メンデンスでの過ごし方 リオ編
「まったく失礼しちゃうんだから・・・」
そう言い残し、外に出たリオは村に流れる川へとやってきた。
川の前に着くと地面に看板が刺さっていた。
「メーダ川」
「・・・ここに看板作る位なら、宿屋にも看板付けなさいよね。えーと・・・あ、あったわ」
川の周りに目を配らせていると、自分のからだ位の大きさの石を見つけた。一人で持ち上げるのにもかなり苦労した。ある程度川から離れた広い場所にリオは石を置く。そして、腰につけていたハンマーを取り出す。
「念のため持っていたけど、まさか本当に使うとは思わなかったわ!いやっ!!」
気合を込め、ハンマーを振りかざす。叩かれた部分が微かばかり砕けた。しばらく叩き続けていたが、いつしかハンマーに伝わる振動で手が痺れてきた。
「んーこれじゃ、埒が明かないわね、、、」
リオは、石で宿屋の看板を作ろうとしていた。その為に、ゴツゴツとした表面を平らにしたかったのだが・・・
頭では作りたいものを容易く想像できるが、それを具現化するのはそう簡単なものではない。リオは考える・・・
「叩く・・・じゃないわね。」
広範囲に石を傷つけてしまう為に、叩くべきでない場所も叩いて凹ましてしまう。細かい作業をするのにハンマーは適していない。
「薄々気づいていたけど、これは削らないといけないわね。それじゃ・・・」
リオが取り出したのは、鉄で出来た棒状のヤスリ。これで、ガリガリと・・・
リオは「削る」事を覚えた。
「これだわ。表面を綺麗にして、文字を削れば・・・・ん??」
やることは間違っていない。あとは、宿屋の名称を削れば完成なのだが、問題はその「名称」だ。
「あの宿屋、なんて言うのかしら・・・」
一番大切なことを聞き忘れていた。しかし、宿屋のオーナーは出稼ぎに行っている。誰に聞けば・・・
「ベンジャミンに!・・・でも、今日は仕事の話はしないってあたしから提案したのよね・・・あっ」
リオはとある事を思い出した。それは、サスラダバータに行く前に立ち寄った「レストラン」の事だ。
「あそこ、メンデンスの人たちが経営してたのよね。確か名前が・・・「レストラン」、、、。まさかとは思うけど」
余りにも斬新なネーミングだった為、リオはその「レストラン」の事を鮮明に覚えていた。でも今思うと、それは「レストラン」という固有名称ではなく、「レストラン」という施設其の物を伝えようとしていたのではないか?その説が当たっているとすると・・・
「・・・2択なのよね。「ホテル」か「宿屋」か。確かオーナーが書いた手紙には「宿屋」って書いてあったけど・・・でもこれを削ってってなると難しいし、そもそも「宿屋」ってなんだがダサいのよね・・・」
リオはガリガリと石を削り始める。そしてだんだんと浮かび上がる・・・「ホ」の字。
「ふぅ、我ながらうまく削れたんじゃないかしら!」
無意識にドヤ顔をしてしまったが、周りには誰もいない。スッと真顔に戻ると、リオは無言で二文字目を削り始める。
この看板がメンデンスの将来を担う・・・といっても過言では、、、いやそれは言い過ぎだが、いずれ観光客のほとんどが目にするであろう。そう思うと、リオの手にも力が入る。尤も、力を入れないと石は削れないのだが。
削り始めておよそ3時間、文字は削り終わったが正直これだけでは地味極まりない。もう一手間加えてみる。
文字の周りに模様を削ってみた。なんとなくで削ってみたが、意外とイケるかも。無意識に出た女子のセンス。ここにきて女子力を遺憾なく発揮した。
模様を削り切った頃には、辺りは薄暗くなっていた。
「時間を忘れて削っていたわ。暗くなったしそろそろ・・・でも、帰ったところでやることないのよね。まだベンジャミンからもお呼びが掛かってないようだし、、、あっそういえば」
何かを思い出したかのように、リオは走り出す。メーダ川と書かれた看板の前で足を止める。看板の下に置いていた「釣り竿」を取り出した。
「一度やってみたかったのよね~。魚は夜のほうが警戒心が薄れるって、どっかの本に書いてあったし、、、バンバン釣れるはずよ!!」
リオの故郷、ゼル村には川が一切流れていない。村を出て暫く歩けば海が見えるが、村の外は危険だからと父親に止められていた。人間、「やるな」「行くな」と言われると、「やりたくなる」し「行きたくなる」。
釣りをしたことがないリオは、胸が高鳴っていた。空中で釣り竿をぶんぶんと振り回す。
「とりゃー!!」
ルアーが水の中へと飛び込んだ。それから10秒もしないうちに、釣り竿が何かに引っ張られる感覚を覚えた。
「お!早速食いついたわ!」
リオは思いっきり釣り竿を引いた。ルアーには魚・・・ではなく、木で出来た人形の様なものが付いていた。
「何よこれ・・・ん?この人形、何処かで見たような、、、気のせいかしら。」
その人形らしきものは、あきらかに手が加えられていた。誰かが作ったのだろうか・・・
リオはその人形を最初は捨てようと思ったが、なにやら見覚えのある人形の正体を知るまでは、手放さないことにした。
気を取り直して、釣りを再開させる。お目当ては、メンデンスにしか生息してないと言われている幻の魚「ゲルーナ」
見た目は真っ黒で、細長い。かなり臆病な性格で、滅多に顔を出すことはないらしい。
身はとても柔らかく、刺身にしても煮つけにしても焼いても旨い最高の魚。
旨いのになかなか見つからない、まさに「幻の魚」なのだ。
リオは、次々と魚を釣る。しかし釣れるのはこの地域で良く見られる川魚「アッペン」ばかりだ。
「んー釣れるのは楽しいんだけど、同じ魚ばかりだと飽きちゃうわね、、、」
時間を忘れて釣りを楽しんだリオは、このひと振りで最後にしようと決めていた。
辺りは随分と暗くなり、途中からヘッドライトを点けながらのフィッシィング。夜釣りをするためだけに持ってきたヘッドライトをまさかホントに使うとは思っていなかった、、、
リオは、豪快に釣り竿を振り投げる。ルアーが水中に飛び込んでから10秒もしないうちに何かが食いついた。
この食いつき加減はいつもの・・・感じではなさそうだ。
右に左に暴れる魚に必死に食らいつく。これはどちらが根負けするかの勝負。
食いつき始めて3分程経っただろうか、一瞬だけ魚の動きが弱まった。
その隙をリオは逃さなかった。竿を渾身の力を振り絞って引っ張り上げた。
「うりゃぁぁぁぁ!!」
リオは確信していた。この感じ・・・
「絶対ゲルーナだわ!!!」
引っ張り上げた釣り竿の先には、今まで見たことのない位の巨大な魚。
これはまさしく・・・あら?
「・・・何よ、アッペンじゃない!!」
今まで釣っていたアッペンとは、比べ物にならない位に大きかった。しかし、体型やら顔つきがどう見ても・・・アッペンだ。
「はぁ、、、残念。まぁでも、こんだけ大きな獲物が釣れたのだし良しとしましょうか。・・・それにしても、このアッペンはデカいわよね。是非魚拓にしたいわね。」
日も暮れ、釣りを満喫したリオは大満足して、メンデンスへと戻っていった。




