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17.唯一の応募者

 翌日。

「さーて、張り切っていきましょうか」

 イリーナは満面の笑みで宿を出た。


「テンション高いですね、姫」

「当たり前よ。今日やっと、イケメンが仲間にできるのよ。こんな嬉しいことはないわよ」

「でもイケメンが来るとは限らないよね?」


「なーに、言ってんのよ。この私と一緒に冒険できるのよ。イケメンが寄ってこないわけがないじゃない」

「どこからそんな自信が湧いてくるんですか? 私以下の知名度ですのに。それにそもそも参加者にイケメンがいない可能性もあるじゃないですか」


「あーやだやだ、本当にネガティブな奴らね。なんでそんな考えばっか浮かぶのかしら。まあ、見てなさいよ、きっと会場にはイケメンがより取り見取りよ。オホホホホ」

 イリーナは不気味な笑い声をあげてながらスキップしていった。


「イリイリ、気持ち悪い」

「あのポジティブさも気持ち悪いですね」

 呆れながらもコトネとソラソラは後に続いた。



 そして、会場到着。時刻は午後1時、10分前。

「やあやあ、受付嬢。どうだい? 応募者は集まったかね?」

「ひ、姫……それが……」

 受付のお姉さんは青い顔をしていた。


「どうしたの? お腹でも痛いの?」

「そんなわけないじゃないですか。それよりも辺りを見渡してください。なにか気が付きませんか?」


「なにかって……言われてみれば妙に静かね、というか人の気配が昨日とあまり変わらないような…………yen(エン)!」

 説明しようyen(エン)とは己の気を薄く広げ周囲の状況を把握する便利な能力である。


「いや、そんなもろな名前でもろな能力を使わないでください」

「……全然人がいない」

「ねえねえ、お姉ちゃん、応募者は?」


 お姉さんの顔はますます青くなった。

「その……実はまだひとりも来てないのです」

「はあー? はあー!? ちょっとあんたどういうことよ?」


「そう言われましても……」

「ビラはちゃんと配れたのですか?」


「は、はい。昨日のうちに参加者の31名の方にはお配りできました」

「31名?」

 イリーナが怒気を含む濁った声で繰り返した。


「ひっ、すみません姫様! ウルウール全ての宿を回ったんですけど、ひとりだけどうしても見つからなくて……すみません」

「そのひとりが運命のイケメンかもしれないだろうが!」

 敵でも見つけたかのように飛び掛かろうとするイリーナを寸でのところでコトネが取り抑えた。


「姫、落ち着いて。お姉さんは頑張りましたよ。むしろ賞賛してあげてください」

「賞賛? なんで? ひとりも来てないのよ!」


「それは彼女せいではありませんよ。ひとえに姫の魅力が欠落しているからです」

「な、なんだとーーーーー、こらーーーーーー」

 イリーナはそれまで以上の力でコトネの手を振りほどくと今度はコトネに殴りかかった。コトネはイリーナの拳を時には躱し、時には受け止め攻撃を逃れ続けた。


「コトコトすごーい」

 イリーナの攻撃をよく受けるソラソラは素直に感心した。


 その時、商会所の扉が開かれ、全身に銀色の鎧を身に纏った冒険者が入ってきた。

「イリーナ姫の仲間募集の報せを受けてきたのだが、会場はここで間違いないかな?」

「はっ、はい、こちらで間違いないです。面接は間もなく開始いたしますのでもう少しでこちらをお待ちください。ほら、姫様たちはこちらに」

 きびきびと動き始める受付のお姉さんに促されイリーナとコトネも喧嘩をやめて、3人は別部屋に移動した。


 案内された部屋の奥には長机と三つの椅子、向かい合うようにひとつの椅子が設置されていた。完璧な面接会場がすでに出来上がっていた。

「面接ができるようこちらでセットしておきました。御三方はこちらで準備してください。準備が終り次第私に声をかけてください、応募者を案内いたしますので」


「ここまでしてくれているとは、本当にありがとうございます」

「ふふっ、このくらいはしてもらわないとね。我々は少々相談したいことがあるので下がるがよい」

「ははっ」

 なぜか受付のお姉さんは片膝をついて返事をしてから去っていった。


「ノリのいい人ですね」

「それよりも、人来てくれてよかったねー」

「たった一人だけどね……まあ、問題はイケメンかどうかね……鎧のせいで顔どころが全身が見えなかったけど、とりあえず身長は合格ね」


「何言ってるんですか? 一人の時点で合格にするしかないじゃないですか」

「コトネこそ何言ってんのよ。例え一人でもイケメンじゃなかったら不合格よ」


「姫こそ何言ってるんですか、不合格にしたらかぎとなる玉が手に入りませんよ」

「その時はその時よ」


「どの時ですか」

「まあまあ、とりあえず面接してそれから考えようよ」


「仕方ないですね」

「じゃあ、受付嬢、オッケーよ」

 イリーナが叫ぶと


「かしこまり―」

 と大声が返ってきた。間もなく、部屋の扉がノックされた。


「どうぞ」

 イリーナの顔は既に面接官の顔であった。イリーナだけではない。いつの間にか3人ともなぜか眼鏡を装着しスーツを着ていた。


「失礼します」

 くぐもった声の返事のあとすぐに扉は開かれた。扉の先では先ほどの全身鎧の冒険者が深々と頭を下げていた。二秒ほど頭を下げてから顔を上げ、部屋に入ると丁寧に扉を閉めてから椅子の横に直立した。


「受験番号1番、ブリギッタ・ギータ19歳、戦士です。よろしくお願いします」

「受験番号なんて概念あったっけっ?」

「まあ、それっぽいしいいじゃないですか、ねえ姫」

 コトネに同意を求められたイリーナはなんの反応を示さず、両肘を机の上に立てて手を組み、寄りかかるようにして手を口元にあてる、面接官というよりは司令官さながらのポーズをキープしていた。


「よろしい。座りたまえ」

「はい。失礼します」

 ブリギッタはがしゃがしゃと音を立てながら椅子に腰かけた。


「私は第一面接官のイリーナだ」

「第二面接官のコトネです、よろしくお願いします」

「第三面接官のソラソラだよ、よろしくね」

 3人が自己紹介するとブリギッタは大きすぎる声で「よろしくお願いします」と返し深々と頭を下げた。その声の大きさにコトネとソラソラは思わず耳を手で塞ぐがイリーナは動じない。


「では早速その鎧兜を取りたまえ」

「えっ?」

 ブリギッタはそれまでのどっしりとした態度からは想像しがたい素っ頓狂な声をあげた。その声にコトネとソラソラは違和感を覚えた。しかし、イリーナだけは気づかず司令官ポーズを崩さなかった。

そのイリーナの背後に集まりコトネとソラソラがヒソヒソ会議を始める。


「コトコト、今の声どう思う?」

「考えていることは同じだと思います」

 二人はブリギッタを改めてまじまじと見た。二人の視線に気が付いたブリギッタはすかさず視線を逸らしてピューピューと口笛を吹いてなにかを誤魔化した。


「姫、ちょっと」

 コトネはチョンチョンとイリーナの肩を叩いて小声でヒソヒソ会議への参加を求めた。


「なによ?」

「今の声で気づきませんか?」


「声? うーん、残念ながら私のイケボセンサーには反応しなかったわね」

「なんですか、その精度が高いんだか低いんだかわからない耳は。とりあえず私に考えがあります、ここらは質問役は私に交代してください」


「なによ? 私の何に不満なのよ」

「いいから代わってください」


「チッ、仕方ないわね」

 ヒソヒソ会議を終えた3人は席に戻ると再び司令官ポーズを取った。そして、打ち合わせ通りコトネ主導で面接が再開される。


「ブリギッタさん、質問よろしいですか?」

「は、はい」


「ブリギッタさんは昨夜配布されたビラを見て今回応募されたということでよろしいですか?」

「はい! ビラを見て姫と共に魔王を倒し国を救いたいと思い応募に至りました。それと……」

 ブリギッタは言葉を詰まらせそわそわし始めた。


「それとなんですか? もじもじされても困ります。他に志望動機があるならはっきりと言ってください」

「は、はい。では、その正直言いますと、パーティ入隊特典に強く惹かれました。御三方と46時中、考えただけで興奮します。特にイリーナ姫、前から憧れてました!」

 ブリギッタの力説にイリーナは納得したように力強く頷き、コトネとソラソラはドン引きしていた。


「心構えは合格ね」

「そうですかね? それではブリギッタさん、先ほど姫が言った通りその鎧兜を取っていただきたいのですが……その前にお詫びしたいことがあります」

「お詫びですか?」


「はい、ビラの一部に間違いがありました。応募条件に男性とありましたがあれは間違いです」

「なっ、何言っ」

「それは真ですか!?」

 文句を言おうとするイリーナの言葉を遮るようにブリギッタが叫んだ。


「真です」「真じゃないわよ!」

 イリーナとコトネの声が同時に響く。


「ど、どっちなんですか?」

 戸惑うブリギッタをイリーナは睨むんだ。


「今のでわかったわ! あんた女ね!」

「やっとですか」「イリイリにぶにぶ」

 3人がブリギッタの正体が女であると確信したのに対しブリギッタは力強く反論する。


「違います。俺は男です」

「じゃあ、さっさと顔を見せなさいよ」


「うっ、そ、それは」

「ええい、まどろっこしい! ていっ!」

 イリーナは机を飛び越えて一瞬でブリギッタとの距離を詰め手刀でブリギッタの鎧兜を弾き飛ばした。


 兜が飛ぶと同時に兜の中に無理に収納していたのだろう黒く長い髪がばさっと下り、顔を赤くした女の顔が現れた。当然のようにブリギッタの顔は整った美しい顔立ちであった。そして、当然そのことはイリーナの怒りを助長させた。


「ふざけるなあぁぁぁぁぁ! なんで女!? 貴様は文字も読めないのか? イケメンの男性って書いているだろうが!!」

「いえ、イケメンは消去されています」


「しかも無駄にまた美人! もう私よりキレイキャラなんかいらないんだよ!! 男! イケメンの男をよこせやあぁぁぁぁ!」

 イリーナの絶叫が木霊した。


「イリーナ姫、俺を美人なんて……照れてしまいます」

「褒めてんじゃねぇよ! というかその顔で俺とか使うなや! 僕っ娘は許されるけど俺っ娘はダメなんだよ! 読者が混乱するんだよ!」


「姫、読者とか言ってもわかりませんよ」

「とにかく私は求めているのは男! お・と・こ! お・わ・か・り?」

 イリーナはブリギッタに迫りながら主張した。


「イリーナ姫聞いてください」

「なによ?」


「こう見えても俺は男なのです!」

 女の中でも美人と評される顔のブリギッタは自信満々にはっきりと言い切った。


「は? は?    はあ?」

 は? の度にイリーナの顔は鬼の形相へと変わっていった。イリーナは大きく息を吸い込み鬼へと変化しようとした瞬間、コトネに取り押さえられた。そして、小声で耳打ちする。


「姫、迂闊な発言はやめてください」

「何よ迂闊って? これからわたしは至極まともな発言をしようとしていたところよ」


「それはどうでしょう? これから姫が言おうとしていたところを当ててあげましょうか? どこからどう見ても女だろうが! ですよね」

「……そうよ。あってるわよ。それの何が悪いのよ」


「これだから姫という生き物は世間知らずと馬鹿にされるんですよ。パンがなければケーキを食べればいいじゃないとか言っちゃったことにされちゃうんですよ」

「えっ? あれって言ってないの?」


「さあ、どちらでしょう? 興味のある方は文献を漁ってください。それよりも、姫、体と心の性の不一致というものを知っていますか」

「体と心の性の不一致? 何そのギャグファンタジーを謳うこの世界観に似つかわしくない言葉」

「知ってるよ。言葉まんまでしょ? 体は女なのに心は男ってことでしょ? ブリギッタはそれってこと?」


「さすがは20歳のソラソラ姉さん、博識ね」

「10代でも知っていることですよ」


「今どきの若者の評価高すぎるんじゃないのコトネ? 今の10代なんかわからないことあったらすぐにスマホで調べてわかった気になるチャランポランばっかよ」

「スマホって何?」

 ソラソラの問いには二人ともスルー決め込む。


「姫の方こそなに唐突に若者に喧嘩売ってるんですか。調べれば済む知識など絶対的に蓄える必要などないです。本当に大事なのはスマホで調べても出てこないような知識、そう水曜日夜のバラエティのような実験で得られる知識なのです!」

「あんたはあんたで何を力説してるのよ! そしてあんたはその手の番組からなんの知識を得られてるの?」


「なんの話をしているの二人とも……お願い、帰ってきて」

 戸惑い懇願するソラソラと同様にブリギッタも困惑していた。


「とりあえず俺にもう少し構ってください」

「仕方ないわね。結局、こいつがその、なんか、それ、だっていうの?」


「あやふやな言葉で誤魔化しましたがそういうことです。もしここでブリギッタさんを見た目が女だから男ではないと面接を終わらせ不合格としたら、体と心がいつだって同じ性別だと思うなよ委員会に革命を起こされ、姫は男だか女だかわからない格好で城下町を引きずり回された挙句男だか女だかわかんない死刑を執行されることになりますよ」


「男だか女だかわかんない死刑って何よ? それに相変わらずあっさりと革命起こされすぎなのよこの国! 委員会に革命起こされる国とかありえないでしょ?」


「今の発言は委員会を軽んじているとして『僕たち皆委員会委員会』に革命を」

「ごめん、すぐに革命起こされるのはわかったから話を進めさせて」


「わかりました。というわけでブリギッタさんはその類と思ってよろしいですか」

 問われたブリギッタは少しおろおろしてから申し訳なさそうな顔をしていた。


「あの、すいません、俺はそういう複雑な感じのものではないです」

 イリーナはわなわなと震えた。


「気を使いかけて損したわ!」

「それって結局、気を使ってないのでは?」


「どっちでもいいわよ! じゃああんたは女ってことじゃない!」

「そ、それは違います。俺が男と名乗るのにも理由があります」


「理由? なによ?」

「……俺は女が好きなんです。正確には女体が好きなんです」

 ブリギッタの言葉にイリーナたちはこれまた気難しそうな顔をした。


「姫」「なによ?」

「LGBTという言葉はご存じですか?」


「知ってるわ、なんとなくだけどよく知ってるわ。迂闊なことを言ったら革命が起こされる可能性が十分にあることも理解してるつもりよ。だから、何もいわないで」

「そ、そうですか。何かすみません」


「気にしないで。ブリギッタ、要するにあなたはそういうことってことでいい?」

「あれ? なんですかこの感じ? 俺はただ単に男より女の子が好きってだけで……正確には女体が好きって話で……」


「ふむふむ。そうよね、そういう考えもあるわよね……ごめん、女体が好きって何?」

「そのままの意味です」


「そこはもう普通に女の子が好きでいいんじゃない?」

「いえ、確かに女の子が好きというのも事実なんですが、より正確に言えば女体が好きなんです。というのもこれは俺の生い立ちに関係しているのです」


 そして、ブリギッタは語り始める。


【俺は橋の下に捨てられた可哀そうな子供だったらしい。そんな俺を拾ってくれたのは】

「ひゃっはー、LGBTだろうがさせるかボケナス!」

 イリーナの前で決して回想は許されない。無情なイリーナの木刀でブリギッタの回想は一刀両断された。


「な、なんてことするんですかイリーナ姫!」

「私は真の平等主義者、如何なるものであろうと私の前で回想は許さない」

「すみませんね、姫は極度のアンチ回想なのです。なにか言いたいことがあるなら回想せずに簡潔にお願いします」


「えっ、そんな結構な無茶ぶりを……えーっとですね、簡単に言えば男社会で男として育てられていたため自分も男だと思ってたんですよ。それで、周りの男友達と一緒にエロ本読んでたら俺も女性の体に興奮するようになりまして……」

「いや、なんか理由がちょっと……嫌!」


「その上、俺が成長したころにはエロ仲間たちが俺が女の子に向けているようないやらしい視線を俺に向けるようになって……お陰様で今では立派な男嫌いです」

「いやいや、思春期特有の自然の原理でしょ? ある程度仕方ないわよ。それにそのいやらしい視線はあんたも女性に向けているわけだし」


「俺のいやらしい視線はいいんですよ! 純粋だから!」

「何こいつ! ただの我が儘じゃない! 無理! こんないやらしい視線を向けることしか考えてないやつとか絶対無理! 不合格よ! 不合格!」

 イリーナはそう叫びながらブリギッタの履歴書に不合格のハンコを押した。


「そ、そんなー」

「本当にあっさりと不合格にしましたね。自分で自分の体を売りにイケメンを釣ろうとしていた人の主張とは思えませんね」


「でも、どうするの、コトコト? これじゃあ玉が手に入らないよ」

「わかってます。ソラソラさんはそのアホを黙らせといてください」


「えー!? やってみるけど、ちょっと荷が重いかも」

 そう言いながらもソラソラはイリーナの手をぎゅっと握った。


「ちょっとなによ」

「うふふ、イリイリの手すべすべで気持ちいい」

「えっ、そう?」

 無論ソラソラはイリーナの動きをすぐに封じれるように手を握っただけであり、イリーナもなんとなくそれをわかっていたが、イリーナは少し照れ臭そうに嬉しそうに笑った。


 そんな二人のやりとりを見てブリギッタはハアハアと呼気を荒げて興奮していた。そして、そんなブリギッタを見てコトネに少し迷いが生じたがすぐに諦めるようにため息を吐いた。

「ブリギッタさん、ちょっとよろしいですか?」

 呼ばれたブリギッタは慌てて垂れている涎を拭った。

「は、はい、すみません」


「時に、あなたは強いのですか?」

「強いです! 特に相手が男なら!」


「男なら……そ、そうですか。ならばこれから出す条件をクリアしてあなたの強さを証明してください。そうすれば姫は不合格と言っていますが私とソラソラの権限であなたを合格にします」


「ちょっと何勝手なこと言ってんのよ!」

「まあまあイリイリ落ち着いて」

 ソラソラはイリーナの手をぎゅっと握り直しイリーナを制しようとした。


「落ち着いてられるか!」

 イリーナもソラソラの手をゴリラ並みの握力でぐぐぐっと握り返してソラソラの手を粉砕した。


「痛たたたーーーーー!」

 ソラソラが悲鳴を上げるを聞いてイリーナは満足そうにソラソラを投げ捨てた。


「コトネ、私は認めないわよ」

「まあまあ、こうして足を運んでいただいたのにチャンスも与えず不合格なんかにしたら某団体に革命を起こされますよ」


「こいつの発言は某団体も味方に付きそうにないけどね」

「某団体がなんなのかわかりませんがチャンスがあるならばどうかお与えください」

 ブリギッタは跪いて懇願した。その姿にさすがのいイリーナもたじろいだ。その隙を見逃さずコトネが畳みかける。


「ブリギッタさんもこう仰ってますし、姫」

「わかった、わかったわよ。この場での不合格はとりあえず取り消すわ」

 その言葉にブリギッタは顔を上げて嬉しそうに笑みを零した。


「イリーナ姫、ありがとうございます」

「礼を言うのは早いわよ。それで、コトネ、その条件ってなんなのよ」

「いや、姫は知ってますよね?」

「なんだっけ?」


「本当に呆れた人ですね。目的を忘れたんですか?」

「目的? イケメンを仲間にじゃなかったっけ?」


「違いますよ、金の玉ですよ」

「金玉?」

 その響きにブリギッタは露骨に嫌な顔をした。


「金の玉です。ブリギッタさん、冒険者一武闘会の優勝賞品が金の玉であることはご存じですね?」

 ブリギッタは少し考えてからポンっと手を叩いた。

「優勝賞品の副賞のことですね」

「あれ副賞だったんですか。では他に何かもらえるんですか?」


「知らないんですか? 優勝賞金として3000万オラが貰えるんですよ」

「3000万!」

 イリーナとソラソラの声がハモるのはそこまでであった。


「安っ!」「高っ!」

 と感想は真っ二つに割れた。


「イリイリの金銭感覚どうなってんの?」

「えっ? 3000万オラって高いの? だって、私の月のお小遣い程度よ」


「その割には旅立ちの時は5万オラしかもらえませんでしたけどね」

「言わないで、またふつふつと怒りが込み上げてくるから」


「すみません。話を戻しましょう。ブリギッタさん、実はその副賞である金の玉が私たちに必要なのです」

「き、金玉がですか?」

 ブリギッタは再度嫌そうな顔をした。


「金玉ではありません。金色の玉です。あの玉は魔王城を開く鍵の可能性があるのです」

「あの玉そんな重要なものなのですか! では条件と言うのは……」


「察しの通り、大会で優勝してあの玉を手に入れることです。本当は姫が出場して手に入れるつもりだったのですがエントリーに間に合わなかったため今回の応募に踏み切ったのです」

「なるほど。だから、こんな急だったんですね。お任せください、必ずや優勝して玉を手に入れて見せます、そして皆さまとあんなことやこんなことがある旅のお供をさせていただきます!」

 途中からブリギッタの鼻は伸び切りぐふふと下品な笑みを浮かべていた。


「あんなことやこんなことがあるかわかりませんが頑張ってください。面接はこれで終了です。姫もそれでよろしいですね」

「チッ、仕方ないわね。ただし、ただの優勝じゃだめよ……そう!圧倒的な優勝よ、圧倒的。そうしたら仲間にしてあげるわ。もし圧倒的じゃなかったら金の玉だけもらうわ」

「うわー、ずるい」「圧倒的とかあいまいな基準、最低ですね」


「うるさいわね、あんたたち。女なのにチャンスを与えてるんだからこのくらいの+αの条件は必須よ! ブリギッタ、あんたも文句ないわね」

「勿論です、イリーナ姫! 圧倒的勝利を約束します!」

 コトネとソラソラとは対照的にブリギッタはイリーナの無茶な条件を快諾した。


「ブリギッタさんがいいならこの条件で問題ないですね。それでは、今度こそ面接終了です。ブリギッタさん、明日の健闘を祈っています」

「頑張ってねー、ブリブ……はやめてリギリギ」

「リギリギ……早くもあだ名を授けてくれるなんて、感動です! お二人ともありがとうございます、必ずや期待に応えてみせます。早速明日の準備にあたりますので失礼します」

 ブリギッタは言うや否や部屋を飛び出した、そして直後ぐへへへへと下品な笑い声が遠ざかっていった。


「コトコト、正直リギリギは不安なんだけど」

「同意見ですが背に腹はかえれません」


「主催者に頼めばいいよね」

「ここまでの長いやり取りを無駄にするのですか? 背に腹はかえれません」

 コトネは遠い目をしていた。楽しんでいる、ソラソラはそう感じたが特にそれ以上は何も言わないことにした。なぜならソラソラもどうなるか少々興味があったからだ。


「それよりもあいつ、ブリギッタだっけ? 本当に優勝できるくらい強いのかしら? 優勝できたらとか言い出す前に戦闘能力ぐらい見とくべきだったんじゃないの?」

「姫がそれを言いますか? そんなことする間もなく不合格を突き付けたのは姫じゃないですか」

 イリーナは「うっ」と声を漏らすだけで特に反論はしなかった。


「まあ、そういうのも含めてギャンブル的な感じがあって楽しいんですけどね。と言っても、武器だけは聞いとくべきでしたね。盾持ちならありがたいんですけどね」

「盾持ち? なんで?」


「姫は味方が誰だろうと関係ありませんが魔法使いであるソラソラさんには敵の攻撃から守ってくれる味方がいた方がいいですからね」

「コトコトの言う通り、そういう味方がいたら凄い楽かも」

「ちょっと待って私も守ってくれる味方は必要よ」


「だったら、盾持ち? なんで? とか言わないでください。とりあえず私たちも宿に戻りましょうか」

 こうしてブリギッタの面接は終了し、少々の不安を残し大会当日を迎えるのであった。


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