治してほしいとはっきりと依頼してきたのはタケゾウさんです。しかし、タケゾウさんは呪いを解くよりも本心としては孫娘の奪還を求めての依頼でした。結局は孫娘さんは誘拐されたのではなく家出でした。それを知った時のタケゾウさんのあの落ち込みよう、姫も見たでしょ?」
コトネに言われイリーナは思い出す、タケゾウが心の川柳を詠むこともなく、ただ一言「お騒がせした」とだけ残して奥へと引っ込んだあの姿を。
「宴どころがお礼とかそんな空気ではなかったじゃないですか」
「そう言われたらそうだけど……でもあの爺抜きでも宴はしたかった」
イリーナは悪びれずきっぱりと言った。その態度にコトネは若干引いた。
「わ、わかりました、次ボスを倒した時は宴をしましょう。ただし、勇者の救出には時間制限があるのをお忘れなく」
「時間制限? そんなのあるの?」
いつの間にか帽子で巧みに草原を舞う蝶々を捕まえ飼いならしたソラソラが問う。
「ソラソラさんには説明していませんでしたか。これは失礼しました。勇者ディアは魔王軍にただ捕らわれたのではなく魔物化させられようとしているのです」
「人間を魔物になんてそんなことできるの?」
「わかりませんができると思って動いた方が賢明でしょう」
「ふーん、それでのそ時間制限っていうのはいつなの?」
「そうですね、勇者ディアが攫われたとき魔王軍は100日後と言ってましたので逆算して……」
「残り94日です!」
コトネよりも先に天から答えが返ってきた。その声にイリーナとコトネは聞き覚えがあった。
「この声……誰だっけ?」
「酷いです姫様! 私ですよ」
「姫、この声は勇者ディアですよ」
「あーそうだ、言われて思い出したわ、この声は憎きディアの声ね」
「憎きディアって!? 姫様にとって私ってそんな存在なんですか?」
「当たり前じゃない!! あんたは私が子供の頃から夢見ていた未来の旦那の存在をなきものにしたのよ! その上、あんたが私に間違われて攫われたせいでこうして今私が魔王軍退治の旅に出てるのよ! 憎まれない要素がどこにあるのよ!」
「た、確かに魔王軍に捕らわれたのは私が悪いですし、謝罪いたします。でもその未来の旦那云々は私関係ないじゃないですか」
「まあまあ二人とも落ち着いてください。それよりも勇者ディアはどうやって私たちに話しかけてるんですか?」
「その声は確かコトネさんでしたね。あのー、その前にその勇者ディアっていう呼び方変えてもらえませんか? ただでさえ恥ずかしいのに、今の状況では一層恥ずかしいので……」
「そうですね、では、ディアさん。ディアさんどうやって話しかけてるんですか? そもそも今ディアさんはどういう状況なんですか?」
「はい、今私はですね、えーっと、今そちらに映像も送りますのでちょっと待ってくださいね」
「映像……?」
ディアの言葉に疑問を持ったイリーナが呟くが、直後にディアの言葉のままにイリーナたち3人の目の前にモニターが現れ緑色の画面が映し出された。
「なにこれ全部緑で恐いんだけど」
「あれれ? おかしいですね。緑は私が今入っている液体の色だと思うんですけど……」
ガサガサと音を立てながら画面が動き一瞬肌色が画面に割り込んだ。
「緑色の液体って傷ついた戦士を回復させるために漬けておく培養液的なあれ?」
「あーそうですそうです、正にあんな感じの液体です。すいません、カメラもう少し下げて引いてください」
「カメラって何? そんなのないんだけど」
「あっ、こっちの話なので姫様たちは気にしないでください」
「それはそれでどういうこと? じゃあ、誰に言ってんの?」
イリーナがそう言ってるうちに映像が動き出すディアが映し出された。ディアは緑色の液体が入った水槽の中にあるお茶の間セットの中でパジャマ姿でお茶を飲んでいた。
「なんか思ってたのと違う! もっとカプセルみたいな奴の中で全裸で呼吸器みたいなマスクだけをつけられてブクブク泡出してるの想像してたんですけど!」
「全裸とか姫様、何考えてるんですか? もう、エッチですね」
「いや、割とよくあるシーンよ。というか液体の中で服着てて気持ち悪くないの? いや、それよりも液体の中でお茶飲むっておかしくない?」
イリーナが怒涛の突っ込みをする隣でモニターをまじまじと見ていたソラソラが呟く。
「勇者って超美人だね」
「そこがまた腹立つのよ!」
「あのー、そちらの可愛らしい女の子はどちら様ですか?」
「可愛らしい? こいつが?」
イリーナの返答にすぐさまソラソラが文字通り噛みつき二人は喧嘩をおっぱじめた。
「彼女は魔法使いとしてパーティに加わりましたソラソラさんです」
「旅の仲間ってことですか? あんな小さな子供がですか!?」
「ああ見えて20歳なので気にしないでください」
「20歳? あの見た目でですか?」
「コトコト余計なこと言わないで!」
少し離れたところからソラソラが叫んで抗議する。その隙を見逃さなかったイリーナはソラソラにボディーブローを決め沈めた。
「うわー、容赦ないですね」
「この数日でわかったけどソラソラはこのくらいなら大丈夫よ。それに本当の姿が妖艶な大人のお姉さんっていうのにもムカついてたからその分よ。それよりも、結局ディアはどうやって私たちに話しかけてるの? こんな魔法があるの?」
「あっ、いえこれは魔法じゃなくて魔王軍にある魔道具なんですよ」
「魔王軍の魔道具ってなんであんたがそんな代物使えるのよ? 監禁状態なんじゃないの?」
「監禁状態と言えば監禁状態なんですけど思いのほか皆さん優しくて、今撮ってくれてるのも魔王軍の皆様なんですよ、本当にありがとうございます」
ディアのお礼に返事するように画面外からおーっという声が聞こえてきた。
「ますますどういう状況よ」
「ディアさんは魔物化した後は魔王の嫁にするってことなので丁重に扱われているんじゃないですか?」
「そうだとしても今魔王城に乗り込むため幹部を狩って回っている私たちとコンタクトとるのに協力するってどうなのよ。それで、ディアはわざわざなんのために連絡してきたの」
「姫様、よく聞いてくれました。実はですね私……」
ディアは勿体ぶるように間を空け大きく息を吸いためを作った。そして言い放つ。
「とっっっっても暇なんです」
「でしょうね! なんか薄々そうじゃないかと思ってたわ! お茶の間でお茶飲んでる映像流れてきた時点でそうじゃないかと思ってたわ!」
「そうですね。囚われの身と言う割にはお部屋でゴロゴロしてるって感じでしたもんね。気持ちは痛いほどわかりますが私たちと連絡をとると魔王軍に私たちの動向が筒抜けなので控えてもらえませんかね」
「いえ、その点は大丈夫です。この通信はシークレットモードなので魔王軍側には内容などはわからないようになってるので」
「シークレットモードって……ファンタジー世界には合わない響きね」
「そんな機能を許可する魔王軍側も甘すぎますね」
「きっとディアディアが美人だから魔王軍も甘々なんだよ」
いつの間にか復活していたソラソラがさらっと会話に参加してきた。
「姫の言う通りソラソラさんも大概タフですね、大人の姿の時の魔力を考えたら納得ですけど」
「だから言ったじゃない。それよりもディア」
呼ばれたディアは呑気にちゃぶ台上の煎餅に手を伸ばした。
「はい? なんですか?」
「そろそろ通信切ってもいい?」
「何言ってるんですか!? ダメですよ! ここで切ったら本当に私がただ暇で連絡しただけじゃないですか!」
「えっ? そうでしょ?」「そうですよね?」「そうだよね?」
3人とも同じ感想であった。
「違いますよ! 私も私なりにどうにか姫様たちの役に立ちたいと思って連絡したんですよ」
「いや、だったら最初からそう言ってよ。とっても暇とか言うからそうなんだなと思うじゃない」
「最初からそういうのはなんか気恥ずかしいじゃないですか。もっと言えば私もどうにか姫様の旅にお供したいんです」
「もっと言えば名前まであるキャラなので出番を増やしたいってことですね」
「出番とか言わないの。それでディアはそんな環境からどう役に立ってくれるの?」
「はい、私はここで得た魔王軍の情報を姫様に伝えます。それに姫様たちが今いる場所から考えて次に行くべき場所をお伝えします」
イリーナとコトネはディアの返事に少し悩ましい顔をした。
「えーっと、案内役的なポジションってこと?」
「ディアさん、それ私の役割と被ってませんかね?」
「えっ? コトネさんってそういう役割なんですか? 姫様の護衛的な存在だと思ってました」
「いえいえ、姫に護衛なんて必要ないですよ」
「そんなことないよ。私にも護衛は必要だよ」
「またまた御冗談を。それでディアさん現時点で何か魔王軍の情報は手に入りましたか?」
「あっ、はい。重大な情報を入手したんです。なんと魔王城に入るためには鍵となる6つの玉が必要なのです」
あまりにディアが真剣な顔で言うからイリーナたちは一瞬ポカーンとした。
「いや、うん、知ってる」
「えっ? そうなんですか? それじゃあこの情報はどうですか? 玉を持っているのは大陸に散らばっている6体の幹部です」
「それも知ってる。つうかもう一体倒しちゃったし」
今度はディアがポカーンとする番であった。
「なっ、そうなんですか? 早すぎますよ」
「ディアさん、今回倒したのはキ・ノコンコJrというキノコ型のモンスターなんですが、残りの五体の幹部の情報はないんですか」
「うう、すみません。そこまでの情報はまだ手に入ってません」
ディアは本当に申し訳なさそうに言う。そして、画面が一歩引いた。
「そ、そうですか。あの、なにか他に情報はないですか?」
「えーっと、そうですね。……今、姫様たちはどこにいるんですか?」
「えっ?そこから?」
「す、すみません」
さらに画面が一歩引き見る見るうちにディアは小さくなっていった。
「まあ、いいけど。今私たちはタケノコの山の東にある大きな草原を西に進んでるわ」
「……大きな草原? 森ではなくてですか?」
ディアに言われイリーナたちは念のために周囲を見渡したが森どころが木の一本も生えていなかった。
「森? いいえ、どこからどうみても草原よ」
「そうですね。ここはヒロビーロ草原と言う正式名称もあるくらいの草原です」
「おかしいですね。魔王軍はその辺りを常夜の森と呼んでいるのですが」
その言葉で3人は一層首を傾げた。
「常夜? そんな要素全然なんですけど。眩しいくらい太陽サンサンだし、ついでにモンスターもいなくて滅茶苦茶平和よ」
「おかしいですね。夜行型の超凶悪なモンスターの住処って聞いてたんですけど」
「だから、なんで序盤にそんな凶悪なダンジョンがある予定なのよ」
「なんだかんだで魔王城近くですからね。迷いの森が最終ダンジョンならその常夜の森は最終ダンジョン手前のダンジョンじゃないですか?」
「森ばっかね。ボキャブラリー足りてないんじゃないの。それでなんでその森はなくて平和な草原なのよ?」
通信が切れたかのように皆が黙って考えたが答えが出るはずはなかった。
「それはわかりかねますが……まあ、いいじゃないですか、平和なら」
ディアは笑って誤魔化したが、イリーナは
「この案内役、役に立たないわ」
と一蹴した。
「全くもって姫の言う通りです」
「なんかがっかりキャラだね」
「が、がっかりキャラ……」
画面の中で小さくなったディアは机に突っ伏した。
「思いのほかへこんでますね。あの本当にもう情報らしい情報ないなら、もうこの通信切っていいですかね」
「ああ、待ってください、何か役立つ情報を、えーっと、あっ! 今姫様たちが進んでいるで道を道なりに行きますとウルウールという大きな街に着きます」
「すみません、知ってます」
「だ、大丈夫です。ここからは知らない情報のはずです。現在、魔王軍は魔王の復活を優先して侵略するのを基本やめています。その例外としてウルウールとした三大都市にだけは攻撃を仕掛けているのです」
「三大都市ってどこ?」
「隠れ魔女の村出身のソラソラさんは知らないんですね」
「ごめん、私も知らない」
コトネはイリーナを白々しい視線を向けた。
「世間知らずな姫ですね。仕方ありません説明しましょう。オラオーラ王国の首都はオラオーラ王国城下町です。一般的にオラオーラ街と呼んでいます。ですがオラオーラ街は大きさで言えば王国1ではありません。王国1の街は3つの街で票が割れています。そのうちのひとつが北東の商業都市ウルウール、大陸の中心にある踊りの街ヘソヘーソ、そして南のリゾート都市ウキウーキです」
「なんだろう、この王国名前のセンスないよね」
「あなたもその王国のひとりよ」
「いえ、それは違います姫。隠れ魔女の村はこの大陸唯一の自治区で王国の領域外です」
「「へー」」
イリーナとソラソラは素直に感心した。
「話を戻しましょう。それでディアさん、ウルウールはどういう状態なんですか? 魔王軍の攻撃ですでに滅んでたりしませんよね」
「いえ、その逆です」
「逆?」
「はい。冒険者たちの情報網は侮れませんね。普段から魔物の討伐を生業とした冒険者たちが三大都市が狙われているという情報を聞きつけ集まったのです」
「へー、魔物討伐を生業とした冒険者なんていたんだ」
「ちょっと待って世界観がわかんない。魔王を始めとした魔物を倒してるのは勇者だけっていう世界観じゃないの?」
イリーナの問いにコトネが大袈裟にため息を吐いた。
「本当にお二人は世間知らずですね。勇者が望まれたのは魔王が復活するからです。ここで勘違いしていけないのは、魔王の復活に関係なく魔物は魔王が眠りに就いて以降も魔物は存在していたということですなんせ寝てるだけで魔王は存在していましたからね。その魔物たちを倒してドロップしたものを売って生活費を稼いできたのが冒険者です」
「ふーん、じゃあこうやって魔王軍を倒して回ってるのあたしたちだけじゃないんだ。じゃあもしかしたら他の人が幹部や魔王を倒しちゃうかもね」
「可能性は否定できません」
「待って、そんなことが起きたら鍵の玉が集まらないじゃない」
一同は言葉を止めてイリーナの言ってる意味を考え、理解し硬直してからハハっと笑う。
「そ、その時はその時ですよ」
「結局、勇者と冒険者の違いって何なの?」
「王国公認かどうかってだけですね」
「そんなもんなのね。じゃあ、私たちが魔王倒さなくてもそのうち誰かが魔王倒すんじゃないの?」
「そうなればいいですけど、魔王はそんな弱くないですよ」
コトネは即答した。
「随分魔王の肩を持つわね」
「肩を持ってるわけではありません。本当に強いって話ですよ。それで、ディアさん、ウルウールは無事なんですね?」
「はい、無事どころが集った冒険者たちが強くて魔王軍が攻めあぐねている状態です」
「やりますね。玉を持った幹部は出てきていないんですか?」
ディアはそう問われ少し苦い表情をした。
「それなんですけど……魔王の復活が最優先なので幹部たちは表に出ないようにお触れが出てるみたいです。それに……」
「それに何よ?」
一度は言葉を濁したディアであったがイリーナに促され言葉を続ける。
「それに姫様がお城に来たあの赤い竜人を倒した動画が出回ってるらしく、姫様に見つからないよう幹部たちは隠れるのに必死らしいです」
「あー、それは仕方ありませんね」
「お城に乗り込んできた幹部を倒すってやっぱりイリイリって姫としておかしくない?」
「そんなことないわよ。き、きっとあの時あの赤いのも調子が悪かったのよ」
「そうなったら私はその調子悪い赤い竜人さんが率いてきた部下に捕まったということになってしまうんですが」
「ぶ、部下は絶好調だったのよ。やめ! この話はやめ! 結局、ディアは何が言いたいのよ?」
「あっ、はい。なのでウルウールには強い冒険者が集まっているので仲間を探すのには最適だと思いまして」
「なるほど、確かにそれはそうね。きっとその中にはイケメンで強い冒険者もいるはず……今度こそこんなロリおばじゃなくてイケメンを……」
「今ロリおばって言わなかった?」
ソラソラは決して自分の悪口を聞き逃さない。
「気のせい気のせい、いやー、ディア有益な情報をありがとう」
「お役に立てましたか。それは良かったです」
「それだけ多いと本当に強い人を探し出すのも大変そうですね」
そう零すコトネにディアは得意そうな笑顔を見せた。
「そこで丁度いいイベントが開催されるんですよ」
「ちょうどいいイベント?」
「はい。なんでもせっかく強い冒険者がたくさん集まったのだからNo.1を決めようではないかと、街主催で冒険者一武闘会を開催するそうです」
「うん、丁度いいイベントね」
「あまりに都合がよすぎますね」
「いいじゃん、面白そうで。イリイリも出れば?」
「出るわけないでしょそんな物騒な大会。私は姫よ。姫らしく特別席からのんびり見学させてもらうわ」
「でも優勝者には素敵な景品が出るみたいですよ」
「まあ、定番ね。それで、その素敵な景品って何よ? どうせエクスキャリバーとか言うんでしょ?」
「いや、それが定番っていうのもおかしいですよ」
「えーっとですね、キレイに光る玉みたいですね」
「玉? まさか……」
コトネはポーチからキ・ノコノコJrから奪ったキノコ模様の玉を取り出した。
「ディアさん、もしかしてこういう玉じゃないですか」
「えーっと、どれどれ、うーんと、あっ、そうですね、その玉そっくりですね。姫様たちはその玉どこで拾ったんですか」
「魔王軍幹部から奪ったのよ! ってことはその景品も魔王城の門の鍵じゃないの!」
「えー、これがそうなんですか!?」
「多分そうよ。というかディアは何を見て言ってるの?」
「チラシです」
ディアはチラシをカメラに向けた。3人はモニターに映し出された不鮮明なチラシを必死に見て判断する。
「うーん、やっぱそうっぽいよね」
「ぽいね」
「断定はできませんが可能性は十分にありますね。それよりも姫、ここを見てください」
コトネはトントンと指で画面を叩いた。イリーナとソラソラはさらに見えにくい画面の中のチラシの文字をまじまじと見た。
「見えないわよ。ディア代わりに読んで」
「はい、えーっとですね、選手のエントリー申し込みは○月×日午後三時まで、だそうです」
「ふーん、日付は今日ね……で、今何時?」
コトネは腕時計に目を向ける。
「今の時刻は14時を過ぎたところです」
「ふーん、それでここからそのウルウールまでどれくらい」
「歩いて3時間ってところですかね」
「「「ふーん」」」
呑気なイリーナ、ソラソラ、ディアの声が揃った。そしてわずかな時間が流れてから
「ふーんじゃないわよ! て全然間に合わないじゃない! どうするのよ?」
と場の空気を正常な流れに戻した。
「あれ? イリイリ、物騒な大会には出ないんじゃなかったの?」
「このガキは今までの話聞いてなかったの? 玉を手に入れるためには出るしかないじゃない! それでどうするのよ? コトネ」
「走ればいいんじゃないですか?」
イリーナは数秒固まってからゆったりとストレッチを始めてからすぐに凄い勢いで走り始めた。
「何してんの二人とも早く行くわよ」
イリーナに言われてコトネとソラソラも渋々駆け出した。
「ねえ、コトコト」
「なんですか?」
「景品が本当に魔王城の門の鍵なら事情説明してもらえばいいんじゃないの? 姫だし、今は勇者代理なんだから余裕だよね?」
「私もそう思いますが、まあ姫が出る気満々なので放っておきましょう」
3人がいた場所にはぽつんとディアが小さく映し出されたモニターだけが残された。
「あのー、皆さん、もう完全にわたしのこと忘れてますよね。まあ、いいです、また連絡します」
ピッと音はして宙に浮かんだモニターは消えた。




