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14.VS魔王軍幹部6天王キ・ノコノコJr

 タケノコな里の北の洞くつは現在、魔王軍が棲むダンジョンと化している。そのダンジョンの名はキノコの洞窟と命名されている。この事実をイリーナたちはまだ知らない。なぜなら、彼女たちはまだそのダンジョンに足を踏み入れていないからである。


 そして、今、キノコの洞窟のダンジョンの主、魔王軍幹部六天王の一体キ・ノコノコJrはあろうことかダンジョンを全力で逆走していた。


「糞っ、なんで僕ちんがこんなことを、ゴホッゴホッ」


 洞窟内に充満した煙にキ・ノコノコJrは思わずむせ返す。

部下から洞窟内が煙だらけだという報告を受けたのは30分ほど前のことである。直ちに煙の出どころを部下総出で探った結果、洞窟の入り口から入ってきていることがわかった。


 部下数体が外に出て原因を確認しにいったが洞窟に戻ってきたのは一体だけであった。戻ってきた一体は恐怖から小刻みに震えながら告げた。姫の一味が洞窟前でBBQをしており、その煙が洞窟内に入ってきていること。他の魔物たちは酔っぱらった幼女に捕まり食されたこと。そして、姫たちはとても楽しそうであったことを。


 報告を受けたキ・ノコノコJrは部下に負けず劣らず震えた。しかし、キ・ノコノコJrの震えは恐怖からくるものではない。怒りからくるものであった。気が付けばキ・ノコノコJrは走りだしていた。


 本来であればダンジョンのボスとしてダンジョン最奥の部屋でどっしりと敵を待ち構えるはずの立場であるキ・ノコノコJr自らわざわざ入り口まで赴き敵に会いに行くという行為はあってはならないことであり、何よりも屈辱的であった。それでも、キ・ノコノコJrは直接会って抗議したいという思いが、怒りが勝った。


 その怒りが部下たちにも伝わったのであろう。自然と走るキ・ノコノコJrの後ろに部下たちが続き、いつの間にか100を超えるキノコ型のモンスターたちの群れができていた。


 必死に走るキ・ノコノコJrの視線の先に光が見えた。日は既に落ちているはずなのにまばゆい光が洞窟の外から差し込んでいた。


 そして、キ・ノコノコJrは勢いよく洞窟から飛び出した。

「貴様ら、僕ん家の前で何しているんでちゅか!!!」

 キ・ノコノコJrの叫びにイリーナとコトネはビクッと一瞬震えてぴたっと動きを止めた。一方、顔を赤く染めたソラソラは「キノコキノコ」とケラケラと笑っていた。


「そのー、今はリンボーダンス?」

 丁度イリーナは高さ30cmの棒を潜り抜けようと、極限まで反り返っているところであった。


「正確にはBBQからのキャンプファイヤーを経て、今はサンバのリズムでリンボーダンス対決の最中です」

 そう答えてコトネは目の前のコンガをぽーんと叩いた。その音に驚いたのかそれまでなんとか堪えていたイリーナがぐしゃっと崩れた。それを見てソラソラはまたケラケラと笑った。


「そういうことを言っているんじゃないでちゅ! お前らがこんなところでBBQどころがキャンプファイヤーなんかしてるから洞窟に煙だらけになってるんでちゅ! 今すぐやめるんでちゅ!」

 キ・ノコノコJrが勇ましく抗議すると部下のキノコ型モンスターたちはうおーっと雄たけびをあげた。


「でちゅでちゅうるさいわね。なんなのあいつ?」

「見てわからないですか? あれがここのボス、キ・ノコノコJrですよ」


「あれが……?」

 改めてイリーナはキ・ノコノコJrをまじまじと見た。

キ・ノコノコJrはカサが赤に白の水玉模様のありふれたキノコ型の魔物だが他のキノコ型の魔物との最大の違いは服装だ。そもそも他のキノコたちは服など着ていない。しかし、キ・ノコノコJrだけ涎掛けをかけている。そして、口元にはおしゃぶり。要するにキ・ノコノコJrはJrではなく……。


「ベイビーじゃない」

「誰が赤ちゃんでちゅか!」


「あんたよ! だいたいなんでダンジョンのボスがこんなところまで出てきてるのよ! ボスならボスらしく一番奥の部屋で大人しく待ってなさいよ」


「お前が……お前がそれを言うんでちゅか! これでも喰らうでちゅ!」

 キ・ノコノコJrは頭からキラキラ輝く粉を勢いよく放った。イリーナとコトネは大きく後方に跳び回避した。しかし、酔っぱらったままのソラソラは「へっ」と言っているうちにもろに粉を浴びた。


「ソラソラ! コトネ、ソラソラが変な粉浴びちゃった」

「そうですね、恐らくソラソラさんは、もう……」

 コトネは悲しそうに目を伏せ首を横に振った。


「えっ? ちょっと待って。そんな深刻な技だったの?」

「あの技は恐らく例の技です」


「例の技ってなんだっけ?」

「里の人間すべてにかけたあの技ですよ」


「あっ! ま、まさか……」

 ようやくイリーナもソラソラが直撃した技の正体に気が付いた。


「そうです。今のは僕ちんが得意とする最大奥義……」


「キノコ大好きーーーー胞子!」「エロエロ催眠!」

 キ・ノコノコJrとイリーナの声が被るが発せられた答えは全く別のものであった。そして、暫しの沈黙の後にキ・ノコノコJrは狼狽えた。


「な、なにを言っているんでちゅかお前は! 僕ちんの崇高なる奥義をなんだと思っているんでちゅか!」

「崇高な奥義の名前ダサいですね」


「いやいや、だってキノコが好きになるってそういうことでしょ?」

「そういうことってどういうことでちゅか?」


「どういうことって……あんた乙女に何を言わせようとしてんのよ! セクハラよ!」

「そっちこそ赤ちゃん相手にエロエロの技を期待するなんて虐待でちゅよ!」


「き、期待なんてしてないわよ! というかあんたやっぱりベイビーなんじゃない」

「そうでちゅよ! 赤ちゃんでちゅよ! 赤ちゃんでありながら幹部に抜擢されるほどの天才でちゅよ!」


「だったら最初なんで否定したのよ!」「なんとなく赤ちゃん扱いされるのは嫌なんでちゅよ!」

 くだらない口論で息を乱した両者は睨みあいながらゼーゼーと大きく呼吸して息を整えたから再びなにか言おうとしたところでコトネが仲裁に入った。


「まあまあ落ち着いてください変態ども」

「誰が変態よ」「誰が変態でちゅか!」


「まあまあ。それよりも見てくださいソラソラさんに都合よくかかっていた霧が晴れます。その様子を見てどういう技なのか決着をつけましょう」


 コトネの提案に二人は一度目を合わせ頷きソラソラがいるはずの黄色のような緑色のような霧を見守った。その時、霧の中から声がした。


「ほしい……キノコが、キノコが……ほしい」

 霧が晴れると魔法少女の服を着た黄緑色の髪をなびかせた、すらりと長い手足を持つ、セクシーな大人のお姉さんが現れた。お姉さんの目はイっていた。


「「誰?」」

 思わずイリーナとキ・ノコノコJrがハモる。


「恐らくあれはソラソラさんの真の姿です」

「そっか、エロエロ催眠のロリロリ魔法の効果が解けたのね」


「エロエロ催眠じゃないでちゅ」「ロリロリ魔法でもないですけどね」


「いやいや、どう見てもエロエロ催眠じゃない! エロエロになったせいでもうあちこち見えそうなくらい際どいことになってるじゃない」

「それは子供服着たまま大人になったからで僕ちんの術のせいじゃないでちゅ」


「じゃああのイッちゃっている目はどう説明すんのよ! あんな目あの手の作品でしか見ないわよ! しかもキノコほしいとか言っちゃってるじゃない! 完璧にエロエロ催眠にかかった状態じゃない!」


「あの手ってどの手でちゅか! 目がイッてるのはお酒のせいでちゅよ。それにキノコがほしいはキノコ大好き――――胞子にかかった証拠じゃないでちゅか」

「いや、キノコがほしいは明かにおかしいわ」


「何がおかしいんでちゅか!」

 再び二人がぎゃーぎゃーと口論を始めた直後、どこからかゴゴゴゴッと音が響いてきた。


「なんの音?」

「ソラソラさんの魔力が膨れ上がってます。その強大な魔力に台地が震えているんです。これは大技がきますね」

 コトネの解説を聞いて状況を理化し青ざめたキ・ノコノコJrだがすぐに自分がけた術の効果を思い出し平静を取り戻した。


「関係ないでちゅ。魔力が膨れようが大技を出そうがあの女は僕ちんたちキノコには攻撃しないはずでちゅ」

 自信満々のキ・ノコノコJrを嘲笑うかのようにソラソラが魔法名を叫んだ。


「コックドゥー」

 叫びと共にソラソラの目の前に大きな鍋が現れた。そして、ソラソラが天高く両手を掲げた。


「う、うああああああ」

 悲痛な叫びをあげながらキ・ノコノコJrの部下たちが次々とソラソラの大鍋に吸い込まれていった。


「うわー、僕ちんの部下たちが! なんででちゅか? あの女は僕ちんの術でキノコが大好きになったはずでちゅ」

「確かにソラソラさんはキノコが大好きになったみたいです。ただし、所詮はキノコ。食べ物としてみたいですね」


「それにしても、この魔法どこかで見たことあるような……それになんでこのベイビーには一切ダメージがなにの」

 イリーナの疑問にコトネは素早く眼鏡を装着しインテリぶって答える。


「説明しましょう。この魔法は画面上の雑魚モンスターを一撃で倒し料理に変えてしまう魔法です。なのでボスであるキ・ノコノコJrには効果がないのです」

「ちょっと待って画面って何?」


「そこは察してください。ほら見てください画面外の魔物たちは難を逃れています」

 コトネの言う通りキ・ノコノコJrについてきた約半分の魔物たちは生き残っていた。一方で大鍋に吸い込まれた魔物たちは皆美味しそうなキノコ料理に変わりソラソラの周りに落ちてきた。

「あー、僕ちんの部下たちが」

 ショックのあまりキ・ノコノコJrは膝を折った。


「姫! ソラソラさんにばかり任せては申し訳ないですよ。残った半分は姫が倒しましょう」

「仕方ないわね」

「ではこれをどうぞ」

 コトネはイリーナにメガホンを手渡した。


「ちょっと待って、なにこれ?」

「メガホンです。このアイテムを使って叫べば画面上の雑魚モンスターを一掃できます。しっかりと全モンスターを画面上に捕らえてください」


「……だーかーらー」

 イリーナは大きく息を吸いメガホンを口に当てた。


「画面上って何よ!!」

 イリーナの叫びに魔物たちは次々と耳を塞ぎながら消滅していった。結局、ソラソラとイリーナの攻撃を逃れ、残った魔物は3体だけであった。


「姫、3体うち漏らしてるじゃないですか。あれほど画面上に捕らえてと言ったのに」

「だからその画面が私には見えないのよ。まあ、いいわ。ソラソラ、残った雑魚は私がやるからボスのあの赤ん坊はよろしくね」

 イリーナの呼びかけにソラソラからの返事はなかった。


「あれ? ソラソラは?」

「寝てますよ」

 ソラソラは自分の魔法で作り出したキノコ料理をたいらげて満足して眠りに就いていた。


「ついでにキ・ノコノコJrも動かないです」

 コトネの言う通りキ・ノコノコJrはまだ立ち直れず地に伏せたままであった。


「よくわからないけどチャンスね。今のうちにボコボコにしてあげましょう」

「よくわからないじゃないですよ。自分の術に落ちたと思った相手に部下の半分が一瞬で葬られたんですよ。それはショックですよ。しかも、ついで姫にも残った部下たちも削られて残り3体ですよ? あんなんにもなりますよ」

 そう言われたら気の毒に。そう思いながらイリーナはキ・ノコノコJrにゆっくりと距離を詰めていった。


「キ・ノコノコJr様立ってください」

 その時、キ・ノコノコJに声援が飛んだ。生き残った部下の一体からのものであった。その声にキ・ノコノコJrの体がわずかにピクリと動いた。


「そうです! キ・ノコノコJr様、皆の敵を討ってください」

「そうですよキ・ノコノコJr様! キ・ノコノコJr様の空中殺法でそんな小娘たちぶっ倒してください」


「空中殺法? キノコなのに?」

 イリーナが素朴な疑問を口にする。すると、キ・ノコノコJrは「でちゅ、でちゅっちゅっちゅっちゅ」と不敵に笑いながら立ち上がった。


「そうでちゅ。僕ちんにはまだ無敵の空中殺法が残っていたでちゅ」

「無敵の空中殺法? キノコなのに?」


「キノコだからでちゅ」

 キ・ノコノコJrの返答にイリーナとコトネは首を傾げた。


「どうやら言ってる意味がわからないみたいでちゅね。教えてあげまちゅ。僕ちんはキノコ型のモンスターなので壁や天井に跳んで張りつくことができまちゅ」


「「はあ」」

 イリーナとコトネは曖昧な返事をする。


「まだわからないでちゅか? 壁や天井に張り付いての僕ちんの胞子攻撃は立体的! 降り注ぐ胞子を回避するのはお前らでも困難でちゅ。さあ、僕ちんの胞子でお前らを麻痺にさせてやろうか。それとも猛毒に冒してやろうか。どっちがいいでちゅか?」

 キ・ノコノコJrの質問にイリーナとコトネは僅かに考え込んだのちやはり首を傾げた。


「その態度はなんでちゅか!?」

「いや、その張り付く壁はいずこに?」


 イリーナの指摘を受け、てキ・ノコノコJrと3体の部下たちはゆったりと辺りを見回した。ここは洞窟の外でありあるのは星が輝く夜空とイリーナたちが造り上げたキャンプファイヤーだけで張り付けそうなものは何一つなかった。その事実に気が付きキ・ノコノコJrたちはしまったと言わんばかりに顔を青くした。


「そうでちた。いつものボスの間の気分でちた」

 キ・ノコノコJrはがっくしと倒れ込んだ。


「自分で出てきたのにアホね。もういいわ。コトネ」

 イリーナの呼びかけにコトネは素早く愛武器ボックスを差し出した。そして、イリーナは箱に手を突っ込んで勢いよく妖刀雅治を取り出した。


「ま、待つでちゅ! 僕ちんはいったんボスの間に戻るのでそこで再戦というのはどうでちゅか?」

「そんな提案、乗るはずないだろうがぁぁぁぁぁぁ!」

 イリーナの攻撃。キ・ノコノコJrに3645のダメージ。キ・ノコノコJrは細かくスライスされた。が、すぐにポンっと音を立てて消滅した。


「チッ、せっかくだから食べようと思ったのに」

「なんでもかんでも食べないでください」

 こうしてイリーナ一行は魔王軍幹部6天王・キ・ノコノコJrを倒した。タケノコな里のキノコ大好きーーーー胞子による呪いが解かれた。

「ふう、恐ろしいダンジョンに手強いボスだったわね」

 イリーナは至って真面目な顔で誇らしげに言った。


「そうですか? ダンジョンには一歩も入ってないですし、ボスも空中殺法とやらも見せれないまま終わりましたけど」

「見方を変えるのよ、あのソラソラが戦闘不能にされたのよ……恐ろしい敵だったわ」


「酔っぱらって寝ただけと思いますが……あっ、、大事なことを忘れてした」

「大事なこと?」


「鍵ですよ。鍵を回収しなきゃ魔王城に入れないままですよ」

「あー、そういえばそうだったね、どれどれ」

 イリーナはキ・ノコノコJrが消え去った場所を探ると赤く光る玉を見つけた。


「それですね。それが魔王城を開く鍵となる玉ですね」

「キノコの玉……? 急に下ネタやめてくれる」


「下ネタじゃないです。そういう仕様です。それじゃあ里に戻りますか」

「何言ってんのよ。キャンプファイヤーまでやったのよ。ここで野外泊しかないでしょ」


「……別に帰って宿でもいいじゃないですか」

「こういうのは雰囲気が大事なのよ。ソラソラも寝てることだしいいじゃない。さっさとテント立てましょう」


「やれやれ聞いたことないですよ、ダンジョンの前にボスを倒した後にキャンプなんて」

 コトネはそう言いながらも眠るソラソラを中心にテントを立ててからキャンプファイヤーの火を消した。

 そして、イリーナとコトネもテントに入り横になった。

「こんな敵をあと5体も倒さなきゃ魔王城にも入れないとか本当に面倒ね」

「仕方ないじゃないですすか、魔王さいども必死なんですよ。今日はゆっくっり眠って明日以降に備えましょう」


「それもそうね、もう眠るわ、おやすみ」

「はい、姫、おやすみなさい」

 二人は眠りに就き静寂が訪れたかのように見えたが、数秒後コトネが口を開く。


「姫、起きていますか?」

「なに?」


「なにか忘れてませんか?」

「何かって何よ?」


「その何かがわかってたらこんな言い方はしないですよ」

「忘れるなら大したことじゃないわよ。もう寝ましょう」


「いえ、割と大事なことだったような……」

 その時、大人のお姉さんの姿のソラソラがぐあーっと大きないびきをかきながら寝返りを打ってイリーナの首を殴打した。すぐさまイリーナはソラソラを縛り上げて端の方に転がした。


「それよりも、ソラソラはいつまでこうなのよ? 正直絡みにくいわよ」

「大丈夫ですよ。明日、起きたらすぐに元に戻りますよ」


「なら、いいけど。じゃあ、寝るわよ、おやすみ」

「大事なことだった気がするんですが……思い出せないなら仕方ありません、おやすみなさい」

 こうして二人は今度こそ眠りに就いた。


 お陰でタケノコ城の主タケゾウの孫娘の救出はイリーナ一行が一度里に帰ってから再度ダンジョンに向かって行われた。挙句、孫娘は見つからず、再度城内を調べた結果、書置きが発見され単なる家出だと判明したのであった。


お読みいただきありがとうございます。今回でVS魔王軍幹部キ・ノコノコJrのタケノコな里編は終了です。


次話からは商業都市ウルウール編スタートです。引き続きお楽しみください。



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